Fate 本編再構成1
衛宮士郎はその日、ある美術館を訪問していた。
目の前には美しい刀剣、鎌倉時代の名工が作った名刀だ。
切ることを突き詰めたその理の美しさ。
年月を積み重ねた鉄の鈍い光。
それらに魅了された。
「衛宮、そろそろ帰らんか?」
どれぐらいそうしていたのだろう、時間を忘れて魅入られたように剣を見る士郎に柳洞一成は声をかけた。
一成としては友人の唯一の趣味である刀剣鑑賞を邪魔したくはなかったのだが、そろそろ閉館時間である。
士郎は長い間見入っていたことに気づいたのか、罰が悪い顔をして答えた。
「悪い、一成。」
それに一成は鷹揚に答えた。
「なに、衛宮にはいつも生徒会の仕事を手伝ってもらっているからな、これぐらいはかまわん。」
そう、今日は一成がたまたま見つけたこの小さな美術館に、いつも面倒な仕事を文句も言わずに手伝ってくれる士郎をねぎらうために士郎の趣味である刀剣鑑賞に行こうと連れてきたのだった。
一成が士郎のその趣味を知ったのは偶然だった。
あれは寺の古い蔵を虫干しするため、中身を庭に出していたときのことだった。
一成の士郎は前日に遊びに来たところを一成の兄の良寛に誘われて、手伝いに来ていた。
一成としては、そんな寺の住人の仕事に友人を巻き込むのははばかられたのだが、士郎は「そんなこと、気にしない。」と笑って朝早くからやってきていた。
そして、一成がそれを見たのは中のものを出し切り、本堂に並べ終わって、暮れる夕日の中、士郎を夕食に招こうと探していたときだった。
士郎は本堂のなかの一点で、それを食い入るように見つめていた。
それは剣だった。
長いこんな剣を扱えるのかと思うほど長い剣。
日本刀だと思われるが鍔はついていない。
それだけの剣。
とくに由来があるわけでもない、そんな剣。
それを士郎は見つめていた。
「どうした、衛宮?」
一成は声をかけたが、士郎は気づかぬままじっとただ剣を見つめている。
不振に思い、肩を叩いた。
まるでそこにいるのに魂がないようだった。
そう、その剣に魂を奪われたかのように、士郎は剣だけを見ていた。
「衛宮?」
はっと何かに気がついたように振り返った士郎の瞳は、何かまずいところを見られたとでも言うように動揺していたが、かまわず一成は問いかけた?
「その刀がどうかしたのか?」
改めてみても、別段不振なところはないただの刀だ。
かなり刀身が長いが、それでも刀という機能を犯すものでもない。
不殺生を歌う寺にこんなものがあること事態がおかしいのだが、この寺も長く続いた歴史ある寺だ、こんな刀があるのもありえないとはいえない。
だからこそそれを食い入るように見つめる友人が不思議だった。
「イヤ……なんでもないんだ。」
そういいながらも、刀から目を離さない士郎を見て、一成はぽんと手をうった。
「もしや、衛宮には刀剣鑑賞の趣味があるのか?」
すると士郎はバツが悪そうな顔をしてうなずいたのだった。
それから一成は、県下近隣の刀剣についていろいろと調べて他人に尽くしてばかりで自分のことを省みない士郎のようやく知れた唯一の趣味につれまわしたのである。
日が暮れて結局士郎は閉館時間まで剣を解析し続けた。
士郎にとって剣の解析は一瞬ですむ。
だが、それと美しい剣に見とれることは別なのだ。
そして、今日の剣は特別美しい剣だった。
片刃の美しいそりをした年代を感じさせる日本刀。
おそらく鎌倉後期、もっとも刀剣が美しかった頃の姿を現代に残す数少ない一本だろう。
ゆえに、剣にはどうしても妥協できず、執着してしまう士郎はついつい長居をしてしまったのだ。
「今日は悪かったな、一成。」
士郎はそういって友人を振り返った。
一成はいやいやと手をふって笑った。
「先ほども言ったがな、これぐらいのことはさしてくれ。衛宮にはいつも世話になっているからな。」
それに士郎はそうかと笑った。
本当のところ、士郎の刀剣鑑賞は魔術の鍛錬に関係しているので、一緒に同行されるのはまずい部分もないでもなかったのだが、この人のいい友人は剣という人を傷つけるものを熱心に見入る士郎の行為を唯一の趣味だと応援してくれている。まったくもって、奇特な友だった。
