臓器移植:「心停止後」欧米で急増 ドナー不足解消狙い
米英、オランダ、ベルギーでの臓器提供者に占める心停止後提供者の割合※英は年度
【ブリュッセル斎藤義彦】英国など欧米諸国で延命治療を中止し心臓が停止した後の臓器移植が急増していることがわかった。臓器提供者(ドナー)の2~5割程度から、これまで脳死移植以外では不可能とされてきた肝臓や肺が摘出されている。重篤な患者の生命維持装置を停止、心停止を待ち臓器を取る手法で心臓以外は摘出可能。臓器提供者不足を改善する新技術として定着しており、日本にも影響を与えそうだ。
毎日新聞が各国の政府・公的機関の資料を基に算出した。
臓器を提供する事例のうち、延命治療中止後の心停止と、脳死の割合を調べた。新技術を先行導入したオランダでは90年代後半から心停止移植が広まり、04年から臓器提供の4割程度になった。昨年、初めて脳死例を上回り、50.2%になった。英国でも00年代に入り急増、昨年、初めて40%になった。ベルギーでは02年まで0件だったのが昨年、18.6%に増えた。米国でも増加し、昨年は12.9%で1000件を超えた。
心停止後の移植は日本でも1979年から腎臓で行われている。しかし心・肺・肝臓では不可能とされ、97年の臓器移植法で脳死からの臓器提供が認められるようになった。新しい心停止移植はこの常識を覆す手法。
90年代初めに米国で開発され、95年にオランダの医学者により定式化された。臨床医によると、事故や自殺、病気などで脳に障害を受け入院、昏睡(こんすい)状態になり、人工呼吸器が必要になるような重篤な事例で、医師が「健康に回復する見通しがない」「良くても意識の戻らない状態になるだけ」などと判断して生命維持装置を外す。本人の停止に関する意思が不明なケースがほとんどで、家族の了解を得て止めるのが通例という。
数十分たって心臓が停止したことを複数の医師が確認。5~10分間、遺体に触らない時間を置いて、移植チームが臓器を摘出する。
臓器摘出時点で心臓が動いている脳死と異なり、心停止では血流が止まるため臓器は傷む。ただ、技術の向上で長期的な成績は脳死移植に見劣りしなくなっているという。
医学的に難しい概念である脳死と異なり、伝統的な心停止は家族も受け入れやすく、ベルギーでは家族による臓器提供拒否率が脳死の場合より低い。
一方、生命維持装置停止後数十分程度では「蘇生できる可能性がある」としてドイツは新しい心停止移植を認めておらず、欧州内でも倫理的論争がある。