記されなかった使い魔 その十三
本気で走ったサイトは戦闘機も目じゃない音速を超えたスピードで一時間後には港町についていた。
肩に背負ったギーシュを降ろすと、なんかピンク色の泡を吹いて半死半生になっている。
なぜと思うサイトだったが、ちょうどそのときギーシュの心臓が止まった。
肩に背負ったギーシュを降ろすと、なんかピンク色の泡を吹いて半死半生になっている。
なぜと思うサイトだったが、ちょうどそのときギーシュの心臓が止まった。
あれもしかして死んだ?そう思う。
ぶっと噴き出したサイトは急いでギーシュの心臓に一撃入れて蘇生を試みた。
マウストゥマウスが必要な場面だがサイトの誇りに欠けてそれだけは断固として拒否したい。
一撃、二撃なんとか蘇生したギーシュだったが、もはやその命は風前の灯である。
これはまずい。
任務が本格的に開始する前から仲間の命が失われようとしている。
なぜギーシュが死にかけているかサイトにはさっぱりわからないが、こんな序盤で理由も分からずギーシュを失うのはサイトの責任問題になりそうで嫌だった。
それにギーシュとはなんだかんだ言って友達になれそうな気がしたので助けてやることにする。
懐をガサゴソ漁って薬瓶を取り出す。
サイトが今回の任務に役立つかなと持ってきたエルフの秘薬である。
サーシャ直伝の製法で作りだされたそれはギリギリ死んでないならどんなケガだってたちどころに治す神秘の秘薬である。
サイトはそれを躊躇なくギーシュに振りかけた。
薬は問題なくその効力を発揮する。
今にも死にそうな死相が浮いていたギーシュの顔が穏やかに変化する。
心臓がドクンドクンと生者の音を取り戻す。
バキバキと音を立てて粉砕されていた骨がより強靭な骨へと再生していき、それだけにはとどまらずギーシュの貧相だった筋肉が少し盛り上がり、腹筋が割れていく。
加えてほんの少しだけギーシュの魔法を使う力もレベルUPしただろう。
これはそういう薬だった。
はっきり言ってエリクサーと呼んでもいいほどの効能をもつ薬である。
だが、男が嫌いなサイトが男であるギーシュに簡単に使ってもよいと思う理由がこの薬にはあった。
副作用である。
この薬を飲むとサイト風に言えばあっぱらぱーになってしまうか、どこかが壊れる。
あっぱらぱーの場合、ちょっとお馬鹿になるというレベルではなく、かなり馬鹿になる。
壊れる場合はサイトには予想がつかない、身体的な意味ではなく精神的な意味だからだ。
サーシャが言うにはなかなか楽しい壊れ方らしいが、ほとんどの場合馬鹿になるということなので気にしても仕方がないだろう。
まぁ、ほんの数日の期間だけの話だから問題ない。
任務の間、ギーシュが馬鹿になってたってもともと役立たずに近いんだから何の問題もない。
それにサイトが知るギーシュは考えるまでもなく普段から馬鹿だった。
そんな風に考えていたサイトの横でばね仕掛けのようにギーシュが直立不動した。
あっけにとられるサイトを後目に鋭い鷹の眼で裏通りにのほうにある路地裏を見つめた。
「助けを求める幼女の声がする……」
まじめな顔でそんなことをいうギーシュを見てサイトは薬を飲ませたことを心底後悔した。
副作用でロリコンになるなんてどんなだよ?
今回の任務はロリコン二人と同行することになった。
正直嫌だ、もうすでにやる気がなくなってきたサイトである。
しかし、やらないわけにはいかないし、ギーシュの言が本当なら、見捨てるわけにも行かずサイトは鼻をクンカクンカさせながら先を行くギーシュの後から他人のふりをしつつ、ついていくのだった。
サイトたちが奥に進むと驚いたことに本当に何やら争いあう声が聞こえてきた。
さすがロリコンになったギーシュ、幼女の声を聞き逃すわけもない。
そんなところがかなり気持ち悪い。
「サイト、僕に助けを求める幼女がこの先で危険な目にあってる、急がなければ!」
無駄に熱血しているギーシュには悪いがサイトは幼女には興味なかった。
隣のロリコンの意気込む様子を見ているとテンションも下がる。
そこに悲痛な悲鳴が聞こえた。
「ごめんなさい、その子に代わって私が謝りますからどうか許してください」
その声は鈴の音がなるような清涼な声だった。
サイトの頭をドロドロにとろかすようなその魅力的な声はあきらかに同年代の少女の声だ。
俄然サイトも張り切ってしまう。
こうなると妙なテンションのギーシュが同士のように思えるから不思議である。
「行くぞ、ギーシュ!」
「あぁ、サイト」
二人は肩を並べて疾風のように駆けた。
路地裏の狭い通路を何度かまがった先、すこし開けた行き止まりで数人の男が子供とフードを被った人物を囲んでいるのが見える。
子供は顔を殴られたのか頬が腫れていて唇から血を流していた。
幼い子供への仕打ちにさすがのサイトも激昂したが、それ以上にギーシュの怒りがすさまじかった。
「貴様ら、幼女に対する狼藉はこのギーシュが断じて許さんぞ!」
杖を振ってお得意のゴーレムを出現させる。
その数、ちょうど10体、薬の効果が出ている。
しかし、そのゴーレムが以前見た美しき戦乙女の姿から、大きめの鎧を着た少し背伸びをして大人の格好をしていますという感じの幼女になっているのには脱力してしまう。
「行きたまえ、僕のワルキューレたち!」
そうギーシュが叫ぶとワルキューレは剣や槍、弓といった各々の武器を使って攻撃を始めた。
それを男たちが懐から杖を出して迎撃する。
どやら全部メイジらしい。
炎が走り、風が舞って、土石が放たれた。
ギーシュのワルキューレはギーシュの壁になって彼を守り、獅子奮迅の活躍を見せ始める。
明らかに魔法使いとしてはドットからようやくラインレベルであったギーシュの力だが向上を見せていた。
おそらくサイトが使ったエルフの秘薬だけのせいではなく、彼自身の努力の結果でもあるのだろう。
サイトとの決闘は彼のためになったようだ、これなら任せられる。
サイトは男たちに牽制をギーシュに任せて、神速の踏み込みで子供とフードの人物を確保して、後ろに下がった。
折角頑張って助けようとしているのだから怪我をされてもつまらない。
二人の人物を抱えてふわりと着地するサイト、その拍子にフードの人物のフードが外れる。
その人物を横目で見てサイトは驚いた。
懐かしいと素直に思う。
その人物はサイトの愛しい母親にして初恋の女性であるサーシャと同じ特徴を持っていた。
長い耳はエルフの血が流れる証。
神秘的な普通の人間ではありえないほどの美貌もまたその証だ。
そして、サイトはそのままその肢体を確認して目を見張った。
長いローブに隠れてその詳細は分からないが、この子、サイトが見たことがないほどの巨乳である。
ローブで隠れているのにその肢体の華奢さがわかるほど細いのに、胸のふくらみはまさに胸革命。
英語でいえばバストレヴォリューション。
一人だけ人の進化の先を言っているような神の乳をサイトはそこに見た。
英語でいえばバストオブゴッデスである。
え、マジで?
こんな胸ありえるの?
ありえるのである!
