記されなかった使い魔 その三
サイトは目の前のシュヴルーズ と名乗った赤毛の小太りの女が魔法を使うのを興味深く眺めていた。
教室中に集まった使い魔のうち、食べたことがあるものの味を思い出していたら、なぜか教室から使い魔たちが一斉に逃げ出してしまい。
教室の中に使い魔はサイト一人になってしまった。
失礼な!サイトはもう人の大事にしているものを食べる気はない、それはもうこりた。
ただ美味しそうだなと見るぐらいは許して欲しいが……
そうして教室に使い魔が一人いると目だってしまったのだろう小太りのおばさんは、サイトを見て人を使い魔にするなど珍しいと珍獣がいるかのごとき目で見てくれたのだ。
しかし、珍しいというがサイトは人を使い魔にした男を知っている。
しかも、サイトを入れて四人も、ゆえに自分が変り種だとは思わなかった。
人のことを珍獣がごとく見たのは気に触るが、人格とその人の技術に対する評価とはまた別だ。
サイトが知る魔法とはすなわちブリミルが使う魔法であり、目の前のおばさんが使う魔法とは随分と異なっている。
錬金と言われたそれはサイトから見れば革命だった。
化学反応を無視して金属を違う金属に変換する、それは古のサイトの世界の錬金術たちが夢見た境地である。
アインシュタインも狂喜してこの魔法を見学することだろう。
聞けばスクウェアとかいうメイジなら金を練成する事すら可能なようだ。
この世界の通貨価値の変動はどうなっているのだろう?
そんな疑問を持つサイトだった。
サーシャから教えてもらったエルフの薬も大概、現代社会の常識を覆すものだったが、この錬金もスゴイと思う。
「ところでスクエアってなんじゃらほい?」
傍らに座るルイズに尋ねる。
ルイズは「そんなことも知らないの?」っと、知識をひけらかす優越感に酔いつつ答えてくれた。
「メイジは属性をかけ合わせられる数でレベルが変わるのよ!たった一つだけの属性なら『ドット』、二つの属性なら『ライン』、三つなら『トライアングル』、四つなら『スクウェア』って風にね!」
「へえ~、ならあのおばさんは三つの属性が重ねられるのか……」
おばさんはトライアングルらしい。
ブリミルはどうだっただろうか?
あいつは別に魔法を重ね合わせるなんて事をしていなかっただろうから、おそらく『ドット』のメイジなのだろう。
すごい魔法を使っていたけど、レベル的には一番下である。
今度会ったらからかってやろうと思うサイトだった。
おばさんは練成した金属を皆に指し示しながら、誰か錬金に挑戦しませんかと生徒の中から挑戦者を選ぼうとしている。
その目が目下のところサイトのご主人様を自称するルイズを捉えた。
「ではヴァリエール、あなたが挑戦してみてください」
それとともに教室が震えた。
何だ、何だとサイトは周りを見渡す。
他の生徒たちが何故か青い顔をして、ブルブルと震えていた。
視界の隅では青い髪の小さな少女が不似合いな大きな杖を抱えながら、教室から退出したのが見えた。
わけのわからん状態にサイトは困惑する。
そんな中、話は進んだ。
赤毛の少女、色気ムンムンのキュルケが勢い込んで立ち上がっておばさんに抗議する。
「ミス・シュヴルーズ、もしやルイズの講義を請け負った事がないんですか?」
「はい、今講義が初めてですが……」
そう言うおばさんにキュルケはなるほど頷いて、おばさんに言った。
「ならば、ルイズに魔法を使わせようなんてはた迷惑な事はおやめください!ろくな事になりませんわよ!」
そうだそうだと教室中から野次が飛ぶ。
ゼロのルイズとか爆発のルイズとかサイトにはよくわからない、おそらくは不名誉なあだ名が連呼される。
それに隣にいるルイズが切れた。
ただでさえ沸点が低そうなのに、こんな風に周りから野次られれば急速沸騰もするだろう。
そして、何故かルイズはサイトの首筋をむんずと掴んで教壇へと続く階段をゆっくりと下りていく。
「なぁ、なんで俺を連れて行くんだ?」
別に近くでこの自分を召喚した少女の魔法を見るのに文句は無いのだが、何か危険な香りがするのも確かなのだ。
視界の隅ではキュルケが気の毒そうな顔で自分を見ているし、周りの生徒たちもまるで売られていく子羊を見るかのような目でサイトを見ている。
嫌な予感もここに極まれりである。
「あんたはご主人様の偉大さがわかってないみたいだから、ここで私の魔法を見せてあげるわ!」
ルイズの目が燃えていた。
なんかすごいことになりそうだと思うサイトだった。
あのヴァリヤーグの戦いに望んだブリミルも時折、こんな決心を秘めた瞳で戦に望んだものだった。
学校の授業でそんな瞳をするルイズはどこかおかしい気もするが、そこはスルーするべきだろう。
とにかくルイズはサイトに認められようと躍起になっている。
血筋とかそんな人の本質の無いところでサイトを従わせようとする人間に用は無いが、自分が出来る事で何かを示して度量を示そうとする人間は嫌いじゃない。
ならばその偉大さを見せてもらおうじゃないか!
