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GS_LUV 第四話  横島

第四話  横島

所長室に呼び出されたタマモは、机の前で手を組んでいる美神を見つけた。
美神は胸を強調するようなセクシーな服装を身に纏っている。
さすがに今は懐かしいボディコン姿ではない。
彼女はタマモが知るうちでも群を抜くような美女で、なるほどこれに釣られれば、横島なら時給255円で働いていたのも納得できるというほどの美女である。
傾国の美女となることが約束され、それなりに自分の美しさに自身を持っているタマモといえど、いまだ体にボリュームといったものがたりない点で、その美しさには僅かに劣っているかもしれないと思う。
これで霊力は人類トップレベルだというのだから、タマモはその庇護下におかれるのを、それなりに納得していた。

「極秘任務よ、タマモ。」

突然その美神に言い渡されたタマモは困惑顔だった。

「突然なんなの、美神。」

目を伏せた美神はとうとうと続けた。

「あなたに次の依頼で横島君の見張りをいいつけるわ。」

タマモは嫌そうな顔をした。

「あのね、美神。私は現世について勉強するためにここにいるんであって、横島のお守りをするためにここにいるわけじゃないのよ。」

横島とくれば目を離せば女性依頼人にとびかかり、美人の妖怪を口説こうとするのだから、たまらない。
二人でいるのだから必然としてその横島の暴走を止めるのはタマモになるわけで、タマモは美神ほどそれをうまくやる自信はなかったし、それをやってやる義務も自分で言った言葉どおりなかった。

「聞きなさい、タマモ。」

「なによ。」

「今度の依頼は海水浴場での除霊よ。そんなところに横島君を野放しにして御覧なさい、事務所の評判が落ちるのは火を見るより明らかだわ。」

「そう、それはかわいそうね。でも私には関係ないわ。」

そう、タマモには関係なかった。
美神除霊事務所の評判がどうなろうと将来的な意味においてタマモになんら関係ない。
現世の仕組みについてはおおよそ理解したし、たとえこの事務所がつぶれても、一人で生きていく自信はある。
相棒のシロやおキヌちゃんと別れるのは淋しいが、それでもタマモの本質は九尾の狐であり、本質的な意味において他者と群れることはできはしない。
それは九尾の狐の経験からくる真理だ。
たとえどんなに親しくなり愛情を交わしても、自分以外の存在は完璧には信用できない、最終的に信じられるのは自分のみなのだ。

「でもねタマモ。」

そんな冷たい目で美神を見るタマモに、美神の淡々とした声がかけられる。

「事務所の評判が落ちると、必然的に依頼が少なくなる。それはわかるかしら?」

当然のことをいう美神により訝しげな目を向けるタマモ。

「そうなると依頼料も減って、切り詰めなければならないもが出てくるわけよ。」

まさかと目を見張るタマモに、非情にも美神の最終通告が突きつけられた。

「油揚げ食べられなくなってもいい?」

「OK!横島の見張りひきうけたわ。」

瞬時に前言を翻すタマモ。
タマモは美神の現世利益最優先というその考えにかなり毒されているようだった。



そんな事を思い出しつつタマモは、ナンパを失敗し続け、砂浜でなすすべもなく膝をついた横島に冷たい視線を送っていたが、そろそろ仕事の時間だと横島に話しかけた。

「馬鹿やってないでそろそろ行くわよ、横島?」

それにシクシクと泣いていた横島が、がばっと起き上がると涙混じりに訴えた。

「仕事、仕事だって?そんなことより今は俺のナンパが成功せんほうが問題じゃーー。神は何ゆえ、富の偏在を許すのかーー?浜辺で美女をはべらす美形がいれば、一人さびしくナンパを失敗する俺のようなやつもいる。この不公平を正さんうちには仕事なんかやってられん、さぁタマモ一緒に俺のナンパを成功させる方法を考えよう。」

