1. はじめに
製造業ではお客様ニーズの急激な変化に対応し、より良い製品を、より安く、より早く、お客様のもとへ届けるため、モノづくりという視点から製品開発プロセスの見直しが検討されている。製品つくりの基盤となる金型製作についてもリードタイム短縮や高精度化の要求が高く、焼き入れ材料の直彫りがトレンドになりつつある。 弊社では、これらの要求に応えるために、加工機自体の性能向上とその特長を生かした高速切削による金型の直彫り技術の開発を行っている。 金型の高速切削を実現するには製造工程での自動化、高精度化、高能率化が不可欠であり、金型製作の工程設計から加工までをサポートする「UH-SUPPORT SYSTEM」を提案してきた。 ここでは「UH-SUPPORT SYSTEM」を適用できるマシニングセンタとユーザ導入事例として金型の自動製作自動化ラインの紹介を行う。
2. UH-SUPPORT SYSTEMデモ機の紹介
UH-SUPPORT SYSTEM は弊社の金型加工機FHシリーズ、UHシリーズに適用でき、2006年日本工作機械見本市では以下に述べる2機種に適用し機能紹介を行う。 1) 中・小物用金型の高速直彫り加工ができるUH55超高速金型加工機への適用 2) 三井精機工業(株)とのアライアンスの一環としての立形マシニングセンタVERTEX550-5Xへの適用 以下展示マシニングセンタの特長について紹介する。
2.1 UH55 超高速金型加工機 1)
本機は、高速・高加速度送り機構と、高速・高剛性主軸を最大の特長としており、高速切削により、金型の製作時間を大幅に短縮する。 図1に機械の概観、表1に主な仕様を示す。
 図1 UH55超高速金型加工機 |
表1 UH55 機械仕様
項目 |
仕様 |
X軸移動量,mm |
600 |
Y軸移動量,mm |
600 |
Z軸移動量,mm |
600 |
B軸移動量,° |
360 |
パレット寸法,mm |
□450,550 |
パレット最大積載質量,kg |
400 |
切削送り速度,m/min |
60 |
切削送り加速度,m/s2 |
9.8 |
主軸回転速度,min-1 |
500~50000 |
主軸端テーパ |
特HSK-A40 |
|
2.1.1 高速・高加速度送り機構 リニアガイドスライドを移動体の両側に配置することで各軸の移動体は両端が支持され、両持ちはりの状態で高剛性に支持できる。また、送り軸移動体はFEM解析を使用し、特殊鋳鉄による薄肉軽量かつ高剛性な設計とした。 送り機構は2条のハイリードボールねじと低慣性の送りサーボモータにより構成しており、重心付近を駆動することで60m/min、9.8m/s2の高速・高加速度送りを可能にしている。また発熱の影響を考慮しボールねじ冷却を行って位置決め精度を確保している。 2.1.2 高速・高剛性主軸 主軸は軸受けにセラミックボールベアリングを用いており、軸径Ф50mm、最高回転速度50000 min-1の性能を有し、dn値は250万と世界トップレベルである。主軸端形状は、工具クランプ剛性が高く、高速回転時の振れが小さい2面拘束(HSK-A40)を採用している。 また、主軸の軸方向の伸びをセンサで直接計測し、位置指令に補正をかけて高速回転での位置決め精度を保証している。
2.2 VERTEX550-5X立形5軸マシニングセンタ
 図2 立形5軸マシニングセンタ Vertex550-5X |
本機は立形5軸マシニングセンタであり、工程集約ができる一段取りでの多面加工と、アンダーカットが発生する複雑部品の同時5軸加工が可能である。また本機は日刊工業新聞社の第36回機械工業デザイン賞の日本力(にっぽんぶらんど)賞を受賞した。(図2) 2.2.1 最小の設置スペースと最大の加工領域 幅2m、奥行き3mのフロアスペースでФ500mm高さ325mmの工作物が積載可能である。通常このサイズの工作物を載せるためには本機の1.5~2倍のスペースが必要であるが、本機はスペースが必要な傾斜テーブルの駆動機構をベッドの側壁内および機械側面に組み込み、機械横幅を最小限に切り詰めた2)。 2.2.2 良好な切粉処理 本機はセンタートラフ方式を採用した。切粉は切削点直下に設けられたチップコンベア上に落下し、速やかにそのまま機外へと排出される。立形マシニングセンタの弱点だった切粉はけの悪さを解消した。 |
 図3 作業状態 |
2.2.3 作業性の良い機械デザイン テーブル側が移動しないためA軸水平時は機械前面からテーブル中心までの距離は常に約400mmと極めて接近性が良好である。またベッド下面につま先が入るスペースを設けたことと、床面からテーブル上面までの距離900mmと合わせて、無理のない姿勢で作業ができる。(図3 作業状態) 2.2.4 高精度な回転軸 5軸機の精度は、傾斜・回転軸の精度と総合的なつり込みがポイントとなる。自社製の高精度テーブルときさげによる徹底的なつくり込みによって高精度な5軸機を実現した。
