新刊紹介:我が国の自然放射線線量地図 「全国屋内ラドン濃度マッピング」 「我が国における宇宙線からの線量マッピング」を作成 |
自然放射線は我々が通常受けている放射線のほとんどを占めている。ラドンについては、1977年のICRPの勧告においてあらたな線量概念が導入されて以来、関心が高まり、研究者の数も急激に増加した。我が国においてもラドン研究は高い関心を集め、さまざまな研究が手がけられている。放射線医学総合研究所においてもパッシブラドン測定器を用いた日本全国屋内ラドン濃度調査を1985年に開始した。更に、自然放射線からの被ばくを考えるとき、宇宙線からの被ばくも無視するわけにはいかない。1970年代の我が国の宇宙放射線線量の評価は主として1966年のUNSCEARの報告書に記載されたデータを用いた曖昧なものであった。その後、我が国においても幾つかの測定がなされ、海面レベルでの宇宙線線量率が実測によって確かめられ、また、高度依存性を評価した測定結果も求められるなど、モデル計算結果を検証できる素地が出来上がってきた。一方、中性子成分による線量寄与の評価は、線量寄与の割合が低く、また測定が難しいことから地上での線量評価に用いることのできる測定結果は、大変数が少ない。しかしながら、中性子の放射線荷重係数がICRP Publ.60の勧告により以前の2倍になったこともあり、中性子成分を含めた宇宙線からの線量再評価の必要性が高まっていた。 もともと自然放射線のレベルを把握することは、将来汚染が発生した場合の汚染前の値として放射線安全研究上、重要な役割を果たす。また自然放射線による地域差を見つけ出しその原因を究明するため、あるいは、放射線レベルの地域差を利用して放射線の影響を疫学的見地から検討するために必要とされる。こうした事由を重視し、UNSCEARは自然放射線レベルに関する情報を5〜6年毎に見直し、報告書をまとめている。 屋内ラドン濃度/宇宙線からの線量 報告書 このたび、放医研では日本全国の7,000軒以上にのぼる屋内ラドン濃度調査結果を「全国屋内ラドン濃度マッピング」としてまとめた。この報告書では屋内ラドン濃度の度数分布、屋内構造別ラドン濃度、都道府県別ラドン濃度と共に、平均屋内ラドン濃度測定結果を市町村別の値として数表と地図に示している。これらの結果より国連科学委員会(UNSCEAR)の線量評価モデルに基づいて算術平均から推定された年間線量は、0.59mSvとなり、諸外国に比べても低く、ラドン濃度の高い家屋の割合も大変少ないことが示されている。一方同時に作成した「我が国における宇宙線からの線量マッピング」は、日本全国3,378市町村についてそれぞれの役場の緯度、経度、高度をもとに宇宙線の各成分の寄与を計算したものである。その結果を数表及び地図として示している。我が国の宇宙線線量の平均は35nSv h-1である。宇宙線線量には緯度と高度による変化があり、沖縄から北海道にかけての一般的な緯度効果による線量増加傾向のうえに、高度による線量増加がより強調される形で付け加えられている。従って、県としては長野県が一番宇宙線線量の高い地域に(44nSv h-1)、市町村としては群馬県草津町が一番高い地域(59nSv h-1)になっている。 今回の2つの報告書は、我が国の自然放射線を網羅的に把握する貴重なデータで幅広い利用が期待される。
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