記されなかった使い魔 幕間 その一
今日初めて魔法が成功した。
王家に連なる名家の出である私、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは生まれて以来、一度として魔法が成功したことがなかった。
それはヴァリエールという名門貴族の中で生きる私にとって針のむしろだった。
王家に連なる名家の出である私、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは生まれて以来、一度として魔法が成功したことがなかった。
それはヴァリエールという名門貴族の中で生きる私にとって針のむしろだった。
家で働く執事やメイドたちの間では出来損ないと陰口を叩かれていたのを知っていたし、お父様やお母様、エレオノール姉さまもきっと出来の悪い子だと思っているに決まっている。
お父様、お母様、エレオノール姉さまが私に魔法を教えてくれるときは、いつだって溜息がセットだった。
私はいつか家族に愛想を尽かされて廃嫡されるのではないかと恐れていた。
ヴァリエールは貴族としての誇りを重んじる家だけに、貴族である証である魔法を仕えない自分は貴族として落第なのではないかといつも震えていた。
いつでも何処でも陰口が耳に入るのを恐れて私は縮こまるようにして小さくなって耳を押さえて震えているか、よい子の仮面を被って愛想笑いで過ごしていた。
唯一ちぃねえさまだけは私に親身になって接してくれて、それだけがあの家にいては救いだった。
だからといって私が魔法を使えない事には変わりがなかった。
いくら練習しても私が唱える魔法はすべて爆発へと変わってしまう。
どんな簡単な魔法でも、どんな難しい魔法でも……
だから魔法学院への入学が決まったとき、私は少し安心してもいた。
あの家を出てようやくあのさげづみの目から開放されるのだとうれしかった。
けれど学院での日々も結局、ヴァリエールでの日々と変わらなかった。
学院の生徒たちはどんな下級貴族だって魔法を使えないものはいなかった。
貴族である証、その象徴である魔法。
それができない生徒はこの学院で学ぶ必要はなかった。
どんな魔法でも失敗して爆発を起こしてしまう私はいつしかゼロのルイズと呼ばれるようになった。
皆の嘲笑がさげづみの目がいつだって背中にあるようで、私はずっとこの状況が続くのではと恐怖した。
貴族社会にある限り私はずっとこの悪意の中で暮らさなければいけないのだ。
それはどんなに辛い事だろう。
私にはきっと耐えられない。
いつか自身で自分の命を絶ってしまうのではないかと思うほどの絶望をかんじた。
だからこそ私はそれまで以上に勉強に打ち込んだ。
何か授業で聞き漏らしたところ勉強していないところに自分の魔法が失敗する原因があるのではないかと明け方近くまで毎日のように探し回った。
一方でヴァリーエールという名門貴族の出身である事を押し出して、下級貴族からのイジメや度を越えた干渉を排除する事に努めた。
私が下級貴族の出なら私はイジメられて学院を追い出されるか、自殺していただろう。
家に帰れば重荷でしかないヴァリエールの家名が、学院においては私の守りだった。
私は死にたくなかった。
絶望のあまり自分で死を選ぶなどという惨めな死に方をするのは真っ平ごめんだった。
貴族に生まれた私は貴族としてしか生きていけない。
それ以外の生き方など考えられないし、それ以外の生き方で自分が生きていけるとは思えなかった。
それでも貴族の象徴としての力を振るう事ができない自分は、やはり貴族の中では落ちこぼれ出しかなく、下手をすれば平民に混同されてもおかしくない存在だった。
ゆえに少しづつ私の中には汚濁が降り注ぎ、私の心は絶望で心が闇に染まっていった。
だからサモンサーヴァントの成功は私にとってその闇を切り裂く一筋の光明だった。
どんな使い魔だってよかった。
どんな矮小な使い魔だって私は喜んで使い魔に迎えただろう。
それほどに魔法の成功は私にとって喜びであり、希望だった。
現れたのは平民の少年だった。
なんの特別な力も持たないであろうか弱い少年。
口では不満を示したが私は内心少年を使い魔にするのに否やはなかった。
彼が私の使い魔になってくれるなら、自分の悩みを聞いてもらおう。
いっぱいいっぱいお話して私の思いを知ってもらおう、そう考えていた。