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3. UH-SUPPORT SYSTEM
「UH-SUPPORT SYSTEM」は高速加工による金型製作の加工工程設計から製品の精度補正までを総合的にサポートすることにより、金型製作の自動化を支援するシステムである。 本システムは高速加工で必要となる熟練技術者のノウハウ、機械特性等を組み込むことによって、初心者でも簡単に熟練技術者並の加工が実現できるシステムとなっている。 「UH-SUPPORT SYSTEM」は図4に示すように1)~6)のシステムで構成されている。

1)型加工工程設計支援システム「Mill-Plan*/UH」 |
*Mill-Planは株式会社豊田中央研究所の登録商標です |
2)超高速高精度制御機能「UHPC**-Ⅰ/UHPC-Ⅱ」 |
**UHPCは株式会社ジェイテクトの登録商標です |
3)金型加工用DNCシステム「TIPROS*** DM10/DM20」 |
***TIPROSは株式会社ジェイテクトの登録商標です |
4)機上測定補正加工システム「UHCS****」 |
****UHCSは株式会社ジェイテクトの登録商標です |
5)複合センシング補正機能 |
6)主軸熱変位補正機能 |
以下に1)~4)の各システムについて紹介を行う。
4. 各システムの機能と特長3) 4)
4.1型加工工程設計支援システム 「Mill-Plan/UH」
金型を加工するためのNCプログラムを作成する場合、図5に示すように3次元CADで設計されたモデルデータから、加工工程、使用工具、加工工程等を決定する必要がある。しかし、この作業には高度な技術と技能を必要とするため、現状では熟練者が使用機械、被削材、型形状、要求精度等を考慮し設計している。そのため作業者の違いによって設計時間や加工時間、精度にばらつきが発生する問題があった。 そこで弊社ではこれらの問題を解決するために「Mill-Plan/UH」を開発した。 4.1.1 機能の特長

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「Mill-Plan/UH」は図5下段に示すように、入力として加工する形状と素材のモデルデータを読込むだけで、自動で加工工程、使用工具、加工条件を決定するシステムである。ここで、システムには機械メーカだから判る機械特性と高速加工ノウハウが組み込まれているため、高速金型加工機に最適な加工工程等を決定することができる。 |
4.2 超高速高精度制御機能 「UHPC-Ⅱ」
金型加工では、ユーザが望む精度や加工面品位を満足し、かつ、高能率に加工できる送り制御技術が必要である。従来では、ユーザが複数の加工モード(高能率モード、高精度モードなど)の中からその加工に適したモードを選択し加工していた。しかし、それぞれのモードで得意形状、不得意形状があり、加工面のすべての部位に対して最適送りをすることは困難であった。例えば、高能率モードでは凹凸面や角部でも高速に送るため、きず、だれが生じていた。逆に、高精度モードでは滑らかな曲面でも必要以上に速度を落すため、加工時間が長くなっていた。これらの課題点を解決するため、独自の制御ロジックからなる「UHPC-Ⅱ」を開発した。 4.2.1 機能の特長
 図6 UHPC-Ⅱの構成 |
「UHPC-Ⅱ」の構成を図6に示す。「UHPC-Ⅱ」はCAMで作成したNCデータに対して最適速度制御処理し、最適NCデータを出力する。 形状認識部ではNCデータを読込み、形状判別およびその特性値を演算する。最適速度演算部では、形状認識部で判別した各形状特性と予め定量化している加工機の性能からお客様の要望精度にみあう最適送り速度を演算し、NCデータを作成する。さらに、最適速度演算結果を利用して加工時間を正確に予測する。 |
4.3 データサーバ用DNCシステム 「TIPROS DM10」
本システムは、金型加工に必要な大容量・高速転送が可能な、FANUCデータサーバに対応したシンプルなDNCシステムである。本システムを使用すると、加工プログラムの準備が容易にミス無く行えると共に、加工の進行状況をリアルタイムに監視できる。 通常、金型加工で使用される加工プログラムは、CAD/CAMで分割作成されるため、複数の加工プログラムを一本ずつデータサーバに取り込む必要がある。さらに、取り込んだ複数の加工プログラムをサブプログラム呼び出しするメインプログラムを作成しなければならない。本システムは、これらの煩わしい作業を必要とせず、パソコンの簡単な操作だけで効率良く行えるようにするために開発した。