そういってタマモの肩に手をかけいつの間にやら、さわやかな笑顔を向ける馬鹿をタマモは一言で切って捨てた。

「美神に言いつけるわよ。」

効果は劇的だった。
一瞬で顔を真っ青にした横島は態度を豹変させる。

「仕事、仕事だな。このGS正社員横島タダオにすべてまっかせなさい。」

ハッハッハッと笑いながら、現場である少し離れた祠に歩いていく横島を見ながらタマモはため息をついた。

「あいかわらず、馬鹿ね。」


タマモと横島は夏場に多くなる海岸線の除霊作業に来ていた。
夏という季節はなぜか人々の想念がたまりやすく悪霊が活性化することが多い。
とくに人が集まる海水浴場などは悪霊の溜まり場となることがよくあった。
ゆえにこの時期というのはGSにとって稼ぎ時であり、美神除霊事務所も総出で仕事を行うことになっていた。
しかし、この夏場の除霊は霊の数が多くても、ザコばかりなのでメンバ全員で一つの現場に行くのは効率が悪かった。
金にがめつい美神のことである、稼げるときは稼げるだけ稼ぐつもりで大量に依頼を受け、所員を二チームに分け依頼に当たらしたのである。

「はぁ、美神も面倒なことを押し付けるわね。」

つまり美神の金への執着心が今回のように横島とタマモがチームを組む事になった理由の一つだった。
そして、もう一つの理由について思い至っていたタマモは溜息をつく。

突然だが、美神除霊事務所の所員は6名である。
所長の美神令子を筆頭に、
正社員の横島。
除霊助手兼事務所の良心こと氷室キヌ。
前衛専門除霊助手、愛犬シロこと人狼、犬塚シロ。
そして、私こと金毛白面九尾の狐の転生体にして、絶世の美少女、タマモ。
そして、事務所の管理維持を勤める、世にも珍しい人口霊魂たる、人口幽霊一号である。
事務所のメンバーの中で、GS免許を持っているのは美神と横島の二人。
二組に分かれるなら当然、美神と横島は分かれることになる。
ここではたと美神は気づくわけだ。
横島とキヌやシロを同じメンバにさせるわけには行かないと。
キヌやシロは美神が親元から預かった少女たちで、彼女たちの貞操を危険にさせるわけにはいかない。
美神は考える。
横島という男は女性にとって危ない男である、しかし、美神が思うに相手が心底嫌がれば無理やりにことに及ぼうとはしない男だ。
しかし、馬鹿だからちょっとでも横島に好意をもった相手なら、そのまま突っ走ってしまう恐れは大いにある。
この点が危ないのだ、自分がそばにいたなら見張って遣れるのだが、今回はそうはいかない。
キヌもシロも横島に好意を持っていることは明白である。
そして、舞台は海辺、開放的になる夏。
危ない、これは危ないと美神は首を振る。
容易すぎる想像だった、キヌはしっかりしているが横島には警戒がゆるいし、シロの懐きようは半端ではない。
流されればなるようになってしまうことは、想像に難くない。
しかし、この問題はある少女のおかげで容易に解決するのだった。
つまりこれが美神が、タマモが横島を見張ることになった理由として受けた説明の概要なのだが、タマモは美神のそんな説明の裏側にある思いを正確に見抜いていた。
キヌやシロを貞操を心配したのは本心は本心なのだろうがその大部分は建前で、その本音は嫉妬心以外の何者でもない。
「私はオキヌちゃんとシロを心配してるんであって、横島君にそんな感情持ってなんかいないんだからね。」とつんでれっているのだ。
「このツンデレがっ」と唾をはきたくなるタマモだった。

そんな回想をしていたタマモだが、ドンと何かにぶつかって鼻を打ってしまった。
前を見ると先に進んでいた横島が立っている。
いつの間にか立ち止まっている横島にぶつかったのだ。

