再生ビジョンを説明する今井恵之助社長(右)ら信楽高原鉄道幹部=甲賀市信楽町長野で
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甲賀市信楽町に拠点を置く第三セクター、信楽高原鉄道(SKR)は二十日の取締役会で、来年四月から「上下分離方式」の導入を軸とする再建計画案「再生ビジョン」を決めた。三十日の株主総会に提案する。
再生ビジョンは、SKRが保有する車両や線路、駅施設、土地などの設備を甲賀市にすべて譲渡し、SKRは運行のみに特化する。SKRはこれまでの第一種鉄道事業者から施設を持たない第二種鉄道事業者になり、甲賀市は第三種鉄道事業者になるという内容。
SKRは現在、四十二人の死者を出した一九九一年の鉄道事故の補償に充てるため県と市から借りていた融資約二十一億円の債権放棄を求め、大津簡裁で特定調停中。調停がまとまり次第、市は国土交通省へ鉄道事業再構築実施計画を提出する予定で、再生ビジョンはその骨子となる。
SKRは一九三三年開業の国鉄信楽線を引き継ぐ形で八七年に営業を開始。九一年の事故後は、慢性的な赤字経営に陥っていた。
◆問われる利用促進策
再生ビジョンは「未来へ走る鉄道へ」との副題がつけられているものの、未来が楽観できるものではない。
その一つが、来年度からの十カ年の収支計画だ。少子高齢化の影響で、乗客の減少には歯止めがかからず、二〇一三年度の輸送人員は四十七万四千人と一〇年度の実績四十九万千人から約3・4%減少を予測。二二年度には、一〇年度比約18%ダウンの四十万二千人まで落ち込むとみる。
収入も落ち込み、人件費などの固定費を賄いきれず一九年度には二百万円の経常赤字に転落し、それ以降は徐々に赤字幅が拡大すると予測している。
この赤字を乗客を増やすキャンペーンなどで埋め、黒字を確保するというシナリオが描かれている。
甲賀市の負担も拡大しそう。再生ビジョンでは、線路などほかの鉄道設備に加えて車両も甲賀市への譲渡が盛り込まれ、車両のディーゼル燃料費や二人分の人件費負担が新たに加わった。
その結果、市の負担は一三年度で六千四百万円になる見通しで、これまで高原鉄道への補助金などで負担してきた年間四千万〜五千万円より持ち出し分が増加することになった。
車両や線路などのインフラ部分をすべて市に持ってもらい、自身は運行のみの軽量経営に徹するというのが再生ビジョンの趣旨だが、市に「おんぶに抱っこ」との構図は変わらない。市を挙げて観光客の誘致や鉄道利用促進策を講じなければ、旅客収入の減少に歯止めをかけられず「再生」は絵に描いた餅に終わりかねない。
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