大人しく引きずられながらそんな風に思う。
遂に教壇に到着する。
ルイズは懐からステッキのような杖を取り出した。
魔法少女ルイズ、そんな言葉が頭に浮かぶ。
おばさんがルイズに緊張せず落ち着いてやりなさいなどというアドバイスをしている。
サイトはルイズの魔法を良く見ようと、教壇に齧り付いていた。
正直、さっきの錬金は遠目のものだったし、出来るなら至近の距離で錬金を見てみたいとは思っていたのだ。
そして、ルイズの詠唱が始まった。
やはりルイズとサイトには使い魔の契約が結ばれているようで、左腕のガンダールブのルーンからサイトに力が供給される。
一心に呪文を詠唱するルイズは凛としてなかなかカッコよかった。
これで胸があれば文句はないのにそう思うサイトだった。
そしてルイズの詠唱が頂点に達したとき、サイトは懐かしい呪文の発動に目を丸くした。
「エクスプロージョン?」
ルイズが杖を振り下ろすと同時に、周囲の魔力が懐かしきブリミルの得意呪文となって顕現する。
鼓膜を叩き割るような爆裂音とともに、齧り付いてルイズの魔法を見ていたサイトは爆発の魔法に容易く飲み込まれた。
体が爆発の衝撃で吹き飛ぶのを歯を食いしばって耐える。
すさまじい高熱で体が炭化してしまうのを歯を食いしばって耐える。
これぐらいの爆発に耐えられないようならサイトはハルケギニア大冒険で何度も死んでいる。
体がバラバラになって塵一つなくならない限り、サイトの体は第四のルーンの効果で瞬く間に回復する。
いうなればサイトは魔人ブーだ。
この程度の爆発では死なんよ!
わっはっはっはっ!と高笑いしたいところだが目の前の爆発の余波で炭まみれになり、ケホケホと咳をしている犯人をにらみつける。
これでルイズがサイトを殺害しようとしたのは三度目である。
犯人はお前だというのももったいないくらい、明白な犯行である。
しかも衆人環視の中、白昼堂々の計画殺人、手段は錬金に偽装した爆発魔法「エクスプロージョン」、授業の失敗に見せかけた狡猾な犯行である。
動機は貧乳と言われたことを逆恨みしたからか?