今目の前に存在している者こそが真実だ。
あぁ、このおっぱいが存在することをおっぱい神に感謝しなければなるまい。
敬虔におっぱい神に祈るサイトに、おっぱい神が語りかけた。
――敬虔なる信徒サイトよ、今汝にありがたきお告げを告げよう!魂に刻むがいい!大きいのはいいことなのだ!大きいおっぱいが好きなのは母性にあこがれるからだとかいう建前は関係ない、ただおっきいだけでおっぱいは偉大なのだと!――
あぁ、曇った眼が晴れ渡るのを実感した。
今、サイトは真の巨乳好きとして開眼したのである。
そんな風に戦闘中であるのに目が胸にくぎ付けになってしまっていたサイトだったが、何やらおかしなことになっているのに気づいた。
戦闘がいつの間にやら止んでいる。
あたりを見回すとサイト以上の驚愕の目でエルフの女の子を男たちやギーシュでさえも見ていた。
そうかそうか君たちもこの乳の良さがわかるか、でもこれは俺のもんだと啖呵を切ろうとしたサイトを前に、男たちは何かに恐怖するように後退った。
口々に恐怖の色をにじませながらつぶやく。
「エルフだ……」
「こんなところにエルフがいる」
男たちは怯えながら杖を突きだす。
ギーシュでさえも自身の周りにワルキューレを配置しなおし、男たちからでなく明らかに少女から自身の身を守ろうとしていた。
少女はその周りの反応にハッと気づいたような顔をして急いでローブを被り直した。
しかし、すでにそれは遅かった。
男たちの怯えが自身を危機から守ろうとするように少女の排斥へと移ろう。
「殺せ!ハルケギニアの悪魔、エルフを殺すんだ!」
「われらレコン・キスタ の怨敵を打ち殺せ!」
口々に怨嗟の声を上げながら少女へと魔法を放つ。
少女はそれに対抗しようと自らも杖を取り出し魔法を唱えていたが、一足遅かった。
数人の男たちが一斉に放った魔法がサイトと子供と少女を飲み込もうとしたその時、サイトが背中からデルフリンガーを抜き放って言った。
「食らい尽くせ、デルフ」
「おうよ、相棒!」
デルフリンガーが秘めたる力を開花させる。
左手ではガンダールブのルーンが裏路地に太陽を出現させたように輝いていた。
その光がデルフリンガーにも瞬時に伝わって一層にデルフを輝かせる。
そしてブラックホールがすべてを飲み干すように放たれた魔法をすべて飲み干した。
「まじぃい、魔法だね~。っていうか俺様、こんなことできたんだ?」
「お前はそれがなかったらただのしゃべる剣だろうに?」
どうやらデルフは昔の姿を思い出したわけではないらしい。
「ひでぇ~の、相棒」
それでもサイトの期待にこたえてくれたのは本来の姿を思い出しつつあるのか、それともガンダールブのルーンのおかげなのか?
どちらにせよ今はそんなことを考えている時ではなかった。
自分たちが放った魔法が一瞬で消滅し、あっけにとられている男たちに向かってサイトが言った。
「エルフの文句は俺に言え!」
サイトは別段エルフという種族自身を好いているわけではない。
サイトが好きなのはあくまでサーシャで、耳が長いというエルフ属性はカレーライスに乗ったハンバーグのようなものである。
いや、エルフがみな美系であるというのはかなりポイントが高いか?
でも美系な男なんてむかつくだけだからプラマイゼロか?
いやいや、話がそれた。
サイトはサーシャがエルフでありエルフであることに誇りを持っていたことを知っているから、エルフだからといって殺そうとしたり罵声を浴びせかけられるといったことを見逃すつもりはなかった。
「貴様らがエルフの何を知っている?俺のハルケギニアでにの母親はエルフだが、めっちゃくちゃいい人だったぞ?この子が何をしたか知らないが、エルフだからなんて理由でこの子を殺そうとするなんて、なんてもっ……いやいや、おっぱ……いやいや、お天道様が許しても、この平賀サイトが断じて許さん!」
デルフがあいの手を入れる。
「かっこいいね~相棒!」
「ふっ、惚れるなよ!」
それを見ていた男たちが何をわけのわからんことをと口々に異を唱えだす。
「エルフをかばいだてするなど始祖の教えを踏みにじる行為!」
「それにエルフの母親だと?こいつは悪魔の子だ!」
「ここで殺さなければこちらがやられる、みな全力でやっちまえ!」
口ぐちに魔法を唱えだす男たちを見てサイトは嘆息した。
デルフを肩に背負い直す。
「おい、相棒、なんで俺をつかわね~?俺も殴ってやりたいぞ!」
サイトは影の残る微笑をしながらデルフに言う。
「あの技の封印を解く!」
「まさかあのブリミルとヴィダールブに口をそろえて禁止を懇願されたあの技か?」
「そうだ、お前を使っていいのか?」
「嫌だよ、相棒。ぜって~にヤダ!」
「懸命だ」
サイトはそう言いながら呪文の詠唱の終わりを待つことなく男たちの間合いへと踏み込んだ。
こほぉーと息吹をさせつつ、腰だめに構えて封印された技を叫ぶ。
「金玉破砕脚エンド珍棒ちょん切り拳」
説明しよう!
金玉破砕脚とは文字通り、男の大事な部分をサイトが粉砕させるつもりでけり上げる、男ならだれでも痛みを共有できる極悪技である。
その痛みは泡を吹いて股間から脳天につきあがる痛みに声も出せなくなる。
しかもつぶれてしまうので役に立たなくなり、にゅーなハーフの仲間いりをめでたくできるようになるという男の尊厳を文字通り蹴りつぶす技である。
そして珍棒ちょんぎり拳とはサイトの神速の手刀でもって男のシンボルを文字どおりに切り飛ばしてしまうこちらも極悪な技である。
男であることができなくなるのは金玉破砕脚と同様である。
勝負は一瞬でついていた。
「またつまらぬものを潰して切ってしまった……」
死屍累々、泡を吹いて倒れる玉無し棒なしたちの真ん中で一人サイトは勝利の無常を噛み締める。
そういつだってこの技はサイトを憂鬱にさせる、そう男は誰だってあの痛みを共有できるのだ。
それは技を繰り出したサイトだって同様で、技の直後は微妙に内またになってしまう。
ギーシュを見やれば顔を青くして股間を押さえていた。
ふっ、今はサイトの仲間であったことと決闘のときにこの技を封印していたことの幸運に感謝するがいい。
サイトは拳についた血を懐から出したハンカチでぬぐった後、少女に向かって手を差し伸べた。
「大丈夫だった?」
キラリンと歯を光らせつつ言うサイトだったが、ここで普通の女の子ならサイトが起こした惨劇に怯えて恐怖で一目散に逃げただろう。
だが少女は普通ではなかった。
彼女は家族以外に自身を肯定してくれる存在を一切持たない特殊な事情の少女だった。
生まれながらの境遇で迫害され続けてきた少女は、今ようやく出会ったのである。
自分がエルフであるというのに恐れず怖がることがない同年代の少年に。
それどころかエルフの文句は俺に言えなんていうこのハルケギニアの社会の中においてそうとう破天荒な物言いをする規格外の虚無の最狂の使い魔に。
少女にはサイトがようやく出会えた運命の人のように感じられた。
これがティファニア・ウエストウッドと平賀サイトの出会いであった。
記されなかった使い魔 その十三
「へぇ~、ティファニアって言うんだ?」
サイトは頬を染めながら自己紹介したティファニアを見つつそう言った。
エルフであることをどうやら隠している彼女に配慮してそれなりの宿をとったサイトは少女と二人で話していた。
どうせルイズとワルドが来ればもう一部屋必要なので二部屋とって、もう一つの部屋のほうでギーシュに子供の世話を頼んだ。
ロリコンになっているギーシュに幼女を任せるのはかなり不安だが、ティファニアとの会話を邪魔されてもつまらない。
ここは幼女に泣いてもらうことにした。
すまない、名も知れぬ幼女よ!
