記されなかった使い魔 その十四
大空に舞い上がった韻竜の上でサイトは正直困惑していた。
この幼女いったいサイトに何の用なのだろうか?
二人っきりで密談とか困る。
あれか。告白とかされてしまうのか?
告白とかされたらもっと困る。
だって相手は無乳に近い貧乳少女、タバサ。
ごめん、俺巨乳しか興味ないんだ。
サイトが一人でどうやってタバサの告白を断ろうか考えていると、タバサが言った。
この幼女いったいサイトに何の用なのだろうか?
二人っきりで密談とか困る。
あれか。告白とかされてしまうのか?
告白とかされたらもっと困る。
だって相手は無乳に近い貧乳少女、タバサ。
ごめん、俺巨乳しか興味ないんだ。
サイトが一人でどうやってタバサの告白を断ろうか考えていると、タバサが言った。
「頼みがある」
ほらキターーーー!
うわーーー、でも女の子に告白されるのって実は初めてじゃないか?
断るしか選択はないとはいえ貴重な体験じゃ?と内心ドキドキしていたサイトを見ながらタバサが続ける。
「シルフのこと秘密にしてほしい」
そう言ってタバサは風竜の頭を杖でぽかりと叩いた。
「きゅいきゅい、痛いのね」
「自業自得」
あれ~~~?もしかしてサイトは恥ずかしい奴なのでは?
疑問の余地なく恥ずかしい奴であった。
告白とかいう雰囲気は全くなかった、ただデルフも言ったように風韻竜は絶滅したと思われている種族だったからだろう口止めが目的だったのだ。
一人告白じゃないかとドキドキしていたサイトは恥ずかしい奴だった。
そもそもタバサには特に口説くとかアピールしてないのだから、彼女がサイトに惚れるとかありえないのだ。
最近、マチルダとかキュルケとかシエスタとかテファに好印象だったものだから調子に乗ってしまっていたようだ、反省しなければならない。
サイトが羞恥と自分の馬鹿さ加減に顔を青くしたり赤くしたりしていると、タバサが不安そうに尋ねてくる。
「ダメ?」
子供にこんな目をさせては大人失格である。
でもま、目の前の少女も相当だ。
否定されれば即座に襲いかかろうと杖に魔力を籠め、足を使って風竜に合図を送っているのだから侮れない。
さすがにサイトが見た学院生の中では一番の魔法使いである。
ここでサイトが拒否すれば風竜はサイトを振りおろし、タバサは即座に致死の魔法を放って来るだろう。
痛いのはやだし、別段他人に話そうとは思わないので黙っていることを約束する。
「いいぜ、黙っとく」
「ありがとう」
そういうとタバサは服の内をゴソゴソとやって一つのナイフを取り出した。
「口止め料」
そう言ってナイフを押しつけてくる。
別にそんなものくれなくても黙っているのだが、折角の好意であるありがたく貰っておこうとサイトが手を伸ばすとデルフが声を上げた。
「待ちな、相棒。折角の御同輩なんだ、まず挨拶してもらおうぜ」
なんのことだかわからず困惑するサイトだが、それもすぐに驚愕の顔に変わった。
「まさか俺の正体が初見で見破られるとはな……」
「ナァ、ナイフがしゃべった!」
デルフリンガー以外のインテリジェンス系アイテムとは面識がなかったサイトはしゃべるナイフに驚く。
しかしよく考えてみれば今更である。
自分の相棒はおしゃべり剣デルフリンガーなのだから……
「俺の名は地下水、あんたの名は?」
「聞いて驚け、伝説の魔剣デルフリンガー様とは俺のことよ!」
使い手を無視して剣同士で挨拶を先にするなんて何様だよお前ら、そう思うサイトだったが今の会話には聞き逃せない言葉がった。
「ちょ、デルフお前、魔剣ってちょっと……俺を笑い殺す気かよ!」
ゲラゲラ笑うサイトにデルフが陽気に答える。
「ひで~の、相棒!でも世間の評価では俺、魔剣なんだぜ?神の左手ガンダールブの左手の武器伝説の魔剣って~のが俺の公称プロフィ~ルなんだぜ!」
「公称っておま……」
ゲラゲラ笑うサイトとちゃんちゃらおかしいと世間の自分への評価を皮肉るデルフの笑い声。
無視された形の地下水は矜持が傷つけられたのか、声を上げた。
「俺を無視するな!」
そう言うとどうやったのか一人でに浮かんでサイト目掛けて飛んできた。
ヒュンと音をたてて鋭くサイトを突き刺す軌道を描いたそれをサイトは軽くキャッチする。
それを想定していたように地下水はニヤリと笑い声を上げた。
「俺を握ったな?」
それと同時にサイトに奇妙な違和感が感じられる。
地下水がハッカーのようにサイトをハッキングして、サイトの主体を奪おうとしているのである。
だが、精神の防御に関してはサイトにはブリミルによる厳重な防御が施されている。
このような攻勢を想定してされた防御策ではなかったが、ファイヤーウォールのように幾重にも施されたそれは地下水のサイトへの侵攻を表層意識にさえ触れられない段階で押しとどめていた。
「なぁ、なんなんだお前?俺が操る取っ掛かりさえ掴めないなんてありえないぞ!」
サイトはなにをされたのかよくわからなかったのだが、目の前のナイフの言い分でサイトを操ろうとしたということだけは理解した。
ふざけんな!