だって使い魔と主人は一心同体、彼も私の話を聞いてくれるだろう。
そして話し相手になってくれるはずだ。
他の意思の疎通が図りがたい使い魔よりも、彼のほうが何倍も私にとっては救いだった。
だというのに彼は私の使い魔になるのを否定した。
私は愕然とした、視界が真っ暗になってしまうほどだった。
こんな遠いところから召喚したはずの使い魔にさえ自分のことがゼロだと噂になっているのかと絶望を感じた。
だから彼が否定した理由が身体的特徴のせいだったということに気づいたときは、ほんのちょっとだけ安心して、その後に激甚な怒りが湧いた。
私だって少女だ。
自身の体で発育が悪いところは日々気にしてバストアップをしようと努力をしている。
だというのにその特徴をあげつらって、人を否定するなんてなんて失礼なやつだろう怒りに燃えた。
視界が真っ暗になって何も見えなくなるほどに人を絶望させといて、理由がむっ、胸がないからなんて正直殺人を考えてもおかしくないと思う。
気づいたら彼を爆発させていた。
そして、そのあと彼の了承も取らずにサモンサーヴァントの契約をした。
私のファーストキスだったけれど彼という私の初めての魔法の成功の結果を逃すつもりはなかった。
彼がいれば私がゼロではない事を証明できる。
この瞬間においては彼こそが私の魔法の象徴、私が貴族であることの証だった。
記されなかった使い魔 幕間 その一
昨夜彼といさかいをして殴り殺してしまった。
どうしても素直になれず自身の気持ちがいえない私は貴族社会の建前を使って、彼に隷従を強いてしまった。
本当のところはただ話し相手になって欲しかったのだけれど、どうしても私にはそれはできなかった。
自分という存在に自信がない私は貴族という権威を笠にしか人に物を頼む事ができなかった。
だから彼に拒絶されるのは当然だったのだけれど、やはり彼の拒絶の理由が私に胸がないことだったから切れてしまったのだ。
彼が皆と同じようにさげづむ様な目で私の胸を見た事も私が必要以上に怒りくるってしまった原因だったと思う。
朝になって死体遺棄セットを用意している自分に気づいて愕然とした。
でもまぁ彼は必要以上に頑丈だったようで私は安心した。
正直どうして死んでないんだと思うほどの出血量だったから、それほどの惨劇を起こしてしまうなんて自分がどれほどストレスを感じていたか覿面とわかった。
彼はやはり無理矢理に結ばれた使い魔契約に納得していないようで私のあとについてきてくれなかった。
そのとき彼に言われた言葉が痛かった。
「貴族、貴族と人の本質には関係ないことで威張り腐りやがって!なんで俺がそんなものに従わなければならないんだ!」
自分もそう思えたならどんなによかっただろう。
貴族に生まれた自分にとっては貴族であることがすべてだ。
私の本質はそこに集約されなければならない。
貴族であるから私であり、貴族でなければ私の存在なんて意味がない。
そんな風に私は周りから私の本質を決められた。
名門の出の貴族であるからこそ魔法が使えないのに魔法学院に入ることができた。
名門の出の貴族であるからこそ魔法が使えないのに直裁的なイジメにあうことがなかった。
逆に貴族であるのに魔法が使えないから、陰口を叩かれた。
私は貴族でなければ何者でもなかった。
だからそんな貴族として自分とは関係ないところで自分というものが決められるならどんなに幸せだっただろうかと思えたのだ。
私はサイトという使い魔の少年をこのときからどんな風にしても自分の傍に置いておきたいと思うようになった。
それは自分にはないものを持った彼に憧れたのか、それともそんなものを持つ彼に嫉妬したからだったのか今となってはわからない。
けれど私が彼に興味を持ったのは彼が普通の平民ではないと知るより前であったのだということは言っておきたかったのだ。
私が彼にいいかっこを見せようと思って失敗し、彼に八つ当たりをして逃げ出したあと、私は信じられない話を聞いた。
彼が四人の貴族と決闘するというとんでもない話だった。
私はすぐに彼を探して学院を探し回った。
ようやく彼を見つけたときには彼の暢気な様子にあきれ返った。
そばに胸の大きなメイドがいて、その胸をみて鼻の下を伸ばす様子にはあきれを通り越して絶望すら感じた。
そんなに胸がいいのだろうか?
