>ピアプロブログ「【お知らせ】『ミクの日大感謝祭-制作日誌39-』が関西でも放送決定☆」
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適当訳
歌おう、電子の身体の喜びを
日本中にセンセーションを巻き起こしたポップアイドル初音ミクは、生身の身体を持たない存在でもスターになれることを証明した。
今年のコーチェラ音楽祭で、今は亡きラッパーのトゥーパック・シャクールが、Dr.ドレーや、スヌープドックと共演を果たした。そのズタボロの姿がステージに現れたとき、客席はどよめきと悲鳴で満たされた。彼が銃弾に倒れて15年。それは、もはや残酷な現実を示す姿ではなく、むしろ超現実的な光景といえた。
不気味な演出ではあったが、特に最新の技術が使われたわけではない。トゥーパックの映像は、19世紀からあるペッパーズゴーストという視覚トリックで、45度に傾けたガラス板に投影されていたのだ。まさにペッパーズギャングスタである。もともとこの仕掛けは、舞台に幽霊を出現させるものだから、今回のステージも目的は一緒である。金貸しマーレイ(クリスマス・キャロル)の幽霊の代わりに、トゥーパック・シャクールの幽霊を出したようなものと言っていい。
トゥーパックの映像は史上最悪だったが、手法自体も過去はじめてではなく、未来を感じさせてはくれなかった。未来的なバーチャルスターをあげるなら、それは日本の初音ミクである。彼女はデジタル世界のアンドロイド妖精で、水色のツインテールと、膝まで届くロングブーツが特徴である。基本的トゥーパックと同じく、投影の中の存在だが、バックバンドに人間のミュージシャンを従えている。
初音ミクは、2009年から日本国内で多数の公演を行ってきた。2011年にはロサンゼルスのノキアシアターで米国デビューを成功させた。今年3月の東京コンサートでは、76ドル1万枚を完売した。YouTubeにある彼女の動画の中で、最も人気が高い「ワールド イズ マイン」はすでに1500万回以上もの再生数である。
実は、ポップミュージックの世界では、アニメや3Dキャラの歌手は珍しくない。有名なところでは、ゴリラズ(2006年度グラミー賞で3Dマドンナと共演)やアーチーズ(1960年代後半「シュガー・シュガー」で全米1位)が居るし、クリスマスの定番である「アルビンとチップマンクス」(歌うシマリス3兄弟)も忘れてはいけない。だが、初音ミクをそうしたアニメの一種とみなしてしまうと、彼女とそれを取り巻くファンたちの本質を大きく見誤ることになる。
クリプトン社が創造した初音ミクは、ボーカロイドの中でもっとも有名なキャラクターである。ボーカロイドとは、ヤマハ社が開発した歌声合成ソフトだ。日本ではソフトウェア製品にマスコットキャラクターを付けることがよくあり、ミクも最初はそうしたマスコットの1つにすぎなかった。つまり、ピルズベリー社の「ドゥーボーイ」やスナッグル社の「クマのファーファ」の同類だと思われた。しかし、ミクがそれらとは違っていたのは、彼女がいまだかつてない創造性の源泉となったことである。
彼女のファンは与えられるものをじっと待つのではなく、自ら行動することでアート・コミュニティーを作り上げた。歌詞を書き、作曲し、ボーカロイドに歌わせ、YouTubeあるいは日本のニコニコ動画で共有した。ミクが「誕生」した2007年以降、アマチュアファンは彼女の力を借り、数十万を超える楽曲、イラスト、ビデオ、ゲーム、アニメ、そしてちょっと気味の悪いミクロボットまで、数多くの作品を誕生させた。どのコンベンションでも、彼女のコスプレは人気である。
さらにミクが主人公のゲームシリーズ「Project DIVA」は、日本で100万本以上売り上げた。ミクを起用したトヨタカローラのCMが全米のアジア系モールで放映された。ミクはGoogle Chromeの日本版CMにも登場した。この動画がYouTubeで公開されたときは、ジャスティン・ビーバーによる米国版CMに、再生数で100万以上の差をつけミクファンの自慢となった。実はミクファンとビーバーファンはインターネット上で何かにつけてバーチャルな戦いを繰り広げるライバルなのである。
