昼過ぎ、琴巳は栩麗��那と�爛織馨討�喫茶�瓩般誕任燭譴振擬爾傍錣拭�タコ焼き１２個と飲み物かデザートがセットで３５０円。メニューはそれだけだが、タコ焼きに種類があり、飲み物やデザートも幾つかバリエーションがある。
ウエイトレスをしている数人の少女達が、隅の方でささめいていた。
「他校生？」
「じゃないかなぁ。見たこと無い顔だよ」
「カワタとかだったらどうする？」
「ちょっとそれってキツいー。あそこ偏差値幾つよ」
「制服可愛くて資料見たことあったんだけどー、４０そこそこ」
えぇー、と押し殺した声があがる。
「でも先輩、見てくれだけで選びそうにないー」
「じゃ、ナギジョ辺り？」
「６５ぐらいだったっけ。それくらい欲しいよね」
「それでもショックー。も少し夢見てたかったよー」
琴巳は、うひゃあ、と内心で悲鳴に似た声をあげる。覚悟できてる、と栩麗��那には虚勢を張ったが、嫉妬を向けられるというのは怖い。ひそひそ話のようでいて琴巳に聞こえてしまうのは、彼女達に聞かせる意図があるからなんだろうか。
低い美声が、訊いてきた。
「そんなに酷いか」
えっ？ と向かいに目をやると、紅茶の色の流麗な眼差しがこちらの手元を見ている。琴巳は手にしていた紙を見やって、生返事をした。
「あ、うん、ちょっと……」
紙は、隣の教室でやっていたコンピュータ占いの結果だ。座ってゆっくり見たいナ、と琴巳が言ったら、じゃ入るか、と少年はこの教室を指したのだ。
栩麗��那は、違う種類を数個ずつ頼んで１２個にしたタコ焼きの１つを、爪楊枝に刺した。
「占いは、天気予報と同じだ」
素っ気無い台詞だったが、うん、と琴巳はえくぼが浮かぶ。そう言いつつ、琴巳が占いを好きな事は否定しない。突き放すかと思うような時に限って、彼は受け入れてくる。
不思議な関係だ。兄妹から抜けかかって、恋人同士のような、そうでないような……ただ、一緒に居ると幸せ。泣かされそうになっても、悔しくなるような言動をされても、それだけは、確か。
さっきの台詞はホントだと思っていいのかな。
『コトミが弁当を作ってくれていれば、俺は差し入れは食べなかったんだ』
琴巳はドキドキしてきて紙に目を落とした。文化祭だから、こういう店で食べると思った。だから昨日、弁当は作らなかったのだが……
お兄ちゃん、わたしのお弁当が好き？ 幸せ。お料理だけは自信持っちゃう――
「これ、変わってる」
美声が告げてきて、琴巳は占いの紙を折りたたみながら見やった。一見、普通のタコ焼きに見える１つを、少年が爪楊枝で示す。
「チーズが入ってるヤツだっけ？」
何気無く尋ねた琴巳に、栩麗��那は爪楊枝に刺すとそのタコ焼きを向けてきた。口を開けたら食べさせるという雰囲気に、琴巳はたちまち顔が熱くなる。実に意外だ、あからさまにイチャイチャして見える事を仕向けてくるなんて。
それは、とーっても嬉しいけど、けど――
普段聡い少年はこの時、傍から見たらかなり熱々に見えてしまう己が行為に、まるで気づかないらしかった。何赤くなってる、と訝しげな口調でのたまう。が、言って、彼は気づいた。
琴巳の顔の方に向いていたタコ焼きが、すうっと下におりる。受け取れ、と言いたげに手の傍に移動した。
琴巳は指先で爪楊枝を持つと、うつむく。その前で、明らかに照れ隠しな仕種で栩麗��那は額に手をあてた。
「コトミの手が塞がってたからだ」
弁解する台詞が紡がれ、琴巳は目を細めた。
彼は、自然に琴巳と居るのだ。そういう意味で、周りを気にしていない。
それって、素敵。
「ありがと」
琴巳が軽くタコ焼きを上げると、栩麗��那はぶっきらぼうに、あぁ、と応じる。
ばたばたばたっ、と壁を隔てて廊下を走る音がした。混じって、女の子の声が複数、大声で流れた。
「ちょっと、ちょっと――聞いて――っ」
「加賀先輩、カノジョ連れてるって！」
やや遠くで、嘘ぉっ、と反応がある。
教室の隅で、ウエイトレスの少女達が、あちゃー、と呟いた。
「こちらにいらっしゃいまーす」
「知らぬが仏ってホントだわぁ」
壁の向こうで会話が続く。
「誰よ、フリーなんて言ったの！」
「昨日、差し入れした時、一人だったのにーっ」
差し入れ相手は後輩サンか、と琴巳は唇をすぼめる。栩麗��那は肩をすくめた。
「野球部のヤマダじゃなかった」
「女子野球部は無いんだ？」
栩麗��那は無表情だったが、こいつめ、と言いたげな目で琴巳を見る。くすくす琴巳が笑っていると、廊下の少女達は、こうなったら今日は自棄食いっ、と叫んだ。
わたしも、わたしも、と口々に言う声が近づき、少女達は琴巳と栩麗��那が居る店に入って来た。ウエイトレスが手で示したのか、入って来た少女５、６人は、次々にこちらを見た。ヤっ――きゃあーっ、と言いながら出て行く。
先刻より声をひそめているが、廊下は響く。
「嘘々、聞かれちゃった！？」
「うわ、もう最悪―っ」
そんな会話をしながら、声が去って行く。
栩麗��那は、のんびりと頬杖をついた。
「公士の土産、どうするんだ」
琴巳は、ホントにテレパシーはできないんでしょうね、と思いながら、答えた。
「お客さんを、５、６人、追いやっちゃったみたいだもん」
