リーダーという職人

先日、福岡市の要請に応じてベンチャー起業を目指す若者に講演しました。もうこのような講演を断ってきたのですが、妻が福岡の出身なので妻を育ててくれた恩返しに一日をかけて行って参りました。

動機がいい加減ではありますが、開演の数時間前に会場近くの公園に到着し、気持ちの整理をしてみました。人影が疎らな平和な午後の公園を眺めながら、なぜか急に自分の創業初期を思い出して涙が出そうになりました。

そういえば創業最初の数年間はよく一人で公園に行き悩みにふけりました。今思えば些細なことですが、大学院を出たばかりの青年にとって企業のあらゆることが未知のことなので不安との戦いでした。

私自身は社長だからといって偉いと思ったことがありません。なぜならば創業は一人から始めたからです。自分以外は誰も居ないからです。やがて一人目を雇うのですが、社員のいない会社に就職する人だって大変勇気が必要です。彼は行くところがないから仕方がなく私のところに就職したのです。我慢している相手に私が偉い気分になれるわけもありません。

2人目、3人目、30人目の社員を雇っても偉そうになる気分にはなれませんでした。それぞれに給料を払い、それぞれに気持ち良く仕事してもらいたいから気遣いだけでも大変です。ベンチャーなので信用も顧客基盤もないのでどのくらい売れるかの読みは殆どありません。社員を雇うことは賭けに近いのです。

今だから言えますが、エリートコースの教育を歩んできた私から見れば、最初の社員達はそれまでの同級生に居ないタイプの人ばかりです。その彼達を大事にしないと会社が成り立たないので彼らに舐められても我慢するしかありませんでした。一方、外では、同級生達が勤める会社に営業に行きますが、大切なお客様になり得るので精いっぱい気を遣いました。

中でも外でも、本来普通の人生を歩めばここまで頭を下げて気を遣う必要のないことばかりしていました。そんな自分に何がご褒美になるでしょうか。それは日に日に自分の企業が成り立つ成長なのです。

最初の契約をもらった時、先祖にお礼を言いました。注文をくれたお客さんではなかったことを今正直に白状します。それだけ長い時間をかけて祈る気分でやりました。そして製品が業界で有名になって最初の代理店契約を結んだ時、一人で部屋の壁に向かって叫びました。何を叫んだかは忘れましたが、たぶん「お前はよくやったぞ」と自分を褒めたと思います。

信念を持ち、製品と組織を作って自立し続けることがベンチャー企業の最初の難関です。言っておきますが、人さまに助けていただくことがあってもそれは運にすぎず、誰かに頼る気持ちこそベンチャー企業の命取りになります。銀行や行政も当然ですが、先輩も家族も頼ってはなりません。

世の中にいろいろなリーダーが居ますが、私が体験したベンチャー企業社長というリーダーは単なる一つの仕事に過ぎません。外では顧客と株主に気を遣い、中では社員に気を遣う辛い仕事なのです。唯一のご褒美は結果を出す時の達成感なのです。

部下を従わせて肩で風を切りながら闊歩するリーダーを見ていつも思うのです。「この人は苦しい経験をしていない」と。

話を冒頭の講演に戻しますが、来場の方々にベンチャーを起業する心得を3つほど申し上げました。(1)プライドを持たず他人様のやらないことをやる。(2)儲かることよりも自立することをまず目指す。(3)夢を追うよりもまず手頃の目標を確実に実現させる。

リーダーは偉い人ではありません。組織を使って結果を出す職人です。リーダーにとって本当のプライドはただ一つ。それは結果を出すことです。
この記事へのコメント
先月、大阪公演の著書を届きました。ありがとうございます。

今月の話は私を諭すのような内容でした。大変勉強になりました。
一歩一歩、着実に努力します。

新しい話を期待しております。
Posted by 高 宏 at 2012年06月08日 09:18
前回、講演を聴いてから、メールを送りました。アドレスが間違ったかもしれません、再送いたします。

宋さん:今日の講演、ありがとうございます。
お会いできて、握手できて、うれしかったです。会場で質問をしたかったですが、指名されなくて、残念でした。

初めての方の質問で、宋さんが今後、ビジネス界に出る予定もなく、政界に出る予定もなく、好きなことと好きな人とやりたいとおっしゃいました。これは素晴らしいことで、うらやましい限りです。

質問ですが、今後、中国の若者への啓蒙活動、教育活動に携わる予定はありませんか。

97年、27歳の時から留学に来て、7年間大学、修士を出て、社会学、教育学を学び、日本の大学の先生に憧れ、大連に戻り、自分の先生のような教員になりたい、立派な教育を中国に持って行きたいと思って、大学教員になりました。6年間、日本語を学習の動機付けの内容を入れながら、教えてきました。結局、うまくいきませんでした。学生に「先生は日本が好きですか、それとも中国が好きですか」まで聞かれました、とてもショックでした。教育を変えるには一人の力の限界を感じています。