自分の命を投げ打つほどに女性の胸とはいいものなのだろうか?
私はなんとかして彼に決闘を思いとどまらせようと思ったのだけれど、彼はいう事をきいてくれなかった。
こんなことで彼をなくす事が我慢できない私は決闘の代表であるギーシュに抗議したけれど、結局決闘は中止できなかった。
その最中も彼は女の子の胸を見て鼻を伸ばしていた。
私が彼の心配をしているのに見向きもされないのは、やはり私が主人として不甲斐なく胸が小さいせいかと思うと少し悲しくなった。
だから決闘が始まって彼が傷つくことになったら、身を挺して彼を守り、ギーシュには私が謝ろうと覚悟を決めた。
しかし、その覚悟はする必要のないものだった。
なんと彼が決闘に勝ってしまったのだ、それも圧倒的に、手抜きすらして……
決闘の相手がドットメイジであったとはいえ信じられないことだった。
決闘のさいの余裕さと圧倒的な強者の気配は私がみたどんなメイジより圧倒的だった。
これが私の使い魔だったのだ。
私ははじめて自分という存在に誇りを持てる理由を見つけた。
メイジの実力を見るにはその使い魔を見ろという格言がある。
私はこんな強者を召喚できたのだ、もしかしたら私にも自身が誇れる理由があるのでは思えたのだ。
だからそんな感動している自分を尻目にキュルケトメイドに挟まれて鼻を伸ばしている使い魔を半殺しにしても仕方がないと思う。
彼はもう少し私を見るべきだと思う。
だから彼の借金を肩代わりして一応彼を私の使い魔だと認めさせたときはかなり興奮した。
ちょっと自分が自分じゃないと感じたほどに気持ちがよかった。
ゾクゾクという快感に濡れてしまった。
病み付きになりそうだった。
仮初な契約だけれどいつか彼と本当の契約を結ぼう、このとき私はそう誓った。
それからもいろいろな事があった。
彼の気を引こうとへんなインテリジェンスソードを買いにいったときは、改めてかれのすごさを知ったし。
彼が始祖の使い魔だと剣と話していたときは驚愕して、自分が虚無の後継者であると知ると興奮して期待ではちきれそうだった。
彼が虚無のスペルを教えるのに条件を出したとき、やはり女の子を紹介してくれといったときにはひどく落胆を感じたが、エレオノールおねいさまなら婚約者もいるし胸も小さいから安心だと思った、ただ絶対にちいねえさまには合わせてはいけないと思う。
虚無の魔法が成功して、宝物庫を全壊させてしまったのは真っ青になったけれど、サイトと二人で秘密を共有したようで少しうれしかった。
ただこれが本当に虚無の魔法なのかはわからない、よく考えれば今ここにいる彼が六千年前に始祖の使い魔であったなんて信じられるわけがない。
ただ彼が私の使える魔法を知っている事は確かなのに、宝物庫を破壊してしまったのを彼のせいにした挙句彼をうそつき呼ばわりしてしまったのには反省した。
それから数日は何か嫌な予感がして眠れない日々がつづいた。
それからも彼にとても恥ずかしいところを見られたりした。
そのときは正直羞恥で死んでしまいたくなった。
ずっと部屋の中にあって私の声を聞いていた馬鹿剣はいつかへし折ってやろうと思う。
彼は別段私のそれに興味はないらしく、すぐに部屋を出てしまった。
私はそんなに魅力がないのだろうか、かなりへこんだ。
部屋から出る直前振り向いた彼の顔がし胸に哀れみの目を注いでいたので私は切れてしまった。
そんなに胸がいいのかこんちくしょーーーーー、この日から私はバストアップを欠かすことはない。
そして昨夜私は姫様にある任務を頼まれた。
アルビオンに向かい姫さまのしたためた手紙を受け取ってくという重要な任務だ。
姫様が私を信頼してその任務を授けてくれたのはうれしかった。
他の誰でもないゼロのルイズとさげづまれる私に頼んでくれたのだからなおさらだ。