人の意識を勝手に乗っ取ろうとするなんて、精神に対するレイプと同じである。
断じて許す事はできないと空に向かって力いっぱい投げ上げた。
キラリンと光って大気圏を抜けて、サイトが現代へ帰って以来六千年ぶりに地下水は宇宙旅行へ旅立った。
「あ~ぁ、もったいね~。長らく見なかったご同輩なのに……」
デルフが残念そうに呟くが、自分も同じ目にあってみればいい、女の人格ならまだ許せもしたが、明らかに男の人格でサイトに侵入しようとしてきたのだ、万死に値するのは言うまでもない。
だが地下水はサイトにタバサが口止め料として渡したもので、渡した本人の前で星に変えてしまったのは少々ばつが悪かった。
「あっ、悪い。思わずほうり投げちゃった……」
「いい……他人を乗っ取らないようにしつけしたつもりだったけどまだ甘かった。私の落ち度……他の口止め料を用意する」
そこまでしてもらわなくてもサイトはしゃべるつもりはなかったが、どこぞサーティーンなヒットマンのような雰囲気を持つタバサのことだ、金銭を伴った契約のほうが安心できるのかもしれないとサイトは納得しておいた。
こんな少女のうちからそんな雰囲気を持っているタバサがかなり心配なので、こんどキュルケたちを誘って遊びにでも連れ出してやろうと思う。
子供はもっと楽しそうに日々を過ごすべきなのだ、自分の精神年齢もそうとう低いくせにそんな風にタバサの無乳を見て子供と判断するサイトだった。
記されなかった使い魔 その十四
宿へと舞い戻ったサイトたちは顔を真っ赤にして宿の外で仁王立ちしているルイズに迎えられた。
タバサの風竜シルフィードは空へと舞い上がり自身でねぐらを探すらしい。
そしてタバサはルイズの横を素通りして、宿へ入っていく。
そしてルイズもそれを一瞥することなく見逃した。
ルイズのランランと輝く瞳はサイトに向かってロックオンされている。
そのままビームでも出そうである。
「やっと帰ってきたわね、馬~鹿~犬~!」
サイトは帰ってきたことを猛烈に後悔していた。
これは半殺しで済みそうにない。
八割殺しぐらいは覚悟しなければならないか?
「タバサと二人でなにしてたわけ?」
怨念がこもってそうな声である。
婚約者をほったらかしにしても、使い魔のしつけを優先するのがルイズ・クオリティー。
ブルブル震えてサイトはしどろもどろに言い訳した。
「いや、その、あの、何でもなかったよ?」
まさか秘密にするといった事を舌の根も乾かぬうちから口に出すわけにもいかず、かといってうまい言い訳などサイトに考え付くわけもない。
不審すぎるサイトにルイズの目がさらにランランと煌くが、不意に沈静した。
「そうわかったわ、あんたを信じてあげる」
え?
サイトは一瞬何を言われたかわからず呆然とした。
ルイズがサイトが彼女を無視して女の子と二人、どこかに出かけたというのに何も暴力をふるわないなんて、それは今までのルイズとサイトの関係からしてありえなかった。
ルイズはいつだって理不尽にサイトに暴力を振るう、ひどいご主人であったはずなのだ。
それが唐突にサイトを叱らなかった。
これは何かある。
サイトは警戒した。
「あのね、信じてあげるから……相談を聞いて?」
人差し指を突き合わせながら上目遣いでサイトにルイズが迫る。
「あのね、サイト。ワルド様が今晩、一緒の部屋に泊まろうというの……」
つまりワルド氏は今晩ルイズと合体するつもりなんだな?
