(1)便乗予算/震災名目、支出に疑問符/省庁主導、構想力欠く

20120620_a10.jpg<捕鯨に22億円>
 かつて沿岸捕鯨の基地として栄えた石巻市鮎川港から南へ1万数千キロ。南極海で操業する調査捕鯨船を反捕鯨団体の妨害から守る費用として国は昨年度、22億8400万円の予算を付けた。
 予算の出どころは復興特別会計だ。水産庁は「妨害に屈しない姿が、被災漁民を励ます」(国際課)と意義を強調するが、実際には、費用の大半が船団の燃料代で消える。
 水産庁の説明を同庁OBの小松正之政策大学院大教授(海洋政策論)は「調査捕鯨船の燃料代と被災地の復興は無関係。次元が低すぎて論評にも値しない」と切り捨てる。
 「復興を食い物にするような姑息(こそく)な予算獲得では、調査捕鯨の正当性にまで疑いの目が向けられる」と眉をひそめた。

 国は、復興に要する費用を「10年間で23兆円」と試算し、うち19兆円を前半の5年間に投入する。インフラ復旧、復興交付金のほか、各省庁が担う国直轄事業も多い。
 財源は増税で賄われる。「納税者が納得できる使い道でなければならない」と、被災自治体への復興交付金を大幅カットしたのは復興庁だった。だが、同様の査定基準が各省庁の事業にも適用されているとは言い難い。
 外務省は「再生に取り組む日本への理解を得るため」と、海外から高校生、大学生1万人以上を招待するなどの青少年交流事業(72億円)を企画した。
 文部科学省も、日本への長期留学を検討している外国人150人を2週間招き「国民一丸で復興に向かう様子を肌で感じてもらう」事業に1億3000万円を充てる。
 外務省と文科省は「復興に資する」と主張するが、被災地から見た場合、復興への効果は定かでなく、内容も重複している。

<ハコモノ5割>
 巨額の復興予算に便乗して復興と無関係な事業を推し進めたケースは、1995年の阪神大震災の際にも見られた。
 関西空港2期工事と神戸空港建設は、震災以前に計画され、震災と無関係に事業実施が決まっていたにもかかわらず、復興予算から約1兆円が拠出された。
 兵庫県によると、阪神大震災の復興事業は総額16兆3000億円。このうちハコモノ整備が8兆3400億円で5割を超え、被災者の生活再建や地元企業の事業再開への投資は7兆9600億円にとどまっている。
 再開発ビルが立ち並び、復興のシンボルと称される神戸市長田区では、17年後の今でも商業スペースの半分以上が埋まらない。ことし1月、地権者らは、開発主体となる市の第三セクターを相手に損害賠償を求める訴訟に踏み切った。
 当時、兵庫県知事だった貝原俊民さん(78)は、国の復興構想会議の席上「ハードは戻り、人口も戻った。しかし、街ににぎわいがない。復興特需で被災地に金は入ったが、また全部出て行ってしまった」と復興の失敗を率直に認め、その原因を「官主導の復興の限界」と総括した。

20120620_a10_2.jpg<英知の結集を>
 東日本大震災における各省庁の提案事業を見ても、復興との関連性に疑問符の付く事業は枚挙にいとまがない(表)。いずれも通常予算を充てれば事足りる事業ばかりで「省庁の復興構想力が欠如している証し」と小松教授は指摘する。
 一方で「それでは被災自治体は、提案力を発揮しているだろうか」と問い掛け「東北の幅広い英知を結集し、復興資金の有効な活用法を真剣に模索しなければならない」と訴えている。
  ◇
 巨額の予算を投入して進められる震災復興に、見落としはないだろうか。道路や街並みが再建された先に、暮らしや産業の着実な再生は描けているだろうか。
 10年先、20年先を展望し「復旧」と「復興」の落差を埋める取り組みが欠かせない。被災地起点の広域行政組織「東北再生共同体」の必要性を訴えた河北新報社の提言。その延長線上に、提言は「東北共同復興債による資金調達」と、資金を被災地に行き渡らせる「投資・経営支援のための再生機構設立」のアイデアを打ち出した。
 震災特需はやがて終わる。専門家の提案を交えながら、東北が自立的に被災地の地域経済を支える仕組みを探る。
(東北再生取材班)=第6部は6回続き

写真:津波被害の爪痕が今なお深い鮎川港。被災住民のあずかり知らないところで、捕鯨関連の予算が使われようとしている=8日、石巻市

(2012/06/20)