けれど同時に戦時下のアルビオンに赴く恐怖があった。
死ぬのはいやだった。
だから彼に相談した。
彼が付いてきてくれるなら安全であると私は彼を無意識ながら信頼していた。
けれど、彼は任務をなかなか了承してくれなかった。
私は私の信頼に答えてくれない彼にかっとなって彼を挑発した。
すると彼はシブシブながら任務について了承してくれた。
私はうれしかった、少しでも彼との繫がりを確信できたのだから。
今はただの金銭でのつながりでもいつか変えていけると思う。
すこしでも彼が私の心配をして私の助けになってくれるのならば、そして私も少しづつ彼に何かを返していけるのならば、だっていつまでの普遍の物なんてない、私の心があの絶望の日々とはすでに異なっているようにきっと変わっていくはずなのだ。
とりあえず暴力を控えなければと思う。
いまだギーシュは血の海に沈んでいる、なぜか彼はすぐに回復するけどこのままでは私は彼に暴力を振るうだけの変な女だ。
何かをかえすどころではなく負債ばかり降り積もってしまう。
けれど彼が他の女の子といちゃいちゃしてるのを見たり、目の前で姫様にキスしているような姿を見ると、どうにも私は我慢ができなかった。
この胸の奥から湧き上がるような黒い感情は何なのだろう。
サイトを見ていると感じる様々な感情、暖かかったり、苦しかったり、悲しかったり、気持ちよかったり、すべてをメチャクチャにしてやりたいと感じたり、いつだって同じ物はない激しいこの感情はなんなんだろう。
私はこの思いをどうすればいいのだろうか?
いまだルイズは自身の感情に名づける言葉を知らなかった。
彼女はこの旅でそれを知ることになる。
お父様、お母様、エレオノール姉さまが私に魔法を教えてくれるときは、いつだって溜息がセットだった。
私はいつか家族に愛想を尽かされて廃嫡されるのではないかと恐れていた。
ヴァリエールは貴族としての誇りを重んじる家だけに、貴族である証である魔法を仕えない自分は貴族として落第なのではないかといつも震えていた。
いつでも何処でも陰口が耳に入るのを恐れて私は縮こまるようにして小さくなって耳を押さえて震えているか、よい子の仮面を被って愛想笑いで過ごしていた。
唯一ちぃねえさまだけは私に親身になって接してくれて、それだけがあの家にいては救いだった。
だからといって私が魔法を使えない事には変わりがなかった。
いくら練習しても私が唱える魔法はすべて爆発へと変わってしまう。
どんな簡単な魔法でも、どんな難しい魔法でも……
だから魔法学院への入学が決まったとき、私は少し安心してもいた。
あの家を出てようやくあのさげづみの目から開放されるのだとうれしかった。
けれど学院での日々も結局、ヴァリエールでの日々と変わらなかった。
学院の生徒たちはどんな下級貴族だって魔法を使えないものはいなかった。
貴族である証、その象徴である魔法。
それができない生徒はこの学院で学ぶ必要はなかった。
どんな魔法でも失敗して爆発を起こしてしまう私はいつしかゼロのルイズと呼ばれるようになった。
皆の嘲笑がさげづみの目がいつだって背中にあるようで、私はずっとこの状況が続くのではと恐怖した。
貴族社会にある限り私はずっとこの悪意の中で暮らさなければいけないのだ。
それはどんなに辛い事だろう。
私にはきっと耐えられない。
いつか自身で自分の命を絶ってしまうのではないかと思うほどの絶望をかんじた。
だからこそ私はそれまで以上に勉強に打ち込んだ。
何か授業で聞き漏らしたところ勉強していないところに自分の魔法が失敗する原因があるのではないかと明け方近くまで毎日のように探し回った。
一方でヴァリーエールという名門貴族の出身である事を押し出して、下級貴族からのイジメや度を越えた干渉を排除する事に努めた。
