記されなかった使い魔 その六
「まぁ飲め、飲め」
そう言ってサイトは厨房からくすねてきたワインをデルフにかけた。
紅き雫は刀身に吸い込まれるようにして消えていく。
そう言ってサイトは厨房からくすねてきたワインをデルフにかけた。
紅き雫は刀身に吸い込まれるようにして消えていく。
「いや~、悪いな相棒?久しぶりの酒だぜ!今夜は飲むぜ!」
「わはっははは、旧友との再会に乾杯!」
そう言ってサイトもワインを傾けた。
錆び錆びの魔剣は声を除けば当時の面影が微塵もない。
「っていうかデルフ、お前なんでそんな錆び錆びなんだよ?」
カタカタ鞘を鳴らして酒のおかわりをするデルフにワインをぶっ掛けながらサイトが尋ねる。
「う~~ん?おりゃ~、前からこんな風だが?っていうか相棒、前に会ったことあったっけ?」
ひどい馬鹿剣である、別れてから四年しかたっていないというのに人のことを忘れるとはなんと薄情な剣であろうか?
「お前、ひどい奴だな~、別れてからまだ四年だぞ?まぁいいか、お前男だしな。男に覚えてられても仕方がないか……そうだそれよりサーシャさんだよ!久しぶりに会いたいんだ、何処にいるかわかるか?」
デルフはヒックと酒に酔ったような仕草を剣のくせにしながら答えた。
「サーシャ?う~~ん、なんか懐かしい名前だな?なんだったけっか?」
おいおい痴呆もここに極まれりってか?
自分の相棒の名前まで忘れるって、どんだけだよ?
「おいおい、自分を作った人間の一人だろうが?あの変態のブリミルと一緒に……」
それにデルフがまたカタカタとなにやら考えるような仕草をする。
カタカタという剣の仕草だけで何をしているかわかるサイトは、違いのわかる男である。
「ブリミル?サーシャ?そいで俺に向かってこんな風に話しかける奴って……はっ!お前、サイトかサイトなのか?」
「お!思い出したか?ちょっと物忘れが激しすぎるぞ……」
サイトはワインをラッパ飲みしながら剣に対してあきれた声を漏らした。
その剣はまさに驚愕と言うようにカタカタと鞘鳴りしながら声を漏らす。
「おでれ~た、おでれ~た!なんで生きてるんだ、おめ?」
失礼な奴である。
久しぶりの再会だと言うのにそれはないであろう?
「失礼な奴やな~たった四年だろう?」
「サイトが何を言ってるのか俺にはさっぱりわからんぜ、あれからもう6000年近く経っているて~のに……」
6000年ね~、そりゃ忘れもするわ!
アホかっつ~の、どこの浦島太郎だよ!
っていうか6000年なら浦島太郎も真っ青だ。
西暦の三倍ってドンだけだよ、中国四千年の歴史もなんのその、メソポタミアだってチグリスユウフラテスの河岸に消えるチュ~~の。
「う~~ん、デルフ、お前整備不良なんじゃね~の?そんな錆び錆びになってるから頭がどうかしてるんだよ?こんどその錆も落としてやるから今は正気に戻ろうぜ?」
残ったワインをデルフにかけてやりながらサイトはデルフにそう告げる。
しかし、こんどは紅き雫は刀身に消えることなく、地面へと滴り落ちた。
「「……」」
滴り落ちる雫を見ながら両者は無言だった。
その光景を桃色の髪を持った貧乳の女が覗き見ていたが、些細な事である。
そのうちサイトが搾り出すように告げた。
「そうか、本当のことなんだな?」
「ああ」
これは傑作である。
なにやら訳も分からずまたハルケギニアに呼び出されたと思ったら、桃色の貧乳に借金の方に使い魔を強制されて、最後の希望だったサーシャに出会うことは不可能だと来た。
はは、まさか本当に浦島太郎とは……
「まいったな、さすがにこれは参ったぜ……」
もうサイトにはどういっていいのやら、わからなかった。
最後にサーシャと別れたあの時、もう二度と会えなくなることをサイトは覚悟していた。