彼らの戦いはキレイごとで済まされない場合がある。ミクファンの中には、デジタル世界の路地裏で絶対顔を合わせたくない手合いもいる。2011年12月、カーリー・ショーティナーは英国の音楽雑誌「CLASH」誌上で格好が「slutty」(売春婦のようだ)と書いた。「するとロンドンの事務所に爆弾を仕掛けるぞ、という脅迫文が届いたんです」。記事が出た直後のブログで、彼女はそう言っている。
そんな極端な例は別としても、ミクファンはいつでも彼女が単なる電気信号の塊ではないことを認めてもらいたがっている。最近、The Top TensというWebサイトで、ロンドンオリンピックの開会式に出てほしい歌手を選ぶ投票があった。ミクはランキング上位に居たが、なぜか突然その名前がリストから消えてしまった。ミクの信者たちは、おそらく1位を争うK-POPファンか、あるいは例のいまいましいビーバーファンの陰謀か、と騒ぎ立てた。
だが真相はもっと単純だった。この風変りなプリンセスが正式な歌手としての資格をもつことをThe Top Tensの管理人がよく理解していなかったのだ。怒ったミクファン(その1人がパームデザート在住のジョン・ハーバードで彼はmikufan.comのメインライターである)から大量の抗議を受けた結果、管理人はミクの名前を復活させ、そして彼女は1位となった。
「ミクはファンとともに進化してきました。私たちはみな、今の彼女を創ったのは私たち自身だと感じているんです」とハーバートは言う。彼は最近「「ミクを守れ」という投稿はもう終わりにしよう」という記事を書き、多くの反響を呼んだ。これは先ほどの投票の件やYouTubeの動画削除の件で、暴走していたファンへの呼びかけだった。ミクファンがこうした問題に敏感なのは、そこにミクのバーチャルな死を予感させるからである。
今年3月、満員の会場で彼女のコンサートを取材していたロイター通信は、これが最後のライブ公演になるというニュースを伝えた。質問の嵐に見舞われたクリプトン社は、彼女は単に休暇をとるだけだと弁明した(たぶんサイバー疲労が溜まったのだろう)。ファンはいつも誕生のときと同様に、ある日突然ミクが消えてしまう不安に取りつかれている。それをテーマに作られた曲が、有名な「初音ミクの消失」(Cosmo@暴走P)だ。
ここでミクのプロフィールを見てみよう。彼女の名前は「未来の初めての音」という意味である。身長は5フィート2インチで体重は93ポンド。妹や弟のような存在として鏡音リンと鏡音レンがおり、彼らはミクのコンサートにもよく出演する。ミクは昨年ハローキティーと「Miku-Kitty」としてコラボし、そのあまりのかわいさで危うく世界を破滅させるところだった。天使のような歌声は、女優の藤田咲からサンプリングしたものだ。2010年4月には、SOFT、DARK、SOLID、VIVID、SWEETそしてLIGHTという新しい音声データが追加された(残念ながら「umami(うま味。味に例えているらしい)」はないが)
それにしても、現代のポップスはデジタイズされたロボット声でいっぱいだ。ならば次のステップが初音ミクになるのは当然ではなかろうか? 我々は、これまでずっと完璧なロボットの歌い手を求めてきたのではないか? SF作家のウィリアム・ギブスンは、次のように述べている。「初音ミクのWikipediaはなんというか、失われた古代文明の超技術を思わせるよ。80年代のSFによく出てきたやつだ」
ギブスンといえば、1996年の小説「あいどる」は、まさにバーチャルスターの物語を先取りするものだった。そんな彼は、初音ミクによって名声の意味が変わったという。「ミクは名声の概念を超えた何かだと思う。名声を得る個人はおらず、名声のみが存在する。それは人と人の関わりの中にある。けっこう奥の深い話でうまく言えないのだが」
マイケル・ボーダーズは、近代日本文学を専門とするシカゴ大学の准教授だ。彼は「さよならアメリカ、さよなら日本:知性学的にみるJ-POP前史」という論文の中で、より歴史的にミクを考察し、「少なくとも1970年代から続く日本のアイドル文化の当然の帰結である」と述べている。
