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焦点 全国に分散避難、福島県浪江町民 集落崩壊、孤立深刻
 | 浪江町民が暮らす仮設住宅。避難先の分散化が影を落とす=福島市 |
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福島第1原発事故で避難区域に指定された福島県浪江町の住民が、避難先の分散化で孤立を深めている。仮設住宅の所在地は全域避難の6町村の中で最も多い。集落単位で避難できなかったため、地域コミュニティーが崩壊。住民は避難先で人間関係の再構築を迫られ、心的負担が増す。行政サービスも散漫になり、質の低下を招いている。(浦響子)
◎行政サービスも低下
<6市町に仮設> 浪江町の仮設住宅を地図で示すと、二本松市など6市町の計28カ所に拡散している。所在地は表の通りで、全域が避難区域に指定された他の5町村より10〜19カ所多い。 仮設住宅には全町民約2万1000人のうち約4700人が入居している。借り上げ住宅などに住む人は県内で約9400人に上り、県外は約6900人が44都道府県に散っている。 浪江町は49の行政区があるが、行政区単位にまとまって避難できず、各地の仮設住宅はなじみの薄い住民同士の「寄り合い所帯」になった。 二本松市の安達運動場仮設住宅の佐藤秀三自治会長(67)によると、住民は入居時、ほぼ全員が初対面だった。人間関係を一から築かなければならず、ストレスで家に引きこもる高齢者もいた。 1人暮らしの住民が急病になっても、身内の連絡先が分からないことがあった。今も個人情報保護が壁になり、連絡先を把握できていない。 佐藤さんは「行政区ごとに避難すれば顔見知りばかりでストレスが少なかったはずだ」と話す。 孤立は借り上げ住宅の避難者の方が深刻という。仮設住宅と違い集会所はなく、交流の場に乏しい。町による避難者の所在確認も不十分なままだ。町の保健師や看護師が巡回するが、避難先が広範囲で小まめな訪問が難しい。役場支所も人手不足で福島市など5市町にとどまる。避難者からは「行政情報が入らず、住民の声も届きにくい」と不平が漏れる。
<パニック招く> 避難先が拡散した理由は原発事故がもたらしたパニックだ。情報が交錯して恐怖心をあおり、住民は車で四方八方に逃げた。町はバス10台を出して集団避難を促したが、制御できなかった。 主要避難先の二本松市に、大規模な受け入れ施設がなかったことも分散化の一因。町は同市を中心に仮設住宅の集積を試みたが、まとまった用地を確保できず、各地に建てざるを得なかった。 1995年の阪神大震災では被災者が地域単位で仮設住宅に入れず、コミュニティーが分断された。233人もの孤独死を生んだ。2004年の新潟県中越地震では教訓を生かし、集落ごとに入居し孤独死を防いだ。 今回は原子力災害の特殊性が加わり、集団避難を妨げた。町総務課の山本邦一課長補佐は「着の身着のままの避難を余儀なくされ、地区ごとに固まる時間がなかった。仮設住宅もできた所から申し込み順に入ってもらうしかなかった」と語る。
<自治会結成も> 孤立防止のため、借り上げ住宅の町民で自治会をつくる動きも出てきた。福島、会津若松、白河、いわきの4市で六つの自治会が活動し、定期的に集会を開いて交流を図っている。 福島市の自治会に参加している女性(57)は「町にいつ帰れるか分からない中、町から情報が入らないと気持ちが追い詰められる。同じ立場の人で親睦を深め、不安を和らげたい」と語る。
2012年06月12日火曜日
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