「ちょ、痛いじゃないの横島。」

「あぁ、すまん。でもなんか変なんだよ。」

そういって横島が前方に目をやる。
そこには古ぼけた鳥居の先に不気味な洞窟があった。
ぽかんと広がった奈落にさえ繋がっていそうなそんな穴だ。
確かに霊がいそうな雰囲気がある場所である。
そう雰囲気だけだ。

「あっ、霊の臭いがしない。」

クンと鼻を利かせても悪霊の臭いはかけらも感じない。
私が大きな声を上げると横島がやっぱりかと答えた。

「タマモにも感じられないなら、今回の依頼はガセだったんかな?」

そういいながら洞窟に向かって歩いていく横島の背中を追いかけながら、タマモは横島が自分より先に霊がいないことに気づいたのに驚嘆していた。
妖狐である自分より先に霊がいないことを感知して見せたのだから、その感知能力の高さは人並みはずれている。
そう、横島のことをろくでもない男だと想っているタマモだが、こと霊能力という分野においてはその才能を認めていた。
煩悩なんていう恥ずかしいものを霊力源にしているが、その分妄想で力の上限を大幅に上昇させることが出来るのにはあきれを通り越して感心してしまう、ただでさえ人類最高峰の霊力を持っているくせにそれを何倍にも引き上げることが出来るのだから、それは人類としては破格のポテンシャルだ。
そして、その霊能力も当たり前の範疇にはとどまらない。
収束、凝縮に特化しているというのはそれだけでタマモのような妖異のものにとっては脅威となる。
そもそも人間と妖怪、神魔族では霊力の上限が大きく違う、神魔族は言うに及ばず妖怪と人間だってその霊力差は大きい。
かくいうタマモと横島だって普段の霊力は大して変わりはしない。
タマモが転生してから一年と少し、いまでも成長を続けていることを考えればいずれは横島の霊力を遠く置き去りにするほど差は開くだろう。
タマモが九尾の狐の転生であることを抜きにしても、もとから霊力が高く生まれる妖怪と人間ではおのずとその差は大きくなるのだ。
それなのになぜ人間が神魔族、妖怪を打倒することが出来るのか?
それは人間の霊力の使い方の巧みさにある。
神魔族、妖怪は有り余る霊力を加工せず原色のまま放出叩きつけることが多い、つまるところ強大な力に物言わせた力押しが多い、まぁそれだけで人にとっては致命傷になるわけだが、しかし、人間はその少ない霊力を道具で有効に活用したり、増幅させたり、変化させたり、相手の弱点をついたりと工夫に余念がない。
神代の時代から続くその技術はタマモの前世が生きた時代と比べて衰退したとはいえ、侮れるものでもない。
まして科学技術と融合したそれは多くの人間に安定して力を供給するようになった。
前世のように何人かの強力な術者だけではなく、平凡な一般人でも一億出せばタマモを十分滅ぼせる破魔札を購入出来る可能性を持つのだから怖い話だ。
と、このように現代の霊能事情について思い浮かべたタマモだが横島の収束、凝縮に特化したその能力はこの霊能事情の逆をいくものだ。
まずサイキックソーサー、単純に横島の霊力を収束、凝縮し八角形の盾として構成したものだ。
その主使用方法は文字通り盾である。
その強度はおそらくタマモの狐火では最大出力で放出してやっと相殺できるほどだろう、それを次々と霊力が続く限り構築できるのだから恐れ入る。
また投擲しても対象に当たれば爆発し霊力の炎を撒き散らすという汎用性をもち、二つ同時に叩きつけて使用すれば霊力の光を撒き散らすことも出来る。
次におそらく霊波刀の一種であろうハンズオブグローリー。
中世西洋の呪術具と同じ名前である理由は知らないが、その利便性は霊波刀の代名詞である人狼と比べて異常に過ぎる。
人狼族のシロの霊波刀が切れ味は鋭くても剣の形状を崩さないのに比べ、横島のそれは形状から長さ、硬度まで本人の意思でいかようにも変えることが出来るのだからどちらが優れているかなどいうまでもない。
それに加えて凝縮された霊力は圧倒的に勝っているのだから、シロが師と仰ぐにもその分には納得できる。
そして、最後の一つ。
人類が発生して以来、その能力が発現したものは五人といないという珍しい能力「文珠」である。
タマモの前世の記憶でもその名称は知っていても、実際の能力を見たことはなかった。
はじめてみたときはただの丸い珠だった。
虹色にきらめくそれは綺麗ではあるがそれだけのものだった。
しかし、事務所でもしもの備えに対して、それを渡され使い方の説明を受けたとき、その利便性と特異性に驚愕し、恐怖した。
文珠はまさに霊能の集大成とでも呼べるものだった。
珠に概念を念じて方向性をもたせ、それを放出する能力。
爆発しろと命じれば爆発し、柔らかくなれと命じれば柔らかくなり、雨が降れと念じれば雨が降る。
一つの珠では限界もあるようだが、複数使えばそれこそ限りなく万能の力を発揮できるというそれはまさに万能の霊能だろう。
まして一つなら誰にでも仕えるというのだから脱帽もする。
横島は凝縮し収束することで、密度を上げ、文珠でどんな状況でも変えることが出来る。
GS業界では、量より質だと言う考えが浸透している。
事実、S級のGSはB級のGS以下のものなら一度に何人と相手にしても負けはしない。
量より質という考えが正しいなら、大量の霊気を放出するだけの神魔族、妖怪と正面きって戦うことが出来るのだ。
まぁ、出来ることと実際にやれるかは別なのだが。
今回にのこともそうだ、妖狐の自分には劣るだろうがそれでも人類いの最高峰に位置する霊感さえ備えているのだがら、横島のスペックは計り知れない。
しかし、
それほどの霊能も所持者が横島ではさほどの脅威ではない。
なんせ色仕掛けでいくらでもどうにかできる。
豚に真珠ある。
そんなことをタマモが想っていると、横島の声が聞こえた。
すでに洞の入り口を覗き込むようにしている。