昨年、大阪大学に来て、高齢者心理学の博士課程に進学しました。研究テーマは介護教育で、今後、高齢者事業をやりたい若い人の教育を視野に入れて、学習と研究をしております。それに、ホームヘルパー資格を取って、訪問介護のアルバイトもしています。学費と生活費を稼ぎながら、日本の高齢者サービスの現場の勉強をしています。介護の仕事をしている中、宋さんがおっしゃったように、日本人の労働意識の強さと言いますか、勤勉さと言いますか。介護の現場にいろんな問題を抱えながら、やはり中国ではここまでなかなかできないなとすごく感じています。こういうことを言うと、普通の中国人に怒られるかもしれませんが、中国人は勤勉と知恵の人だとずっと言われました。現状にはそんなに楽観できないかもしれません。

講演の中に、今後、中国国民の素質の向上を期待しているとおっしゃっていました。全く同感です。魯迅先生もこういう風に期待されましたね。

私の夢は、自分の親のような、年金3000元くらいの一般市民も利用できるような養老システムを100カ所作って、運営することです。10年をかけて、やって行きたいと思います。宋さんはこういうところに入る必要がおそらくありませんが、それにしても、ぜひ、応援してください。

長々で申し訳ございません。いつか、またお会いできて、いろんな話を聞かせてください。

ありがとうございます。
Posted by 高 宏 at 2012年06月08日 09:23
今回もほとんどの人はわからないまま、宋さんすごい、お言葉を肝に命じておきます、などとの賛辞が並ぶことでしょう。
起業の動機もやり方も様々です。リーダーを説明するために例としてあげても適切かどうかわかりません。

むしろ、リーダーだから「偉い」という思い込みをはっきり指摘したほうがよくないでしょうか?
私の社会人人生の最初を過ごした会社では「マネージャとは損なのだ。功績は部下のもの。責任はマネージャのもの。それでもミッションを達成せねばならない」と言い聞かされました。
ひるがえって世の中の大半の会社はマネージャやリーダーという地位を与えても、それがどういう意味か説明しないし、そもそも説明できる人間がいないようです。
せっかくのオピニオンリーダーの一人なのですから、もっとはっきりと書いたほうが日本の産業のためになると思いました。
Posted by たかお at 2012年06月08日 09:50
宋さん
いつも楽しみに拝読させていただいております。今日の配信を読み、40年前の自分を思い出し、胸が熱くなり、このコメントを打つのがやっとです。もちろん宋さんの苦労には較べようもありませんが、今日まで多くの人の支えでどうにかやってこれました。素晴らしい創業時の努力の思いを、多くの若者に読んで欲しいと思っております。今後益々のご活躍を期待しております。
           中小企業経営者
Posted by 田中 稔 at 2012年06月08日 09:53
めったに開けないメルマガを今日はなぜか、開きました。公園にたたずむ若き宋さんの姿が自分の姿と重なりました。私も奥様と同じ福岡の出身で、若い頃幾度となく公園のベンチに座り、自然と対話していました。明日の自分のついて。そして、長いサラリーマン生活にピリオドを打ち、55歳でスキンケアブランドを立ち上げました。売り場はネットの中だけです。無謀といわれながらも、これから世界ブランドを作るにはこれしかないとそれこそたった一人の挑戦です。起業家のご褒美は成功すること。そのために全ての雑事は仕事として引き受ける。宋さんの言葉で日頃の疑問がすべて解けました。ありがとうございます。
シニア世代の世界への挑戦です。もしご興味があれば、ご覧ください。http://www.lenajapon.com
Posted by Reiko Kanise at 2012年06月08日 10:40
ご無沙汰しています。
息子のFacebookからの知らせで読みました。

やっぱり宋さんはいいです。
リアルだし、正直で、真摯な姿勢です。

ベンチャー立ち上げている若者にとても参考になったと思います。

拍手喝采です。
Posted by 沼田一博 at 2012年06月08日 11:53
ちょっと追加しまくってご免なさい。読んでもらえないかもしれないけど。

昔の中国は素敵だったから日本は超えようと想い、並ぼうとしました。やがて、利休が生まれた。

でもいまは全く憧れていません。羨ましくないです。

日本の自殺は、沖縄を解決しないと減りません。中国の台頭は嬉しかったけど、やがてアメリカみたいになってしまいそうで切ない。

君が代は生命の讃美歌で恋文です。時代の問いには日本史が答えてくれます。

経済も楽しかったらいいけど、最近はもう沢山。宋さんはその質を変えるために日本にいらしたんじゃないでしょうか。

欧米の艶、中国の知恵、日本の魂。どれも未だに魅力的ですよね。殺す理由なんかもう無いと言いたい。

Posted by 原口 智衣 at 2012年06月08日 12:12
宋さん
先日の福岡ビジネス創造センターでの講演ありがとうございました。
創業時の社員の話に始まり、これまでのご苦労など、様々なことがあったのだと感銘しました。
5年前に実行委員の一員として、福岡ビジネス創造センターの設立に関わった者として、ベンチャー起業家の心構えなど、もっと早く聞けていればよかったなと改めて思いました。

プライドを持たず、人が嫌がってやらないことをする、それでバカにされても耐える心、自分が何者かというしっかりした信念や、価値観を持たなければならないということなど、本当に勉強になりました。

懇親会で自分の過去の経験からのグローバル化の話などさせてもらいましたが、9月からは再度韓国に行って勉強しながら、新たな道に進んでいく予定です。

宋さんのおっしゃった、人に頼らないこと、強い孤独に耐える精神力を持って、新たな道に進んでいこうと思っています。

ありがとうございました。
Posted by 村上久之 at 2012年06月08日 18:25
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