世界の隔たりとはそれほどに遠いものだ。
観測者が世界からいなくなればそれほどに遠ざかっていく。
しかし、それは遠いところに離れていてもサーシャが生きていることを知っている、サーシャが幸せに生きることを願っていられる幸福がサイトに許されていた別れだった。
だが、これは違う。
死はどうしようもない別れだ。
生者と死者の境はどうしようもなく隔たっており、例えサイトにどんな力があろうとも覆すことができない。
まして、サイトが知らぬうちに愛する母が逝っていたという事実、それがどうしようもなくサイトを打ちのめした。
今、サイトはあの時と同じハルケギニアの大地を踏みしめているのに、ここにはサーシャもブリミルもヴィンダールブもミョズニトニルンも存在しないのだ。
それがサイトにはひどく肌寒く感じた。
凍えるように冷たい風がサイトの心の中を吹雪いた。
「なぁ、サーシャさんは幸せだったか?」
デルフは思案するようにカタカタとなる。
「泣き虫なエルフの娘っ子、サーシャか……だめだ、思い出せね~、なにか悲しい事が
あったのは覚えてるが、たぶん俺の記憶がないのもその辺が理由なんだろうな……」
「クソが、ブリミルの馬鹿野郎、約束を破りやがって!あんな奴にサーシャさんを任せたのが間違いだったんだ!」
サイトが激昂する様子にデルフが応えた。
「今そんなことを言ってもしょうがあるめ~に、そいつはもう過ぎさっちまったものさ。それよりサイトはどうして今になって現れたんだ?」
サイトは憤りを抑えることもせずに自分の状況をデルフにぶちまけた。
「おでれ~た、おでれ~た!おめもつくづく虚無に縛られる男だな?」
何のことかわからずサイトは困惑する。
それにデルフは愉快そうに言い募った。
「おめの今のご主人様、公爵家のでなんだろ?」
確かにルイズは公爵家の出らしい、なにやら高貴な血筋らしいがそれがなんの関係があるんだ?
つ~か、虚無って何?
「公爵ってのはあれだ、王家に繋がる血筋。ひいては始祖の直系の血筋をひくやんごとなき血筋ってやつだ、俺は気に入らんがね!」
だからそれがどうしたというのか?
「でだ、ここで問題なのは虚無と始祖だ。サイトよく聞けよ?虚無ってのはブリミルが使っていた魔法で、始祖ってのはブリミル本人の事さ」
はっ?
何言ってんのこいつ?
デルフの正気を疑うサイトである。
始祖ブリミルってあれだろ?
ルイズたちに神のごとく崇められている、それがサイトの元ご主人さんだって?
冗談にしか聞こえない妄言である。
「つまりおめは……」
いやもういい、それ以上言うな!
わかった、もうどうしようもなくわかった。
あのクソご主人。
死んでからも人に迷惑かけやがって、子孫のお守りまでサイトにやらせるつもりなのか?
貴族、貴族とメイジの連中は皆偉そうだったが、わかりやすく言えばあの変態ブリミルの血が濃い事を自慢していたと言うことである。
なんて悪質な嫌がらせ!
怖気が走るとはこのことだ!
「いつまでたってもブリミルとのファーストキッスに始まる物語に縛られているわけだな、サイト?おでれ~た、おっでれ~た、愛されすぎだぜ、サイト!」
「ふぜけんな、この変態ブリミル~~~~~~!」
そしてサイトの怒声が響き渡った。
記されなかった使い魔 その六
ひとしきり奇声を上げながらブリミルを罵っていたサイトだったが、暫くすると落ち着いた。
正直剣と二人でこんなことをしていたら変質者確定である。
かわいい女の子がいるこの場所でこんなまねを続けていたら、計画が台無しだ。
サーシャさんがもういないと言うのなら、なおさらサイトは幸せを求めねばなるまい。
天国でサイトを見守ってくれているおっかさんを安心させるため、早く所帯をもって孫を見せてやらねばなるまい。
見ていてくれ、サーシャかぁさん!