そうサイトはワルドの目的を推測する。
一万と二千年前から、男が女を一緒の部屋で寝ようと誘うことは、”今夜一緒に合体したい”ということと同意である。
婚約者同士なのだから、別に問題ないのではと思う。
サイトにはルイズが何を言いたいのかわからなかった。
ルイズが話を続ける。
「でもね、結婚する前から関係を持つなんて、立派な貴族の行いではないと思うの……サイトはどう思う?」
貴族としてどうか?
そう聞かれもサイトはどうこたえてよいかわからない。
サイトは貴族じゃないのだから貴族としての意見を聞かれても答えられるわけがない。
だからサイトは自分の基準で考えを述べた。
つまり愛があるかないかだ、あるいは好きか嫌いかでもいい。
サイト自身、ほとんど経験はない、はっきり言えばマチルダとの一件だけで、その記憶もないが……マチルダと関係を持ったのは、根底に彼女が好きだという気持ちがあったはずなのである。
いくら彼女がおっぱい大きな美人でも、嫌いな女とはサイトは関係を持てない。
酒で記憶も曖昧だが、きっとそうだったはずなのだ。
「貴族としてどうかとか、そういう問題じゃないんじゃないか?問題は、お前がワルドさんを好きかどうかだと思うけど……」
サイトがそういうとルイズははっとしたような顔をした。
そして俯いて何やら考えている。
しばらくそうするルイズをサイトは見守っていたが、ルイズはふと顔をあげてサイトの顔を見つめた後、ちょっと赤くなって、首を振り、結局わからないと呟いた。
「わからない、わからないわ。ワルド様は私の初恋の人で憧れだった人だけど……」
ルイズの呟きにサイトも自身の初恋を思い出す。
サイトの初恋は母親のサーシャだった。
彼女が好きで憧れて、でもそれは母親に対する家族愛も混ざっていて、複雑に交じり合ったその感情は、サイトを苦しませたものだ。
結局、そんなのは分けることなんかできない、サイトはサーシャが女性として好きで、母親としても愛していると自身で無理やり答えを出したが、今考えると相当無理がある考えである。
初恋というものはそれがどんなものであれ、そのあとの恋愛に尾を引いたりする。
サイト自身、サーシャによく似たオッパイの大きな美人が好きなのがその証拠だ。
ルイズも少なからず自身の恋愛には憧れの初恋の人の面影を追っていると思うのだが、本人が自身の婚約者なのだからそのまま合体してしまえばいいのにと思う。
少なくとも迷っている時点で、彼を嫌いではないようであるし、ここは男としてワルド氏を応援してやることにした。
それには結婚すればルイズも婚約者に構うのに夢中になり、サイトに構ってばかりにはいられなくなるだろうという打算が含まれていた。
「初恋だったんだろ?ならやっぱりお前はワルドさんのことが好きなんじゃないか?」
それとなくルイズの考えを誘導する。
だがルイズはそんなサイトの思惑など無視して、結論を出した。
「うんうん、はっきりと答えが出ないのに、こんな大事なことに結論を出していいわけないわ!本当に私はワルド様が好きなのか、それとも……」
そう言葉を濁してサイトを見上げたルイズは、顔を赤くして首をぶんぶん振った。
「いいいえ、それこそありえないけど……でもやっぱり。って、違う、違うわ、絶対に何かの間違いなんだから!」
いきなり支離滅裂なことを言いながらルイズは身もだえしている。
それをサイトは変な奴と温かく見守った。
そしてひとしきり身もだえた後、ルイズは言った。
「じゃぁ、サイトがワルド様に断っておいてね?私、ちょっと用事があるから!」
そのままルイズは宿に向かって走って行く。
その場にはあれ?という顔をしたサイトが残された。
え?
俺が断るの?
そんな酷なことを俺がワルド氏にしなければならないの?
今夜、一緒に合体しようと、幾ばくかの勇気を振り絞ったワルドに、サイトが止めを刺せと?
本人が断るのが最低限の礼儀だろ!