大丈夫!
助けを呼べば気づく間もなくギーシュの首と胴体は泣き別れになっているから君の身は安全だ!
「うん、あの出来ればティファって呼んで?」
そう言いつつ、はにかむ少女は本気で妖精のようだった。
助けたせいか知らないがめちゃくちゃに好印象である。
椅子に座るサイトをベットに腰掛けながらチラチラと見る少女は、正直サイトに惚れてるんじゃないか?と勘違いしても仕方がないほどかわいく見えてサイトはもうドキドキしっぱなしだった。
「あのね、あのね聞いてもいいかな?」
手を胸の前で組んでお願いするのはやめてくれ!
神の乳が強調されてサイトの理性を引きちぎろうとしてくる。
リミットブレイクはもうすぐだった。
しかし、こんなお願いの仕方をされて巨乳美少女のお願いを断ったらそれはサイトじゃなかった。
「どうぞ、どうぞ」
「サイトは、私と同じハーフエルフ?」
僕お耳とがってませんし、いいたかないが美系じゃありませんよ?
ティファが何の意図を持ってそんなことを聞いたのかさっぱりわからないが、サイトは正直に答えた。
「いや、俺は人間だけど?」
「ぇ、でもお母さんがエルフだって……」
あぁなるほど、そういうことかとサイトは納得した。
そしてティファニアの好意の理由もおおむね理解した。
さっきのことからもわかるが今のハルケギニアの人間社会ではエルフは明確な敵として認識されている。
ゆえにハーフエルフだという目の前の少女は迫害されてきたのだろう。
そういったことを往々にして良くおこることなのだ。
ハーフであるということは憎むべき種族の血を両方引いているということで、両方からうとまれることもあるだろう。
彼女は長い間孤独だッたのかもしれない。
だからサイトも同じハーフエルフだと思って親近感を持っているのだ。
このまま嘘をついてしまえば彼女と簡単に仲良くなれるのだろうけれど、サイトはサーシャのことで嘘をつくことはどうしてもできなかった。
「俺はねティファ、三年間ほどエルフのサーシャさんに育てられたんだ。サーシャさんは生みの親と同じぐらい俺のことを愛してくれたよ」
「そうなんだ……だからサイトは私のことを怖がらないんだね?」
ティファが納得したような顔をしたが、それは間違いである。
「い~や?ティファ見たいな美人の女の子を怖がる理由なんてそもそもないよ?」
「美人だなんて私はハーフエルフだから……みんなこの耳が怖いって言うし」
そう呟いて悲しそうにティファは下を向いた。
小動物のように悲しみで震える様は、痛々しかった。
「なんでかわいいじゃないか?サーシャさんなんかその耳こそチャームポイントだって言ってたぜ?少なくとも俺はティファをかわいく思うけど?」
正直その耳をふもふもしてみたいサイトである。
あれでサーシャはガードが固かったので、数えるほどしかあの耳は触れなかったのだ。
サイトの言葉を聞いたティファが唖然として、次いでうれしそうにして、最後には赤面するという七面相を見せてくれる。
純粋な子である。
かわいいなぁ~、サイトが思わず声に出してしまうと一層真っ赤になって縮こまってしまった。
それでも真っ赤になりながら上目づかいの笑顔でティファはお礼を言った。
「サイト……ありがとう」
サイトはその可憐な笑顔にズキューーンと心臓を打ち抜かれながら、どういいたしましてとかろうじて笑顔をかえした。
それからサイトはなぜティファがあんな風に男たちに囲まれていたかを聞きだした。
どうやらティファは姉を訪ねてトリステインに向かう途中らしい。
詳しく尋ねてみると次のような理由だった。
何やらティファが住んでいる村の近くで夜盗が略奪をするようになったそうだ。
今は戦争の終わりに近い時期であり、確かにそういったことが起こってもおかしくない時だった。
火事場泥棒を狙う夜盗たちが戦場の異様な高揚感を理由にむちゃくちゃをしても不思議じゃない時である。
普段ならティファの魔法で追い返すこともできたのだが、ある時、二手に分かれた襲撃がありティファニアが守れなかったほうからの襲撃で子供たちが大怪我をしたそうだ。
その夜盗はレコン・キスタの物資に手を出したようでレコン・キスタの兵隊に撃滅された。
そうしてめでたしめでたしとなれば話は終わるのだが、現実はそうはいかない。
ティファには大怪我をした子供たちという現実が残った。
自然治癒が見込めるこも多かったが、中には水の秘薬が必要な重症の子供もいて、姉から送られていた仕送りのほとんどをその秘薬につぎ込みなんとか子供は持ち直したらしい。
しかし、以前容体は予断を許さない状況であり、まだまだ水の秘薬が必要らしい。
ここにきてティファは決断を迫られた。
このまま村に残ってゆっくりと死にゆく子供を見守るか、自身がハーフエルフであることを隠しながらトリステインにいる姉のもとまで行って助けを求めるか。
後者を選んだのはティファがここにいることから見てわかることなのだが、ここでティファに誤算が生じた。
ティファを心配した少女が一人ティファの後をついてきたそうだ。
そして、お決まりのように子供が貴族にぶつかって、おまけに運悪くそいつらがトリステインに侵入していたレコン・キスタで侵入作戦という緊張感ある任務にイライラしていた貴族が憂さ晴らしに彼女らをあの路地裏に問答無用で連れ込んだということだったらしい。
危ない、危ない。
あのクソやろーども路地裏なんてところにこんな美少女を連れ込んで何するつもりだったのか?
ギーシュが気づいてくれなければサイトは一生後悔するところだった。
こんどギーシュに何か奢ってやろうと思うサイトである。
「そうか……大変だったな」
「うん」
そう言って子供のことを思い出したのか顔を曇らせたティファは膝の上でギュと拳を握った。
本音では子供にずっと付いていたかったのだろう。
優しい少女である。
こんなかわいい巨乳少女の助けをしなければ、おっぱい戦士サイトの名折れである。
サイトは自分がティファに出来ることについて考えた。
一番いいのはお金を援助してあげるか、サイト自身で水の秘薬を買ってあげることなのだが、悲しいことにサイト自身借金をしている身だ、金はない。
次に考えたのはサイトが作ったエルフの秘薬で子供を治してあげるというものだ。
だがさすがに将来ある子供にギーシュに使った秘薬を使うわけにもゆくまい。
大抵の薬に言えることだがほかの薬と併用して、どんな副作用を併発してしまうか予測もつかないからなおさら使えない。
副作用のない秘薬もあるのだが、それを作るには珍しい材料が沢山必要で、金がない今のサイトには無理だ。
ならばティファと子供をその姉がいるところまで送ってやるというのはどうだろうか?
これもダメだった。
サイトは今、任務中だ。
さすがにアンリエッタの頼みを途中で投げ出すわけにもいくまい。
彼女もゲルマニア皇帝と婚約することになるとはいえ、一応今はフリーの巨乳美少女だ。
サイトはなるべく力になってやりたいと思っている。
助けたそのあとにすぐに出ていればなんとかなったかもしれないが、すでに会話していて結構な時間がたっている、このまま送っていけばルイズたちが到着するころまでに帰ってこれないだろう。
本気で走ればそんなこともないのだが、彼女たちをギーシュのように粉砕骨折させるわけにはいかない。
普通の人間は音の壁にはかなわないのだ。
サイトがうにゅにゅと唸りだすと、ティファニアはどうしたのと心配そうに尋ねてきた。
「いや、俺も何か助けになってあげたいな、と思うんだけどなかなかできることがなくて……」
「いいんだよ、サイト?初対面なのにそんな風に心配してくれるだけで私は本当にうれしいから」
そう言ってサイトの手を取った彼女は嬉しそうに笑った。
柔らかい細い指先がサイトの武骨な手を優しく握りしめ感謝の念を伝えてくる。
なんなのこの理想の少女?