サイトはサイトはやってみせる。
サイトは星★の中、一際綺麗に輝くスターに誓った!
綺麗な嫁さんゲットだぜ、でも貧乳だけはかんべんな~!
そう思いながら手をグゥと握り締めるサイトに若干引きながらルイズが物影から現れ話しかけてきた。
「話は聞かせてもらったわ!」
聞かせてもらったって、そんな偶然聞いたような……
あんたそこでずっと盗み聞きしていただろうに?
「正直、信じられない話だけどあんたの実力に関して納得ができることもあるわ!」
ルイズは目を輝かせながらそう演説する。
「あんたが伝説の虚無の使い魔だというのなら、あんたを呼び出した私はあれね、まさに始祖ブリミルの生まれ変わり、あぁ自分の気高い血筋が熱いわ~~~」
自己陶酔するルイズは自分の貧相な体をきつく抱きしめながら近寄りがたい人種が放つ妙なオーラを放っていた。
案外似たもの同士の主従なのかもしれなかった、ルイズとサイトは……そんな妙な考えを振り払うようにサイトは首を振った。
「そうよ!私が虚無の属性のメイジというのなら、私が魔法を使えない事も納得できる……そうよ、そうよ、そうなのよ!」
またもや、勝手に納得して、勝手に結論を出したらしい。
ギーシュにしろルイズにしろ貴族ってやつはみんなこうなのか?
もしかするとブリミルの血の呪いなのか>
でもブリミルはこんな感じじゃなかったしな~。
デルフを見ればデルフも鞘を打ち震わせながら、あきれていた。
「だからサイト私に虚無の呪文を教えなさい!そして私はこの貴族社会で王に君臨するのよ!あぁ~、ツェルプストーの歯噛みする姿が目に浮かぶ~~!」
これがサイトのご主人様である。
まじへこむ~~~。
本当キュルケとか胸が大きい子に変えてくれないかな~~、実際これに比べれば変態とはいえブリミルのほうがまだましに思えるサイトである、いやどっちもどっちか?
男にキスももう二度としたくない!
だが、サイトは負けない!
サイトには野望があるのだ!
「別に行けど……」
そのサイトの言にルイズが顔を輝かせる。
だがサイトもそんなに甘い男ではないのである。
「だが条件がある!」
ルイズの目が座ってくる。
あんにご主人様に条件などいい度胸だ!
そうルイズの目が言っている。
なんという女王様的プレッシャー、SMの女王様が鞭をサイトに叩きつけるのを幻視する。
だが、負けん!ここで負けてはすべてを失ってしまう。
負けるわけにはいかんのだよ!
サイトはプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、ルイズの目をしっかりと見返した。
それにルイズがちょっと頬を紅くして応える。
「いいわ、いうだけ言って見なさい?」
「女の子、紹介して!」
ルイズの顔が驚異的に歪んだ。
禍々しい笑みが恐ろしい。
デルフがカタカタと震える、歴戦の魔剣が恐怖で震えているのである。
かく言うサイトもブルブルと子犬のように震えていた、過去五回にわたる殺人未遂の記憶がサイトを恐怖させるのだ。
なんだ実はルイズは魔王だったのではないか?
伝説の使い魔と伝説の魔剣を素で怯えさせる少女なんて、その存在自体ギャグではなかろうか?
「い・や・よ!」
サイトを座った目で見ながらルイズが宣告する。
馬鹿な!何故だ?WHY~?
「あんたは私の使い魔なんだから、女の子と付き合っている暇なんてないのよ!」
そっぽを向きながらそんなことをいうルイズ。
貴様、それでかわい子ぶってるつもりじゃなかろうな?
ツンデレか?ツンデレなのか?
だがロリは勘弁!