だが、ルイズが貧乳なのはサイトでせいではない。
貧乳に生まれた己の境遇を嘆くなら、こんな犯行をせずにバストアップにでも励めばよかったものを、残念だ、残念だよ、ルイズ君。
サイトの頭の中で「貧乳ルイズ、有罪!逆転裁判でも有罪確定!」と一面の見出しを飾っている間に、爆発で吹き飛ばされたおばさんがヨロヨロと立ち上がった。
ヤケドもひどいがおそらく爆発の衝撃で骨折もしたのだろう顔をクチャクチャにゆがめてなにやら叫んでいる。
それはルイズに対して教室の後片付けをしろと言うのを遠まわしなねちっこい言い回しで言いつけるものだったというのに気づいたのは、おばさんが担架で運ばれていき、教室から生徒が尽く去っていき、いつの間にかちりとりを持たされ何故か掃除を手伝わされてからだった。
記されなかった使い魔 その三
吹き飛んだ教壇の替えを片手で抱えながら、サイトは首を捻っていた。
掃除も終盤に差し掛かり、教壇が無くては不味かろうと職員室を探して、指定された空きの教室からいらない教壇をわざわざ運んでいるサイトである。
どうもルイズはサイトを計画殺人しようとしたわけではないらしい。
掃除の間中、歯を食いしばって涙をこらえているのを見ればサイトも計画殺人について問いとめるのを躊躇ってみたりもしたのだが、ルイズのほうがペラペラとしゃべってくれた。
「あんたも、私をゼロって馬鹿にするの?」
何のことかわからないサイトは黙っていたのだが、ルイズは何を誤解したのか涙を流しながら一方的に言い募った。
「なによ!みんなしてゼロ、ゼロって人のことを馬鹿にして。私が何したって言うのよ!私は努力してるわ、誰よりも魔法の知識について勉強してるし、誰よりも魔法を真摯に学んでるわ!私は、私は皆よりも頑張っているのに、どうして私は魔法が使えないのよ、どうしてみんなみんな爆発するのよ!どうして初めて成功した魔法で、あんたみたいな平民が呼び出されるのよ!どうしてあんたは他の使い魔みたいに私に従ってくれないのよ、どうして、どうしてよ、うわ~~~~~~ん!」
そう一方的に言い捨ててルイズは掃除を途中に教室を飛び出していった。
人に掃除を押し付けて逃げたのか?
そう疑うサイトだったが、あの涙は本物だったと信じたい。
サーシャが女は普通に嘘で涙を流せるから、女の涙には注意しなさいと教えてくれたが、さすがにあんな守備範囲外の少女が嘘であんな風に泣くとは思いたくない。
ということはあのルイズという少女は本当に錬金するつもりで、サイトを爆殺しかけたということになる。
魔法が使えないからゼロというあだ名で馬鹿にされているようだが、「エクスプロージョン」を使えるのだから大したものだろう。
サイトがみたこの学校のメイジはブリミルの足元にも及んでいない。
そのブリミルと同じ魔法が使えるのだから、ルイズは実は才能があるのではないだろうか?
けれど錬金しようとして「エクスプロージョン」を唱えてしまうというのは、なにか致命的な間違いをルイズはしている気がする。
そこを解決すればルイズも魔法が使えるのかもしれないが、サイトにそれを指摘するつもりはなかった。
だって貧乳の少女にそんなことを指導してもメリットが無い。
サイトはルイズの使い魔になったつもりはないし、心情的にはルイズは他人でしかない。
そんな他人に苦労して骨を折ってやるのはごめんこうむる。
しかし、そこでサイトに天啓が降りて来た。
ルイズは顔は悪くない。
ということはルイズの姉妹に巨乳の美人でもいないだろうか?
これは……!とサイトの頭が高速回転する。
ルイズはあの体系だ、彼女の姉妹に過度の期待をするのは愚かしい事かもしれない。
だが、ルイズの知り合いを紹介してもらうというのはどうだ?
これはいけんるんじゃ無いか?
いや、いけるだろ!
ルイズは公爵家の娘であるといった。
ならば家にはメイドとかいるのではなかろうか?
メイドの巨乳美人に囲まれてチヤホヤされるというのはスゴイ楽しいんじゃないか?
あの秋葉原にでも行かなきゃお目にかからない本物のメイドとアバンチュールを楽しめるんじゃないか?
いや秋葉の奴はある意味偽者だけど、こっちは本物のメイドだ、貴重価値は比べもにもならん。
これはいける!
ルイズに色々アドバイスをして女の子を紹介してもらおう!
俺の将来ウハウハじゃね?と高笑いしたくなったサイトの視界の隅に件のメイドが映ったのはそのときだった。
そこは食堂のようで広い室内に生徒たちが座って思い思いに食を取っていた。
そういえば今日は何も食べてないな思うサイトだったから、フラフラと教壇を抱えながら食堂のほうに入っていった。
腹が減ったんで近くに座っていた小太りの少年に話しかけた。
「なぁ、その肉ちょっとくれね?」
話しかけられた少年はサイトを見て、ルイズが召喚した平民かと馬鹿にしたような笑みを漏らしたが、サイトが片手で重そうな教壇を抱えているのを見て、ギョッとして卑屈に笑って肉を差し出してきた。
それに齧り付きながらサイトはメイドのほうを見た。
卑屈に笑う少年が目に入ったが、こいつ何怯えてるんだろう?そんな風にしか思えないサイトだった。
メイドはなにやらペコペコと頭を下げている。
その頭を下げる少年は金髪のかなりナルシスが入った優男だった。
バラを口に銜えて髪をかきあげたりしているところなんか、気持ちが悪いくらい自己陶酔が見て取れる。
なんであのメイドの子はあんな奴に頭を下げているんだろう?