サイトは戦慄した。
美貌の少女で、性格はかわいくて、体は神の乳がついてて、エルフ耳もついてて、極め付けにサイトに最初から好印象。
サイトの理想を形にしたような少女である。
何かの罠じゃないのか?
夢落ちするんじゃなかろうな?
そうサイトが警戒してしまっても無理がないほどに目の前の少女はファンタジーだった。
「でも本当にサイトが何かしてくれるなら一つだけお願いを聞いてほしいな?」
なんでも聞きましょう。
あなたの可愛さにはもう脱帽です。
「あのね、友達になってくれる?」
あぁもうかわいいな、コン畜生!
もうどうにでもしてくれ!
友達どころか恋人だって、使い魔だって、それこそ結婚してもいいですよ?
「もちろん」
そうサイトが答えるとティファは満面の笑みで笑った。
「ありがとう、サイト!」
ティファニアはサイトに連絡先を教えて、トリスタニアへと旅立っていった。
子供たちが心配なのだろう、早くおねいさんに会えるようサイトは願った。
そういえばおねいさんの住んでいる場所などを聞くのを忘れたサイトである。
あまりにもティファがかわいすぎて他のことは考えられなかったのである。
それにちょっと見たくもない光景が横で繰り広げられていたのもそれを聞き逃した原因かもしれなかった。
「タニア、タニア、タニア~~~~~!いつか迎えに行くからね!」
「バイバイ、ギーシュおにいちゃ~~ん、私ずっと待ってるから!」
ギーシュと別れを惜しむ幼女がいた。
どうやらギーシュはロリータキラーだったらしい。
なんか結婚の約束っぽいっことをしていた。
別れた直後くらいにようやく薬の副作用から正気に戻ったらしく、大変なことしてしまったと顔を青くしていた。
さすがにサイトも悪いことをしたかとおもったが、
「ごめんよ、モンモランシー。でも側室の一人や二人ぐらい認めてくれるよね?」
なんてことをぶつぶつ言っていたので別にかまわないのだろう。
もともとそっちの気もあったようだ。
難儀な男である。
ここにまたロリコンというサイトたちおっぱい戦士の敵が爆誕した。
さすがに大きい乳から小さい乳まで愛せる節操なしである。
ティファとの別れは簡単なものだったが、必ず会いに来てねとサイトはティファに念を押された。
この任務が終わったら、必ず彼女のところに遊びに行こうとサイトは誓った。
最初からこんな巨乳美少女とお近づきになれるなんて、なんて幸先がいいのだろう。
この任務はこれからもいいことが起こりそうな気がするサイトである。
それから取ってあった宿で酒を飲みながらのんべんだらりとギーシュと過ごしたサイトは、夜半になってようやく到着したルイズたちを迎えた。
ルイズがグリフォンから飛び降りてすごい勢いでサイトに詰め寄る。
「あんた、何でいるのよ!」
「さぁ?」
とぼけるサイトになぜかルイズはう~う~言いながら地団太踏む。
ワルドは、サイトが先についていたのには少しだけ驚いたようだったが、何か心当たりでもあったのかなるほどと含み笑いをしていた。
さすがにサイトがただ走ったほうがグリフォンより早いなどという、常識的にありえないことは思いつかなかったようだが、サイトが早く着いていたのはサイトが何かしたせいだとは思っているのだろう。
そこにサイトの背後からムニュと気持ちのいいものが押しつけられた。
「あ~~ん、ダーリン!やっと追い付いたわ!」
この感触は!と振り向いたらやっぱりキュルケがサイトに胸を押し当てていた。
いいな~、気持ちいいな~、大きいのはやっぱりいいことだよね?
というよりキュルケのおっぱいでこれならあの神のおっぱいを押しつけられたらどんな感じなのだろうか?
ますますティファとの再会が楽しみである。
しかし、今はこの乳の感触を楽しもう!
「キュルケじゃないか!どうしたんだ、こんなところで?」
「そんなのダーリンを追いかけてきたに決まってるじゃない!ヴァリエールが何をしようとしてるのか知らないけど、ダ~リンと私は一心同体でしょ?」
なら今夜は合体してもかまわないのだろうか?
いやいや、この論理だと使い魔と主人は一心同体だという考えもあるから、ルイズと合体してもかまわないということになる。
それは御免だ、ルイズのほうでもお断りだろう。
そんな風に思っているとルイズがサイトとキュルケに突貫してきた。
「離れなさいよ、馬鹿犬にツェルプストーーー!」
無理やり離された後、ルイズがキュルケに対して歯を剥きだして唸る。
「うぅーーー!」
「あら、怖いわね?ヴァリエールのくせに、私から男を奪おうなんて十年早いんじゃない?その胸を10サントは大きくしてから出直したら?」
始まったいつもの喧嘩にさすがに付き合うつもりはなく、サイトはキュルケを送ってきただろうタバサを出迎えた。
「よぉ、こんな遠いところまで来て大丈夫か?」
タバサは風竜の背から降りた後、サイトと向き合った。
そして、不似合いな長い杖をキュルケに向ける。
「付き合い」
これまた簡潔なお答えで、キュルケとタバサは本当に仲が良いようだ。
キュルキュルとサイトにじゃれついてきた風竜をなでながらサイトは答える。
「俺たちが何するかも知らないだろうに、付き合いなんて簡単な理由でついてきて後悔することになっても知らないぜ?」
「かまわない、それに私はあなたに興味がある」
それはどんな意味で?
戦闘者としてということなのだろうが?
男としては答えられませんよ?