貴様が平原である限りそんなものはサイトには通用せんのだ。
「なら、俺も絶対に教えん!」
「なんですって~~~?」
「なんだよ?」
ルイズとサイトは額を付き合わせるようにして、火花を散らす。
デルフはそんな光景を今度の虚無は女王様かぁ~と冷めた目で見ていた。
「なにもお前の姉妹を紹介してくれって言ってるわけじゃないだろ?お前のうちにいる巨乳のメイドの子でも紹介してくれればいいんだよ!」
「メイド!メイドですって?あんたあのシエスタって子にも手を出そうとしてるくせに、家のメイドにも手を出そうなんて、それに巨乳?巨乳ですって、またあんたはそう言って清らかな胸の私たちを馬鹿にするのね?そんなことを言う口はその口か~~~!」
そう言ってサイトの口を塞ごうと飛び掛ってくるルイズをサイトは飛び退ってかわした。
この貧乳を気にしてサイトに飛び掛ってくるときのルイズはまるで、ガンダールブのルーンを持ったように素早くて要注意だった。
「女の子紹介しろ!」
「嫌って、言ったらイ……」
ルイズが言葉の途中で言い籠もる。
なにか考えるように下を向いていたが、一転にこやかにサイトに言ってきた。
「いいわ、サイト。本当に嫌だけど、あなたに女の子紹介してあげるわ」
唐突過ぎる。
この豹変振りは警戒しなければならないだろう。
「何を考えている?」
「あら、じゃぁ紹介しなくていいのね?」
クゥ、そう言われると惜しい気がする。
「相手は金髪の美女よ!」
「馬鹿な!」
「クールビューティーな27歳!」
「年上のおねぇさま!」
「胸は(私よりたぶん)大きいわ!」
「まじで?」
「そして高貴な血筋を引いているわ!」
「お嬢様!」
「これでも紹介して欲しくないのかしら?」
サイトは跪いて応えた。
「犬とお呼びください、ご主人様!」
そう忠誠を誓うサイトにルイズはまたもや禍々しく笑っていた。
と言うわけでルイズに覚えている虚無の魔法を教えるサイトである。
「じゃぁ、とりあえず俺に続いて唱えてみな」
それにルイズはいささか緊張した様子でうなづいた。
さすがに初めて自分にあった魔法を使うのだから、当然なのかもしれない。
なかなかほほえましいところもあるものだ。
ルイズがサイトに続いて唱える詠唱は、子孫だからか虚無の魔法だからか何故かブリミルとよく似ていた。
懐かしい思いが蘇る。
この詠唱の元でサイトは戦っていたのだ。
そこにはサーシャがいてブリミルがいて、ヴィンダールブがいてミョズニトニルンがいて、もう会えないその郷愁に思わず鼻をすするサイトである。
だからだろう、ルイズが詠唱を完成させるまでボーとしてしまったのは……
ルイズの詠唱が完成する。
紡がれる魔法は完璧なエクスプロージョン!
その破壊力は魔力があればあるほど破壊力を増す、燃費が悪い虚無の初期魔法。
それがサイトに向かって放たれようとしている。
殺す気か!
ルイズがサイトを殺そうとしたのはこれで六回目である。
無意識とはいえやりすぎだろ!
ルイズが振り下ろそうとする杖を他に向けるため、反射的にルイズの体を回転させるサイトである。
「「あっ」」
放たれた魔法は強大な火球となってある方向に飛んでいた。
その方向とは宝物庫が在る方向。
そこでは強大なゴーレムがなにやら宝物庫の壁を壊そうとその腕を振り上げていたところだったが、ルイズの虚無の魔法はそのゴーレムを突き破って宝物庫の壁に着弾した。
ドンという目の覚めるような轟音を轟かせて爆発する宝物庫。
夜空にモクモクと原爆が爆発したようなきのこ雲が浮かび上がる。
それが晴れた後は、跡形もなくなった宝物庫が残された。
「なぁ、ルイズ?」
「なぁに、サイト?」
「逃げようぜ!」
「そうね、それがいいわ!」
そう言ってスタコラサッサと逃げ出したルイズとサイトである。
それをサイトの腰に差されながら見やったデルフリンガーは一言ポツリと呟いた。
「なんとも似たもの主従だね、こりゃ。おでれ~た、たら、おっでれ~た!」
そして主従揃ってにポカリと殴られた。
「わはっははは、旧友との再会に乾杯!」
そう言ってサイトもワインを傾けた。
錆び錆びの魔剣は声を除けば当時の面影が微塵もない。
「っていうかデルフ、お前なんでそんな錆び錆びなんだよ?」
カタカタ鞘を鳴らして酒のおかわりをするデルフにワインをぶっ掛けながらサイトが尋ねる。
「う~~ん?おりゃ~、前からこんな風だが?っていうか相棒、前に会ったことあったっけ?」
ひどい馬鹿剣である、別れてから四年しかたっていないというのに人のことを忘れるとはなんと薄情な剣であろうか?
