2011年1月19日、去年3月に出た人種差別撤廃委員会の勧告を受けて、反差別国際運動日本委員会(IMADR-JC)のコーディネートにより、法務省、外務省、厚生労働省等々との省庁交渉の場が設定された。私は主に国内人権機関に関する進捗を確認するべく、参加させていただいた。
確認したかった点は、設置に向けたスケジュールと、市民団体と協議する予定(あるいは意向)があるのかどうか、だ。これに関して、法務省からは、「政務三役で検討している段階であり、早期の法案提出を目指したい」というだけだった。また、CERDのフォローアップに関する情報を作成するなかで、NGOと協議の場を設けることを明示してほしいというこちらの要望に対しては、確定的な返事はなかった。
通常国会前の日程だったが、交渉の場には何名かの議員が参加し、特に法務省との交渉時には、前法務大臣政務官だった中村哲治参議院議員が同席された。中村議員は、フォローアップについて現政務官にきちんと伝えておくようにと法務省に言っていたが、後日、要請の申し入れで黒岩法務大臣政務官に面談した際には、あまり把握されていなかった印象だった。
1月に内閣改造がなされ、法務大臣も交代したことを受けて、改めて、国内人権機関と国内防止メカニズム(拷問等防止条約選択議定書)の設置、個人通報制度の実現の二点を、政府、法務省、外務省に要請することになった(要請文、賛同団体は下記参照)。今回は、アムネスティ・インターナショナル日本、監獄人権センター、人権市民会議が呼びかけ団体となり、最終的に25団体の賛同を得て、申し入れを行った。
2月28日に大河原雅子議員(民主党企業団体副委員長)に面談したが、要請は受けるが、党内での議論が進んでいないので、積極的に動く議員を見つけてはどうかというような話に終わってしまった。形式的にお会いしただけということだろう。
気を取り直して、3月10日、黒岩政務官との面談に臨んだ。参加者は、アムネスティから2名と当団体から1名。監獄人権センターからも参加を予定していたが、体調不良のため欠席となった。この日には、申し入れ側も民主党内にNHRIに関するプロジェクトチームができる(=党内に議論の場が整う)ということを知っていたため、その点を中心に状況を確認しつつ、これだけの市民団体が要請しているのだから、きちんと取り組んでほしいという点を改めて伝えることにした。結論としては、簡単に通る課題ではないが、まずは党内、その後に連立政権内、さらには野党との合意を形成することが不可欠だということ、一方で法務省、内閣府、政府とですりあわせをしていくこと、時間枠としては、マニフェストの任期からしてあと2、3年でめどをつける必要があるということだった(特に時間を区切ってはいないとは言っていたが)。
翌11日には、アムネスティ事務局長である若林秀樹さんと一緒に中村哲治参議院議員に面談した。得られた情報として新しいことは何もなかったが、今後も助言や協力をしてほしいと依頼した。
人権市民会議としてこうした動きをすることはもうないが、この課題に関心を持ってくれる団体とも関係ができたこと、動く可能性もあるので、できる範囲で他団体と一緒に今後も関わっていければ、と思う。
私たちは人権に関する法制度を日本国内に確立することを求めるNGOです。日本には、マイノリティゆえに排除される、「区別」と称した差別的な取扱いを受ける、差別的な発言が容認される、経済的事情から人間らしい生活を送ることができず、十分な公的支援も受けられないなど、さまざまな人権侵害が存在します。私たちは、個々の人権が尊重されない社会は変わらなければならないと考えます。個々の人権を尊重する社会にするために、民主党政権に期待していましたが、残念ながら、未だに具体的な人権政策は実現されていないといわざるをえません。新内閣が発足した今こそ、一人ひとりの人権を尊重する社会にするためにあらためて真摯に取り組まれるよう、特に以下の点について要請いたします。
1. 独立した国内人権機関および国内防止メカニズムの創設
日本では、差別や虐待など、さまざまな人権侵害が日常的に起きているにもかかわらず、こうした人権侵害を包括的に救済する権限をもった機関が存在しません。確かに、児童虐待防止法やDV防止法など、特定の人権侵害事案に対処するための法律や制度は存在しますが、そうした法制度は、ごく限られた問題を取り扱うに過ぎないので、未だに多くの被害者が人権を侵害された状態のまま泣き寝入りしています。
