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 登山と安全 (八ヶ岳を例に)

 登山は危険を伴う「趣味」です(職業を除く)。 事故を起こした場合、世間の目は厳しい。 一方で、登山と安全について教えてくれる先輩は高齢化し、言葉だけでは伝達に限界があります。 キチンとやるには、山岳会などで現場やゲレンデの実践訓練によって身に付けるしかなく、 会ですら、ラストばかりでリードもせずには身に付きません。
 多くの人口を占める個人・同好会 では、不安と羨望との葛藤を持ったまま、不完全燃焼している場合も多いと思います。 私ごときが偉そうに話せる立場ではありませんが、せいぜい自分でも話せ、多くの人が知っている八ヶ岳の一般道を例に、写真をまじえて考えて見ました。


 情報に迷わされるもの・行けるかわからないもの
 個人ホームページの主な目的は、「自慢話」です。 その証拠に、本人の顔がわかる写真を堂々と掲載しているものが少ないと思います。 人前では恥ずかしくてできないような自慢話が、ネット上で匿名だからできるのです。 本HPも例外ではありません(参考にはなると思っています)。
 ラッキーに行けたら掲載、勇気ある撤退も掲載、備忘録として掲載、でも言えない真実が存在する場合があるから怖い(本当のところは当事者しかわからない)。
 また、同じ場所でも写真の撮り方や天候によって大きく違い、ホールドや雪質も写真では判別困難です。 季節風で傾いて写してしまう、情報は限られ、わからないのが当然だと思います。

 誰もが事故を起こしてほしくないですが、観光など営業目的で山に来てほしい人、安全を守る人など立場が多くあり、情報は混乱します。 自然条件は変化するので、行ってみないと自分の力量で行けるのか判断できる訳がありません。

 不確実なら、行かないのが当然です。山行中の気象変化など、予想外の状況に陥ってしまう場合もあります。 極論ですが観光地での落石や雪崩も保障はありません、危険を避けるには行かなければ良いのです。

 これを納得でき葛藤もない人は、これ以上読む必要はありません。


 自分やグループの力量
 山好きの高齢化が進み、身近に指導してくれる人が少なくなってきています。 ですから会の必要性は高くなって来ています。しかし会にとっても登山人口が減って高齢化が進み、実体は苦しいところも多いのではないでしょうか。
項目
単独
個人・同好会
山岳会
ガイド
ビレイ
(確保)
実質不能
行って帰って、また行く手順もあるが迷惑
ビレイできる人ばかりではない
可能
(これができなければ会ではない)
可能
力量判定
未知の山に対して無理、行ってみるしかない
必ずしも正しくはない
経験豊富 経験豊富
体制
家族
家族・知人
システムあり
システムあり
保険
(加入しましょう)
(加入しましょう)
冬山や登攀を行う場合は、保険加入を義務付ける会が普通
保険付きが普通
事故対策資金
個人負担
個人負担
積立金あり、が普通
契約の範囲外は個人で
 ところが、八ヶ岳で話をしてみると、 会の人よりも個人・同好会の人口が多い様に見受けます。 ここが重要な点です。山岳会に入ると会費や会合など義務が生じるので、 年に何回も行かない(行けない)人は入会をためらってしまうという事だと思います(私自身も、常に入会してはいない)。


  【結論】 遊びで事故を起こすな
(1)単独では、自信のある所に限る(割り切る)。
  冒険はせず、エスケープルート・引き返しを優先。
(2)単独で困難なルートでは、最低でもビレイ仲間を持つか、会に入る、ガイドと行く。
  ビレーしないなら、団体も単独と変わらない(事故を連絡できる程度)。
(3)中途半端が一番危ない(人口として多いのでは? 以下を読んで納得してほしい)。


 実例によって納得する
 話だけでは十分納得できないものです。 私も何度か行ってみて納得したくらいです。
 八ヶ岳の一般ルートが、雪によって変化する様子を見て、 ビレイもせずに「行けた」という話や記憶があてにならないことを納得してみましょう。 右の図は、一般道と、主な難所です。

ここでは例として
(1)文三郎道から赤岳
(2)横岳鎖場南の斜面トラバース
(3)横岳西側の鎖場
(4)奥の院北の鎖場
の順(反時計回り)について掲載します。

※すべて天気の良い場合です。
他の一般コースにも雪崩や難所はあります。


(1)文三郎道から赤岳
 厳冬期に流されるくらいの雪になる場合もありますが、概して冬でも良いルートです。 正月や5月には雪が少なく夏道と大差ない楽なルートとなる場合もあります。

 ところが、写真は5月のものですが、溶けて凍っており、鎖も埋まっている場合です。 透明な青氷は、ピックが簡単に打ち込めず、割れる。1cm単位でしか深くならない。 アイゼンも同様。