素直にサイトは卑屈に笑う小太りの少年に尋ねてみた。
「なぁ、なんであのメイドの子、あのナルシス君に頭下げてるんだ?」
そう尋ねると小太りの少年はなにやら憤ったようにサイトに答えた。
「あぁ、ギーシュの奴があの子に八つ当たりしてるんだ。」
何々、それは聞き捨てならんと詳しい事を聞き出すサイト。
なんとあのナルシス君、二股をしていたらしい。
クソ、ブリミルもそうだがどうしてあんな優男がもてるんだ、かなりサイトはイラァと来た。
で、食事中に本命の少女から送られた香水を落として、それをあのメイドの子が拾ってナルシス君に返したらしい。
それを運悪く浮気していた少女に見咎められ、で、騒ぎのせいで本命の少女に浮気がばれたと、そういうことらしい。
「それで今の話の何処にあのメイドの子が責められる理由があるんだ?」
「だから、八つ当たりだって。浮気がばれて二人に振られたから、それをメイドが香水を拾ったせいだって八つ当たりしてるのさ!全く、貴族の風上にも置けない奴さ!断じて彼女がいたギーシュの奴が羨ましくて言ってるんじゃないんだからね!」
最後ツンデレっぽいのが気持ち悪い。
でもそっか、二股した八つ当たりにメイドをいじめてるんだ。
そっか、そっか……ふざけんなこのクソ野郎!
サイトは今だ、女の子と付き合ったこともないというのに二股をかけて二人の少女たちと付き合ったあげく、これからサイトが出来るかもしれないと思っていたメイドのお仕置きプレイをこんな衆人環視の中で行うなんて、なんてうらやま・・・もといけしからん!
天誅じゃ、他の誰が許そうともこのサイト様が許しはしない。
ふと片手を見るサイト、そこにはかなり重い教壇。
サイトにしてみれば軽いものだが、普通の人間なら10人単位でしか運べないそんな教壇。
ふむ、とサイトは頷き、とりあえずは教壇を投げつけてみた。
教室の中に使い魔はサイト一人になってしまった。
失礼な!サイトはもう人の大事にしているものを食べる気はない、それはもうこりた。
ただ美味しそうだなと見るぐらいは許して欲しいが……
そうして教室に使い魔が一人いると目だってしまったのだろう小太りのおばさんは、サイトを見て人を使い魔にするなど珍しいと珍獣がいるかのごとき目で見てくれたのだ。
しかし、珍しいというがサイトは人を使い魔にした男を知っている。
しかも、サイトを入れて四人も、ゆえに自分が変り種だとは思わなかった。
人のことを珍獣がごとく見たのは気に触るが、人格とその人の技術に対する評価とはまた別だ。
サイトが知る魔法とはすなわちブリミルが使う魔法であり、目の前のおばさんが使う魔法とは随分と異なっている。
錬金と言われたそれはサイトから見れば革命だった。
化学反応を無視して金属を違う金属に変換する、それは古のサイトの世界の錬金術たちが夢見た境地である。
アインシュタインも狂喜してこの魔法を見学することだろう。
聞けばスクウェアとかいうメイジなら金を練成する事すら可能なようだ。
この世界の通貨価値の変動はどうなっているのだろう?
そんな疑問を持つサイトだった。
サーシャから教えてもらったエルフの薬も大概、現代社会の常識を覆すものだったが、この錬金もスゴイと思う。
「ところでスクエアってなんじゃらほい?」
傍らに座るルイズに尋ねる。
ルイズは「そんなことも知らないの?」っと、知識をひけらかす優越感に酔いつつ答えてくれた。
「メイジは属性をかけ合わせられる数でレベルが変わるのよ!たった一つだけの属性なら『ドット』、二つの属性なら『ライン』、三つなら『トライアングル』、四つなら『スクウェア』って風にね!」
「へえ~、ならあのおばさんは三つの属性が重ねられるのか……」
おばさんはトライアングルらしい。
ブリミルはどうだっただろうか?