あぁ、と言って、異世界の美少年は短く笑った。
「ここで買うか」
ウエイトレスをしている数人の少女達が、隅の方でささめいていた。
「他校生？」
「じゃないかなぁ。見たこと無い顔だよ」
「カワタとかだったらどうする？」
「ちょっとそれってキツいー。あそこ偏差値幾つよ」
「制服可愛くて資料見たことあったんだけどー、４０そこそこ」
えぇー、と押し殺した声があがる。
「でも先輩、見てくれだけで選びそうにないー」
「じゃ、ナギジョ辺り？」
「６５ぐらいだったっけ。それくらい欲しいよね」
「それでもショックー。も少し夢見てたかったよー」
琴巳は、うひゃあ、と内心で悲鳴に似た声をあげる。覚悟できてる、と栩麗��那には虚勢を張ったが、嫉妬を向けられるというのは怖い。ひそひそ話のようでいて琴巳に聞こえてしまうのは、彼女達に聞かせる意図があるからなんだろうか。
低い美声が、訊いてきた。
「そんなに酷いか」
えっ？ と向かいに目をやると、紅茶の色の流麗な眼差しがこちらの手元を見ている。琴巳は手にしていた紙を見やって、生返事をした。
「あ、うん、ちょっと……」
紙は、隣の教室でやっていたコンピュータ占いの結果だ。座ってゆっくり見たいナ、と琴巳が言ったら、じゃ入るか、と少年はこの教室を指したのだ。
栩麗��那は、違う種類を数個ずつ頼んで１２個にしたタコ焼きの１つを、爪楊枝に刺した。
「占いは、天気予報と同じだ」
素っ気無い台詞だったが、うん、と琴巳はえくぼが浮かぶ。そう言いつつ、琴巳が占いを好きな事は否定しない。突き放すかと思うような時に限って、彼は受け入れてくる。
不思議な関係だ。兄妹から抜けかかって、恋人同士のような、そうでないような……ただ、一緒に居ると幸せ。泣かされそうになっても、悔しくなるような言動をされても、それだけは、確か。
さっきの台詞はホントだと思っていいのかな。
『コトミが弁当を作ってくれていれば、俺は差し入れは食べなかったんだ』
琴巳はドキドキしてきて紙に目を落とした。文化祭だから、こういう店で食べると思った。だから昨日、弁当は作らなかったのだが……
お兄ちゃん、わたしのお弁当が好き？ 幸せ。お料理だけは自信持っちゃう――
「これ、変わってる」
美声が告げてきて、琴巳は占いの紙を折りたたみながら見やった。一見、普通のタコ焼きに見える１つを、少年が爪楊枝で示す。
「チーズが入ってるヤツだっけ？」
何気無く尋ねた琴巳に、栩麗��那は爪楊枝に刺すとそのタコ焼きを向けてきた。口を開けたら食べさせるという雰囲気に、琴巳はたちまち顔が熱くなる。実に意外だ、あからさまにイチャイチャして見える事を仕向けてくるなんて。
それは、とーっても嬉しいけど、けど――
普段聡い少年はこの時、傍から見たらかなり熱々に見えてしまう己が行為に、まるで気づかないらしかった。何赤くなってる、と訝しげな口調でのたまう。が、言って、彼は気づいた。
琴巳の顔の方に向いていたタコ焼きが、すうっと下におりる。受け取れ、と言いたげに手の傍に移動した。
琴巳は指先で爪楊枝を持つと、うつむく。その前で、明らかに照れ隠しな仕種で栩麗��那は額に手をあてた。
「コトミの手が塞がってたからだ」
弁解する台詞が紡がれ、琴巳は目を細めた。
彼は、自然に琴巳と居るのだ。そういう意味で、周りを気にしていない。
それって、素敵。
「ありがと」
琴巳が軽くタコ焼きを上げると、栩麗��那はぶっきらぼうに、あぁ、と応じる。
ばたばたばたっ、と壁を隔てて廊下を走る音がした。混じって、女の子の声が複数、大声で流れた。
「ちょっと、ちょっと――聞いて――っ」
「加賀先輩、カノジョ連れてるって！」
やや遠くで、嘘ぉっ、と反応がある。
教室の隅で、ウエイトレスの少女達が、あちゃー、と呟いた。
「こちらにいらっしゃいまーす」
「知らぬが仏ってホントだわぁ」
壁の向こうで会話が続く。
「誰よ、フリーなんて言ったの！」
「昨日、差し入れした時、一人だったのにーっ」
差し入れ相手は後輩サンか、と琴巳は唇をすぼめる。栩麗��那は肩をすくめた。
「野球部のヤマダじゃなかった」
「女子野球部は無いんだ？」
栩麗��那は無表情だったが、こいつめ、と言いたげな目で琴巳を見る。くすくす琴巳が笑っていると、廊下の少女達は、こうなったら今日は自棄食いっ、と叫んだ。
わたしも、わたしも、と口々に言う声が近づき、少女達は琴巳と栩麗��那が居る店に入って来た。ウエイトレスが手で示したのか、入って来た少女５、６人は、次々にこちらを見た。ヤっ――きゃあーっ、と言いながら出て行く。
先刻より声をひそめているが、廊下は響く。
「嘘々、聞かれちゃった！？」
「うわ、もう最悪―っ」
そんな会話をしながら、声が去って行く。
栩麗��那は、のんびりと頬杖をついた。
「公士の土産、どうするんだ」
琴巳は、ホントにテレパシーはできないんでしょうね、と思いながら、答えた。
「お客さんを、５、６人、追いやっちゃったみたいだもん」
あぁ、と言って、異世界の美少年は短く笑った。
「ここで買うか」
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