 これくらいならダガーポジションで、何度もアイゼンやピックを打ち込んで進めます。2人なら、支点が多くビレイしやすいでしょう。
 但し、この状況を見て、ピッケルの石突き(シュピッツェ)のままで歩くと転倒・滑落の危険が大きい事に気づかねばならない。

ラッキー(または無謀)に行けた話や記憶を信じて進むと、 要求される力量の変化に対応できない場合が起こる。

(2)横岳南鎖場の南にある斜面
 正月の例です。
 この写真は、まだまだ手前ですが、既に深雪がサラサラ流れやすく、先のほうはヤバイ(ピッケルのシャフトも効かず体ごと流されそう)と感じていました。 前方の尾根の右側を登ってから左の鎖場へ行く。もちろん鎖は見えない。
 

 ラッセルの深さは、先行者の跡を利用しても腰くらいあり、 この先は我々の力量ではムリと判断して引き返しています。 スノーバーなどのアンカーがあっても、強い負荷には流されそうな雪質でした。

 ここで追い返されて、事故は減るのでしょう。

 ところが、雪が少なく、白い割には夏と変わらない年もあるのです。 「白」は雪だけでなく、エビのしっぽなどの着氷もあり、遠目ではわかりにくいのです。


(3)横岳西側の鎖場
 これは5月の例です。 岩が黒く、楽しい春山と思っていたら、残っている雪は別でした(鎖は見えない)。
 日陰でサラサラ流れやすいが、表面は西日で溶けて凍った分厚いサンクラスト。 一部、クラストの下の雪が流れて空洞となり、ピッケルが支点として機能しない部分もありました。

 これはビレイ必要でしょう。

 なお上記のことは、写真だけではわからない。遠目ではさっぱりわからない。


 ところが、 右は別の年に横岳から同じところを振り返って撮影したものです(正月の例)。 黒いのが登山者、下のほうにクライマーがいる様です。

 この年は、白い割には積雪量が少なく、鎖が出ていたのでビレイも不要でした。技術的には、夏と大差なかったです。 白い色は着氷もあり、遠目では登山道の様子はわからないのです。



(4)奥の院北の鎖場
 この例では、5月でもハシゴが8割埋まっており、右下トラバース道の鎖は出ていませんでした。
 先輩によると、厳冬期には、この辺りが雪のナイフリッジになるそうです(撮影地点が既にリッジ状に近かった)。そういえば別の先輩は夏でもわざわざ岩の上を行っていた。

通過方法には2通り考えられます。
1.ビレイして、雪面をトラバース。斜面は切れ落ちていますので、確実な支点が必要。
2.岩の上を行く。風があると危険。ビレイ点少ない。転落危険。
この写真の場合、風が弱かったので実態は2が多かったようです。雪に踏み後はほとんどありませんでした。

 ところが、雪が少ない年は、鎖を利用して、足元もしっかりしており、夏と何ら変わらない事もあります。


(5)地蔵尾根も、 厳冬期は巨大な雪庇が発生し、尾根の上ではなく、 雪庇の急な側面をトラバースする事になった年もあります(沢側への滑落リスクがある)。無雪期と全く地形が変わる。

(6)中岳沢は4月ごろに雪が落ちる事が多いらしいですが、 5月でも残っていて、いつ落ちるか判らない場合もあります。厳冬期でもクラストによる表層雪崩は起きやすい。

(7)硫黄岳から赤岳鉱泉への下りは、ちょっとした雪庇、ガス時のルートファインディングが、あなどれない。



  以上をまとめると、
(1)ルートの状況は非常に大きく変化する。
 遠くから見た印象とは大きく異なる場合があり、行ってみて初めてわかる。
 よって「行けた」という自分の経験や他人の話、HPに惑わされてはいけない。
 ラッキーか無謀だっただけかもしれない。
(2)単独では自分の力量を超えるルート状況に出くわすと引き返しになる(さもなくば無謀)。
 ビレイできなければ、何人で行っても同じ。引き返しにザイルを要する場合もある。

 以下の選択枝が考えられます。
・行ける機会を待つ(何度も足を運び、勇気ある撤退を繰り返す不完全燃焼)。
 いつか無謀な過ちを犯してしまうリスクをはらむ。
・コンビを組んで、ビレイ他の技術により達成する(遭難対策は個人で)。
・会に入って、もっと高度なクライミングルートを行く。
 一般ルートは、比較的安全な帰り道として利用する事になる。
・ガイド登山を利用する。
 講習も受けられ、コースも選べ、ビレイもしてもらえる。

以上は当たり前の話ですが、心のどこかで納得の行っていない人が多と思い掲載します。

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