「お前、ひどい奴だな~、別れてからまだ四年だぞ?まぁいいか、お前男だしな。男に覚えてられても仕方がないか……そうだそれよりサーシャさんだよ!久しぶりに会いたいんだ、何処にいるかわかるか?」
デルフはヒックと酒に酔ったような仕草を剣のくせにしながら答えた。
「サーシャ?う~~ん、なんか懐かしい名前だな?なんだったけっか?」
おいおい痴呆もここに極まれりってか?
自分の相棒の名前まで忘れるって、どんだけだよ?
「おいおい、自分を作った人間の一人だろうが?あの変態のブリミルと一緒に……」
それにデルフがまたカタカタとなにやら考えるような仕草をする。
カタカタという剣の仕草だけで何をしているかわかるサイトは、違いのわかる男である。
「ブリミル?サーシャ?そいで俺に向かってこんな風に話しかける奴って……はっ!お前、サイトかサイトなのか?」
「お!思い出したか?ちょっと物忘れが激しすぎるぞ……」
サイトはワインをラッパ飲みしながら剣に対してあきれた声を漏らした。
その剣はまさに驚愕と言うようにカタカタと鞘鳴りしながら声を漏らす。
「おでれ~た、おでれ~た!なんで生きてるんだ、おめ?」
失礼な奴である。
久しぶりの再会だと言うのにそれはないであろう?
「失礼な奴やな~たった四年だろう?」
「サイトが何を言ってるのか俺にはさっぱりわからんぜ、あれからもう6000年近く経っているて~のに……」
6000年ね~、そりゃ忘れもするわ!
アホかっつ~の、どこの浦島太郎だよ!
っていうか6000年なら浦島太郎も真っ青だ。
西暦の三倍ってドンだけだよ、中国四千年の歴史もなんのその、メソポタミアだってチグリスユウフラテスの河岸に消えるチュ~~の。
「う~~ん、デルフ、お前整備不良なんじゃね~の?そんな錆び錆びになってるから頭がどうかしてるんだよ?こんどその錆も落としてやるから今は正気に戻ろうぜ?」
残ったワインをデルフにかけてやりながらサイトはデルフにそう告げる。
しかし、こんどは紅き雫は刀身に消えることなく、地面へと滴り落ちた。
「「……」」
滴り落ちる雫を見ながら両者は無言だった。
その光景を桃色の髪を持った貧乳の女が覗き見ていたが、些細な事である。
そのうちサイトが搾り出すように告げた。
「そうか、本当のことなんだな?」
「ああ」
これは傑作である。
なにやら訳も分からずまたハルケギニアに呼び出されたと思ったら、桃色の貧乳に借金の方に使い魔を強制されて、最後の希望だったサーシャに出会うことは不可能だと来た。
はは、まさか本当に浦島太郎とは……
「まいったな、さすがにこれは参ったぜ……」
もうサイトにはどういっていいのやら、わからなかった。
最後にサーシャと別れたあの時、もう二度と会えなくなることをサイトは覚悟していた。
世界の隔たりとはそれほどに遠いものだ。
観測者が世界からいなくなればそれほどに遠ざかっていく。
しかし、それは遠いところに離れていてもサーシャが生きていることを知っている、サーシャが幸せに生きることを願っていられる幸福がサイトに許されていた別れだった。
だが、これは違う。
死はどうしようもない別れだ。
生者と死者の境はどうしようもなく隔たっており、例えサイトにどんな力があろうとも覆すことができない。
まして、サイトが知らぬうちに愛する母が逝っていたという事実、それがどうしようもなくサイトを打ちのめした。