あいつは別に魔法を重ね合わせるなんて事をしていなかっただろうから、おそらく『ドット』のメイジなのだろう。
すごい魔法を使っていたけど、レベル的には一番下である。
今度会ったらからかってやろうと思うサイトだった。
おばさんは練成した金属を皆に指し示しながら、誰か錬金に挑戦しませんかと生徒の中から挑戦者を選ぼうとしている。
その目が目下のところサイトのご主人様を自称するルイズを捉えた。
「ではヴァリエール、あなたが挑戦してみてください」
それとともに教室が震えた。
何だ、何だとサイトは周りを見渡す。
他の生徒たちが何故か青い顔をして、ブルブルと震えていた。
視界の隅では青い髪の小さな少女が不似合いな大きな杖を抱えながら、教室から退出したのが見えた。
わけのわからん状態にサイトは困惑する。
そんな中、話は進んだ。
赤毛の少女、色気ムンムンのキュルケが勢い込んで立ち上がっておばさんに抗議する。
「ミス・シュヴルーズ、もしやルイズの講義を請け負った事がないんですか?」
「はい、今講義が初めてですが……」
そう言うおばさんにキュルケはなるほど頷いて、おばさんに言った。
「ならば、ルイズに魔法を使わせようなんてはた迷惑な事はおやめください!ろくな事になりませんわよ!」
そうだそうだと教室中から野次が飛ぶ。
ゼロのルイズとか爆発のルイズとかサイトにはよくわからない、おそらくは不名誉なあだ名が連呼される。
それに隣にいるルイズが切れた。
ただでさえ沸点が低そうなのに、こんな風に周りから野次られれば急速沸騰もするだろう。
そして、何故かルイズはサイトの首筋をむんずと掴んで教壇へと続く階段をゆっくりと下りていく。
「なぁ、なんで俺を連れて行くんだ?」
別に近くでこの自分を召喚した少女の魔法を見るのに文句は無いのだが、何か危険な香りがするのも確かなのだ。
視界の隅ではキュルケが気の毒そうな顔で自分を見ているし、周りの生徒たちもまるで売られていく子羊を見るかのような目でサイトを見ている。
嫌な予感もここに極まれりである。
「あんたはご主人様の偉大さがわかってないみたいだから、ここで私の魔法を見せてあげるわ!」
ルイズの目が燃えていた。
なんかすごいことになりそうだと思うサイトだった。
あのヴァリヤーグの戦いに望んだブリミルも時折、こんな決心を秘めた瞳で戦に望んだものだった。
学校の授業でそんな瞳をするルイズはどこかおかしい気もするが、そこはスルーするべきだろう。
とにかくルイズはサイトに認められようと躍起になっている。
血筋とかそんな人の本質の無いところでサイトを従わせようとする人間に用は無いが、自分が出来る事で何かを示して度量を示そうとする人間は嫌いじゃない。
ならばその偉大さを見せてもらおうじゃないか!
大人しく引きずられながらそんな風に思う。
遂に教壇に到着する。
ルイズは懐からステッキのような杖を取り出した。
魔法少女ルイズ、そんな言葉が頭に浮かぶ。
おばさんがルイズに緊張せず落ち着いてやりなさいなどというアドバイスをしている。
サイトはルイズの魔法を良く見ようと、教壇に齧り付いていた。
正直、さっきの錬金は遠目のものだったし、出来るなら至近の距離で錬金を見てみたいとは思っていたのだ。
そして、ルイズの詠唱が始まった。
やはりルイズとサイトには使い魔の契約が結ばれているようで、左腕のガンダールブのルーンからサイトに力が供給される。
一心に呪文を詠唱するルイズは凛としてなかなかカッコよかった。
これで胸があれば文句はないのにそう思うサイトだった。
そしてルイズの詠唱が頂点に達したとき、サイトは懐かしい呪文の発動に目を丸くした。
「エクスプロージョン?」
ルイズが杖を振り下ろすと同時に、周囲の魔力が懐かしきブリミルの得意呪文となって顕現する。
鼓膜を叩き割るような爆裂音とともに、齧り付いてルイズの魔法を見ていたサイトは爆発の魔法に容易く飲み込まれた。
体が爆発の衝撃で吹き飛ぶのを歯を食いしばって耐える。
すさまじい高熱で体が炭化してしまうのを歯を食いしばって耐える。
これぐらいの爆発に耐えられないようならサイトはハルケギニア大冒険で何度も死んでいる。
体がバラバラになって塵一つなくならない限り、サイトの体は第四のルーンの効果で瞬く間に回復する。
いうなればサイトは魔人ブーだ。
この程度の爆発では死なんよ!
