最終更新日: 2006/01/09 (2006/01/14 ちょっと追加)
最近、『ノエイン』の第12話を見ていて、戦闘シーンで「フルアニメーション」が使われていてびっくりしてしまいました。 それで、じゃあ、他のシーンや他のアニメはどうなんだろう?と気になってしまって、最近はコマ送りばっかりやっています。(苦笑)
ちなみに、「フルアニメーション」には、毎秒24コマを1コマづつ全部作画する、という意味と、口パクではなくて体全体を作画するという両方の意味があるようですが、ここでは前者の意味のみを考えています。 日本のアニメは概ね「3コマ(撮り)」(毎秒8枚作画して、1枚につき3コマ撮影)ですが、状況に応じて「2コマ」(毎秒12枚作画して、1枚につき2コマ撮影)やたまに「1コマ」(フルアニメーション)が使われている、というのは聞いて知っている知識です。ディズニーアニメや昔の日本の劇場作品がフルアニメーションである、ということも。
(ここではいわゆる「ヤシガニ」のことは考えないことにします)
こちらがその『ノエイン』のシーンをコマ送りでキャプチャしたものです。1秒間分続けてキャプチャするのはさすがに堪えるので、0.5秒分にしました。 アニメなど、フィルム撮影の伝統の残る分野では毎秒24コマ(24fps)で作画されていますが、NTSCビデオ信号は毎秒30コマ(30fps)なので、放送では5コマに1コマ、重複した画像が入っています。 それを含めて、わかりやすいように作画枚数に数字を振ってみました。 この例では、0.5秒間15コマに12枚の作画が入っていて、フルアニメーションであることがわかります。
フルアニメーションになっている時間は、この前後結構長いのですが、明らかにそれ以外のシーンと「何かが違う」と思わせる動きでした。 『ノエイン』ではディジタル効果が非常にうまく使われているのですが、3DのCGは絵を描くわけではないのでフルアニメーションで動かしているようです。 また、上の絵でもわかるのですが、画面のボカシや振動といった撮影効果が、これも1コマ単位で加えられています。 こういった効果で、通常の3コマや2コマの作画のところでも、非常によく動いている印象がありました。 しかし、このフルアニメーション部分は、それとは一線を画す印象を与えてくれました。
さてそれでは、というわけで最初に見たのは『あずきちゃん』です。(笑)
このように戦闘もアクションも魔法もないアニメでは、さすがにフルアニメーションのところはなさそうでした。 しかし、なんと、あずきの首振りを皮切りに、OPはほとんど2コマで作画されています。また、本編も、走ったり、動きの速いところはかなり2コマ作画になっていることがわかりました。 こちらの「かばんダンス」は0.5秒に6枚、もちろん2コマ作画です(桜の花びらは3コマ)。
しかし、このようなスペシャルな場面だけでなく、何気ない場面でも2コマ作画が多用されています。見かけによらず、贅沢な作品なんだということを改めて認識しました。
作画といえば、『とんがり帽子のメモル』、これほど気合の入った作品はあまりないはず。
いきなり見つけました! OPのこのシーンのメモルがフルアニメーションです。
メモルはフルアニメーションで動いていますが、蝶々は2コマ作画ですね。OPの他のシーンは、主に2コマ〜3コマのようです。 とはいってもメモルのOPは全体に作画がすばらしく、このシーンだけが突出してよく動いている感じはありません。
なお、メモルのDVDをコマ送りして気づいたのですが、30fps化によるコマの重複が出てきません。ですから、0.5秒でぴったり12コマしか出てこないんです。 ということは、DVDは24fps仕様なんでしょうか? 一度DVDプレーヤから出したNTSC信号を他のレコーダで録画すると、ちゃんと30fpsになってコマ重複が発生しています。どうもよくわかりません。
次に、名作劇場シリーズから『わたしのアンネット』を見てみました。ここでも、いきなりOPでフルアニメーションを見つけてしまいました。 このDVDも0.5秒に12コマで、24fpsっぽい仕様です。
メモルといい、このアンネットといい、走っているところを横から見た構図です。手足の動きが大きいこともあるでしょうが、動きが繰り返されて、トータルの作画枚数が少なくて済む、というのもフルアニメーションが採用された理由のような気がします。
ちなみに、OPではもっとアップで走っているシーンがあります。
しかし、こちらは意外にも2コマの作画なんですね。2コマだからといって全く見劣りしていないどころか、こちらの方が迫力を感じさせるのはさすがです。
最後に片渕さんの演出作品を見てみましょう。『名犬ラッシー』のすばらしいOP映像には、もしやフルアニメーションが…と思ったのですが、貨物列車の中から外を見ているシーンがさりげなく1コマで動いているのみでした。 この、ジョンとラッシーが勢いよく駆けてくるシーンも2コマ作画だったのですが、こういったすばらしい動きやカメラワークのアニメーションをコマ送りで見ると、作画の枚数なんてものは最重要なものでないことを思い知らされます。
そして、『アリーテ姫』も見てみましたが、こちらも劇場用で作画がすばらしかった印象の残る作品なのに、フルアニメーション部分は意外に少なく、粘土ろくろ作業 (タイムシート見れます)、魔法のシーンや流星の光に気づいたくらいでした。 そして、他にはこの「金色鷲」の作画が、動きはゆっくりなのにウロコの色の塗り分けが1コマ単位で変わっていて、金属光沢感を醸し出しているんですよ! こうやって並べてみてもわかりにくいですが、これは凄いです。
『ラッシー』『アリーテ』を始めとしていろいろな作品をコマ送りで見てみて、フルアニメーションは単純に偉いというような潜在意識がかなり改革できたような気がしました。 とはいえ、やはり作画枚数は作り手の意欲の現れでもあると思うのです。中身がなくて絵だけよく動くなんてのは論外ですが、内容のあるアニメなら動きも見てみたい。 こんなふうに思うようになってきたのは、自分がだんだんアニメファンになってきた証拠なのかもしれません。(^^;
蛇足として、ディジタルの3D CGではどうなっているかだけ、ちょっと付け足してみたいと思います。
こちらは『おねがい♪マイメロディ』のOPから、音符のCGです。たまたまディスクの中にあったため、ご登場いただきました。 15コマのうち最初の10コマはゆっくりとした動き、最後の5コマは急速な動きなんですが、全く関係なしにフルアニメーションになっています。 もし、手書きだったら、このカットをフルアニメで作画することは絶対にないでしょう。 CGだから、作画枚数が増えても、ほとんど労力が変わらないのですね。むしろ、枚数を減らす方がいろいろ手間が増えるのかも、という気もします。
このOPのCGでない部分は、2コマ〜3コマで作画されています。動きは決して悪くないと思いますが、その中にこういったCGフルアニメーションが入ると、自分はちょっと浮いている感じがしますね。 でも、ポップな作品だから、それもまたよしでしょう。
作品によっては、こういったCGのなめらか過ぎる動きを嫌って、わざわざCGから手書き作画するそうです。 『アリーテ姫』のヘリコプターの作画や、『ノエイン』の遊撃艇の作画 (CG WORLD 2006年1月号参照) は、そうやって作られているらしいです。 『ノエイン』なんてCGバリバリで、得意にしている手法のはずなのに、あえてそういう手間のかかることをやっちゃうのは、大変リスペクトしたいですね。