今、サイトはあの時と同じハルケギニアの大地を踏みしめているのに、ここにはサーシャもブリミルもヴィンダールブもミョズニトニルンも存在しないのだ。
それがサイトにはひどく肌寒く感じた。
凍えるように冷たい風がサイトの心の中を吹雪いた。
「なぁ、サーシャさんは幸せだったか?」
デルフは思案するようにカタカタとなる。
「泣き虫なエルフの娘っ子、サーシャか……だめだ、思い出せね~、なにか悲しい事が
あったのは覚えてるが、たぶん俺の記憶がないのもその辺が理由なんだろうな……」
「クソが、ブリミルの馬鹿野郎、約束を破りやがって!あんな奴にサーシャさんを任せたのが間違いだったんだ!」
サイトが激昂する様子にデルフが応えた。
「今そんなことを言ってもしょうがあるめ~に、そいつはもう過ぎさっちまったものさ。それよりサイトはどうして今になって現れたんだ?」
サイトは憤りを抑えることもせずに自分の状況をデルフにぶちまけた。
「おでれ~た、おでれ~た!おめもつくづく虚無に縛られる男だな?」
何のことかわからずサイトは困惑する。
それにデルフは愉快そうに言い募った。
「おめの今のご主人様、公爵家のでなんだろ?」
確かにルイズは公爵家の出らしい、なにやら高貴な血筋らしいがそれがなんの関係があるんだ?
つ~か、虚無って何?
「公爵ってのはあれだ、王家に繋がる血筋。ひいては始祖の直系の血筋をひくやんごとなき血筋ってやつだ、俺は気に入らんがね!」
だからそれがどうしたというのか?
「でだ、ここで問題なのは虚無と始祖だ。サイトよく聞けよ?虚無ってのはブリミルが使っていた魔法で、始祖ってのはブリミル本人の事さ」
はっ?
何言ってんのこいつ?
デルフの正気を疑うサイトである。
始祖ブリミルってあれだろ?
ルイズたちに神のごとく崇められている、それがサイトの元ご主人さんだって?
冗談にしか聞こえない妄言である。
「つまりおめは……」
いやもういい、それ以上言うな!
わかった、もうどうしようもなくわかった。
あのクソご主人。
死んでからも人に迷惑かけやがって、子孫のお守りまでサイトにやらせるつもりなのか?
貴族、貴族とメイジの連中は皆偉そうだったが、わかりやすく言えばあの変態ブリミルの血が濃い事を自慢していたと言うことである。
なんて悪質な嫌がらせ!
怖気が走るとはこのことだ!
「いつまでたってもブリミルとのファーストキッスに始まる物語に縛られているわけだな、サイト?おでれ~た、おっでれ~た、愛されすぎだぜ、サイト!」
「ふぜけんな、この変態ブリミル~~~~~~!」
そしてサイトの怒声が響き渡った。
記されなかった使い魔 その六
ひとしきり奇声を上げながらブリミルを罵っていたサイトだったが、暫くすると落ち着いた。
正直剣と二人でこんなことをしていたら変質者確定である。
かわいい女の子がいるこの場所でこんなまねを続けていたら、計画が台無しだ。
サーシャさんがもういないと言うのなら、なおさらサイトは幸せを求めねばなるまい。
天国でサイトを見守ってくれているおっかさんを安心させるため、早く所帯をもって孫を見せてやらねばなるまい。
見ていてくれ、サーシャかぁさん!
サイトはサイトはやってみせる。
サイトは星★の中、一際綺麗に輝くスターに誓った!
綺麗な嫁さんゲットだぜ、でも貧乳だけはかんべんな~!