わっはっはっはっ!と高笑いしたいところだが目の前の爆発の余波で炭まみれになり、ケホケホと咳をしている犯人をにらみつける。
これでルイズがサイトを殺害しようとしたのは三度目である。
犯人はお前だというのももったいないくらい、明白な犯行である。
しかも衆人環視の中、白昼堂々の計画殺人、手段は錬金に偽装した爆発魔法「エクスプロージョン」、授業の失敗に見せかけた狡猾な犯行である。
動機は貧乳と言われたことを逆恨みしたからか?
だが、ルイズが貧乳なのはサイトでせいではない。
貧乳に生まれた己の境遇を嘆くなら、こんな犯行をせずにバストアップにでも励めばよかったものを、残念だ、残念だよ、ルイズ君。
サイトの頭の中で「貧乳ルイズ、有罪!逆転裁判でも有罪確定!」と一面の見出しを飾っている間に、爆発で吹き飛ばされたおばさんがヨロヨロと立ち上がった。
ヤケドもひどいがおそらく爆発の衝撃で骨折もしたのだろう顔をクチャクチャにゆがめてなにやら叫んでいる。
それはルイズに対して教室の後片付けをしろと言うのを遠まわしなねちっこい言い回しで言いつけるものだったというのに気づいたのは、おばさんが担架で運ばれていき、教室から生徒が尽く去っていき、いつの間にかちりとりを持たされ何故か掃除を手伝わされてからだった。
記されなかった使い魔 その三
吹き飛んだ教壇の替えを片手で抱えながら、サイトは首を捻っていた。
掃除も終盤に差し掛かり、教壇が無くては不味かろうと職員室を探して、指定された空きの教室からいらない教壇をわざわざ運んでいるサイトである。
どうもルイズはサイトを計画殺人しようとしたわけではないらしい。
掃除の間中、歯を食いしばって涙をこらえているのを見ればサイトも計画殺人について問いとめるのを躊躇ってみたりもしたのだが、ルイズのほうがペラペラとしゃべってくれた。
「あんたも、私をゼロって馬鹿にするの?」
何のことかわからないサイトは黙っていたのだが、ルイズは何を誤解したのか涙を流しながら一方的に言い募った。
「なによ!みんなしてゼロ、ゼロって人のことを馬鹿にして。私が何したって言うのよ!私は努力してるわ、誰よりも魔法の知識について勉強してるし、誰よりも魔法を真摯に学んでるわ!私は、私は皆よりも頑張っているのに、どうして私は魔法が使えないのよ、どうしてみんなみんな爆発するのよ!どうして初めて成功した魔法で、あんたみたいな平民が呼び出されるのよ!どうしてあんたは他の使い魔みたいに私に従ってくれないのよ、どうして、どうしてよ、うわ~~~~~~ん!」
そう一方的に言い捨ててルイズは掃除を途中に教室を飛び出していった。
人に掃除を押し付けて逃げたのか?
そう疑うサイトだったが、あの涙は本物だったと信じたい。
サーシャが女は普通に嘘で涙を流せるから、女の涙には注意しなさいと教えてくれたが、さすがにあんな守備範囲外の少女が嘘であんな風に泣くとは思いたくない。
ということはあのルイズという少女は本当に錬金するつもりで、サイトを爆殺しかけたということになる。
魔法が使えないからゼロというあだ名で馬鹿にされているようだが、「エクスプロージョン」を使えるのだから大したものだろう。
サイトがみたこの学校のメイジはブリミルの足元にも及んでいない。
そのブリミルと同じ魔法が使えるのだから、ルイズは実は才能があるのではないだろうか?
けれど錬金しようとして「エクスプロージョン」を唱えてしまうというのは、なにか致命的な間違いをルイズはしている気がする。
そこを解決すればルイズも魔法が使えるのかもしれないが、サイトにそれを指摘するつもりはなかった。
だって貧乳の少女にそんなことを指導してもメリットが無い。
サイトはルイズの使い魔になったつもりはないし、心情的にはルイズは他人でしかない。
そんな他人に苦労して骨を折ってやるのはごめんこうむる。
しかし、そこでサイトに天啓が降りて来た。
ルイズは顔は悪くない。
ということはルイズの姉妹に巨乳の美人でもいないだろうか?
