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第2話
第2話

「…△$、#&з@ЯП?」

目の前の女の子が何か喋ってるけど、聞いた事が無い言葉だし何を言っているの か全く理解出来ない。

「…えと、ここは?君は誰?ってか何て 言ってるの?」

はやも
相手の話は通じずとも、こちらの話が通 じる場合だってある。
俺は言葉の壁を乗り越えるべく、元来ならばこう言ったケースで誰しもが陥る『パニック』って奴をあえて無視して立ち上がり、逆にチャレンジャー魂を瞬間的に燃焼させてみた。
続けて女の子も立ち上がる…おお、この子ちっちゃいな〜…クル物があるぞ? 俺は思わず頭を撫でようと手を伸ばす… が、それはしない方がよかったようだ。

「#&з@Я△$!&з@ЯПЮШЁ!!」

「ЪР$@#、ΘЮΨд!?」

周囲から突然いくつもの声が聞こえ…その内1つが俺に走り寄る否や、突然首に冷たい物が押し当てられた。 見ればすぐ横にも同じ赤眼の…眼前の女の子とは違う誰かが、顔を怒気で漲らせて俺に何かを突きつけている。 そしてまた気が付けば周囲には、同じように煌々といくつもの赤い光…眼が暗闇 で煌めいていて、それらは全て1対ずつ あり…それぞれが違う高さに浮いてる。
待てよ…これ全部人の眼だってのかよ?

「дΨΝЮ$@$%!」

「…っ!?」

より強さを持って俺の首に押し当てられ るその冷たい物。
そして俺はすぐにそれが、首に押し当てられている冷たい物が、今この瞬間に俺 の首を刎ねんとする刃物である事を理解する。 幅5cm、長さは50cmほど…いわゆる 両刃直剣 ソード って奴だろう。 ってか、アレ?俺ってばいきなり死亡フラグ立てて、いきなりそれを回収されんの? いきなり殺されそうになってるのはどういう訳だ?

「¢$℃§、Λ†♯♯εηΝΠ◯Å…」

「ηιΝΩα!」

「КМθΧΜΠ∫∽!」

「#@∧…」

俺がオロオロしてると、先ほどのフードの子が何か言ってる。 それに対し剣を突き付けた奴が反論…だが結局黙らされたみたいだ。

「иЧгдχψ…」

そしてまたフードの子が、胸の前で手を 組んで目を閉じ、何かを呟く。 次の瞬間、女の子の手がポワッと光りだした。 組まれた腕で女の子の胸が強調され…俺はその様子を見て思わず呟いてしまう。

「やっぱBはあるよな」

「…えっ?」

「…あっ!?」

すると今まで訳の分からない言葉だった のが、突然流暢な日本語へと変わったで はないか。

「ってか、あれ?言葉が…」

「あ、ハイ…『翻訳』の魔法を使用しま した」

あーマテマテ。 今この子『魔法』つったか? どこのRPGだっての…いやそれよりも、これは嫌なトラブルの匂いがプンプンする。

「言葉通じるんだな?」

「ハイ、今のところ私と貴方様の間においてのみ…ですが」

「じゃあまず3つ聞かせてくれ…また増えるかも知れんけど」

「私に分かる事でしたら何なりと」

ああ…絶対アレだ。 間違いない。

「まず1つ…ここは何て世界だ?」

「ここはラグナロクと言う世界…あるい はセブンシンズ大陸にある七列国の一『ルクスリア王国』です、と言いましょうか?」

ハイ、『アレ』ルートのフラグ1回収。
…ま、まだ諦めないんだからね!

「じゃあ次…まず先に君の名前を聞いておこうか」

「ハイ、私の名前はアヤ…アヤ=ケリュ アクアスと申す巫女にございます」

巫女って…ハイ、フラグ2つ目回収。 ってかもう決まりじゃねぇか?勘弁してくれ。 心で泣いて顔で強がる俺。

「アヤ=ケリュアクアス、ね…じゃあ次に…本来なら聞かなくても分かるんだが …ここまで来ると聞くのも面倒だな」

「え?」

「いや、こっちの話…じゃあ次」

「ハイ、何なりと」

「俺はここへ『君』に『喚ばれて』来た …で、俺は『勇者』なのか?『魔王』な のか?」

「ッ!?」

俺の質問にアヤが目を丸くし、息を呑む のが良く分かった…それ即ち、俺の質問 が…特に前者が『YES』である事を示すもの。

ハイ、被異世界召喚 ルート 確定〜。 ドンドンパフパフ〜♪

…ソウジャネェダロ。

「あぁその顔なら聞かなくても分かる… で、どっちだ?」

「…魔王様でいらっしゃいます」

…やっぱな。 そうだと思った。 だって周りの連中からビリビリした何かを感じるし…これアレだろ?魔力とかっ て奴だろ? で、周りが恐れ戦いてんのは俺も持ってるだろう魔力が、コイツらの魔力を上回るほど圧倒的だからとかそういった理由で…だからだろう。

