<本多勝一の憂刻ニッポン>
小沢一郎(下) アテルイの末裔 だから反骨精神旺盛
週間金曜日 2005年1月21日発売号
――小沢さんはアテルイの末裔だそうですね。その意味では、日本国憲法の一条から八条あたりに対して違和感があるのかと思っていたのですが(笑い)。私も大いに違和感があるので……

小沢 僕らの先祖は一三〇年前の明治維新のときも賊軍の汚名をきせられた。賊軍だから靖国神社にも祀られていない。それにもかかわらず、今も勤王の志を抱いているのだから、たいしたものだ。

先祖はその昔「俘囚」と呼ばれ、大和朝廷に最後まで反抗した。アテルイは一二〇〇年前だ。僕は、末裔として反骨精神が強いと思うが、ものの考え方は論理的、合理的だ。

――ここにきて自衛隊の幹部が自民党の議員に改憲案を指南していた事実が明るみに出るなど、自衛隊の独走が危惧されますが、どうですか。

小沢 心配はいらない。主権者である国民がビシッと自信を持って、まともな政治家を選べばいいんだ。軍人だって憲法について発言してかまわない。国会にも呼べばいい。防衛庁内局、つまり官僚が威張っている状態がシビリアンコントロール(文民統制)だと思われているが、とんでもない。最終的にはすべて政治家が決断する。それがシビリアンコントロールなんだよ。要は、それができる政治家を選ぶことだ。

――そのためには結局選挙で勝つしかない?

小沢 もちろん。選挙で自民党に一票入れておいて、「小沢頑張れ」と言われても困る。少数じゃ、頑張りようがないではないか。

――前回の選挙では数字の上では民主党が伸張しましたけれど。

小沢 次は民主党が勝つ。この傾向は変わらないと思う。

――選挙が終わり、しばらくして世論調査があると支持率が下がりますね。

小沢 いや、支持率はまだ高い。『朝日新聞』では民主党が一七〜一八%で、自民党が二七〜二八%。これだと選挙になったら逆転する。『朝日』を含めてみんな体制派だから、聞かれるとみんな、自民党と答える。僕の後援会ですら、自民党と言っている人がいるんだからね(笑い)。

――私は先日『週刊金曜日』(二〇〇四年九月一〇日号)に、遺伝子の研究によると「日本人の七割は従順型だ」と書きました。

小沢 そう、日本人は圧倒的にお上依存、体制派が多い。みんな支持政党を聞かれると無難な答えをする。僕の地元・岩手県は自民党議員が一人しかいないのに、普段は、自民党の方が支持率が高い。

――小泉首相の靖国参拝、安倍前幹事長をはじめとする参拝擁護発言が目立ちますが、この問題はどのようにお考えですか。

小沢 小泉は総理・総裁になるために靖国参拝を公約しただけだ。だから、批判が出ると靖国神社に行くのは初詣だと平気で言う。ちゃんちゃらおかしい。本当に参拝が信念ならきちんと八月一五日に行けばいい。彼は、靖国問題も領土問題も、日中も日朝も日米も、こういったいい加減さで、主張も、理念も、見識もない。これではアメリカや中国からバカにされても仕方がない。

――そう、事実として彼はバカですからね。靖国神社は戦争責任者のA級戦犯が祀られており、その点が特に問題になっています。

小沢 九月に中国に行って唐家F国務委員と会った際、靖国神社へのA級戦犯合祀問題に話が及んだ。私は「戦争犯罪人」という言葉を受け入れるわけにいかない。戦勝国が敗戦国を一方的に裁いた結果だから。彼らは本来、日本国民がみずから裁くべきだった人たちだ。また、靖国神社は戦場で傷つき倒れた人たちを祀る場所であり、それ以外の理由で死んだ人は、靖国に祀る筋合いではない。だから、政治的責任の結果死に至った人たちについては、どうしても顕彰したければ、乃木神社のように別なものをつくって祀ればいい。

それで僕が唐家F国務委員に、「戦争で倒れた傷兵を弔うことは、どの国でもやっている。それだけなら問題はないだろう」と問うと、「ありません。それはその通りです」と納得していた。

――それは一種スジの通った基準ですね。ところで最後の質問なんですが、岡田代表の対米姿勢にみられるように、自民・公明両党に対して野党第一党として鮮明な対抗軸を打ち出せていませんが、政権交代に向けて今国民に一番アピールすべきことはなんですか。とりわけ与党との対立点・対抗点といいますか……

小沢 自公政権は、戦後体制の延長にすぎない。我々は戦後の自民党政治の権力構造、つまり官僚中心の権力癒着構造の打破を主張してきた。そうである以上、根本問題にメスを入れて世直ししなければ、我が党の存在意義はない。その点を曖昧にしたままなら自民党と同じだ。国民にわかりやすい明確な結論を、党内論議を経て早く出すことが急務だ。

――いま現実に政権を自公から奪える一番手が民主党だと思います。きょう話を伺って、党首は小沢さんが一番適任ではないかと思いました。

小沢 いやーぁ、そうとは言えない。非合理的な曖昧さが通用する国民性では、僕のような理念や政策論だけでは選挙で多数は獲れない。政権を獲るには三〇〇〇万票が必要だ。世の中が急迫してくれば、ハンドルの遊びがなくなるから、みんな切実な思いで政策論に目を向けるが、いまはまだ飽食の時代の延長だから、遊びの部分が多い。その部分の票も獲らないと過半数にならない。

僕で勝てるなら逃げませんよ。次の総選挙が政治生活の総決算だと思っているから、必ず勝たなければならない。私情はまったく抜きにして、僕で獲れるなら多少無理をしてもやるし、そうでないなら、ほかの手段を考える。

    ――九月の『朝日新聞』のインタビューでもそのようなことを言われていますね。「実際に国民生活にかぶってくるような事態にならないと僕がでる必要がない」。しかし続いて「僕(小沢さん自身)にとっても時間がない。最後の機会と思うから」と。それで次の総選挙でと言われていますが、これはぜひ自民党政権を倒せる日が近く来ることを願っています。

小沢 絶対に倒す。絶対にだよ。

――来年(二〇〇五年)解散はありますか。

小沢 解散の前に政変があるだろう。小泉さんが辞めるときだよ、政変は。小泉さんは人気がなくなれば辞めるしかないだろう。

――その時点で解散ではないか?

小沢 人気がなくなったときは解散なんかできるはずがない。来年中には小泉政権が倒れる可能性があるとみている。あの政権は、なにか一発起きたら終わりだ。

――総選挙はあるんですか。

小沢 ない。だが、民主党が政権を獲れば総選挙だ。今のままでは少数で政権を獲ることになるからだ。

――政変は起きるけれども……。

小沢 自民党はクビをすげかえて政権を維持する。選挙をやったら負けるからだ。しかし、傾向的には次の総選挙で政権交代が実現する。

二〇〇四年一二月七日、小沢一郎事務所で

インタビューを終えて

正直な話、かなり基本的な認識で小沢氏と共通するとは意外だった。現役記者のころ {政界} を担当なり取材なりしたことがないので知らなかっただけかもしれないが、論理の一貫性でも明晰な頭脳が感じられ、小泉首相のような馬鹿とは桁が違う。もし政治家としての対世間上の計算や遠慮がなければ、もっと純粋にスジのとおった言動をしたい人ではないかと思う。

「国民が自信を持って、まともな政治家を選べばいいんだ」というあたりにこの政治家のすべてがかかっているのだろう。どの国であれ、まともな政治家を選べるかどうかは、最終的には「国民」の民度の問題にならざるをえない。

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