新防衛大綱(「動的防衛力」)の根本的問題を正せ
新防衛大綱には中国の軍事力拡大に「懸念」を示すと記された〔AFPBB News〕
我が国では、平成22(2010)年12月17日、民主党政権下で初となる新防衛大綱(「平成23年度以降に係わる防衛計画の大綱」)が決定された。その基本となる考え方が、いわゆる「動的防衛力」である。
米国のアジア太平洋あるいは東アジア戦略の展開については、先に述べたところであるが、その動向にも照らしつつ、「動的防衛力」の構築を目指す新防衛大綱の根本的問題について指摘してみたい。
【その1】新防衛大綱は、中国の脅威の増大や同盟国アメリカの戦略変化に対応できるのか?
我が国の防衛大綱は、概ね10年後までを念頭に策定され、5年後または情勢に重要な変化が生じた場合には、必要な修正を行うこととされている。このまま民主党政権が続けば、新大綱は2個の防衛力整備計画(5カ年計画)をカバーして、約10年間はそのまま据え置かれる可能性がある。
一方、同盟国の米国は、大統領による議会提出が義務付けられている国家安全保障戦略を受けて国家防衛戦略を作成し、それを踏まえて「4年ごとの国防計画の見直し(QDR)」を行い、今後20年の安全保障環境を見据えたうえで、国防戦略、戦力構成、戦略近代化計画、国防インフラ、予算計画などに関する方針を明らかにする。
そして今日、中東における対テロ戦に一応の決着をつけた米国は、戦略の重点をアジアへ向けて急転換している。昨年末には、アジア回帰・アジア重視の姿勢を鮮明にするとともに、オーストラリアへの米海兵隊の配置、ミャンマーとの関係改善、東南アジア・インドとの協力強化など、矢継ぎ早に対中戦略態勢の構築に動いている。
「変革の軍隊」といわれる米軍の戦略は常に進化を遂げ、しかもそのテンポはすこぶる速い。
中国は、過去20数年にわたって国防費を毎年概ね二桁の率で伸ばし続け、過去5年間で2倍以上、過去20年間で約18倍の規模に拡大し、急激な速度で軍事力の増強近代化の道を突き進んでいる。
新防衛大綱では、前防衛大綱(「16大綱」)と比較して自衛隊の組織・規模を削減ないしは抑制しており、防衛力の相対的低下は必至である。もし本政策が継続されるとすれば、日中間の防衛力(軍事力)格差は取り返しのつかないレベルにまで拡大しよう。
また、集団的自衛権の問題、沖縄普天間飛行場の代替施設や海兵隊のグアム移転などで「決断できない日本」(ケビン・メア元米国務省日本部長)は、同盟国アメリカの戦略的変化に対応できないばかりか、足手まといになりつつある。
策定されたばかりの防衛大綱は、実情勢の進展に一向に対応できず、すでにその存在意義を失っており、早急な見直しが必要となっているのである。
-
国家の危機管理態勢を建て直すべし! (2012.06.18)
-
増える軍事用ロボット、米軍機の3割は既に無人 (2012.06.13)
-
「防衛産業」がない日本、このまま防衛装備品は作れなくなるのか (2012.06.12)
-
歴史が教える海洋国家・日本への教訓 (2012.06.11)
-
なぜか「侵略的、非行集団」のレッテル、真の役割を知って日本にも「海兵隊」を (2012.06.05)
-
領海警備を巡る政治主導外交の蹉跌 (2012.05.30)
-
陸上自衛官の帽子を作ると他の帽子を作れなくなってしまう理由 (2012.05.29)
-
独立(自由)と平和(相互依存) (2012.05.21)
-
夢見る自衛官の子供たち、「将来は自衛隊!」 (2012.05.17)