「あ〜あ…聞かなきゃならない質問が増えちゃったよ、やっぱり」

「と申しますと?」

「答えが見えすぎて、これもホントは聞きたく無いんだけど…俺、今は帰れないんだよな?」

その質問をした瞬間、アヤの表情がみるみる陰っていく。

「……ハイ」

「やっぱりな」

このルクスリア王国には何かの事情で王 …つまり魔王が不在。 そこでこの子が魔法か何かで俺を、この 国を救う新たな魔王として召喚された… ってところだな。

それと…もう1つ聞いておこうか。 俺は自分の両眼の眼球に指を当てる。

「俺が新魔王として喚ばれるに相当する 要素…それはコレだな?」

そしてそこにあったそれをそっと取り外す。 下から出てくるのは…

「ハイ…ですが……何と綺麗な真紅相貌 でしょうか…」

真紅相貌…つまり虹彩の赤い両眼。 俺は普段この眼を見せたくないが為、あの一件…つまり綾子を救った時以来、ず っとカラーコンタクトを着用している。 もちろん度は入ってないから視力に影響は無い。

「ふむ、これは見たところ…魔王、いや 魔族の証ってところか?」

「ハイ…それは魔証眼 デモンズクレスト と言いまして、10歳になった魔族に発現する、魔族の証にございます」

「ふぅん…」

俺はコンタクトを外したまま周囲を見渡す。 すると今まで俺を不審者扱いしていた全ての連中が、突如として俺に平伏…土下座をしだした。 ただ1人、先ほど俺に剣を向けたあの人だけ…一応頭を下げてはいるが、レベル で言えば最敬礼だ。

「あの人は平伏しないんだな」

「あ、あの人は…その……この『救世主 召喚計画 プロジェクト・サモンメシア 』に、最後まで反対していまして」

まぁ分からんでもない。 突然現れたどこの馬の骨とも知れん男に 、コイツが王だから従えと言ったって無理な話だ。

「彼女は悪くありません…罰するならこの私を!」

「いや誰も罰しな…って女ぁ!?」

「ハイ、彼女の名はシズ=シャナス…若 くして我らルクスリア王国第一騎士団の隊長を務めています」

つかマジ女? 背は低いし目つきはキツいし、胸だって 鎧の分差し引いてもほぼ水平線 ホライゾン だし…。 何を言ってたか分かんないけど、さっき突っかかってきた時の声も声色は男の子っぽかったし。

「…まぁいいや、とりあえずアヤさんさ 」

「私の事はアヤと呼びつけにして下さい魔王様」

ぐわ…どこまで下手なんだよ。 アレだな…魔王様恐るべしだな。 いきなり呼び付け強要って…よし、俺も反撃するぜ。

「魔王様だぁ!?あーヤメヤメ、堅苦しくて息が詰まる…俺は草薙 白夜だ」

「クサナ・ギビャクヤ様?」

イントネーションが変だな…あ、英語式 か?

「いや、ビャクヤ・クサナギだ…ああ 、長ったらしいからビャクヤと、俺も呼びつけにしてくれ」

「滅相もありません!魔王様を呼びつけ になど…」

ああ無理か。 この手の子はこうなったらテコでも動かない。
最悪『魔王様の命に逆らいました…罰が あるなら甘んじて受けます』とかって言い始めるだろうし。

「じゃあ交換条件…俺は君の事を『アヤちゃん』って呼ぶから、アヤちゃんは『ビャクヤ』って呼んでくれよ」

「う〜…ではせめてビャクヤ様で」

「…ま、いいか」

俺がビャクヤ様で妥協すると、アヤちゃん はにこやかに微笑んだ。 クソ、カワイイじゃねえか…フードかぶ りっ放しだけどさ。

「…で、アヤちゃん」

「何でしょう?」

「俺さ、一応魔王なんだよね?」

「いえ、一応も何も魔王様です」

「そうか…ならまずはさ、この世界の事 …アレコレ教えてくれない?」

「…」

…あれ? 何か間違った事言ったか?俺…沈黙されてるし。
つかこれ哀れみの姿勢かな?

「…アヤちゃん?」

「はっ、はい!すみません…今までの魔王様は皆様ほとんど、勉学をした試しがなかった物で」

勉学をした試しが無い? じゃあ何か? 喚ばれてすぐに王政を開始して、没するまで上手く行ってたって事か? …どんだけだよ。
でもまぁ『ほとんど』って事は、少なか らず勉強をした先代魔王もいるって事か 。

「あのさアヤちゃん、俺は確かに魔王かも知れないけど……俺は先代?達とは違うやり方を通そうと思ってるんだ」

「やり方を通す……えっ!?ではビャクヤ様は 我らがルクスリア王国の国王に…」

まぁやるしかないだろうな。 喚ばれた訳だし、魔王だし…。

「ああやってやる…ただし、俺は自分で 言うのもアレだけどわがままで傲慢で… 貪欲で、エロい…とんでもない暴君になるけど……それでもいいか?」

「ああぁ、ありがとうございます……う っうっ」

俺が魔王就任を受任するや否や、アヤち ゃんは声を出して泣き始めた。 『ありがとうございます』とは言ってく れたが…泣くのは予想できなかったぜ。 つかだけどわがままで傲慢で…貪欲で、 エロい…とんでもない暴君でもいいのか! ?

