外国映画の吹き替え版増加 観客動員に追い風

   2004/02/27

 映画館で上映される外国映画といえば、子ども向け作品などを除くと、画面に日本語訳を映し出す字幕版が一般的。しかし、このところ、アクション、SF作品などで日本語吹き替え版が続々と登場している。背景には、複数のスクリーンを持つシネマコンプレックス(シネコン)の普及がある。現状をリポートする。(文化生活部 亀山正芳)

シネコン普及で同時上映/コストは字幕の十数倍

 二〇〇二年、一本の映画が映画業界の話題をさらった。アクション映画「トリプルX」の吹き替え版だ。

 吹き替え版といえば、ディズニー映画をはじめとするファミリー向け作品というのが、映画業界の常識。映像の迫力を楽しむアクション作での製作は異例だった。

 同作品の配給会社、東宝東和は「低年齢層に、身近なテレビの吹き替え映画と同じ感覚で見てもらい、観客増を狙った」というが、映画関係者は「アクション作品まで吹き替え版が生まれたことに驚いた」と振り返る。

 観客動員数など、日本で公開された外国映画のデータを収集している日本映画製作者連盟によると、この数年、吹き替え版は着実に増加しており、「ロード・オブ・ザ・リング」「マトリックス」「ターミネーター」などの人気シリーズも、字幕と吹き替え版の二つによる上映スタイルだ。

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 日本での外国映画上映は、無声映画時代からトーキー(有声)に変わった一九三〇年代以降、字幕版が定着。世界的に吹き替え版が主流の中で、独自路線を歩んできた。

 「理由の一つは日本人の識字率の高さ。さらに、外国、特に米国に対するあこがれもあり、俳優の生の声を聞きたいという願望があったため」と、外国映画の老舗配給会社・UIP映画関西支社は分析する。

 また、吹き替え版には、字を目で追わなければならない字幕と違い、集中して楽しめる長所もある。神戸市内の映画館で「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」を吹き替え版で見た主婦(48)も「映画はいつも吹き替え版。映像に集中できるし、物語もよく分かる」と話す。

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 吹き替え版の普及に大きく影響したのが、ここ数年、全国的に急増したシネコン。複数のスクリーンを持つため、同一作品の字幕版と吹き替え版を同時上映しやすくなった。

 シネコンの多くは映画館の少なかった地方都市の郊外に位置しており、都市部と違い、家族連れが多いのが特色。配給会社ワーナーブラザース映画は「一家そろって楽しんでもらうには、吹き替え版の方がいい」と指摘。また、全国で十一のシネコンを展開する松竹マルチプレックスシアターズによると、鑑賞の中心層は家族連れや年配者といい、「吹き替え版は、動員の上でメリットが大きい」という。

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 増加する吹き替え版だが、コスト面の課題がある。全国の劇場にコピーして配給するフィルムの元となるマスターフィルムをつくるには字幕版の十数倍の二、三千万円が必要。ある関係者は「今は各映画会社がどんな映画に吹き替え版のニーズがあるのか、模索中の段階。結果次第で、これまであいまいだった吹き替え版を作る作品と、そうでない作品がはっきりしてくる」と予想する。

 大阪芸術大学芸術学部の太田米男教授(映画論)は「これまで吹き替え版がなかったのが不思議。映画離れが叫ばれた時代に、サービスの一つとしてもっと作られていなければならなかった」と指摘。その上で、「ビデオは十年以上前から吹き替え版がある。その経験から、映画をより分かりやすく鑑賞したい、と考える層が増えているはず。さらに吹き替え版は増加するだろう」とみている。


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