サイトはタバサのような無乳は反応しない。
もう15サントほど大きければ考えたものを……
そう思いかわいそうな目でタバサの荒野を眺めると、タバサが思いきり杖を振りはらってきた。
甘い、甘い、正面からの攻撃を簡単に食らってやるつもりはありませんよ。
でもやっぱり気にしてたんだ、今度から自重しようと思ったサイトだが、タバサが振り払った杖が風竜にもろにぶち当たるや、
「いぃ、痛いのね~、お姉様ひどいのね~」
という声を上げるのを聞いて驚愕した。
幸い、その声を聞いたのはすぐそばにいたサイトだけだったようだが、タバサは無表情ながら苦虫をかみつぶしたような顔をした後、もう一度杖で風竜を殴った。
「しゃべっちゃ、ダメだって言った!」
「キュルキュルーーーーー」
ペコペコと風竜が頭を下げるのをサイトが呆然と見ているとデルフが口を開いた。
「おっでれ~た、風韻竜じゃね~か?てっきり絶滅したものだと思ってたぜ、おっでれ~たったらおでれ~た!」
どうやら目の前の風竜は風韻竜という珍しい種らしい。
しゃべる竜とかすげーかっこいいと目を輝かせていたサイトの手をタバサが引っ張った。
「こっちに来て!」
そう言って風竜の背にサイトを乗せて飛び立った。
それに気づいたルイズが大声を張り上げる。
「あっ、何やってるのよあんたたち、ちょっと戻ってきなさい!」
タバサはそれを無視して満点の夜空にサイトを連れて舞い上がった。
後には「あら、タバサに先を越されちゃったわ」とタバサは特別なのかそれほど悔しそうには見えないキュルケと、沈黙して何かを考えながらルイズを見ているワルド、そして親の敵のように闇夜に消えたサイトとタバサを睨みつけて唸るルイズが残された。
ちなみにギーシュは早々にサイトに酒で潰されてグロッキー状態である。
何気に酒が強くなっているサイトだった。
ぶっと噴き出したサイトは急いでギーシュの心臓に一撃入れて蘇生を試みた。
マウストゥマウスが必要な場面だがサイトの誇りに欠けてそれだけは断固として拒否したい。
一撃、二撃なんとか蘇生したギーシュだったが、もはやその命は風前の灯である。
これはまずい。
任務が本格的に開始する前から仲間の命が失われようとしている。
なぜギーシュが死にかけているかサイトにはさっぱりわからないが、こんな序盤で理由も分からずギーシュを失うのはサイトの責任問題になりそうで嫌だった。
それにギーシュとはなんだかんだ言って友達になれそうな気がしたので助けてやることにする。
懐をガサゴソ漁って薬瓶を取り出す。
サイトが今回の任務に役立つかなと持ってきたエルフの秘薬である。
サーシャ直伝の製法で作りだされたそれはギリギリ死んでないならどんなケガだってたちどころに治す神秘の秘薬である。
サイトはそれを躊躇なくギーシュに振りかけた。
薬は問題なくその効力を発揮する。
今にも死にそうな死相が浮いていたギーシュの顔が穏やかに変化する。
心臓がドクンドクンと生者の音を取り戻す。
バキバキと音を立てて粉砕されていた骨がより強靭な骨へと再生していき、それだけにはとどまらずギーシュの貧相だった筋肉が少し盛り上がり、腹筋が割れていく。
加えてほんの少しだけギーシュの魔法を使う力もレベルUPしただろう。
これはそういう薬だった。
はっきり言ってエリクサーと呼んでもいいほどの効能をもつ薬である。
だが、男が嫌いなサイトが男であるギーシュに簡単に使ってもよいと思う理由がこの薬にはあった。
副作用である。
この薬を飲むとサイト風に言えばあっぱらぱーになってしまうか、どこかが壊れる。
あっぱらぱーの場合、ちょっとお馬鹿になるというレベルではなく、かなり馬鹿になる。
壊れる場合はサイトには予想がつかない、身体的な意味ではなく精神的な意味だからだ。
サーシャが言うにはなかなか楽しい壊れ方らしいが、ほとんどの場合馬鹿になるということなので気にしても仕方がないだろう。
まぁ、ほんの数日の期間だけの話だから問題ない。
任務の間、ギーシュが馬鹿になってたってもともと役立たずに近いんだから何の問題もない。
それにサイトが知るギーシュは考えるまでもなく普段から馬鹿だった。
そんな風に考えていたサイトの横でばね仕掛けのようにギーシュが直立不動した。
あっけにとられるサイトを後目に鋭い鷹の眼で裏通りにのほうにある路地裏を見つめた。
「助けを求める幼女の声がする……」
まじめな顔でそんなことをいうギーシュを見てサイトは薬を飲ませたことを心底後悔した。
副作用でロリコンになるなんてどんなだよ?
今回の任務はロリコン二人と同行することになった。
正直嫌だ、もうすでにやる気がなくなってきたサイトである。
しかし、やらないわけにはいかないし、ギーシュの言が本当なら、見捨てるわけにも行かずサイトは鼻をクンカクンカさせながら先を行くギーシュの後から他人のふりをしつつ、ついていくのだった。
サイトたちが奥に進むと驚いたことに本当に何やら争いあう声が聞こえてきた。
さすがロリコンになったギーシュ、幼女の声を聞き逃すわけもない。
そんなところがかなり気持ち悪い。
「サイト、僕に助けを求める幼女がこの先で危険な目にあってる、急がなければ!」
無駄に熱血しているギーシュには悪いがサイトは幼女には興味なかった。
隣のロリコンの意気込む様子を見ているとテンションも下がる。
そこに悲痛な悲鳴が聞こえた。
「ごめんなさい、その子に代わって私が謝りますからどうか許してください」
その声は鈴の音がなるような清涼な声だった。
サイトの頭をドロドロにとろかすようなその魅力的な声はあきらかに同年代の少女の声だ。
俄然サイトも張り切ってしまう。
こうなると妙なテンションのギーシュが同士のように思えるから不思議である。
「行くぞ、ギーシュ!」
「あぁ、サイト」
二人は肩を並べて疾風のように駆けた。
路地裏の狭い通路を何度かまがった先、すこし開けた行き止まりで数人の男が子供とフードを被った人物を囲んでいるのが見える。
子供は顔を殴られたのか頬が腫れていて唇から血を流していた。
幼い子供への仕打ちにさすがのサイトも激昂したが、それ以上にギーシュの怒りがすさまじかった。
「貴様ら、幼女に対する狼藉はこのギーシュが断じて許さんぞ!」
杖を振ってお得意のゴーレムを出現させる。
その数、ちょうど10体、薬の効果が出ている。
しかし、そのゴーレムが以前見た美しき戦乙女の姿から、大きめの鎧を着た少し背伸びをして大人の格好をしていますという感じの幼女になっているのには脱力してしまう。
「行きたまえ、僕のワルキューレたち!」
そうギーシュが叫ぶとワルキューレは剣や槍、弓といった各々の武器を使って攻撃を始めた。
それを男たちが懐から杖を出して迎撃する。
どやら全部メイジらしい。
炎が走り、風が舞って、土石が放たれた。
ギーシュのワルキューレはギーシュの壁になって彼を守り、獅子奮迅の活躍を見せ始める。
明らかに魔法使いとしてはドットからようやくラインレベルであったギーシュの力だが向上を見せていた。
おそらくサイトが使ったエルフの秘薬だけのせいではなく、彼自身の努力の結果でもあるのだろう。
サイトとの決闘は彼のためになったようだ、これなら任せられる。
サイトは男たちに牽制をギーシュに任せて、神速の踏み込みで子供とフードの人物を確保して、後ろに下がった。
折角頑張って助けようとしているのだから怪我をされてもつまらない。
二人の人物を抱えてふわりと着地するサイト、その拍子にフードの人物のフードが外れる。
その人物を横目で見てサイトは驚いた。
懐かしいと素直に思う。
その人物はサイトの愛しい母親にして初恋の女性であるサーシャと同じ特徴を持っていた。
長い耳はエルフの血が流れる証。
神秘的な普通の人間ではありえないほどの美貌もまたその証だ。
そして、サイトはそのままその肢体を確認して目を見張った。
長いローブに隠れてその詳細は分からないが、この子、サイトが見たことがないほどの巨乳である。
ローブで隠れているのにその肢体の華奢さがわかるほど細いのに、胸のふくらみはまさに胸革命。
英語でいえばバストレヴォリューション。
一人だけ人の進化の先を言っているような神の乳をサイトはそこに見た。
英語でいえばバストオブゴッデスである。
え、マジで?
こんな胸ありえるの?
ありえるのである!
