「息をゆっくり吐いて。肛門(こうもん)を引っ込めるようにお尻に力を入れて。そのまま1、2、3…」
北九州総合病院(北九州市小倉南区)の女性専用の診療室。看護師が声を掛けながら、ベッドであおむけになっている女性のお尻に手を当てて、力の入り具合を確認していた。
この病院では「女性の悩みの解消につながる体操なのに、知っている人は少ない。普及に努めたい」と女性泌尿器外来担当の看護師約10人が、10月から週2回、相談に来た人に無料で体操を指導している。
川本三枝子看護師によると、体操は姿勢によって計4種類あり、いずれも肛門と膣(ちつ)を5秒間締める。それぞれを説明すると-。
【1】あおむけの姿勢で足を肩幅に開いてひざを立て、体の体の力を抜いて肛門と膣を締める。
【2】ひざとひじを床に付いて四つんばいになり、手のひらにあごを載せた姿勢で締める。
【3】机のそばで足を肩幅に開いて立ち、肩幅に広げた両手のひらを机の上に付いて体重を支えた後、締める。
【4】背筋を伸ばしていすに座り、足を肩幅に開き、腹に力が入ったり動いたりしないよう注意しながら締める。
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体操は、この4種類から自分に合ったポーズを組み合わせて1日に計100回程度すればよい。
九州労災病院(北九州市小倉南区)泌尿器科副部長の野村昌良医師によると、毎日続けても効果が出るのは少なくとも1-3カ月後だという。今は症状がないものの、将来の尿漏れを予防したい人は1日30回程度行うといい、と説明してくれた。
記者は、川本看護師から「排便の最後に、うんこを切るような気持ちでお尻を締めなさい」と助言をもらい、あおむけになってみたが、腹筋にばかり力が入り、うまくいかなかった。
適切に体操するにはコツを覚えることが何より大切。自分の体操が正しいかどうか分からない場合は、締まっているかどうかを指で触れたり鏡で見たりして確認する方法もあるが、最初は専門の医師や看護師に教わるのがいいそうだ。
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体操では、骨盤の底でぼうこうや子宮、直腸などを支える筋肉群「骨盤底筋」を鍛えている。
骨盤底筋は、出産や加齢に伴って緩みやすい。緩むと、ぼうこうの位置が下がり、尿道が締まりにくくなる。このため、腹部に力が入ったときに漏れてしまう「腹圧性尿失禁」が起きる。腹圧性尿失禁は、女性の尿漏れの7割に上る。
体操をすることで、せきなどの拍子に時々少量が漏れる程度の尿漏れが改善できるという。
また、尿漏れと同じく骨盤底筋の緩みを原因とする「骨盤臓器脱」の防止にも効果がある。骨盤臓器脱は、子宮やぼうこうなどが膣内に下がる病気で、ひどくなると、膣から、子宮などの一部が体外に出てしまう。
野村医師は、尿漏れが治らず気になってしかたない人には、ポリプロピレン素材で作られた体に害のないテープで尿道を安定させる「TVT(テイブイテイ)手術」を勧める。
骨盤臓器脱についても、同じポリプロピレン素材のシートで、骨盤内の臓器を本来の位置に戻して下がらないように固定する「メッシュ手術」が有効という。
「尿漏れも骨盤臓器脱も、体操や手術で予防と完治ができます。放置していても良くならないので、1人で悩まずに相談してほしい」と野村医師は話している。
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北九州総合病院の骨盤底筋体操指導は、毎週水曜と金曜。予約制で1人30分程度。1日4人まで。同病院=093(922)5037(平日の午前9時-午後5時)。
【写真説明1】ひじとひざを付いた姿勢で体操する女性(体操2)
【写真説明2】骨盤底筋体操を指導する北九州総合病院の看護師(左)
【写真説明3】野村昌良医師
【写真説明4】正常な状態と尿が漏れる状態
=2008/12/01付 西日本新聞朝刊=