自分の使い魔に、それも同じ人間の男に、断りをいれさせるって、それは傷口に辛子をねじ込むがごとき暴挙である。
今夜は合体だ!そう意気込んでいる男に、断りを入れて意気消沈させて、しかもその断りが男からされるってどんなひどい拷問だよ。
サイトが同じことされたらその日はへこんで泣き寝入りすることは間違いない。
サイトはかわいそうなワルドを思って、一筋の涙を流したつもりになった。
つもりなだけで男のために涙は流せないサイトだった。
翌朝、サイトは昨夜のことを思ってため息を吐いていた。
サイトがワルドにルイズが同じ部屋で泊れない旨伝えに行くと、彼はサイトにもわかるぐらい肩を落としていた。
「わかったよ、使い魔クン」
そう言って部屋のドアを閉めようと背中を見せた、彼の背中は哀愁を背負って下がっていた。
あまりにもかわいそうなその背中。
いつぞやのブリミルもそんな背中を見せていたな……そう昔を思い出して遠い目をしていたサイトにルイズが声をかけた。
「サイト、ワルドさまが呼んでるわよ?」
「え?何の用だ?」
「さぁ、私も一緒らしいから……何かしらね?」
何かしらね?
じゃねーーーーーーーー!
サイトは思わずそう叫びそうになった。
このメンツで朝から呼び出されるなんて、昨日のことしかないではないか!
結局昨日はサイトとルイズが主人と使い魔コンビで一部屋、キュルケとタバサが女親友同士で一部屋、そして男同士でギーシュとワルドが一部屋とったわけで、傍から見ればワルドの婚約者をサイトが寝とったようにも見える。
サイトは断じてそんなつもりはなく、本心としてはキュルケのところに行きたかったのだが、キュルケをとことん嫌っているルイズがそれを許さなかった。
サイトにしてみれば何らやましいところはないが、ワルドにしてみれば婚約者が自分と同じ部屋に寝るのを断って使い魔と寝るのを優先したように見える。
つまり、これから行われるのは修羅場である。
「ルイズ、僕よりその使い魔がいいんだな?そうなんだな?きぃーーーー、使い魔を殺して僕も死ぬ!」
というような展開が待っているのだ。
そんなものに参加するのはまっぴらごめんだった。
なにも言わずルイズの視界から逃げ出そうとしたサイトの肩をルイズがつかんだ。
「ダメよ、逃げちゃ。私もちょっと会いにくいから……あんたも一緒に来なさいよね」
あほか!
誰が好き好んで修羅場なんかに行かねばならんのか?
刺されても死なないけど、痛いものは痛いのだ。
好き好んで痛い思いはしたくない。
抗議の声をあげるサイトであったが、ルイズは意に返さず、サイトを引きずって歩きだした。
ずるずるという音とサイトのイヤダイヤダという駄々をこねる声が宿の廊下に響きわたった。
ルイズに引きずられて訪れたのは、練兵場だった。
如何にもな場所である。
ここでなら修羅場になって魔法を唱えても周りの被害は少ない。
サイトは戦慄する、これは計画殺人を考えられているかもしれない。
そう顔を青くしているサイトを後目にルイズはあたりを見回してワルドを見つけ出した。
彼は練兵場に続く階段を登り終えたところだった。
「アッ、ワルドさま、こっちです!」
そのルイズの声にワルドが笑顔でこたえる。
「やぁ、ルイズおはよう!いい朝だね!」
満面の笑みでルイズに朝の挨拶を返す彼は修羅場的な緊迫感あふれる雰囲気はなかった。
考えすぎだったかと安堵するサイトにもワルドは笑顔で話しかける。
「やぁ、使い魔クン!昨日はわざわざすまなかったね?」
いえいえ、こちらこそと返そうとしたサイトだったがワルドの目を見て凍りついた。
目が笑ってない。
顔は笑顔なのにその瞳だけがそれを大きく裏切っている。
冷たい凍てついた瞳がサイトを見ている。
それは戦闘を覚悟したものの目だった。
あれ~?考えすぎじゃなかった?
修羅場か?修羅場なのか?
嫌な予感に冷や汗を流すサイトに向かってワルドは告げた。
「今日は使い魔クンと軽く訓練をしてみたいと思ってね、君の実力を見てみたいんだ!」
爽やかな笑みに眼だけが笑ってないワルド。
うそだーー、殺る気満々じゃないか!
これはあれだろうか?
婚約者を奪われたと思った男が、間男に向かって決闘を挑んだという状況なのではなかろうか?