これは……!とサイトの頭が高速回転する。
ルイズはあの体系だ、彼女の姉妹に過度の期待をするのは愚かしい事かもしれない。
だが、ルイズの知り合いを紹介してもらうというのはどうだ?
これはいけんるんじゃ無いか?
いや、いけるだろ!
ルイズは公爵家の娘であるといった。
ならば家にはメイドとかいるのではなかろうか?
メイドの巨乳美人に囲まれてチヤホヤされるというのはスゴイ楽しいんじゃないか?
あの秋葉原にでも行かなきゃお目にかからない本物のメイドとアバンチュールを楽しめるんじゃないか?
いや秋葉の奴はある意味偽者だけど、こっちは本物のメイドだ、貴重価値は比べもにもならん。
これはいける!
ルイズに色々アドバイスをして女の子を紹介してもらおう!
俺の将来ウハウハじゃね?と高笑いしたくなったサイトの視界の隅に件のメイドが映ったのはそのときだった。
そこは食堂のようで広い室内に生徒たちが座って思い思いに食を取っていた。
そういえば今日は何も食べてないな思うサイトだったから、フラフラと教壇を抱えながら食堂のほうに入っていった。
腹が減ったんで近くに座っていた小太りの少年に話しかけた。
「なぁ、その肉ちょっとくれね?」
話しかけられた少年はサイトを見て、ルイズが召喚した平民かと馬鹿にしたような笑みを漏らしたが、サイトが片手で重そうな教壇を抱えているのを見て、ギョッとして卑屈に笑って肉を差し出してきた。
それに齧り付きながらサイトはメイドのほうを見た。
卑屈に笑う少年が目に入ったが、こいつ何怯えてるんだろう?そんな風にしか思えないサイトだった。
メイドはなにやらペコペコと頭を下げている。
その頭を下げる少年は金髪のかなりナルシスが入った優男だった。
バラを口に銜えて髪をかきあげたりしているところなんか、気持ちが悪いくらい自己陶酔が見て取れる。
なんであのメイドの子はあんな奴に頭を下げているんだろう?
素直にサイトは卑屈に笑う小太りの少年に尋ねてみた。
「なぁ、なんであのメイドの子、あのナルシス君に頭下げてるんだ?」
そう尋ねると小太りの少年はなにやら憤ったようにサイトに答えた。
「あぁ、ギーシュの奴があの子に八つ当たりしてるんだ。」
何々、それは聞き捨てならんと詳しい事を聞き出すサイト。
なんとあのナルシス君、二股をしていたらしい。
クソ、ブリミルもそうだがどうしてあんな優男がもてるんだ、かなりサイトはイラァと来た。
で、食事中に本命の少女から送られた香水を落として、それをあのメイドの子が拾ってナルシス君に返したらしい。
それを運悪く浮気していた少女に見咎められ、で、騒ぎのせいで本命の少女に浮気がばれたと、そういうことらしい。
「それで今の話の何処にあのメイドの子が責められる理由があるんだ?」
「だから、八つ当たりだって。浮気がばれて二人に振られたから、それをメイドが香水を拾ったせいだって八つ当たりしてるのさ!全く、貴族の風上にも置けない奴さ!断じて彼女がいたギーシュの奴が羨ましくて言ってるんじゃないんだからね!」
最後ツンデレっぽいのが気持ち悪い。
でもそっか、二股した八つ当たりにメイドをいじめてるんだ。
そっか、そっか……ふざけんなこのクソ野郎!
サイトは今だ、女の子と付き合ったこともないというのに二股をかけて二人の少女たちと付き合ったあげく、これからサイトが出来るかもしれないと思っていたメイドのお仕置きプレイをこんな衆人環視の中で行うなんて、なんてうらやま・・・もといけしからん!
天誅じゃ、他の誰が許そうともこのサイト様が許しはしない。
ふと片手を見るサイト、そこにはかなり重い教壇。
サイトにしてみれば軽いものだが、普通の人間なら10人単位でしか運べないそんな教壇。
ふむ、とサイトは頷き、とりあえずは教壇を投げつけてみた。
テーマ : 自作小説(二次創作)
ジャンル : 小説・文学