切ることを突き詰めたその理の美しさ。
年月を積み重ねた鉄の鈍い光。
それらに魅了された。
「衛宮、そろそろ帰らんか?」
どれぐらいそうしていたのだろう、時間を忘れて魅入られたように剣を見る士郎に柳洞一成は声をかけた。
一成としては友人の唯一の趣味である刀剣鑑賞を邪魔したくはなかったのだが、そろそろ閉館時間である。
士郎は長い間見入っていたことに気づいたのか、罰が悪い顔をして答えた。
「悪い、一成。」
それに一成は鷹揚に答えた。
「なに、衛宮にはいつも生徒会の仕事を手伝ってもらっているからな、これぐらいはかまわん。」
そう、今日は一成がたまたま見つけたこの小さな美術館に、いつも面倒な仕事を文句も言わずに手伝ってくれる士郎をねぎらうために士郎の趣味である刀剣鑑賞に行こうと連れてきたのだった。
一成が士郎のその趣味を知ったのは偶然だった。
あれは寺の古い蔵を虫干しするため、中身を庭に出していたときのことだった。
一成の士郎は前日に遊びに来たところを一成の兄の良寛に誘われて、手伝いに来ていた。
一成としては、そんな寺の住人の仕事に友人を巻き込むのははばかられたのだが、士郎は「そんなこと、気にしない。」と笑って朝早くからやってきていた。
そして、一成がそれを見たのは中のものを出し切り、本堂に並べ終わって、暮れる夕日の中、士郎を夕食に招こうと探していたときだった。
士郎は本堂のなかの一点で、それを食い入るように見つめていた。
それは剣だった。
長いこんな剣を扱えるのかと思うほど長い剣。
日本刀だと思われるが鍔はついていない。
それだけの剣。
とくに由来があるわけでもない、そんな剣。
それを士郎は見つめていた。
「どうした、衛宮?」
一成は声をかけたが、士郎は気づかぬままじっとただ剣を見つめている。
不振に思い、肩を叩いた。
まるでそこにいるのに魂がないようだった。
そう、その剣に魂を奪われたかのように、士郎は剣だけを見ていた。
「衛宮?」
はっと何かに気がついたように振り返った士郎の瞳は、何かまずいところを見られたとでも言うように動揺していたが、かまわず一成は問いかけた?
「その刀がどうかしたのか?」
改めてみても、別段不振なところはないただの刀だ。
かなり刀身が長いが、それでも刀という機能を犯すものでもない。
不殺生を歌う寺にこんなものがあること事態がおかしいのだが、この寺も長く続いた歴史ある寺だ、こんな刀があるのもありえないとはいえない。
だからこそそれを食い入るように見つめる友人が不思議だった。
「イヤ……なんでもないんだ。」
そういいながらも、刀から目を離さない士郎を見て、一成はぽんと手をうった。
「もしや、衛宮には刀剣鑑賞の趣味があるのか?」
すると士郎はバツが悪そうな顔をしてうなずいたのだった。
それから一成は、県下近隣の刀剣についていろいろと調べて他人に尽くしてばかりで自分のことを省みない士郎のようやく知れた唯一の趣味につれまわしたのである。
日が暮れて結局士郎は閉館時間まで剣を解析し続けた。
士郎にとって剣の解析は一瞬ですむ。
だが、それと美しい剣に見とれることは別なのだ。
そして、今日の剣は特別美しい剣だった。
片刃の美しいそりをした年代を感じさせる日本刀。
おそらく鎌倉後期、もっとも刀剣が美しかった頃の姿を現代に残す数少ない一本だろう。
ゆえに、剣にはどうしても妥協できず、執着してしまう士郎はついつい長居をしてしまったのだ。
「今日は悪かったな、一成。」
士郎はそういって友人を振り返った。
一成はいやいやと手をふって笑った。
「先ほども言ったがな、これぐらいのことはさしてくれ。衛宮にはいつも世話になっているからな。」
それに士郎はそうかと笑った。
本当のところ、士郎の刀剣鑑賞は魔術の鍛錬に関係しているので、一緒に同行されるのはまずい部分もないでもなかったのだが、この人のいい友人は剣という人を傷つけるものを熱心に見入る士郎の行為を唯一の趣味だと応援してくれている。まったくもって、奇特な友だった。