ばっ、馬鹿な!
なんという理不尽!
サイトは潔白である!
断じてルイズ(貧乳・ロリ)には手を出していない!
おっぱい聖人(おっぱいの神の声を聞いたという意味で)であるという彼の誇りを穢す、貧乳を寝とった間男の称号を押しつけられそうになっている、その状況にサイトは絶望し膝をついた。
ほらキターーーー!
うわーーー、でも女の子に告白されるのって実は初めてじゃないか?
断るしか選択はないとはいえ貴重な体験じゃ?と内心ドキドキしていたサイトを見ながらタバサが続ける。
「シルフのこと秘密にしてほしい」
そう言ってタバサは風竜の頭を杖でぽかりと叩いた。
「きゅいきゅい、痛いのね」
「自業自得」
あれ~~~?もしかしてサイトは恥ずかしい奴なのでは?
疑問の余地なく恥ずかしい奴であった。
告白とかいう雰囲気は全くなかった、ただデルフも言ったように風韻竜は絶滅したと思われている種族だったからだろう口止めが目的だったのだ。
一人告白じゃないかとドキドキしていたサイトは恥ずかしい奴だった。
そもそもタバサには特に口説くとかアピールしてないのだから、彼女がサイトに惚れるとかありえないのだ。
最近、マチルダとかキュルケとかシエスタとかテファに好印象だったものだから調子に乗ってしまっていたようだ、反省しなければならない。
サイトが羞恥と自分の馬鹿さ加減に顔を青くしたり赤くしたりしていると、タバサが不安そうに尋ねてくる。
「ダメ?」
子供にこんな目をさせては大人失格である。
でもま、目の前の少女も相当だ。
否定されれば即座に襲いかかろうと杖に魔力を籠め、足を使って風竜に合図を送っているのだから侮れない。
さすがにサイトが見た学院生の中では一番の魔法使いである。
ここでサイトが拒否すれば風竜はサイトを振りおろし、タバサは即座に致死の魔法を放って来るだろう。
痛いのはやだし、別段他人に話そうとは思わないので黙っていることを約束する。
「いいぜ、黙っとく」
「ありがとう」
そういうとタバサは服の内をゴソゴソとやって一つのナイフを取り出した。
「口止め料」
そう言ってナイフを押しつけてくる。
別にそんなものくれなくても黙っているのだが、折角の好意であるありがたく貰っておこうとサイトが手を伸ばすとデルフが声を上げた。
「待ちな、相棒。折角の御同輩なんだ、まず挨拶してもらおうぜ」
なんのことだかわからず困惑するサイトだが、それもすぐに驚愕の顔に変わった。
「まさか俺の正体が初見で見破られるとはな……」
「ナァ、ナイフがしゃべった!」
デルフリンガー以外のインテリジェンス系アイテムとは面識がなかったサイトはしゃべるナイフに驚く。
しかしよく考えてみれば今更である。
自分の相棒はおしゃべり剣デルフリンガーなのだから……
「俺の名は地下水、あんたの名は?」
「聞いて驚け、伝説の魔剣デルフリンガー様とは俺のことよ!」
使い手を無視して剣同士で挨拶を先にするなんて何様だよお前ら、そう思うサイトだったが今の会話には聞き逃せない言葉がった。
「ちょ、デルフお前、魔剣ってちょっと……俺を笑い殺す気かよ!」
ゲラゲラ笑うサイトにデルフが陽気に答える。
「ひで~の、相棒!でも世間の評価では俺、魔剣なんだぜ?神の左手ガンダールブの左手の武器伝説の魔剣って~のが俺の公称プロフィ~ルなんだぜ!」
「公称っておま……」
ゲラゲラ笑うサイトとちゃんちゃらおかしいと世間の自分への評価を皮肉るデルフの笑い声。
無視された形の地下水は矜持が傷つけられたのか、声を上げた。
「俺を無視するな!」
そう言うとどうやったのか一人でに浮かんでサイト目掛けて飛んできた。
ヒュンと音をたてて鋭くサイトを突き刺す軌道を描いたそれをサイトは軽くキャッチする。
それを想定していたように地下水はニヤリと笑い声を上げた。
「俺を握ったな?」
それと同時にサイトに奇妙な違和感が感じられる。
地下水がハッカーのようにサイトをハッキングして、サイトの主体を奪おうとしているのである。
だが、精神の防御に関してはサイトにはブリミルによる厳重な防御が施されている。
このような攻勢を想定してされた防御策ではなかったが、ファイヤーウォールのように幾重にも施されたそれは地下水のサイトへの侵攻を表層意識にさえ触れられない段階で押しとどめていた。
「なぁ、なんなんだお前?俺が操る取っ掛かりさえ掴めないなんてありえないぞ!」
サイトはなにをされたのかよくわからなかったのだが、目の前のナイフの言い分でサイトを操ろうとしたということだけは理解した。
ふざけんな!