「ちょ、アヤちゃん…何も泣く事ないだろ?」

「嬉しくて…いえ、そうですね…はい、 ぐすっ…あれ?涙が…ぐすっ、ひっく…」

「#&з@ЯП!」

「ΧΜΠ∫∽!」

「Чгдχ、дΨΝЮ$@$%!?」

俺が寄ろうとした時、また回りが騒ぎ出した。 ウッセ外野。 アヤちゃん通じてこの場で処刑するぞ?

「皆さん落ち着いてください!私は大丈 夫ですから」

「♯εηЮЪ…」

「いえ…そうじゃないんです」

「Чгдχ、ΝΩαМθΜΠ∫∽!?」

「はい、大丈夫です」

ってかアヤちゃんの声はキチッと日本語に聞こえるのに、他の連中の声は全部意 味が分からん。 ただ…2個だけ、なんとなく意味が分かった言葉があった。

それは『#&з@ЯП』と『дΨΝЮ$@$ %』と言う言葉。 俺はそれが実際に間違ってないか確認するため、アヤちゃんを呼ぶ。

「なぁアヤちゃん」

「…はい?何でしょうビャクヤ様」

俺の元に寄ってきたアヤちゃん。 俺は彼女の耳元に口を寄せ、ボソボソと 喋る。

「『#&з@ЯП』と『дΨΝЮ$@$%』 ってさ」

「翻訳の魔法なしに発音できるんですか !?」

「まぁ今んとこコレだけだけど、意味は …………で合ってるんだよな?」

「ええ、でもそれが?」

そうか、合ってるのか。 ふっふ、ふははははははは!

「…ふはははははははは!」

これで言える。 この場に呼ばれて以来ずっと感じてたあ る感覚に対し、これほどまでに相応しい 啖呵はないだろう。 そう思うと不思議と楽しくなる。

「ビャクヤ様?」

―チャキッ!―

「дΨΝЮ$@$%!!」

「きゃっ!」

…また剣突き付けか?この女。 つかアヤちゃんビックリしてじゃん? まぁ突然俺が意味の分からない高笑いを 始めれば、このお姉ちゃん…シズ=シャナスって言ったか?が騎士なら不審がるのも分かる気はするが。

ま、俺に剣を向ける…その意味がどう言 う事かを教えてやる。 俺はにっこりと笑みを浮かべるとシズに 向き直り…

「(虚創・開始)」

―シュガッ!――ギィンッ!ガラガラガラ…―

俺は宝刀雪片を造り出してその剣を弾く、そして左の手刀で右から左に思 い切り打つ!

「ッ!?」

とっさの事にシズは剣を手放してしまい 、それは俺の手刀に弾き飛ばされてこの 部屋の隅へと飛んでった。

これは義祖母 ばあ ちゃんから教えてもらった『 氣闘拳 きとうけん 』の技で【 白刃流 はくじんながし】と言う。 素手の状態で刃物を持つ相手と戦う際に 使う技で…対峙した相手の間合いに一瞬 で潜り込むと同時に手刀を内から外へ振 り、それにより相手の武器を遠くに弾き 飛ばす技。 後はそのまま拳を叩きこむなり蹴りを打 つなり、投げ崩して関節決めたりする技 だ。

俺はそれをこの分からず屋騎士に使ったのだ。 義祖母 ばあちゃん、『白刃流し』を伝授していてく れてありがとうございます…お陰で助かりました。

―ガシッ!―

そして即座に距離を詰めると、眼前でビックリしていたシズの胸倉(鎧のインナー)を掴んでやる。

「「「「!?」」」」

周囲が息を呑む・呆然とするのが良く分 かる。 ちなみにここまで僅か3秒だったりする から、速過ぎて分かんなかったんだろう 。

俺はそのまま、吐息が鼻にかかるぐらい の距離までシズに顔を近づけ、その赤い 眼を真正面から睨み付けながら…極力落 ち着いた、それでいて底無しの怒りを滲 ませたような低い声で言ってやった。

「#&з@ЯП、дΨΝЮ$@$% (魔王を、 舐めるな)」

「!?」

その瞬間、眼前のシズが即座に平伏し、 俺に対し初めて土下座した。 異世界在住の魔王を舐めるから悪い…ざ まぁ。

「…え?えぇ!?」

とここでようやく我に返ったのか、アヤ ちゃんが素っ頓狂な声を上げる。

「ビャクヤ様、今何を?」

「まぁまぁ、その辺りの話は後でも出来 るって…さ、行こ行こ」

「ちょ、え?ええっ!?」

ざわめくその空間を後にし、俺はアヤち ゃんを連れてその場から退散した。



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