岡田斗司夫公式ブログ

2010年08月10日

DIMEインタビュー中編 田舎に住んだことがない自然主義者ですから、宮崎駿は(笑)

前編)からの続き
 

DIME:作品の共通点、ふたつに共通しているっていうものは?

岡田:なんでしょうね。
共通点っていうとなぁ……このふたつの共通点だけ並べることはできるんですけど、あの時期のアニメ、だいたい共通してますから。

 

 

DIME:ああ、そうですよね。


岡田:困ったもんですよね……。
だから、共通点はヒットしたこと、ですよ。ホントに。現象、ですから。


DIME:たとえば小学館でもいっぱいアニメを作っていて、ドラえもんであるとか名探偵コナンであるとか、やってるんですけれども、基本的にうちのアニメって、ある程度の時期になるとみんな卒業しちゃうんですよね。

子ども時代だけのアニメで、でもまた、おとなになったときに自分の子どもに見せたいなってなるみたいな。
そういう繰り返しではあるんですけれども、ガンダムとかエヴァの場合には、ずっとそのまま、もう切れないっていう、そのすごさっていうのは、大人にもそういった、エヴァには文学性が…


岡田:エヴァは、まず、向けている対象、誰に向かって作っているっていうのが、テレビのルールとしてその当時までぎりぎりあった、子どもたちに向けて作るというルールをまったく無視してますよね。

エヴァはもう最初から、子ども向けで作ってない。ガンダムは子ども向けで作ってるっていうルールをぎりぎり守りながら、おとなが見れるような作品を作ってる。

エンターテインメントとしてたいへんレベルが高い。

だから、ガンダムのヒットの原因っていうのは、その間口の広さと出来のよさですか、それで説明できるんですけれども、エヴァに関しては、そのときに視聴者に与えたトラウマの深さというやつで勝負してるわけですよね(笑)。

ガンダムのヒットはね…「風と共に去りぬ」とかですね、ハリウッド映画でいうと、そういう国民映画の入り方なんですよ、「スターウォーズ」っていってもいいですし。

エヴァの入り方は「エデンの東」とか、国民にどれぐらいトラウマやショックを与えたかのヒットの仕方なんですね。だから「市民ケーン」っていってもいいです。

すごいセンセーショナルで、アンダーグラウンド的なものがメジャーなところへパッと上がってきて、アメリカ国民全員にガーンってショックを与えたような作品って「ゴッドファーザー」とか、ありますよね。
社会的な言論にもなったというやつなんですよ。


ガンダムはそうじゃない。
ガンダムは、そのときの日本の思想家とか精神科医とかがいっせいに「これはナントカ現象だ」って語ったということが一切ないんですね。

ただ単に、とてつもなくヒットしたロボットアニメとして語られる。
大衆演芸だからです。だから、知識人は語りたがらない。

エヴァは大衆的な文脈よりも、常に知的な、スノッブな人たちに向けて語られた。
それだけではそんなにヒットしなかったのが、商品化……いろんな、コーヒーメーカーなどの商品化されることとか、フィギュアになることで、消費しやすくなった。そのふたつの差が。


だから、ガンダムが下から積み上げていった演歌歌手の「どヒット」だとすると、エヴァは、「私、テレビになんか出ませんよ」っていってたアーティストがついに出したメジャーヒットみたいなもんですよね、はい。


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DIME:時代とのリンクもありますよね、ヒットの要因というのは……


岡田:そうですよね。主人公だけで見ると、ガンダムは、それまでの健全で元気な青少年ではなくて、ウジウジしてて、家に引きこもりがちで、アニメとかばっかり見てるような、オタクの肯定というところからはじまってますし、そういう意味では富野由悠季っていうのが、今アニメを見てる人間を肯定して、おまけに「君たちはこういう大人になりなさい」みたいなメッセージがあるんですね。

エヴァの方はエヴァの方で、監督自体がおとなになりきれない、青春をこじらせた状態で、「僕はこんなんだけど、これでいいんです」っていう開き直り戦略っていう……戦略でもないんでしょうけれども(笑)、文学ですから!

最後、太宰治が元気になって終わったら、文学じゃあないんですよ。
文学っていうのは、挫折のままでかまわねぇやっていうのが文学ですから。


だから全然やることも違う。
ガンダムのラストには救いがある。それは大衆芸能ですから。
でも、エヴァの最後には「救いなんかなくて構わない」ですね。はい。


DIME:昇華できないですよね


岡田:はい。昇華出来ちゃったら多分、その瞬間に人気は終わるんですよ。


DIME:そうですよね、消費…


岡田:はい、だから今やってる劇場版も最後はハッピーエンドになるはずがない。


DIME:そうですかね?


