社説:年寄名跡問題 未来の角界担える人を
毎日新聞 2012年06月24日 02時30分
名跡取得には巨額な費用がからむ。「生活資金」などの名目でやり取りが始まった金額はバブル経済期には数億円にまで達した。短命だった力士の平均寿命が延びて名跡の空きがなくなり、需給のバランスが崩れたことも一因だ。90年代には取得に要した約3億円の税務申告漏れが指摘され、継承をめぐる民事訴訟では東京高裁が「1億7500万円」の財産価値を認定した。現在は8000万円程度と言われるが、取得にはカネに加え、譲ってもらえる人間関係をつくるコネも必要だ。
年寄には、協会や本場所などの運営や力士の養成を通して大相撲をかけがえのない身体文化として次世代に継承していく役割があることを再認識しなければならない。重要性においては「土俵の充実」に勝るとも劣らない。
師弟関係からなる部屋制度は大相撲の根幹であり、師匠がどの弟子を後継者にするか決めることに異を唱えるつもりはない。だが、現状では現役時代の実績や親方としての適性があっても、カネとコネがなければ、相撲界を去らなければならない。現役力士が所有する株を借りたままの元横綱や、平幕に落ちても土俵を務めた元大関もいた。
伝統を踏まえながら時代が求めるガバナンス(組織の統治)にどう対応していくか。知恵を絞る時だ。