そう思いながら手をグゥと握り締めるサイトに若干引きながらルイズが物影から現れ話しかけてきた。
「話は聞かせてもらったわ!」
聞かせてもらったって、そんな偶然聞いたような……
あんたそこでずっと盗み聞きしていただろうに?
「正直、信じられない話だけどあんたの実力に関して納得ができることもあるわ!」
ルイズは目を輝かせながらそう演説する。
「あんたが伝説の虚無の使い魔だというのなら、あんたを呼び出した私はあれね、まさに始祖ブリミルの生まれ変わり、あぁ自分の気高い血筋が熱いわ~~~」
自己陶酔するルイズは自分の貧相な体をきつく抱きしめながら近寄りがたい人種が放つ妙なオーラを放っていた。
案外似たもの同士の主従なのかもしれなかった、ルイズとサイトは……そんな妙な考えを振り払うようにサイトは首を振った。
「そうよ!私が虚無の属性のメイジというのなら、私が魔法を使えない事も納得できる……そうよ、そうよ、そうなのよ!」
またもや、勝手に納得して、勝手に結論を出したらしい。
ギーシュにしろルイズにしろ貴族ってやつはみんなこうなのか?
もしかするとブリミルの血の呪いなのか>
でもブリミルはこんな感じじゃなかったしな~。
デルフを見ればデルフも鞘を打ち震わせながら、あきれていた。
「だからサイト私に虚無の呪文を教えなさい!そして私はこの貴族社会で王に君臨するのよ!あぁ~、ツェルプストーの歯噛みする姿が目に浮かぶ~~!」
これがサイトのご主人様である。
まじへこむ~~~。
本当キュルケとか胸が大きい子に変えてくれないかな~~、実際これに比べれば変態とはいえブリミルのほうがまだましに思えるサイトである、いやどっちもどっちか?
男にキスももう二度としたくない!
だが、サイトは負けない!
サイトには野望があるのだ!
「別に行けど……」
そのサイトの言にルイズが顔を輝かせる。
だがサイトもそんなに甘い男ではないのである。
「だが条件がある!」
ルイズの目が座ってくる。
あんにご主人様に条件などいい度胸だ!
そうルイズの目が言っている。
なんという女王様的プレッシャー、SMの女王様が鞭をサイトに叩きつけるのを幻視する。
だが、負けん!ここで負けてはすべてを失ってしまう。
負けるわけにはいかんのだよ!
サイトはプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、ルイズの目をしっかりと見返した。
それにルイズがちょっと頬を紅くして応える。
「いいわ、いうだけ言って見なさい?」
「女の子、紹介して!」
ルイズの顔が驚異的に歪んだ。
禍々しい笑みが恐ろしい。
デルフがカタカタと震える、歴戦の魔剣が恐怖で震えているのである。
かく言うサイトもブルブルと子犬のように震えていた、過去五回にわたる殺人未遂の記憶がサイトを恐怖させるのだ。
なんだ実はルイズは魔王だったのではないか?
伝説の使い魔と伝説の魔剣を素で怯えさせる少女なんて、その存在自体ギャグではなかろうか?
「い・や・よ!」
サイトを座った目で見ながらルイズが宣告する。
馬鹿な!何故だ?WHY~?
「あんたは私の使い魔なんだから、女の子と付き合っている暇なんてないのよ!」
そっぽを向きながらそんなことをいうルイズ。
貴様、それでかわい子ぶってるつもりじゃなかろうな?
ツンデレか?ツンデレなのか?
だがロリは勘弁!