「なぁ、タマモ。霊の気配もないし帰ろうか?」

「はぁ?一応、中も見てみないといけないでしょうが!」

「でもなー、明らかにいないだろこれ。むしろ、この洞窟は霊的に清められてる感じだ。」

「ふむ。」

確かにそうかもしれない。
浮遊霊の類や悪霊がいないのもそのせいだろうか?
しかし、横島の足がプルプルと震えているのが気にかかる。
この馬鹿とタマモは額に血管を浮かべてどなった。

「あんたGSなんでしょうが、幽霊がいないってわかっるくせにびびってんじゃないわよ。」

「あほーー、それとこれとは別なんじゃ。そういう雰囲気の場所が怖そうに見えるのはしかたないんじゃーー。」

そういって洞窟に入ろうとしない横島は入り口にかじりついて動こうとしない。
ゆえに、
「いいからいけ。」と思いっきり蹴りいれた。
ドゲシという音とともに、横島が転がっていく。
真っ暗な洞窟は一寸進めば結構な勾配な坂になっていたらしく、横島は「どぎゃぁぁっぁぁあぁぁ」などという絶叫をだしながら、なおも転がっていった。
そしてしばらくしてクチャというしてはならない音がしたような気がしてタマモは冷や汗を流したが、考えてみればいつものことである。

「横島なんだから大丈夫よね……私もいかなきゃ。」

そういって、狐火を一つ前方に掲げてタマモも洞窟に入っていった。

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テーマ : 自作小説(二次創作)
ジャンル : 小説・文学

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どうも細々とss書いてる屋鳥といいます。
どこぞでお会いしたかたはこんにちは、初めての方ははじめまして。
拙い作品ばかりでお目見汚しですが楽しんでいただければ幸いです。

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