今目の前に存在している者こそが真実だ。
あぁ、このおっぱいが存在することをおっぱい神に感謝しなければなるまい。
敬虔におっぱい神に祈るサイトに、おっぱい神が語りかけた。
――敬虔なる信徒サイトよ、今汝にありがたきお告げを告げよう!魂に刻むがいい!大きいのはいいことなのだ!大きいおっぱいが好きなのは母性にあこがれるからだとかいう建前は関係ない、ただおっきいだけでおっぱいは偉大なのだと!――
あぁ、曇った眼が晴れ渡るのを実感した。
今、サイトは真の巨乳好きとして開眼したのである。
そんな風に戦闘中であるのに目が胸にくぎ付けになってしまっていたサイトだったが、何やらおかしなことになっているのに気づいた。
戦闘がいつの間にやら止んでいる。
あたりを見回すとサイト以上の驚愕の目でエルフの女の子を男たちやギーシュでさえも見ていた。
そうかそうか君たちもこの乳の良さがわかるか、でもこれは俺のもんだと啖呵を切ろうとしたサイトを前に、男たちは何かに恐怖するように後退った。
口々に恐怖の色をにじませながらつぶやく。
「エルフだ……」
「こんなところにエルフがいる」
男たちは怯えながら杖を突きだす。
ギーシュでさえも自身の周りにワルキューレを配置しなおし、男たちからでなく明らかに少女から自身の身を守ろうとしていた。
少女はその周りの反応にハッと気づいたような顔をして急いでローブを被り直した。
しかし、すでにそれは遅かった。
男たちの怯えが自身を危機から守ろうとするように少女の排斥へと移ろう。
「殺せ!ハルケギニアの悪魔、エルフを殺すんだ!」
「われらレコン・キスタ の怨敵を打ち殺せ!」
口々に怨嗟の声を上げながら少女へと魔法を放つ。
少女はそれに対抗しようと自らも杖を取り出し魔法を唱えていたが、一足遅かった。
数人の男たちが一斉に放った魔法がサイトと子供と少女を飲み込もうとしたその時、サイトが背中からデルフリンガーを抜き放って言った。
「食らい尽くせ、デルフ」
「おうよ、相棒!」
デルフリンガーが秘めたる力を開花させる。
左手ではガンダールブのルーンが裏路地に太陽を出現させたように輝いていた。
その光がデルフリンガーにも瞬時に伝わって一層にデルフを輝かせる。
そしてブラックホールがすべてを飲み干すように放たれた魔法をすべて飲み干した。
「まじぃい、魔法だね~。っていうか俺様、こんなことできたんだ?」
「お前はそれがなかったらただのしゃべる剣だろうに?」
どうやらデルフは昔の姿を思い出したわけではないらしい。
「ひでぇ~の、相棒」
それでもサイトの期待にこたえてくれたのは本来の姿を思い出しつつあるのか、それともガンダールブのルーンのおかげなのか?
どちらにせよ今はそんなことを考えている時ではなかった。
自分たちが放った魔法が一瞬で消滅し、あっけにとられている男たちに向かってサイトが言った。
「エルフの文句は俺に言え!」
サイトは別段エルフという種族自身を好いているわけではない。
サイトが好きなのはあくまでサーシャで、耳が長いというエルフ属性はカレーライスに乗ったハンバーグのようなものである。
いや、エルフがみな美系であるというのはかなりポイントが高いか?
でも美系な男なんてむかつくだけだからプラマイゼロか?
いやいや、話がそれた。
サイトはサーシャがエルフでありエルフであることに誇りを持っていたことを知っているから、エルフだからといって殺そうとしたり罵声を浴びせかけられるといったことを見逃すつもりはなかった。
「貴様らがエルフの何を知っている?俺のハルケギニアでにの母親はエルフだが、めっちゃくちゃいい人だったぞ?この子が何をしたか知らないが、エルフだからなんて理由でこの子を殺そうとするなんて、なんてもっ……いやいや、おっぱ……いやいや、お天道様が許しても、この平賀サイトが断じて許さん!」
デルフがあいの手を入れる。
「かっこいいね~相棒!」
「ふっ、惚れるなよ!」
それを見ていた男たちが何をわけのわからんことをと口々に異を唱えだす。
「エルフをかばいだてするなど始祖の教えを踏みにじる行為!」
「それにエルフの母親だと?こいつは悪魔の子だ!」
「ここで殺さなければこちらがやられる、みな全力でやっちまえ!」
口ぐちに魔法を唱えだす男たちを見てサイトは嘆息した。
デルフを肩に背負い直す。
「おい、相棒、なんで俺をつかわね~?俺も殴ってやりたいぞ!」
サイトは影の残る微笑をしながらデルフに言う。
「あの技の封印を解く!」
「まさかあのブリミルとヴィダールブに口をそろえて禁止を懇願されたあの技か?」
「そうだ、お前を使っていいのか?」
「嫌だよ、相棒。ぜって~にヤダ!」
「懸命だ」
サイトはそう言いながら呪文の詠唱の終わりを待つことなく男たちの間合いへと踏み込んだ。
こほぉーと息吹をさせつつ、腰だめに構えて封印された技を叫ぶ。
「金玉破砕脚エンド珍棒ちょん切り拳」
説明しよう!
金玉破砕脚とは文字通り、男の大事な部分をサイトが粉砕させるつもりでけり上げる、男ならだれでも痛みを共有できる極悪技である。
その痛みは泡を吹いて股間から脳天につきあがる痛みに声も出せなくなる。
しかもつぶれてしまうので役に立たなくなり、にゅーなハーフの仲間いりをめでたくできるようになるという男の尊厳を文字通り蹴りつぶす技である。
そして珍棒ちょんぎり拳とはサイトの神速の手刀でもって男のシンボルを文字どおりに切り飛ばしてしまうこちらも極悪な技である。
男であることができなくなるのは金玉破砕脚と同様である。
勝負は一瞬でついていた。
「またつまらぬものを潰して切ってしまった……」
死屍累々、泡を吹いて倒れる玉無し棒なしたちの真ん中で一人サイトは勝利の無常を噛み締める。
そういつだってこの技はサイトを憂鬱にさせる、そう男は誰だってあの痛みを共有できるのだ。
それは技を繰り出したサイトだって同様で、技の直後は微妙に内またになってしまう。
ギーシュを見やれば顔を青くして股間を押さえていた。
ふっ、今はサイトの仲間であったことと決闘のときにこの技を封印していたことの幸運に感謝するがいい。
サイトは拳についた血を懐から出したハンカチでぬぐった後、少女に向かって手を差し伸べた。
「大丈夫だった?」
キラリンと歯を光らせつつ言うサイトだったが、ここで普通の女の子ならサイトが起こした惨劇に怯えて恐怖で一目散に逃げただろう。
だが少女は普通ではなかった。
彼女は家族以外に自身を肯定してくれる存在を一切持たない特殊な事情の少女だった。
生まれながらの境遇で迫害され続けてきた少女は、今ようやく出会ったのである。
自分がエルフであるというのに恐れず怖がることがない同年代の少年に。
それどころかエルフの文句は俺に言えなんていうこのハルケギニアの社会の中においてそうとう破天荒な物言いをする規格外の虚無の最狂の使い魔に。
少女にはサイトがようやく出会えた運命の人のように感じられた。
これがティファニア・ウエストウッドと平賀サイトの出会いであった。
記されなかった使い魔 その十三
「へぇ~、ティファニアって言うんだ?」
サイトは頬を染めながら自己紹介したティファニアを見つつそう言った。
エルフであることをどうやら隠している彼女に配慮してそれなりの宿をとったサイトは少女と二人で話していた。
どうせルイズとワルドが来ればもう一部屋必要なので二部屋とって、もう一つの部屋のほうでギーシュに子供の世話を頼んだ。
ロリコンになっているギーシュに幼女を任せるのはかなり不安だが、ティファニアとの会話を邪魔されてもつまらない。
ここは幼女に泣いてもらうことにした。
すまない、名も知れぬ幼女よ!
大丈夫!
助けを呼べば気づく間もなくギーシュの首と胴体は泣き別れになっているから君の身は安全だ!