私が下級貴族の出なら私はイジメられて学院を追い出されるか、自殺していただろう。
家に帰れば重荷でしかないヴァリエールの家名が、学院においては私の守りだった。
私は死にたくなかった。
絶望のあまり自分で死を選ぶなどという惨めな死に方をするのは真っ平ごめんだった。
貴族に生まれた私は貴族としてしか生きていけない。
それ以外の生き方など考えられないし、それ以外の生き方で自分が生きていけるとは思えなかった。
それでも貴族の象徴としての力を振るう事ができない自分は、やはり貴族の中では落ちこぼれ出しかなく、下手をすれば平民に混同されてもおかしくない存在だった。
ゆえに少しづつ私の中には汚濁が降り注ぎ、私の心は絶望で心が闇に染まっていった。
だからサモンサーヴァントの成功は私にとってその闇を切り裂く一筋の光明だった。
どんな使い魔だってよかった。
どんな矮小な使い魔だって私は喜んで使い魔に迎えただろう。
それほどに魔法の成功は私にとって喜びであり、希望だった。
現れたのは平民の少年だった。
なんの特別な力も持たないであろうか弱い少年。
口では不満を示したが私は内心少年を使い魔にするのに否やはなかった。
彼が私の使い魔になってくれるなら、自分の悩みを聞いてもらおう。
いっぱいいっぱいお話して私の思いを知ってもらおう、そう考えていた。
だって使い魔と主人は一心同体、彼も私の話を聞いてくれるだろう。
そして話し相手になってくれるはずだ。
他の意思の疎通が図りがたい使い魔よりも、彼のほうが何倍も私にとっては救いだった。
だというのに彼は私の使い魔になるのを否定した。
私は愕然とした、視界が真っ暗になってしまうほどだった。
こんな遠いところから召喚したはずの使い魔にさえ自分のことがゼロだと噂になっているのかと絶望を感じた。
だから彼が否定した理由が身体的特徴のせいだったということに気づいたときは、ほんのちょっとだけ安心して、その後に激甚な怒りが湧いた。
私だって少女だ。
自身の体で発育が悪いところは日々気にしてバストアップをしようと努力をしている。
だというのにその特徴をあげつらって、人を否定するなんてなんて失礼なやつだろう怒りに燃えた。
視界が真っ暗になって何も見えなくなるほどに人を絶望させといて、理由がむっ、胸がないからなんて正直殺人を考えてもおかしくないと思う。
気づいたら彼を爆発させていた。
そして、そのあと彼の了承も取らずにサモンサーヴァントの契約をした。
私のファーストキスだったけれど彼という私の初めての魔法の成功の結果を逃すつもりはなかった。
彼がいれば私がゼロではない事を証明できる。
この瞬間においては彼こそが私の魔法の象徴、私が貴族であることの証だった。
記されなかった使い魔 幕間 その一
昨夜彼といさかいをして殴り殺してしまった。
どうしても素直になれず自身の気持ちがいえない私は貴族社会の建前を使って、彼に隷従を強いてしまった。
本当のところはただ話し相手になって欲しかったのだけれど、どうしても私にはそれはできなかった。
自分という存在に自信がない私は貴族という権威を笠にしか人に物を頼む事ができなかった。
だから彼に拒絶されるのは当然だったのだけれど、やはり彼の拒絶の理由が私に胸がないことだったから切れてしまったのだ。
彼が皆と同じようにさげづむ様な目で私の胸を見た事も私が必要以上に怒りくるってしまった原因だったと思う。
朝になって死体遺棄セットを用意している自分に気づいて愕然とした。
でもまぁ彼は必要以上に頑丈だったようで私は安心した。
正直どうして死んでないんだと思うほどの出血量だったから、それほどの惨劇を起こしてしまうなんて自分がどれほどストレスを感じていたか覿面とわかった。