4.4 機上測定補正加工システム「UHCS」
従来、金型の精度を補正する場合、加工した金型を3次元測定器で測定し、誤差が大きく補正加工が必要な場合は、もう一度金型を加工機に戻し補正加工を行っていた。しかし、このような方法では、金型の脱着、移動等により製品を完成させるまでに時間が掛かる、また金型の再取付けにより芯出し誤差が発生し正確に補正加工ができないといった問題点がある。 4.4.1 機能の特長 開発したシステムは図7に示すように、機上で金型を測定するタッチセンサ、測定用プログラム作成、データ解析、補正加工用NCデータを作成するCAD/CAM、補正加工を行う金型加工機により構成される。 まず、CAD/CAMで測定用プログラムを作成し、タッチセンサを用いて機上で金型の精度測定を行う。次に測定したデータをCAD/CAMに転送し測定データの解析、誤差面の抽出を行い、抽出された誤差面にのみ補正加工用NCデータを作成する。最後に金型加工機は作成されたNCデータを用いて補正加工を行う。
 図7 UHCSの構成 |
5. ユーザ導入事例の紹介
 図8 金型製作の自動化ライン
本システムを用いたユーザ導入事例について紹介を行う。ユーザに導入された金型製作の自動化ラインはUH55超高速金型加工機2台・ロボット・「UH-SUPPORT SYSTEM」、及び他社ロボット・放電加工機から構成されており、自動車用樹脂金型を工程設計から切削加工、放電加工まで一気通貫で加工することができる(図8)。 まず、生産準備として「Mill-Plan/UH」、「UHPC-Ⅱ」を用いて加工工程、NCデータを自動作成し、DNCシステム「MG30」でデータ等の管理を行う。次に、ロボットが工作物を取付け、UH55で高速高精度加工を行う。この際、「UHCS」を用いて、機上で形状測定、及び補正加工等を行うことによって工作物の品質が確保される。 最後に、加工された工作物はロボットにより放電加工機に搬送され放電加工を行い金型が完成する。 自動化ラインはこれら一連の作業を熟練者の高度な技術やノウハウを必要とせず、極めて簡単な作業のみで行うことができる。
5.1 サンプルワーク加工
 図9 スイッチレバー金型 |
自動化ラインで実際に加工したスイッチレバー金型の写真を図9に示す。材質はSKD61(48HRC±3)、加工寸法は200×100×100mmでブロック材より直彫り加工を行った。 加工結果は面粗さ2.8μmRz、形状精度20μm以下となり良好な結果が得られた。 |
 図10 リードタイムの比較 |
また、工程設計から切削加工までのリードタイムに関しても図10に示すように、従来では63時間かかっていたものが33時間となり、1/2のリードタイムで製作することができた。 |
6.JIMTOF2006での展示内容
 図11 パワーステアリング金型(P4ポンプ) |
 図12 ギアケース金型 |
上に述べた「UH-SUPPORT SYSTEM」を展示機2台に適用しデモ加工を行った。 UH55超高速金型加工機では弊社自動車部品事業部の商品である油圧式パワーステアリングの金型(図11)を、またVertex550-5Xではギアケース金型(図12)について、金型の加工工程の設計支援Mill-Plan/UHと、実際に削った金型について機上での誤差測定補正加工UHCSについて紹介した。 |
7.おわりに
本報では中・小物用金型に対してリードタイムを大幅に短縮できる金型製作の自動化ラインと、ユーザ導入事例の紹介を行った。 今後もお客様のニーズを常に反映し「UH-SUPPORT SYSTEM」の更なる機能向上を図り、お客様の技術差別化ツールとして提供していきたい。
参考文献
1) |
山田良彦、近藤伊三巳、高田忠司:機械と工具、vol45,NO6.(2001) 24 |
2) |
下村栄司:機械技術vol54,NO6.(2006) 58 |
3) |
大石重雄、沖田俊之、村上慎二、山田良彦、辻村和弘、中野浩之、大谷尚、西田良彦:豊田工機技報、vol45,NO2.(2004) 27 |
4) |
中野浩之、山田綾子、大谷尚、千賀大造:型技術ワークショプ2004講演論文集、p68 |
(執筆者) |
神谷昭充、中野浩之、大谷尚 株式会社ジェイテクト 工作機械・メカトロ事業本部 エンジニアリング部 連絡先 工作機械・メカトロ事業本部 カスタマーセンター Tel:0566-25-5140 |
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