人の意識を勝手に乗っ取ろうとするなんて、精神に対するレイプと同じである。
断じて許す事はできないと空に向かって力いっぱい投げ上げた。
キラリンと光って大気圏を抜けて、サイトが現代へ帰って以来六千年ぶりに地下水は宇宙旅行へ旅立った。
「あ~ぁ、もったいね~。長らく見なかったご同輩なのに……」
デルフが残念そうに呟くが、自分も同じ目にあってみればいい、女の人格ならまだ許せもしたが、明らかに男の人格でサイトに侵入しようとしてきたのだ、万死に値するのは言うまでもない。
だが地下水はサイトにタバサが口止め料として渡したもので、渡した本人の前で星に変えてしまったのは少々ばつが悪かった。
「あっ、悪い。思わずほうり投げちゃった……」
「いい……他人を乗っ取らないようにしつけしたつもりだったけどまだ甘かった。私の落ち度……他の口止め料を用意する」
そこまでしてもらわなくてもサイトはしゃべるつもりはなかったが、どこぞサーティーンなヒットマンのような雰囲気を持つタバサのことだ、金銭を伴った契約のほうが安心できるのかもしれないとサイトは納得しておいた。
こんな少女のうちからそんな雰囲気を持っているタバサがかなり心配なので、こんどキュルケたちを誘って遊びにでも連れ出してやろうと思う。
子供はもっと楽しそうに日々を過ごすべきなのだ、自分の精神年齢もそうとう低いくせにそんな風にタバサの無乳を見て子供と判断するサイトだった。
記されなかった使い魔 その十四
宿へと舞い戻ったサイトたちは顔を真っ赤にして宿の外で仁王立ちしているルイズに迎えられた。
タバサの風竜シルフィードは空へと舞い上がり自身でねぐらを探すらしい。
そしてタバサはルイズの横を素通りして、宿へ入っていく。
そしてルイズもそれを一瞥することなく見逃した。
ルイズのランランと輝く瞳はサイトに向かってロックオンされている。
そのままビームでも出そうである。
「やっと帰ってきたわね、馬~鹿~犬~!」
サイトは帰ってきたことを猛烈に後悔していた。
これは半殺しで済みそうにない。
八割殺しぐらいは覚悟しなければならないか?
「タバサと二人でなにしてたわけ?」
怨念がこもってそうな声である。
婚約者をほったらかしにしても、使い魔のしつけを優先するのがルイズ・クオリティー。
ブルブル震えてサイトはしどろもどろに言い訳した。
「いや、その、あの、何でもなかったよ?」
まさか秘密にするといった事を舌の根も乾かぬうちから口に出すわけにもいかず、かといってうまい言い訳などサイトに考え付くわけもない。
不審すぎるサイトにルイズの目がさらにランランと煌くが、不意に沈静した。
「そうわかったわ、あんたを信じてあげる」
え?
サイトは一瞬何を言われたかわからず呆然とした。
ルイズがサイトが彼女を無視して女の子と二人、どこかに出かけたというのに何も暴力をふるわないなんて、それは今までのルイズとサイトの関係からしてありえなかった。
ルイズはいつだって理不尽にサイトに暴力を振るう、ひどいご主人であったはずなのだ。
それが唐突にサイトを叱らなかった。
これは何かある。
サイトは警戒した。
「あのね、信じてあげるから……相談を聞いて?」
人差し指を突き合わせながら上目遣いでサイトにルイズが迫る。
「あのね、サイト。ワルド様が今晩、一緒の部屋に泊まろうというの……」
つまりワルド氏は今晩ルイズと合体するつもりなんだな?
