プールでは塩素と感染症にご用心!
プールで泳ぐのが楽しみな季節がやってきました。また最近では、老若男女を問わずスイミングに通われる方も増え、年間通して泳いでいる方も多くなりました。

プールでうつるといえば

以前、夏に流行するものは「水場」を介して感染することが多いとお話しました。プール施設では、プールそのものだけでなく、プールサイドや更衣室も水気がありますので、病原体をやりとりする可能性がとても高くなります。
プールでうつりやすい病気としては、プール熱(咽頭結膜熱)や手足口病水いぼはやり目(流行性角結膜炎)、あたまじらみ水虫などが挙げられます。 
プール熱がプールで流行することは名前から想像できますね。38度を越す高い熱が出るほか、のどの痛みや腫れ、せき、鼻水、頭痛、寒気、食欲不振などの一般的なかぜの症状も引き起こします。はやり目の原因はプール熱の原因は同じウイルスの型違い(同じ花の色違いのようなもの)。こちらは熱はあまり出ずに、目の充血、涙や目やにが多くなる、まぶたの腫れなど、結膜炎の症状が急に起こります。角膜(黒目)に白く濁った点が出ることもあります。多くは数日以内にもう一方の眼にも起き、治るまでに2〜3週間かかります。さらに、角膜に白い点が生じた場合は消えるまでに半年から1年近くかかります。プール熱でも結膜炎が起きることがあり、プール熱も「はやり目」と呼ばれることもあります。
手足口病もその名の通りの疾患で、口や手足に赤い発疹や水ぶくれが出ます。お尻や膝にも出ることがあります。プール熱と手足口病はいずれも夏風邪と呼ばれ、手足口病でも微熱など、軽いかぜのような症状を伴うこともあります。  
水いぼは正式名を伝染性軟属腫といい、まん中にくぼみのある小さないぼが、ひざやひじ、おなかなどに出る疾患です。かいたりしてつぶれた中みにいたウイルスが、体のほかの場所に付着して広がります。  
あたまじらみは、ウイルスや細菌ではなく、2〜4mm程度の大きさの虫が原因です(「毛じらみ」という人もいますが、あたまじらみと毛じらみは別の虫です)。毛髪の中に住みついて、髪の毛に卵を産み付けます。蚊のように頭皮の血を吸うため、かゆみがあります。  

これらは、病原体(を含む水ぶくれやいぼの中み、目やに、その他体の汚れ)のついた足拭きマットやタオル、プールサイド、更衣室の床などを介して他の人にうつります。夏風邪の類はプールの水そのものからもうつりますし、せきなどを介して空気感染することもあります。特に、足拭きマットやタオルなどの汚れてじめっとしやすいものは病原体が繁殖するおそれもあるため、汚れが流されやすく水はけのよいプールサイドや床よりさらに危険です。水いぼやあたまじらみのほか、水虫もマットやタオルなどから感染しやすいものです。
また、プールで流行るのは、上に挙げた代表的なものだけではありません。風邪をひきかけた人や、傷口にばんそうこうを貼って入っている人、家に病気の人がいる人など、いろいろな人が利用しています。大腸菌やブドウ球菌をはじめ、プールではどんな病原体が入ってくるかわかりません。  

そこでプールの水には、「塩素」が加えられています。正しくは塩素系消毒剤のことで、水に溶けると次亜塩素酸(遊離塩素といいます)を生じる薬品です。塩素系漂白剤の主成分と基本的に同じで、大抵の細菌やウイルスはこれで弱らせることができます。プールサイドにいると、塩素系漂白剤と似た独特のにおいがしますね。  
しかし、プールの塩素で目がしみるとか、皮膚かさかさする、髪が傷むとかいうことがよく知られています。特に、アトピー性皮膚炎の方ではかゆみやかさつきが悪化しやすくなります。そこで、プールでは遊離塩素の濃度を一定の時間ごとに測定し、0.4〜1ppmに保たなければならないことになっています。  
ところで、飲み水からの感染症を防ぐため、水道水にも同様に「塩素」が加えられています。「蛇口を出た時点で遊離塩素が0.1ppm以上」と下限だけ法律に定められていますが、上限に特に厳密な基準はなく*、ひどい所では2ppm近い場合さえあります。  
それでも、水道の水は少なくともプールほど塩素くさくありませんし、皮膚や髪への刺激は起きません。アトピー性皮膚炎もちの水泳選手は悪化を防ぐために、練習後すぐにシャワー室で石鹸と水道水で全身を洗っています。浄水器メーカーいわく「水道水も塩素がプールと同じぐらい」なのに、この違いはどこから出てくるのでしょうか。
*「快適水質項目」には、上限の目標として「残留塩素は結合塩素と遊離塩素の合計で1ppm以下とすることが望ましい」とされています。

