この国の主要ポストは代々首長を輩出してきたアルサーニー家の一族に占められ、その気分や思いつきで物事が進められる。
市内ではカタール第一号のバイパスが造られていて、工事渋滞が人々を悩ませていた。辺りには土地が余っていて、またぐものは何もない。噂によると、とある有力者が海外で目撃したバイパスの格好よさに魅了され、「我が国にも是非」と言い出したらしい。
カタール人の浮世離れした暮らしを支えるのは、海底から湧き出す石油やガス、そして外国からの出稼ぎ労働者である。カタールには82万人が暮らしており、外国からの出稼ぎ労働者が半数以上を占める。インド人とパキスタン人が多く、イラン人、フィリピン人と続く。スーダン人やソマリア人も少なくない。
そんな豊かなカタールは、いま「スポーツ立国」を目指している。現に、スポーツ界における存在感を急速に高めている。
2006年にアジア大会を開催し、'11年に行なわれるアジアカップ招致も決まった。1年前、東南アジアの4カ国が共催した大会を、カタールは単独で開催する能力を持つ。落選したが、'16年の五輪開催地にも立候補していた。すべては国際的な地位を高め、国としての自尊心を満たすためだ。
スポーツ担当記者が次のように語った。
「ドバイが経済、アブダビが文化なら、ドーハはスポーツと教育で勝負します。特にサッカーには力を入れています」
政府は年間200億円をサッカーに投じているとされるが、真偽は定かではない。
「税金がないので不透明ですが、もっと多いでしょう。すべては王族次第なのです」
この国にいると、金銭感覚が麻痺してくる。
政治や経済と同様にカタールのサッカー界は、アルサーニー家によって支配されている。王子のひとりがサッカー協会の最高権力者であり、彼はお気に入りのチームや選手を明かしたことがない。影響力が、あまりにも大きいからだ。王子は週に5日、ウェストベイのサッカー協会で執務をし、出勤中は高層ビルのエスカレーター1基が王子専用となる。
「金なら、いくらでもある」
多くの関係者が語るように、この国では莫大な資金が環境整備のために費やされている。
例えば、日本戦が行なわれたアルサード・スタジアムは、かの有名なオールド・トラフォードを模しており、最新機能を装備する。
ゴール裏の壁には白と黒のサッカーボール型の装飾が施されているが、単なる装飾ではない。実は、ボールから冷気が吹き出すのだ。また、すべての座席の下に小さな穴がふたつあり、これも冷房の役目を果たす。40度を超える、真夏の酷暑を和らげるためだ。
このシステムは試行段階にあり、広告看板が取り付けられるとボールの大半が隠れ、ピッチに風が届かなくなるという弱点がある。
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