彼はやはり無理矢理に結ばれた使い魔契約に納得していないようで私のあとについてきてくれなかった。
そのとき彼に言われた言葉が痛かった。
「貴族、貴族と人の本質には関係ないことで威張り腐りやがって!なんで俺がそんなものに従わなければならないんだ!」
自分もそう思えたならどんなによかっただろう。
貴族に生まれた自分にとっては貴族であることがすべてだ。
私の本質はそこに集約されなければならない。
貴族であるから私であり、貴族でなければ私の存在なんて意味がない。
そんな風に私は周りから私の本質を決められた。
名門の出の貴族であるからこそ魔法が使えないのに魔法学院に入ることができた。
名門の出の貴族であるからこそ魔法が使えないのに直裁的なイジメにあうことがなかった。
逆に貴族であるのに魔法が使えないから、陰口を叩かれた。
私は貴族でなければ何者でもなかった。
だからそんな貴族として自分とは関係ないところで自分というものが決められるならどんなに幸せだっただろうかと思えたのだ。
私はサイトという使い魔の少年をこのときからどんな風にしても自分の傍に置いておきたいと思うようになった。
それは自分にはないものを持った彼に憧れたのか、それともそんなものを持つ彼に嫉妬したからだったのか今となってはわからない。
けれど私が彼に興味を持ったのは彼が普通の平民ではないと知るより前であったのだということは言っておきたかったのだ。
私が彼にいいかっこを見せようと思って失敗し、彼に八つ当たりをして逃げ出したあと、私は信じられない話を聞いた。
彼が四人の貴族と決闘するというとんでもない話だった。
私はすぐに彼を探して学院を探し回った。
ようやく彼を見つけたときには彼の暢気な様子にあきれ返った。
そばに胸の大きなメイドがいて、その胸をみて鼻の下を伸ばす様子にはあきれを通り越して絶望すら感じた。
そんなに胸がいいのだろうか?
自分の命を投げ打つほどに女性の胸とはいいものなのだろうか?
私はなんとかして彼に決闘を思いとどまらせようと思ったのだけれど、彼はいう事をきいてくれなかった。
こんなことで彼をなくす事が我慢できない私は決闘の代表であるギーシュに抗議したけれど、結局決闘は中止できなかった。
その最中も彼は女の子の胸を見て鼻を伸ばしていた。
私が彼の心配をしているのに見向きもされないのは、やはり私が主人として不甲斐なく胸が小さいせいかと思うと少し悲しくなった。
だから決闘が始まって彼が傷つくことになったら、身を挺して彼を守り、ギーシュには私が謝ろうと覚悟を決めた。
しかし、その覚悟はする必要のないものだった。
なんと彼が決闘に勝ってしまったのだ、それも圧倒的に、手抜きすらして……
決闘の相手がドットメイジであったとはいえ信じられないことだった。
決闘のさいの余裕さと圧倒的な強者の気配は私がみたどんなメイジより圧倒的だった。
これが私の使い魔だったのだ。
私ははじめて自分という存在に誇りを持てる理由を見つけた。
メイジの実力を見るにはその使い魔を見ろという格言がある。
私はこんな強者を召喚できたのだ、もしかしたら私にも自身が誇れる理由があるのでは思えたのだ。
だからそんな感動している自分を尻目にキュルケトメイドに挟まれて鼻を伸ばしている使い魔を半殺しにしても仕方がないと思う。
彼はもう少し私を見るべきだと思う。
だから彼の借金を肩代わりして一応彼を私の使い魔だと認めさせたときはかなり興奮した。
ちょっと自分が自分じゃないと感じたほどに気持ちがよかった。
ゾクゾクという快感に濡れてしまった。
病み付きになりそうだった。
仮初な契約だけれどいつか彼と本当の契約を結ぼう、このとき私はそう誓った。