プールの塩素がいけないのは、水の汚れに原因が

プールや水道の水に溶けている塩素(残留塩素といいます)には今お話した遊離塩素の他に、結合塩素と呼ばれるものがあります。結合塩素はクロラミンとも呼ばれ、消毒効果は低く遊離塩素の350分の1程度です。しかし遊離塩素に較べ刺激性は強く、アトピー性皮膚炎などの皮膚障害はプールの遊離塩素ではなく結合塩素の濃度と関連性があるとの報告もあります。また、塩素くささやプール室内の機器のさびの原因も主にこの結合塩素です。
結合塩素は、遊離塩素が汗や体の汚れや尿、化粧品や整髪剤、水着に付着している洗剤などが水中に溶けて生じたアンモニア化合物と反応して生じます。  
つまり、たとえ水中に細菌やウイルスがいなくても、水の汚れで「塩素」は消毒効果が落ち、刺激が強くなっていくわけです。また、結合塩素に変われば当然遊離塩素の濃度は低下します。そこで、プールを管理する人はさらに塩素系消毒剤を追加しなければならなくなります。よって、水道とプールは遊離塩素の濃度はほぼ同じでも、有害な結合塩素の濃度はかなり違ってきます。

プールの後のシャワーは、あなたを感染症と塩素の両方から守る

ですから、「水道水も塩素がプールと同じぐらいあるから水道水のシャワーは無意味」というのは多少言いすぎです。プールの後、すぐにきれいな水道水で全身を洗うことは、感染症の対策としても、結合塩素による肌や髪のダメージの対策としても有効です。このとき石鹸やシャンプーを使うとより効果的ですが、洗いすぎると逆に皮膚や髪を傷めることもあります。ただでさえ長く水に浸かっていることで、皮膚も髪もふやけぎみでもろくなっているので特に注意したいもの。石鹸やシャンプーは自分の皮膚や髪に合ったものを選び、洗顔以外での使用は家での入浴のときも含めてできるだけ1日1回にとどめるようにしましょう(できれば、プールの後入浴をすませてしまうといいですね)。皮膚が弱い方や、何度も泳ぐために1日数回石鹸を使わざるを得ない水泳選手などは、特に刺激の低いものを使って、後の肌の保湿もお忘れなく。毎日ではなくても頻繁にプールに通う方はマイシャンプーを持参し、髪のトリートメントも行うとよいでしょう。

プールの前のシャワーもきちんと浴びて、汚れを持ち込まない

プールに入る前のシャワーや腰洗い槽も、感染症と塩素の両方の対策として大切です。水だけでも、しっかり洗えば体の表面に付着した病原体をかなり落とせますので、他人に感染症をうつすリスクも低下します。また、遊離塩素は利用者が持ち込んだ汚れと反応して結合塩素に変わるのですから、汚れをしっかり落とせば管理する人が追加する塩素も少なくて済みます。  
そういう意味からも、水泳を指導する先生や夏休みの学校プール開放の監視をされる方は、プールの前に体をしっかり洗うことを子供たちにしっかり指導していただきたいものです。

水がきれいな時間帯をねらおう

スポーツクラブや市町村のプールを自由に使うのなら、特に塩素に弱い方は、結合塩素が少ない時をねらいましょう。営業して間もない時間帯は、一晩誰も入っていない状態で浄水装置を通った後なのでねらい目です。施設の休みの翌日なら、水の入れ替えも行われていることが多いのでなおグッド。逆に混んでいる時間帯や、小学生以下の子供のスクールの後は避けた方がいいでしょう。

あたまじらみに塩素は効かない

ところで、大部分の感染症は塩素系消毒剤で防ぐことができますが、あたまじらみはウイルスや細菌ではなく虫なので、消毒剤は効きません。駆除には、50℃以上の熱をかけるか、殺虫剤を使う必要があります。また、感染経路もプールの水を介するケースは小さいプールでなければそれほど多くなく、髪の毛が直接触れるとか、タオルやブラシの貸し借りなどが圧倒的です。そこで、専用のパウダーやシャンプーを薬局で購入し、数回使用して駆除します。プールに入る場合は髪の毛をきちんと帽子の中に入れましょう。ブラシやタオルを貸し借りするのは避けるのが無難です。  
また、あたまじらみ以外のものの予防のためにも、プールを管理する方は、更衣室はこまめにそうじして、マットはまめにとりかえるようにして頂きたいものです。タオルや水着や帽子を貸し出している場合は、50℃以上のお湯を使って洗濯し、太陽の光にしっかり当てるか、乾燥機の熱風で乾かすとよいでしょう。