「うん、あの出来ればティファって呼んで?」
そう言いつつ、はにかむ少女は本気で妖精のようだった。
助けたせいか知らないがめちゃくちゃに好印象である。
椅子に座るサイトをベットに腰掛けながらチラチラと見る少女は、正直サイトに惚れてるんじゃないか?と勘違いしても仕方がないほどかわいく見えてサイトはもうドキドキしっぱなしだった。
「あのね、あのね聞いてもいいかな?」
手を胸の前で組んでお願いするのはやめてくれ!
神の乳が強調されてサイトの理性を引きちぎろうとしてくる。
リミットブレイクはもうすぐだった。
しかし、こんなお願いの仕方をされて巨乳美少女のお願いを断ったらそれはサイトじゃなかった。
「どうぞ、どうぞ」
「サイトは、私と同じハーフエルフ?」
僕お耳とがってませんし、いいたかないが美系じゃありませんよ?
ティファが何の意図を持ってそんなことを聞いたのかさっぱりわからないが、サイトは正直に答えた。
「いや、俺は人間だけど?」
「ぇ、でもお母さんがエルフだって……」
あぁなるほど、そういうことかとサイトは納得した。
そしてティファニアの好意の理由もおおむね理解した。
さっきのことからもわかるが今のハルケギニアの人間社会ではエルフは明確な敵として認識されている。
ゆえにハーフエルフだという目の前の少女は迫害されてきたのだろう。
そういったことを往々にして良くおこることなのだ。
ハーフであるということは憎むべき種族の血を両方引いているということで、両方からうとまれることもあるだろう。
彼女は長い間孤独だッたのかもしれない。
だからサイトも同じハーフエルフだと思って親近感を持っているのだ。
このまま嘘をついてしまえば彼女と簡単に仲良くなれるのだろうけれど、サイトはサーシャのことで嘘をつくことはどうしてもできなかった。
「俺はねティファ、三年間ほどエルフのサーシャさんに育てられたんだ。サーシャさんは生みの親と同じぐらい俺のことを愛してくれたよ」
「そうなんだ……だからサイトは私のことを怖がらないんだね?」
ティファが納得したような顔をしたが、それは間違いである。
「い~や?ティファ見たいな美人の女の子を怖がる理由なんてそもそもないよ?」
「美人だなんて私はハーフエルフだから……みんなこの耳が怖いって言うし」
そう呟いて悲しそうにティファは下を向いた。
小動物のように悲しみで震える様は、痛々しかった。
「なんでかわいいじゃないか?サーシャさんなんかその耳こそチャームポイントだって言ってたぜ?少なくとも俺はティファをかわいく思うけど?」
正直その耳をふもふもしてみたいサイトである。
あれでサーシャはガードが固かったので、数えるほどしかあの耳は触れなかったのだ。
サイトの言葉を聞いたティファが唖然として、次いでうれしそうにして、最後には赤面するという七面相を見せてくれる。
純粋な子である。
かわいいなぁ~、サイトが思わず声に出してしまうと一層真っ赤になって縮こまってしまった。
それでも真っ赤になりながら上目づかいの笑顔でティファはお礼を言った。
「サイト……ありがとう」
サイトはその可憐な笑顔にズキューーンと心臓を打ち抜かれながら、どういいたしましてとかろうじて笑顔をかえした。
それからサイトはなぜティファがあんな風に男たちに囲まれていたかを聞きだした。
どうやらティファは姉を訪ねてトリステインに向かう途中らしい。
詳しく尋ねてみると次のような理由だった。
何やらティファが住んでいる村の近くで夜盗が略奪をするようになったそうだ。
今は戦争の終わりに近い時期であり、確かにそういったことが起こってもおかしくない時だった。
火事場泥棒を狙う夜盗たちが戦場の異様な高揚感を理由にむちゃくちゃをしても不思議じゃない時である。
普段ならティファの魔法で追い返すこともできたのだが、ある時、二手に分かれた襲撃がありティファニアが守れなかったほうからの襲撃で子供たちが大怪我をしたそうだ。
その夜盗はレコン・キスタの物資に手を出したようでレコン・キスタの兵隊に撃滅された。
そうしてめでたしめでたしとなれば話は終わるのだが、現実はそうはいかない。
ティファには大怪我をした子供たちという現実が残った。
自然治癒が見込めるこも多かったが、中には水の秘薬が必要な重症の子供もいて、姉から送られていた仕送りのほとんどをその秘薬につぎ込みなんとか子供は持ち直したらしい。
しかし、以前容体は予断を許さない状況であり、まだまだ水の秘薬が必要らしい。
ここにきてティファは決断を迫られた。
このまま村に残ってゆっくりと死にゆく子供を見守るか、自身がハーフエルフであることを隠しながらトリステインにいる姉のもとまで行って助けを求めるか。
後者を選んだのはティファがここにいることから見てわかることなのだが、ここでティファに誤算が生じた。
ティファを心配した少女が一人ティファの後をついてきたそうだ。
そして、お決まりのように子供が貴族にぶつかって、おまけに運悪くそいつらがトリステインに侵入していたレコン・キスタで侵入作戦という緊張感ある任務にイライラしていた貴族が憂さ晴らしに彼女らをあの路地裏に問答無用で連れ込んだということだったらしい。
危ない、危ない。
あのクソやろーども路地裏なんてところにこんな美少女を連れ込んで何するつもりだったのか?
ギーシュが気づいてくれなければサイトは一生後悔するところだった。
こんどギーシュに何か奢ってやろうと思うサイトである。
「そうか……大変だったな」
「うん」
そう言って子供のことを思い出したのか顔を曇らせたティファは膝の上でギュと拳を握った。
本音では子供にずっと付いていたかったのだろう。
優しい少女である。
こんなかわいい巨乳少女の助けをしなければ、おっぱい戦士サイトの名折れである。
サイトは自分がティファに出来ることについて考えた。
一番いいのはお金を援助してあげるか、サイト自身で水の秘薬を買ってあげることなのだが、悲しいことにサイト自身借金をしている身だ、金はない。
次に考えたのはサイトが作ったエルフの秘薬で子供を治してあげるというものだ。
だがさすがに将来ある子供にギーシュに使った秘薬を使うわけにもゆくまい。
大抵の薬に言えることだがほかの薬と併用して、どんな副作用を併発してしまうか予測もつかないからなおさら使えない。
副作用のない秘薬もあるのだが、それを作るには珍しい材料が沢山必要で、金がない今のサイトには無理だ。
ならばティファと子供をその姉がいるところまで送ってやるというのはどうだろうか?
これもダメだった。
サイトは今、任務中だ。
さすがにアンリエッタの頼みを途中で投げ出すわけにもいくまい。
彼女もゲルマニア皇帝と婚約することになるとはいえ、一応今はフリーの巨乳美少女だ。
サイトはなるべく力になってやりたいと思っている。
助けたそのあとにすぐに出ていればなんとかなったかもしれないが、すでに会話していて結構な時間がたっている、このまま送っていけばルイズたちが到着するころまでに帰ってこれないだろう。
本気で走ればそんなこともないのだが、彼女たちをギーシュのように粉砕骨折させるわけにはいかない。
普通の人間は音の壁にはかなわないのだ。
サイトがうにゅにゅと唸りだすと、ティファニアはどうしたのと心配そうに尋ねてきた。
「いや、俺も何か助けになってあげたいな、と思うんだけどなかなかできることがなくて……」
「いいんだよ、サイト?初対面なのにそんな風に心配してくれるだけで私は本当にうれしいから」
そう言ってサイトの手を取った彼女は嬉しそうに笑った。
柔らかい細い指先がサイトの武骨な手を優しく握りしめ感謝の念を伝えてくる。
なんなのこの理想の少女?