そうサイトはワルドの目的を推測する。
一万と二千年前から、男が女を一緒の部屋で寝ようと誘うことは、”今夜一緒に合体したい”ということと同意である。
婚約者同士なのだから、別に問題ないのではと思う。
サイトにはルイズが何を言いたいのかわからなかった。
ルイズが話を続ける。
「でもね、結婚する前から関係を持つなんて、立派な貴族の行いではないと思うの……サイトはどう思う?」
貴族としてどうか?
そう聞かれもサイトはどうこたえてよいかわからない。
サイトは貴族じゃないのだから貴族としての意見を聞かれても答えられるわけがない。
だからサイトは自分の基準で考えを述べた。
つまり愛があるかないかだ、あるいは好きか嫌いかでもいい。
サイト自身、ほとんど経験はない、はっきり言えばマチルダとの一件だけで、その記憶もないが……マチルダと関係を持ったのは、根底に彼女が好きだという気持ちがあったはずなのである。
いくら彼女がおっぱい大きな美人でも、嫌いな女とはサイトは関係を持てない。
酒で記憶も曖昧だが、きっとそうだったはずなのだ。
「貴族としてどうかとか、そういう問題じゃないんじゃないか?問題は、お前がワルドさんを好きかどうかだと思うけど……」
サイトがそういうとルイズははっとしたような顔をした。
そして俯いて何やら考えている。
しばらくそうするルイズをサイトは見守っていたが、ルイズはふと顔をあげてサイトの顔を見つめた後、ちょっと赤くなって、首を振り、結局わからないと呟いた。
「わからない、わからないわ。ワルド様は私の初恋の人で憧れだった人だけど……」
ルイズの呟きにサイトも自身の初恋を思い出す。
サイトの初恋は母親のサーシャだった。
彼女が好きで憧れて、でもそれは母親に対する家族愛も混ざっていて、複雑に交じり合ったその感情は、サイトを苦しませたものだ。
結局、そんなのは分けることなんかできない、サイトはサーシャが女性として好きで、母親としても愛していると自身で無理やり答えを出したが、今考えると相当無理がある考えである。
初恋というものはそれがどんなものであれ、そのあとの恋愛に尾を引いたりする。
サイト自身、サーシャによく似たオッパイの大きな美人が好きなのがその証拠だ。
ルイズも少なからず自身の恋愛には憧れの初恋の人の面影を追っていると思うのだが、本人が自身の婚約者なのだからそのまま合体してしまえばいいのにと思う。
少なくとも迷っている時点で、彼を嫌いではないようであるし、ここは男としてワルド氏を応援してやることにした。
それには結婚すればルイズも婚約者に構うのに夢中になり、サイトに構ってばかりにはいられなくなるだろうという打算が含まれていた。
「初恋だったんだろ?ならやっぱりお前はワルドさんのことが好きなんじゃないか?」
それとなくルイズの考えを誘導する。
だがルイズはそんなサイトの思惑など無視して、結論を出した。
「うんうん、はっきりと答えが出ないのに、こんな大事なことに結論を出していいわけないわ!本当に私はワルド様が好きなのか、それとも……」
そう言葉を濁してサイトを見上げたルイズは、顔を赤くして首をぶんぶん振った。
「いいいえ、それこそありえないけど……でもやっぱり。って、違う、違うわ、絶対に何かの間違いなんだから!」
いきなり支離滅裂なことを言いながらルイズは身もだえしている。
それをサイトは変な奴と温かく見守った。
そしてひとしきり身もだえた後、ルイズは言った。
「じゃぁ、サイトがワルド様に断っておいてね?私、ちょっと用事があるから!」
そのままルイズは宿に向かって走って行く。
その場にはあれ?という顔をしたサイトが残された。
え?
俺が断るの?
そんな酷なことを俺がワルド氏にしなければならないの?
今夜、一緒に合体しようと、幾ばくかの勇気を振り絞ったワルドに、サイトが止めを刺せと?
本人が断るのが最低限の礼儀だろ!