こうした現状を改善し、広範な人権侵害を国の責任において救済していくためには、国連のパリ原則に則った、独立した国内人権機関を設立することが不可欠です。また、国内人権機関には、包括的な人権政策を構築するための提言を政府に対して行うという機能も期待されます。このような政策提言機能が活かされれば、複数の省庁が別々に行っている人権に関する政策を統合的かつ実効的に再編・運用することも可能になります。
私たちは、このような役割を果たす国内人権機関の設置に向けて、具体的な行動計画と時間枠を明確にしたうえで、新政権が真摯かつ迅速に取り組まれることを要請します。
さらに、国内人権機関と並び、拷問等禁止条約選択議定書に定める国内防止メカニズム(National Preventive Mechanisms、以下NPMs)を設けることにも、積極的に取り組まれるよう要請します。NPMsは、すべての拘禁場所を予告なしに訪問し、拘禁されている人びとの処遇改善に向けた勧告を行うことができる制度です。そうした機能を持つ機関を独立して設置することもできますし、十分な機能と権限を持つ国内人権機関をNPMsの一つとして指定することもできます。NPMsは、刑務所や入管収容所などの被拘禁施設や精神病院など、人権侵害の温床となりうる閉鎖的施設の状況の改善につながります。
あらゆる人びとの人権が真に尊重される社会を確立するために、私たちは、上に述べた国内人権機関と国内防止メカニズムの双方を早急に実現するよう要請します。
2. 各選択議定書の早期批准
日本は国連人権理事会の理事国であり、6つの人権条約を批准し、2つの条約に加入し、2つの条約に署名をしています。日本が締結した国際条約は国内法としての効力を持つにもかかわらず、裁判で国際人権諸条約の基準が適用される例は多くありません。人権侵害の被害者が求めているのは国際的な人権基準に則った判断です。しかし、現在、そのような判断が裁判所によってなされることはほとんどないため、国内の司法的救済手段を尽くしても、被害者が納得する解決がなされていないのが現状です。
そうした現状を解消し、人権侵害の被害者を実効的に救済するためには、日本でも個人通報制度を利用できるようにする必要があります。個人通報制度が利用できるようになれば、日本の司法判断も国際人権基準を満たすものになっていく可能性があります。その結果、これまで救済されなかったばかりか、その司法判断に納得すらできなかった被害者が、実効的に救済されたり、その判断に納得できるようになると考えられます。
個人通報制度による救済は申立をした個人が救済されるだけであり、原則的には類似の人権侵害の被害者までをも救済するものではありません。しかし、一つの事例が救済されることによって、その後の行政や立法における人権政策に良い影響を与えるはずです。
したがって私たちは、各選択議定書に定める個人通報制度の批准、また個人通報を条約実施機関が審査する権限を認める宣言を行うよう要請します。
要請団体(25団体)
- 社団法人アムネスティ・インターナショナル日本
- 特定非営利活動法人監獄人権センター
- 人権市民会議
- NPO法人女性エンパワーメントセンター福岡
- NGO人権・正義と平和連帯フォーラム福岡
- NPO法人青森ヒューマンライトリカバリ
- (特活)コリアNGOセンター
- 全国フェミニスト議員連盟
- すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク(RINK)
- すぺーすアライズ
- 東京精神医療人権センター
- 石原都知事の女性差別発言を許さず、公人の性差別をなくす会
- アジア女性資料センター
- 日本基督教団西中国教区
- NPO法人ポラリスプロジェクトジャパン
- 「婚外子」差別に謝罪と賠償を求める裁判を支援する会
- 在日無年金問題関東ネットワーク
- シベリア特措法の国籍差別をなくす連絡会議
- 京都精神保健福祉士協会
- 全国「精神病」者集団
- 反差別国際運動日本委員会(IMADR-JC)
- フォーラム平和・人権・環境
- 移住労働者と連帯する全国ネットワーク
- 外国人人権法連絡会
- 外登法の抜本的改正を求める神奈川キリスト者連絡会(略称:神奈川外キ連)