ミクが日本の美少女アイドルの流れをくむのは確かだが、それ以上の存在でもある。ミクは私生活上の問題で世間を騒がすことがない。というより私生活そのものがない。この事実によって、心がいつも平穏だと語るのは、カナダのオンタリオでファンサイトmikustar.comを運営するスコット・フェアバーンである。離婚のいざこざで悩んでいた彼は、気晴らしを求めてミクと出会い、その虜になった。
「彼女はツンケンしないからね」と彼はいう。「何も要求せず、ただ与えてくれる。コンサートの後、ナイトクラブでコカインをやったり、酔っ払い運転で捕まることもない」
それは決して、ミクが人間的な弱さと無縁だということではない。ミクの開発者は懸命にもミクを完全無欠な存在にはしなかった。フェアバーンが一番好きなのは、昨年の東京コンサートで「初めての恋が終わる時」を歌ったミクが高まる感情に打ち勝ったシーンである。客席に背を向け、うつむいた彼女は、自分を取り戻すまでに数秒を要した。会場は騒然となった。
音楽的な面でいえば、ミクは膨大な電子データーに裏打ちされた完璧な技術の持ち主である。キーボード奏者の安部潤(The 39's)はロサンゼルスのミクコンサートにも参加したバンドメンバーだが、「彼女はライブ演奏で絶対にミスをしないんです」と言い切った。そりゃそうでしょう。でも、そういうロボ的なもののバックバンドを務めるのは気持ち悪くないですか? 「ミクの伴奏をしているとね、」彼はメールで答えた。「なんだか人間のアーティストについてる気分になるんですよ…。この感覚はとても独特です」
新しいミクの作品がファンの手で毎日のように生まれてくる。新しい歌が生まれ、新しいイラストが生まれ、そしてそれを見守るクリプトン社がいる。社長の伊藤博之のメールによれば、ミクのソフトは7万本売れたという。その成功は、さまざまな問題も引き起こした。彼らは著作権の侵害と戦い。面白半分に扱うメディアと戦った。しかし伊藤は、そんな厳しい中にも良い面があったという。「私たちが多くの問題を解決する課程で、彼女は創作の自由のシンボルになっていった。だからこそ初音ミクはこれほどたくさんの人を引き付けるのです」
あふれる創作エネルギーをうまく育てるために、クリプトン社は環境を整え、ミクを使うアマチュア音楽家を支援した。それはまた、自分たちのブランドを守り、かつ広めるための手段でもあった。ピアプロは、クリプトン社の公式コミュニティーとして、ミクを愛するファンが自作した作品をアップロードする場となった。利用者はクリプトン社が用意したライセンスに従う必要がある。これはすべての作品を「非公式で非営利な場合に限り誰でも再利用可能とする」というもので、FLICKER(有名な写真投稿サイト)と似たルールであった。
自らの著作物の扱いとしては、今までにない斬新なものである。シカゴ大学のボーダーズ准教授は、企業と消費者のこうした友好的な関係は、アメリカより日本で良くみられると指摘する。「日本のポップカルチャーにおいて、企業は自社のキャラクターでファンが遊ぶことを喜んで許してきた。ハリウッドのスタジオなら、これを権利の侵害とみなすだろう。だが私は日本のやり方のほうがブランドイメージを高め、結局は利益にもつながると考えている」
もちろんクリプトン社は、より本格的な作品発表の場も用意している。クリエイターは正式に契約を結び、クリプトン社のレコードレーベル「KarenT」から曲をリリースすることもできる。ちなみにこのレーベル名は「未来の衝撃」の著者、アルビン・トフラーの娘の名前に由来する。契約したミュージシャンの中には、有名な創作集団、supercellも含め、ボーカロイドでプロ活動を始めたものも多い。その1人が黒うさPで、彼はWhiteFlameという名前でも知られる。すでに多数の曲を発表しているが、「千本桜」はJOYSOUNDのカラオケランキングでもっともリクエストの多い曲となっている。彼が言うには、初音ミクで曲を作るのは学園祭に出る女の子を自分好みに仕立てるようなものだという。「気に入った娘にきれいな服を着せ、かわいいお化粧をして自作の曲を歌ってもらうんです」