貴様が平原である限りそんなものはサイトには通用せんのだ。
「なら、俺も絶対に教えん!」
「なんですって~~~?」
「なんだよ?」
ルイズとサイトは額を付き合わせるようにして、火花を散らす。
デルフはそんな光景を今度の虚無は女王様かぁ~と冷めた目で見ていた。
「なにもお前の姉妹を紹介してくれって言ってるわけじゃないだろ?お前のうちにいる巨乳のメイドの子でも紹介してくれればいいんだよ!」
「メイド!メイドですって?あんたあのシエスタって子にも手を出そうとしてるくせに、家のメイドにも手を出そうなんて、それに巨乳?巨乳ですって、またあんたはそう言って清らかな胸の私たちを馬鹿にするのね?そんなことを言う口はその口か~~~!」
そう言ってサイトの口を塞ごうと飛び掛ってくるルイズをサイトは飛び退ってかわした。
この貧乳を気にしてサイトに飛び掛ってくるときのルイズはまるで、ガンダールブのルーンを持ったように素早くて要注意だった。
「女の子紹介しろ!」
「嫌って、言ったらイ……」
ルイズが言葉の途中で言い籠もる。
なにか考えるように下を向いていたが、一転にこやかにサイトに言ってきた。
「いいわ、サイト。本当に嫌だけど、あなたに女の子紹介してあげるわ」
唐突過ぎる。
この豹変振りは警戒しなければならないだろう。
「何を考えている?」
「あら、じゃぁ紹介しなくていいのね?」
クゥ、そう言われると惜しい気がする。
「相手は金髪の美女よ!」
「馬鹿な!」
「クールビューティーな27歳!」
「年上のおねぇさま!」
「胸は(私よりたぶん)大きいわ!」
「まじで?」
「そして高貴な血筋を引いているわ!」
「お嬢様!」
「これでも紹介して欲しくないのかしら?」
サイトは跪いて応えた。
「犬とお呼びください、ご主人様!」
そう忠誠を誓うサイトにルイズはまたもや禍々しく笑っていた。
と言うわけでルイズに覚えている虚無の魔法を教えるサイトである。
「じゃぁ、とりあえず俺に続いて唱えてみな」
それにルイズはいささか緊張した様子でうなづいた。
さすがに初めて自分にあった魔法を使うのだから、当然なのかもしれない。
なかなかほほえましいところもあるものだ。
ルイズがサイトに続いて唱える詠唱は、子孫だからか虚無の魔法だからか何故かブリミルとよく似ていた。
懐かしい思いが蘇る。
この詠唱の元でサイトは戦っていたのだ。
そこにはサーシャがいてブリミルがいて、ヴィンダールブがいてミョズニトニルンがいて、もう会えないその郷愁に思わず鼻をすするサイトである。
だからだろう、ルイズが詠唱を完成させるまでボーとしてしまったのは……
ルイズの詠唱が完成する。
紡がれる魔法は完璧なエクスプロージョン!
その破壊力は魔力があればあるほど破壊力を増す、燃費が悪い虚無の初期魔法。
それがサイトに向かって放たれようとしている。
殺す気か!
ルイズがサイトを殺そうとしたのはこれで六回目である。
無意識とはいえやりすぎだろ!
ルイズが振り下ろそうとする杖を他に向けるため、反射的にルイズの体を回転させるサイトである。
「「あっ」」
放たれた魔法は強大な火球となってある方向に飛んでいた。
その方向とは宝物庫が在る方向。
そこでは強大なゴーレムがなにやら宝物庫の壁を壊そうとその腕を振り上げていたところだったが、ルイズの虚無の魔法はそのゴーレムを突き破って宝物庫の壁に着弾した。
ドンという目の覚めるような轟音を轟かせて爆発する宝物庫。
夜空にモクモクと原爆が爆発したようなきのこ雲が浮かび上がる。
それが晴れた後は、跡形もなくなった宝物庫が残された。
「なぁ、ルイズ?」
「なぁに、サイト?」
「逃げようぜ!」
「そうね、それがいいわ!」
そう言ってスタコラサッサと逃げ出したルイズとサイトである。
それをサイトの腰に差されながら見やったデルフリンガーは一言ポツリと呟いた。
「なんとも似たもの主従だね、こりゃ。おでれ~た、たら、おっでれ~た!」
そして主従揃ってにポカリと殴られた。
テーマ : 自作小説(二次創作)
ジャンル : 小説・文学