サイトは戦慄した。
美貌の少女で、性格はかわいくて、体は神の乳がついてて、エルフ耳もついてて、極め付けにサイトに最初から好印象。
サイトの理想を形にしたような少女である。
何かの罠じゃないのか?
夢落ちするんじゃなかろうな?
そうサイトが警戒してしまっても無理がないほどに目の前の少女はファンタジーだった。
「でも本当にサイトが何かしてくれるなら一つだけお願いを聞いてほしいな?」
なんでも聞きましょう。
あなたの可愛さにはもう脱帽です。
「あのね、友達になってくれる?」
あぁもうかわいいな、コン畜生!
もうどうにでもしてくれ!
友達どころか恋人だって、使い魔だって、それこそ結婚してもいいですよ?
「もちろん」
そうサイトが答えるとティファは満面の笑みで笑った。
「ありがとう、サイト!」
ティファニアはサイトに連絡先を教えて、トリスタニアへと旅立っていった。
子供たちが心配なのだろう、早くおねいさんに会えるようサイトは願った。
そういえばおねいさんの住んでいる場所などを聞くのを忘れたサイトである。
あまりにもティファがかわいすぎて他のことは考えられなかったのである。
それにちょっと見たくもない光景が横で繰り広げられていたのもそれを聞き逃した原因かもしれなかった。
「タニア、タニア、タニア~~~~~!いつか迎えに行くからね!」
「バイバイ、ギーシュおにいちゃ~~ん、私ずっと待ってるから!」
ギーシュと別れを惜しむ幼女がいた。
どうやらギーシュはロリータキラーだったらしい。
なんか結婚の約束っぽいっことをしていた。
別れた直後くらいにようやく薬の副作用から正気に戻ったらしく、大変なことしてしまったと顔を青くしていた。
さすがにサイトも悪いことをしたかとおもったが、
「ごめんよ、モンモランシー。でも側室の一人や二人ぐらい認めてくれるよね?」
なんてことをぶつぶつ言っていたので別にかまわないのだろう。
もともとそっちの気もあったようだ。
難儀な男である。
ここにまたロリコンというサイトたちおっぱい戦士の敵が爆誕した。
さすがに大きい乳から小さい乳まで愛せる節操なしである。
ティファとの別れは簡単なものだったが、必ず会いに来てねとサイトはティファに念を押された。
この任務が終わったら、必ず彼女のところに遊びに行こうとサイトは誓った。
最初からこんな巨乳美少女とお近づきになれるなんて、なんて幸先がいいのだろう。
この任務はこれからもいいことが起こりそうな気がするサイトである。
それから取ってあった宿で酒を飲みながらのんべんだらりとギーシュと過ごしたサイトは、夜半になってようやく到着したルイズたちを迎えた。
ルイズがグリフォンから飛び降りてすごい勢いでサイトに詰め寄る。
「あんた、何でいるのよ!」
「さぁ?」
とぼけるサイトになぜかルイズはう~う~言いながら地団太踏む。
ワルドは、サイトが先についていたのには少しだけ驚いたようだったが、何か心当たりでもあったのかなるほどと含み笑いをしていた。
さすがにサイトがただ走ったほうがグリフォンより早いなどという、常識的にありえないことは思いつかなかったようだが、サイトが早く着いていたのはサイトが何かしたせいだとは思っているのだろう。
そこにサイトの背後からムニュと気持ちのいいものが押しつけられた。
「あ~~ん、ダーリン!やっと追い付いたわ!」
この感触は!と振り向いたらやっぱりキュルケがサイトに胸を押し当てていた。
いいな~、気持ちいいな~、大きいのはやっぱりいいことだよね?
というよりキュルケのおっぱいでこれならあの神のおっぱいを押しつけられたらどんな感じなのだろうか?
ますますティファとの再会が楽しみである。
しかし、今はこの乳の感触を楽しもう!
「キュルケじゃないか!どうしたんだ、こんなところで?」
「そんなのダーリンを追いかけてきたに決まってるじゃない!ヴァリエールが何をしようとしてるのか知らないけど、ダ~リンと私は一心同体でしょ?」
なら今夜は合体してもかまわないのだろうか?
いやいや、この論理だと使い魔と主人は一心同体だという考えもあるから、ルイズと合体してもかまわないということになる。
それは御免だ、ルイズのほうでもお断りだろう。
そんな風に思っているとルイズがサイトとキュルケに突貫してきた。
「離れなさいよ、馬鹿犬にツェルプストーーー!」
無理やり離された後、ルイズがキュルケに対して歯を剥きだして唸る。
「うぅーーー!」
「あら、怖いわね?ヴァリエールのくせに、私から男を奪おうなんて十年早いんじゃない?その胸を10サントは大きくしてから出直したら?」
始まったいつもの喧嘩にさすがに付き合うつもりはなく、サイトはキュルケを送ってきただろうタバサを出迎えた。
「よぉ、こんな遠いところまで来て大丈夫か?」
タバサは風竜の背から降りた後、サイトと向き合った。
そして、不似合いな長い杖をキュルケに向ける。
「付き合い」
これまた簡潔なお答えで、キュルケとタバサは本当に仲が良いようだ。
キュルキュルとサイトにじゃれついてきた風竜をなでながらサイトは答える。
「俺たちが何するかも知らないだろうに、付き合いなんて簡単な理由でついてきて後悔することになっても知らないぜ?」
「かまわない、それに私はあなたに興味がある」
それはどんな意味で?
戦闘者としてということなのだろうが?
男としては答えられませんよ?
サイトはタバサのような無乳は反応しない。
もう15サントほど大きければ考えたものを……
そう思いかわいそうな目でタバサの荒野を眺めると、タバサが思いきり杖を振りはらってきた。
甘い、甘い、正面からの攻撃を簡単に食らってやるつもりはありませんよ。
でもやっぱり気にしてたんだ、今度から自重しようと思ったサイトだが、タバサが振り払った杖が風竜にもろにぶち当たるや、
「いぃ、痛いのね~、お姉様ひどいのね~」
という声を上げるのを聞いて驚愕した。
幸い、その声を聞いたのはすぐそばにいたサイトだけだったようだが、タバサは無表情ながら苦虫をかみつぶしたような顔をした後、もう一度杖で風竜を殴った。
「しゃべっちゃ、ダメだって言った!」
「キュルキュルーーーーー」
ペコペコと風竜が頭を下げるのをサイトが呆然と見ているとデルフが口を開いた。
「おっでれ~た、風韻竜じゃね~か?てっきり絶滅したものだと思ってたぜ、おっでれ~たったらおでれ~た!」
どうやら目の前の風竜は風韻竜という珍しい種らしい。
しゃべる竜とかすげーかっこいいと目を輝かせていたサイトの手をタバサが引っ張った。
「こっちに来て!」
そう言って風竜の背にサイトを乗せて飛び立った。
それに気づいたルイズが大声を張り上げる。
「あっ、何やってるのよあんたたち、ちょっと戻ってきなさい!」
タバサはそれを無視して満点の夜空にサイトを連れて舞い上がった。
後には「あら、タバサに先を越されちゃったわ」とタバサは特別なのかそれほど悔しそうには見えないキュルケと、沈黙して何かを考えながらルイズを見ているワルド、そして親の敵のように闇夜に消えたサイトとタバサを睨みつけて唸るルイズが残された。
ちなみにギーシュは早々にサイトに酒で潰されてグロッキー状態である。
何気に酒が強くなっているサイトだった。
テーマ : 自作小説(二次創作)
ジャンル : 小説・文学