ミクはどんな曲でも歌うことができる。クリトン社の公式設定では、J-POPやダンスポップを得意としているとなっているが、彼女は超ソプラノで、情熱の舞曲を歌うことも、つぶやくようにバラードを歌うことも、メタルボイスで世界の破滅を歌うことも可能である。「何千人ものクリエイターがいますよ」と黒うさPはメールに書いている。「彼らにとってミクはそれぞれ自分だけのミクなんです」
カリフォルニア大学サンディエゴ校でデジタルメディアを研究するタラ・ナイト助教授は、初音ミクに関するドキュメンタリーを制作中だ。12月の完成時には、自身のWebサイトmikumentary.comで公開される予定である。彼女は最初、文化的に重要性を増したホログラムの歴史を書くつもりだったが、このホログラフのアイドルに出会って方針を変えた。「ミクはいくつかの既存技術。すなわち映像技術、音楽作成ソフト、Web2.0的なユーザー作成コンテンツの複合体ですが、それらの組み合わせが新しい何かを生んだのです」と彼女は言う。
ナイト助教授はまた、ミクがさまざまな姿で現れることに注目している。「私が取材したファンは、みなミクが特定の人格を持つとは考えていませんでした。彼女はレディー・ガガのような単独のポップアイコンではなく、そのときどきによって異なる個性をまとうのです。彼女は誰にでもなれます。それは、ファンにとって彼女が自己表現になりうることを意味します。ミクが肉体を持たず、その場限りの存在であることは、視聴者と演奏者、あるいは消費者と制作者の間にこれまでにない関係性をもたらしたと思います」
ミクを批判的にとらえるものもいる。DJビーナスXは、最近開かれたアートフォーラムにおいて、ミクに興味を示しつつも、この日本のスターが、「よくある空っぽな女性アイドル」ではないか。いわば「ベイビー・ワン・モア・タイム」(16歳のときのデビュー曲)を歌うブリトニー・スピアーズのようなものではないか、との疑念を示した。ニコラス・グラハムは、ハヒントンポスト(Huffington Post)誌のブログで、半ばジョークとはいえ、ミクを評してこう述べた「彼女の出現は、単に音楽界のみならず、我々の知る世界そのものが変革するという恐るべき予兆である」
誰がどんなに恐れようとも、ミク現象は留まる気配を見せない。彼女がアメリカで成功するかどうかについては、今のところ予測はできかねるが、ともあれクリプトン社はこの夏の英語版ソフトの発売に向けて作業中である。また2013年には次の公演も予定されている。キーボード奏者の安部潤は、最近客層が変わってきたことに気が付いた。「以前はミクのコンサートに来るお客さんは、ほとんどオタク男性でした」。彼は続けた「しかし、次第に女性が増え、今では幅広い層が集まるようになりました」
ミクはファンたちの思いが生んだ存在である。したがって、ファンが増えれば増えるほど、彼女の輝きも増すのである。
筆者マーガレット・マフラーは、炭素型生命体にして、ロサンゼルスタイムズ紙、ローリングストーン誌の寄稿者です。
***訳ここまで
訳注:タイトルの元ネタについて
「I Sing the Body Electoric」の元ネタはいくつかあるが、代表的なのは次の3件。おそらく本記事では2を元ネタとしていると思われる。
1.詩人ホイットマンの詩のタイトル。詩集「草の葉」収録(1855年)。ネット上の翻訳を見ると、どうやら「みんな見てくれ聞いてくれ。俺の身体はもうビンビン」といった調子の肉体賛美の作品。
2.SF作家レイ・ブラッドベリによる家政婦ロボットと子供たちの物語(1969年)。日本語タイトルは「歌おう、感電するほどの喜びを!」(伊藤典夫訳)。もともとはブラッドベリが脚本家として関わったテレビ番組「トワイライトゾーン」で放映された話。
3.フュージョン・ジャズバンドのウェザー・リポートによるレコードアルバムのタイトル(1972年)
有志による翻訳があるそうなのでメモ
>togetter「私は歌う、電子の躰を をつぶやいてみた」
追記
トゥーパックと初音ミクをからめた記事がスペインのWebでも掲載されているそうなのでメモ。
>El País「El holograma resucita a los ‘zombies’ del rock」
関連ページ
>海外でホログラムを使用したパフォーマンスが話題になっているらしい件
>トゥパックがらみの動画記事にも初音ミクが取り上げられているらしい件