それからもいろいろな事があった。
彼の気を引こうとへんなインテリジェンスソードを買いにいったときは、改めてかれのすごさを知ったし。
彼が始祖の使い魔だと剣と話していたときは驚愕して、自分が虚無の後継者であると知ると興奮して期待ではちきれそうだった。
彼が虚無のスペルを教えるのに条件を出したとき、やはり女の子を紹介してくれといったときにはひどく落胆を感じたが、エレオノールおねいさまなら婚約者もいるし胸も小さいから安心だと思った、ただ絶対にちいねえさまには合わせてはいけないと思う。
虚無の魔法が成功して、宝物庫を全壊させてしまったのは真っ青になったけれど、サイトと二人で秘密を共有したようで少しうれしかった。
ただこれが本当に虚無の魔法なのかはわからない、よく考えれば今ここにいる彼が六千年前に始祖の使い魔であったなんて信じられるわけがない。
ただ彼が私の使える魔法を知っている事は確かなのに、宝物庫を破壊してしまったのを彼のせいにした挙句彼をうそつき呼ばわりしてしまったのには反省した。
それから数日は何か嫌な予感がして眠れない日々がつづいた。
それからも彼にとても恥ずかしいところを見られたりした。
そのときは正直羞恥で死んでしまいたくなった。
ずっと部屋の中にあって私の声を聞いていた馬鹿剣はいつかへし折ってやろうと思う。
彼は別段私のそれに興味はないらしく、すぐに部屋を出てしまった。
私はそんなに魅力がないのだろうか、かなりへこんだ。
部屋から出る直前振り向いた彼の顔がし胸に哀れみの目を注いでいたので私は切れてしまった。
そんなに胸がいいのかこんちくしょーーーーー、この日から私はバストアップを欠かすことはない。
そして昨夜私は姫様にある任務を頼まれた。
アルビオンに向かい姫さまのしたためた手紙を受け取ってくという重要な任務だ。
姫様が私を信頼してその任務を授けてくれたのはうれしかった。
他の誰でもないゼロのルイズとさげづまれる私に頼んでくれたのだからなおさらだ。
けれど同時に戦時下のアルビオンに赴く恐怖があった。
死ぬのはいやだった。
だから彼に相談した。
彼が付いてきてくれるなら安全であると私は彼を無意識ながら信頼していた。
けれど、彼は任務をなかなか了承してくれなかった。
私は私の信頼に答えてくれない彼にかっとなって彼を挑発した。
すると彼はシブシブながら任務について了承してくれた。
私はうれしかった、少しでも彼との繫がりを確信できたのだから。
今はただの金銭でのつながりでもいつか変えていけると思う。
すこしでも彼が私の心配をして私の助けになってくれるのならば、そして私も少しづつ彼に何かを返していけるのならば、だっていつまでの普遍の物なんてない、私の心があの絶望の日々とはすでに異なっているようにきっと変わっていくはずなのだ。
とりあえず暴力を控えなければと思う。
いまだギーシュは血の海に沈んでいる、なぜか彼はすぐに回復するけどこのままでは私は彼に暴力を振るうだけの変な女だ。
何かをかえすどころではなく負債ばかり降り積もってしまう。
けれど彼が他の女の子といちゃいちゃしてるのを見たり、目の前で姫様にキスしているような姿を見ると、どうにも私は我慢ができなかった。
この胸の奥から湧き上がるような黒い感情は何なのだろう。
サイトを見ていると感じる様々な感情、暖かかったり、苦しかったり、悲しかったり、気持ちよかったり、すべてをメチャクチャにしてやりたいと感じたり、いつだって同じ物はない激しいこの感情はなんなんだろう。
私はこの思いをどうすればいいのだろうか?
いまだルイズは自身の感情に名づける言葉を知らなかった。
彼女はこの旅でそれを知ることになる。
テーマ : 自作小説(二次創作)
ジャンル : 小説・文学