岡田:いや、だってそれやったら文学じゃないですから。


DIME:そうですよね。


岡田:はい。また、あのザラザラしたちょっとイヤーな感じで、でも絵的にはすごい盛り上がる。で終わるんですよ。


DIME:なんとなく「破」で庵野さん前向きになってるような感じがしたんですけど。


岡田:むしろ前向きになって最後やったら、もうこっから先パチンコも何もないですよ(笑)。
みんな「え、そうだったの?」で終わりですよ(笑)。


DIME:まだ続けるんですかね、今後も?


岡田:続けるというか、庵野くん自体、別にいつまでもエヴァ続けるつもりじゃなくて色々新作もやったんだけど、やっぱり世間がそれを良しとしなかったわけですよ。(全員笑)

お前はいつまでもエヴァ作ってろ!っていう。
だからサンライズにとってのガンダムも、庵野秀明にとってのエヴァも呪いなんですね、基本的に。

それは祝福であると同時に呪いなんですよ。
「永遠にエヴァを作ってろ」っていうふうに庵野秀明は10年間言われたわけですよ。

色々他のものを作って、「ラブ&ポップ」とかですね、「彼氏彼女の事情」とか色々やったけど、全部世間から「そんなのいらないからお前はずっとエヴァ作ってろ!」って言われて。

DIME:ジョージ・ルーカスにとってのスターウォーズみたいなもんですかね。


岡田:まぁ、そうですね。


DIME:今回、富野さんの取材もしたんですけれども。全くその祝福と呪いを吐いておられましたね(全員笑)。
やっとそれを受け入れられるようになったぐらいの感じの話をされていて。
ニュアンスがそういう感じで受け止めましたね。

岡田:だから富野さんはそこから卒業というか脱却というか呪いのお払いを目指して常に新作を作るという方法をしてるからいいんですけども。
庵野くんはまだ呪いの真っ最中
ですから、「絶賛呪われ中」ですから(笑)。

「絶賛呪われ中」で、自分のスタジオまで作っちゃって。
そこで作品作ったらどんどんヒットして、お金も入ってきてて、スタッフもどんどん「また新作のエヴァ、次なにやりましょうか」ってなってきて。
もう本当に祝福と呪いがどんどん来てる状態ですね。


DIME:トラウマを投げただけで終わらないですよね。


岡田:でも逆に言えば、じゃあ次、他に何するのかって言われたら、本人も困るわけですから。
まぁ丁度いいと言えば丁度いい。


DIME:でも岡田さん、そのー、「ex」を展開されたりとか時代の変わっていく感じっていうのは、多分一番敏感に感じられているんじゃないかなと思うんですけど。
その中でアニメっていうのはこれから続いていく未来の中でどういう可能性を秘めていたり、もしくはどういう課題があるだとかっていうのは?


岡田:日本のアニメは、すごい勝ち目というかですね、戦略的にいい位置にいると思います。
っていうのは海外のアニメ作りというのが、どこも…というか少なくともアメリカに関して言えば3Dっていうのがもう見えてきているわけですね。
で、2Dアニメをここまでレベル上げて作っていこうという国はもう日本しか本当になくなってきたんですよ。


これをガラパゴス化という風にも言えるんですけども、よその国があんなに金かけてるんだったら今更3Dなんかやるべきじゃないんですね。
もう堂々とずっと2Dやっていって、それはもうウチの国のお家芸ですと。

いわゆる浮世絵から続く「君達は3Dで影つけて、ダヴィンチが開発した三点透視とかですね、遠近法とかそういうのやってりゃいいよと。
俺達は平面的にやるんだ」っていうのがすごくうまく機能してるから。

まず国際的な文化の住み分けとしてどういうふうになるのかとかということで、2Dのアニメやる、ということでたいへん正しいと思います。


あともう一つ、「青春の葛藤」というかですね、「青春のこじらせ方」ですよね。
文学をアニメでやるでもいいですし。あと大衆芸能の中でギリギリ過激な表現を目指すというのでもいいし。
それをやっぱりアニメーションの中でやろうとしても、つまりさっき言った表現の部分で2Dを選んでるのも日本だけならば、内容の部分で日本のアニメっていうのはすごい独自性があるんですね。

だからこれもやっぱり続けていくほうがいい。
ただ欠点は、コストが下がらないんですね。
3Dアニメは何を目指しているのかというと、今は3Dのツール開発。

アニメを作ってると同時に、いろんな表現をする為のツール開発をするから、いずれはコストが下がるっていう見込みで出来るんですけども、日本のアニメは永遠に人件費がかかり続けるから、コストがかかるっていう事と、優秀な人材がいないとアニメは作れないんですね。


3Dアニメっていうのは優秀な開発者が今いるので、その内アニメーター自体の人数がすごく少なくなっても、パソコンとかコンピューターの能力がどんどん上がれば映像が作れるんですよ。

