「き、君、オリジナルのロムかディスクは残してるだろう」
助手はぎごちなく笑った。
「きょ、教授は確かに、君が理論を完成させたら自分の名前で売り込むつもりだったろう。で、でも、僕は、君の権利をないがしろにはしないよ。２人で完成させ、連名で発表しよう」
シェリフは、卑屈な笑顔から目を逸らした。
「嫌だね」
「な――」
「貴男はいずれ、売ってしまうだろう。生活に生涯困らないどころか、他の好きな研究もやれるだけの利益が簡単に得られるんだから」
シェリフは上目遣いに、青年を見据えた。
「教授も貴男も、過去に先達が導き出した画期的なエネルギーが何に結びついたか、失念している」
ニトログリセリンのダイナマイト、原子力の核反応――全て、殺戮の道具と成り果てた。
「僕はあの理論を、世の中に出すつもりは無い」
シェリフが断言すると、助手は目を剥いた。
「あの理論を実用化させないなんて、地球規模の損失だっ！ 資源エネルギーは近い将来枯渇する。一日でも早く新たな代替エネルギーを開発すべき――」
「はっ！ そうやって本当に使って欲しい場面に登場するのは、大量に命が消えてからだ。先ず使うのは、新兵器を人体実験してみたい奴等に決まってるっ。わけの解らない新種のエネルギーを買える輩はそんなのばっかりだ！」
「シェリフ、君は視野が固定されてしまってる。僕はそんな方向へ持って行く気は無い。あの理論に大いなる展望を持っているだけだ。頼むからオリジナルを置いていってくれ」
嘆息して、シェリフは一つ首を振った。
「僕は宇宙線を研究しに来たんだ。プロジェクトは終了した。何の話か解らない」
「君は――君は子供だから、何にも解っちゃいないっ」
だっと助手は飛びかかってきた。シェリフはすいと身を引く。青年は机に突進し、椅子を跳ね飛ばした。
「おっ、おとなしく寄越しなさいっ――その鞄の中だねっ！？」
腰を落として突っ込んで来た青年の脇に、シェリフは流れるように移動した。すれ違い様、首の後ろに一撃を加える。げぅっ、と声を洩らし、助手青年は床に倒れ込んだ。
シェリフは、顔をしかめて痺れた片手をひと振りした。自分は肉体労働派ではないと、実感する。
「僕は、ソフトを持ち歩いたことは無いんだ」
「……うう……」
朦朧とした目つきを上げかけたが、青年は失神する。
もう、あの理論はこの中にしか入ってない。
こめかみをつついてから、シェリフはパックを背負った。部屋を引き払う。
空港へ向かいつつ、やれやれ、と歳に似合わない呟きが洩れた。
２年かけてこんな後味の悪い思いをするんだったら、自宅で例のヘッドの、イミテーションを試作してみた方が良かったかもしれない。
僕のクローンも、ソレを作れた別世界の神も、複製は無理だったようだケド。
蒼杜は、関係者の中で最も首飾りの形状を知っている筈だ。シェリフと同じ頭を持っているのなら、イミテーションを作ってみようと思いつかないわけはない。しかしこの２年、こちらに栩麗��那以外の訪れは無い。
恐らく、工具不足か……
故国に到着し、迎えに来ていた自家用車に乗り込んで、シェリフはノートパソコンを開いた。キーボードに指を踊らせ、誘いを受けていた学究機関の全てに、断りのメールを発信する。
……以上、悪しからず御理解下さい。今回の実験研究で私は又ミスを犯し、又、大人へ近づけたようです。今度携わるプロジェクトでも、別のミスを犯すかもしれませんが、その分一回り大きくなれる事を期待して頂きたい。尚、そのプロジェクトに関する一切は、成果が出るまでお尋ねなきよう……
助手はぎごちなく笑った。
「きょ、教授は確かに、君が理論を完成させたら自分の名前で売り込むつもりだったろう。で、でも、僕は、君の権利をないがしろにはしないよ。２人で完成させ、連名で発表しよう」
シェリフは、卑屈な笑顔から目を逸らした。
「嫌だね」
「な――」
「貴男はいずれ、売ってしまうだろう。生活に生涯困らないどころか、他の好きな研究もやれるだけの利益が簡単に得られるんだから」
シェリフは上目遣いに、青年を見据えた。
「教授も貴男も、過去に先達が導き出した画期的なエネルギーが何に結びついたか、失念している」
ニトログリセリンのダイナマイト、原子力の核反応――全て、殺戮の道具と成り果てた。
「僕はあの理論を、世の中に出すつもりは無い」
シェリフが断言すると、助手は目を剥いた。
「あの理論を実用化させないなんて、地球規模の損失だっ！ 資源エネルギーは近い将来枯渇する。一日でも早く新たな代替エネルギーを開発すべき――」
「はっ！ そうやって本当に使って欲しい場面に登場するのは、大量に命が消えてからだ。先ず使うのは、新兵器を人体実験してみたい奴等に決まってるっ。わけの解らない新種のエネルギーを買える輩はそんなのばっかりだ！」
「シェリフ、君は視野が固定されてしまってる。僕はそんな方向へ持って行く気は無い。あの理論に大いなる展望を持っているだけだ。頼むからオリジナルを置いていってくれ」
嘆息して、シェリフは一つ首を振った。
「僕は宇宙線を研究しに来たんだ。プロジェクトは終了した。何の話か解らない」
「君は――君は子供だから、何にも解っちゃいないっ」
だっと助手は飛びかかってきた。シェリフはすいと身を引く。青年は机に突進し、椅子を跳ね飛ばした。
「おっ、おとなしく寄越しなさいっ――その鞄の中だねっ！？」
腰を落として突っ込んで来た青年の脇に、シェリフは流れるように移動した。すれ違い様、首の後ろに一撃を加える。げぅっ、と声を洩らし、助手青年は床に倒れ込んだ。
シェリフは、顔をしかめて痺れた片手をひと振りした。自分は肉体労働派ではないと、実感する。
「僕は、ソフトを持ち歩いたことは無いんだ」
「……うう……」
朦朧とした目つきを上げかけたが、青年は失神する。
もう、あの理論はこの中にしか入ってない。
こめかみをつついてから、シェリフはパックを背負った。部屋を引き払う。
空港へ向かいつつ、やれやれ、と歳に似合わない呟きが洩れた。
２年かけてこんな後味の悪い思いをするんだったら、自宅で例のヘッドの、イミテーションを試作してみた方が良かったかもしれない。
僕のクローンも、ソレを作れた別世界の神も、複製は無理だったようだケド。
蒼杜は、関係者の中で最も首飾りの形状を知っている筈だ。シェリフと同じ頭を持っているのなら、イミテーションを作ってみようと思いつかないわけはない。しかしこの２年、こちらに栩麗��那以外の訪れは無い。
恐らく、工具不足か……
故国に到着し、迎えに来ていた自家用車に乗り込んで、シェリフはノートパソコンを開いた。キーボードに指を踊らせ、誘いを受けていた学究機関の全てに、断りのメールを発信する。
……以上、悪しからず御理解下さい。今回の実験研究で私は又ミスを犯し、又、大人へ近づけたようです。今度携わるプロジェクトでも、別のミスを犯すかもしれませんが、その分一回り大きくなれる事を期待して頂きたい。尚、そのプロジェクトに関する一切は、成果が出るまでお尋ねなきよう……
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