自分の使い魔に、それも同じ人間の男に、断りをいれさせるって、それは傷口に辛子をねじ込むがごとき暴挙である。
今夜は合体だ!そう意気込んでいる男に、断りを入れて意気消沈させて、しかもその断りが男からされるってどんなひどい拷問だよ。
サイトが同じことされたらその日はへこんで泣き寝入りすることは間違いない。
サイトはかわいそうなワルドを思って、一筋の涙を流したつもりになった。
つもりなだけで男のために涙は流せないサイトだった。
翌朝、サイトは昨夜のことを思ってため息を吐いていた。
サイトがワルドにルイズが同じ部屋で泊れない旨伝えに行くと、彼はサイトにもわかるぐらい肩を落としていた。
「わかったよ、使い魔クン」
そう言って部屋のドアを閉めようと背中を見せた、彼の背中は哀愁を背負って下がっていた。
あまりにもかわいそうなその背中。
いつぞやのブリミルもそんな背中を見せていたな……そう昔を思い出して遠い目をしていたサイトにルイズが声をかけた。
「サイト、ワルドさまが呼んでるわよ?」
「え?何の用だ?」
「さぁ、私も一緒らしいから……何かしらね?」
何かしらね?
じゃねーーーーーーーー!
サイトは思わずそう叫びそうになった。
このメンツで朝から呼び出されるなんて、昨日のことしかないではないか!
結局昨日はサイトとルイズが主人と使い魔コンビで一部屋、キュルケとタバサが女親友同士で一部屋、そして男同士でギーシュとワルドが一部屋とったわけで、傍から見ればワルドの婚約者をサイトが寝とったようにも見える。
サイトは断じてそんなつもりはなく、本心としてはキュルケのところに行きたかったのだが、キュルケをとことん嫌っているルイズがそれを許さなかった。
サイトにしてみれば何らやましいところはないが、ワルドにしてみれば婚約者が自分と同じ部屋に寝るのを断って使い魔と寝るのを優先したように見える。
つまり、これから行われるのは修羅場である。
「ルイズ、僕よりその使い魔がいいんだな?そうなんだな?きぃーーーー、使い魔を殺して僕も死ぬ!」
というような展開が待っているのだ。
そんなものに参加するのはまっぴらごめんだった。
なにも言わずルイズの視界から逃げ出そうとしたサイトの肩をルイズがつかんだ。
「ダメよ、逃げちゃ。私もちょっと会いにくいから……あんたも一緒に来なさいよね」
あほか!
誰が好き好んで修羅場なんかに行かねばならんのか?
刺されても死なないけど、痛いものは痛いのだ。
好き好んで痛い思いはしたくない。
抗議の声をあげるサイトであったが、ルイズは意に返さず、サイトを引きずって歩きだした。
ずるずるという音とサイトのイヤダイヤダという駄々をこねる声が宿の廊下に響きわたった。
ルイズに引きずられて訪れたのは、練兵場だった。
如何にもな場所である。
ここでなら修羅場になって魔法を唱えても周りの被害は少ない。
サイトは戦慄する、これは計画殺人を考えられているかもしれない。
そう顔を青くしているサイトを後目にルイズはあたりを見回してワルドを見つけ出した。
彼は練兵場に続く階段を登り終えたところだった。
「アッ、ワルドさま、こっちです!」
そのルイズの声にワルドが笑顔でこたえる。
「やぁ、ルイズおはよう!いい朝だね!」
満面の笑みでルイズに朝の挨拶を返す彼は修羅場的な緊迫感あふれる雰囲気はなかった。
考えすぎだったかと安堵するサイトにもワルドは笑顔で話しかける。
「やぁ、使い魔クン!昨日はわざわざすまなかったね?」
いえいえ、こちらこそと返そうとしたサイトだったがワルドの目を見て凍りついた。
目が笑ってない。
顔は笑顔なのにその瞳だけがそれを大きく裏切っている。
冷たい凍てついた瞳がサイトを見ている。
それは戦闘を覚悟したものの目だった。
あれ~?考えすぎじゃなかった?
修羅場か?修羅場なのか?
嫌な予感に冷や汗を流すサイトに向かってワルドは告げた。
「今日は使い魔クンと軽く訓練をしてみたいと思ってね、君の実力を見てみたいんだ!」
爽やかな笑みに眼だけが笑ってないワルド。
うそだーー、殺る気満々じゃないか!
これはあれだろうか?
婚約者を奪われたと思った男が、間男に向かって決闘を挑んだという状況なのではなかろうか?
ばっ、馬鹿な!
なんという理不尽!
サイトは潔白である!
断じてルイズ(貧乳・ロリ)には手を出していない!
おっぱい聖人(おっぱいの神の声を聞いたという意味で)であるという彼の誇りを穢す、貧乳を寝とった間男の称号を押しつけられそうになっている、その状況にサイトは絶望し膝をついた。
テーマ : 自作小説(二次創作)
ジャンル : 小説・文学