でも日本のアニメはやっぱり優秀なスタッフ、アニメーターが50人、100人いないと2時間の劇場用映画は作れない。
このあたりが、ちょっと…しんどいはしんどいですね。


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DIME:ホリエモンさんのアニメを作るって話(注 『堀江貴文×岡田斗司夫~フリー革命後の世界とは』にて公開中!)が面白かったんですけど…(笑)

岡田:あれは、はい。勝ち目があると思うんですけど(笑)


DIME:あと、あの時に言ってたSFっていうものの役割っていう話も面白かったんですけども。富野さんも同じようにガンダムっていうのをつくったことで、その後にガンダムのプラモデルっていうところから、いろんな武器のパーツなども、ガンダムのプラモが実験になっていろいろ広がっていったんだー、ていう・・・


岡田:ちゃんと動くガンダムを作る為にプラモデル自体が進化するっていうのもあるし、あとは、エヴァもそうですね、エヴァっていうのも、庵野君の頭の中のイメージを見せる為にアニメの進化を待ってる、ていう所もありますからね。

両者ともに、その中で作られたイメージっていうのに届く為にアニメーションの技術とか、あと、プラモデルの技術とか、そういうのを進化させる、ていうのも、そういうような意味もあると思います。


DIME:ということはアニメーションの役割は、そういうSF的な未来の絵を創造していく、ていうのも、もうひとつ・・・?


岡田:う~ん。どうだろうな??
日本のアニメの役割…そうですね、日本でそういう映像的なオリジナルイメージ出せるのは、アニメだけ、ですね

日本人の作るアーティストのPVってありますね、プロモーションビデオ。それが外国に影響与えるのかっていうと、僕やっぱりそういうの、みたことないんですね。

で、音楽シーンどうかっていうと、そりゃアイドルとそういう一部のものは海外のアーティストとか影響を与え始めてるんですけど、やっぱり一番強い遺伝力っていうのかな、影響力を持っているのは日本のアニメ、マンガなので、映像に関して本当に…アニメで日本は勝負できるはずなんですけどもやっぱり、そこのところ、誰も計算して出せないですね。


資本が一時期いっぱい、10年ぐらい前に入って、日本のアニメ会社っていうのを、株式持ち合い会社とかが買い取って、すごい予算かけてアニメ作ろうっていうプロジェクトもいっぱいあったんですけど、やっぱり上手く行かない。ビジネスの人たちと、アニメの現場との相性は、今の所すごく悪いですね。


DIME:富野監督と話した時に、ガンダムってのは、最初は富野さんの頭の中にあったものが、ああいう形でテレビになって、まあ、著作権の方を持ってかれたりしながら、サンライズに行ってバンダイになってていう形で、で当然そういう形で、逆に今になって思うと、みんながいじれるようになったからガンダムって今まで続いたんだな、ていう事を仰ってたんですけども・・・。


岡田:やっと、富野さんもそこに…苦しかったろう、それを認めるのは(笑)。

DIME:以前、エヴァの方で大月さんにお話を伺った時には逆のことを言ってて、エヴァンゲリオンていうのは最初、製作委員会でいろんなものを入れちゃった事によって何も分かってない奴が口を出してくるから、ロクなもんが作れなくなってきたから、全部自分で買い占めていって、より良く絞っていくっていう。道としては逆に、なんかこう・・・。


岡田:逆ですね。


DIME:ガンダムっていうのは今のグーグルとかアップルとかみたいに多くすることによってこれだけ広がりを得られることができた・・・。


岡田:ガンダムは環境化する事で生き残れて、エヴァは・・・なんでしょうね・・・作品化、というか、芸術化ですね、本当に。
芸術にすることで生き残れた、ていう。その通りですね。

その、富野さんが仰っているのは、「シェアワールド」ていう考え方で、世界観全体をシェアする、それは「スタートレック」とかアメリカのSFドラマとかもどんどんパロディを許容したり、あと、番外編をやったり、「スターウォーズ」もそうなんですね。ファンの作家とか、あといろんな作家が、ルーカスフィルムの公認とかを貰いながらどんどんどんどん番外編を作る。


今のディズニーも、例えば映画一本を作ったら、それをビデオでオリジナル版、「くまのプーさん」のオリジナルとか、あと「アラジン」のオリジナル版とかをどんどん作ってる、と。
そういうシェアワールド化する事によって生き残ってる。

ガンダムは偶然というか、その当時の角川とバンダイの考え方がすごくそういうものだった。


エヴァは、アンダーグラウンドのファンはやっぱり同じようにやってるから、大月さんは決して認めないでしょうけど、エヴァの人気を支えているものはファンによる独自のエヴァ解釈。
て言うのはあるんですけど、それをガンダムみたいにオープンにして、いろんな人が考えた設定を公式に入れ込んじゃいましょう。
という事を全然せずに、周りやファンが騒いでいても、の新作を待つ。それが今のところエヴァの最終回答だ。ってやりかたですね…

何なんだろうな、この2つの差は…?面白いは面白いですね…

DIME面白い世の中で、ついさっきまでガンダムフェアやってたコンビニが、次からエヴァンゲリオンフェアになる。みたいな、全く違う作品なのにぐるぐるまわって行く…。そういう世の中の流れ、20年位前には全然考えられなかったような…


岡田:でも、世間的にはもっと流行ってるものが、例えば、エグザイルって流行ってる訳ですよね。
じゃあエグザイルフェアをやるかって言うと、やらないわけですよ。

世間全体から見たら、エグザイルとか吉本のほうが流行ってるように見えるのに、ガンダムやエヴァのフェアはあって、そっちのフェアが無い。
というのが僕は面白いですね。


DIMEうーん、日本人は、何でこんなにアニメが好きなんでしょうね??


岡田:いや、そんなにアニメ好きじゃないと思いますよ、観てくれないから。

現場の僕らの考え方としては、あのー、商品は買ってくれるけども、アニメは観てくれないっていうのが日本人。

それは一時期のフィギュアブームの時に海洋堂が言ってたのと同じで、
日本人はフィギュアが嫌いでオマケが好きなんです、という風に言ってたんですね。


どんないいフィギュアを作っても売れないけど、オマケにした瞬間に売れる、と。
日本人はアイテムが好きなんですよ、グッズが好きなんですね。ガンダムのグッズは死ぬほど売れるんですけども、ガンダムのDVDが案外売れない。

エヴァのグッズもフェアをやるとすごいヒットするのにエヴァの劇場動員数はそんなに上がらない。
その意味ではジブリの作品の方が山ほど人が入る。
でもジブリの商品は、そんなに売れるわけじゃない。そこが面白いですね。


DIMEあと宮崎駿さんが、インタビューかなにかで読んだんですけど、ディズニーとかは出口と入口が同じ地平だと。
でも日本のは入口は低く下げてあるけども、出たときに少しだけ目線が上がってるっていうのは日本のアニメなんじゃないかとっていうのを言ってたんですけども。そういう意味で大人が観れたりするもの、成長……。


岡田:いや、それ逆で大人が観る物は出口と入口は同じじゃないとダメなんですよ。


記者あ、そうなんですか?!


岡田:はい。水戸黄門の出口と入口同じでしょ?


DIMEはい! あ! じゃ、あれは子供に向けて……。


岡田:子供向けもやっぱ出口と入口同じなんですよ。
そうじゃなくて、子供と大人の間の悩める青年に向けて日本のエンターテイメントってのは作るんですね。

だから入口が低いところから入ってきて、出口で「でも俺は昨日の俺とは違うんだ」で終わるのが日本のエンターテイメントの特徴なんですけども、アメリカのヤツはそれを出来るだけフラットにして現状肯定にしようと。

でもアメリカのだってね、ちゃんと出口と入口の落差のあるのはあるから。


それは宮崎さん、単に嫌いなだけです(笑)

DIME:あはは!そうなんですか(笑)


岡田:そんなに嫌いか、ってだって今宮崎さんはiPad使ってるヤツは気持ち悪いって言ってますから(笑)

それもジブリで出している本の中で「僕はあんなのは気持ちが悪いんですっ!」とか、また言ってる、なんて(笑)


DIME:(笑)


岡田:あんなデジタル技術を山ほど使ったアニメ作っておきながら(笑)


DIME:そうですね(笑)


岡田:ホントに昔から、田舎に住んだことがない自然主義者ですから、宮崎駿は(笑)


DIME:ちょっと、話戻るんですけども。今、世の中でこうやってガンダムとかエヴァンゲリオンのキャラクターが容認されているのってホンの10年20年ぐらい前だったら、オタクっていう考え方がそんなメジャーではない。


岡田:そうですね。


DIME:それが今こういう形で、もう普通に世の中で違和感なく、みんなが普通に思えるっていうこの日本の社会っていうのはやっぱ10年20年前に比べたら格段とアニメに対する認知度っていうのが、いわゆるオタクカルチャーではなくて本当のカルチャーとして、例えばジャンルとして、それがオタクの物であるなんていう風にはもうみんな思わなくなりつつあるんじゃないかなあ、と。


岡田:いや、日本人は大人になるっていうことをもう諦めたんですよ(笑)


DIME:(笑)


岡田:何年前からか知らないんですけどもう諦めたんです。
で、大人になるっていうのは何かって言うと、子供とか青年時代からの決別なんですね。

後編)へ続く



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