大飯原発の再稼働に抗議し、5分間の沈黙をする「さよなら原発ぎふ」のメンバー=岐阜市のJR岐阜駅で
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政府が関西電力大飯原発(福井県おおい町)の再稼働を決めた十六日、県民や首長には安全性の確保に懸念が広がり、福井県に隣接しながら再稼働の判断に関われないことへの不満の声が上がった。経済界は一様に再稼働を歓迎したものの、古田肇知事は「県民には不安の声が多い」として、再稼働後の状況を積極的に情報提供するよう国に求める考えを示した。
岐阜市のJR岐阜駅前では十六日夜、脱原発を訴える「さよなら原発ぎふ」のメンバー約三十人が「福井の原発群の風下に住む岐阜県民として到底容認できない」と書かれたチラシを配り、五分間沈黙して抗議した。
メンバーの戸田二郎さん(61)=笠松町=は、市民に「立地自治体だけの同意で再稼働が判断されてもいいのか。国は周辺の理解を得る努力をすべきだ」と訴えた。
「放射能のゴミはいらない!市民ネット・岐阜」の兼松秀代さん(64)=岐阜市=も「原発なしで一カ月やってこられた。日本全体で節電すれば夏も乗り切れるのに」と話す。
県内で最も大飯原発に近い揖斐川町の坂内地区で農業を営む谷口則夫さん(61)は「見切り発車。再稼働してほしくなかった」。地区には一年の多くを西風が吹き下ろす。「何かあったら完全に停止できるのか。安全が確保されているのか分からない」と困惑する。
関市小瀬の喫茶店経営山田みどりさん(47)も「安全性の信用できるデータがない」と国への不信感をあらわにし、揖斐川町三輪の農業小寺春樹さん(64)も「国はきちんと説明して」と不安を示した。
再稼働に理解を示す意見もある。坂祝町の大学生大家祐一さん(21)は「経済をこれ以上悪くさせないために原発は必要。資源の乏しい日本は原発を中心にし、他の資源も上手に活用するべきだ」。
多治見市北丘町の税理士戸田政雄さん(63)は「どうしても足らない分を補うための再稼働は致し方ない」とする一方で、「絶対の安全がないことは福島で分かった。再稼働はあくまで暫定とし、代替エネルギー技術を開発するまでの時間稼ぎにすべきだ」とくぎを刺した。
◆県内首長「説明足りない」
大飯原発に近い西濃地方の首長はあらためて、国に説明を求める姿勢を示した。
揖斐川町の宗宮孝生町長は「安全性が確保されているか、分かりやすい説明がなされないままで、住民も私も大変不安に思っている」と懸念。「本格運転の前に説明してもらえるよう国に強く求めたい」と話す。
大垣市の小川敏市長も「安全対策は不十分で、不安は大きい」とコメント。「国には免震事務棟の設置などの速やかな安全対策の実現へ早急に対応してほしい」と要望した。
脱原発を主張する首長は、再稼働の判断を強く批判した。
「脱原発をめざす首長会議」メンバーの瑞穂市の堀孝正市長は「日本では何が起きるのか分からない。次に事故が起きたとき、政府はどう責任を取るのか」。高山市の国島芳明市長も「再稼働はあまりに早すぎる。ずさんそのもの」と言い切る。
北方町の室戸英夫町長は「再稼働問題は原発の立地自治体や近隣自治体だけでなく、全国民で考えなければいけない。政府が時間をかけて丁寧にすべての自治体に安全性の説明をするべきだ」と指摘し、「他の原発の再稼働の動きが加速しないようにしていかなければ」と警戒感を示した。
古田知事は再稼働に同意した福井県の判断を「四十年以上原発と向き合ってきた経験と実績に基づいたもの」と理解を示す一方、政府には「県民の中には安全性を不安視する声が多い。再稼働後の状況について積極的な情報提供をお願いしたい」とコメントした。
◆経済界からは評価の声
県商工会議所連合会長の堀江博海・十六銀行頭取は「評価したい」とし、再稼働しなければ電力料金が高騰する懸念から「企業の生産性が低下し、産業の空洞化が加速して深刻な影響が及ぶ」と主張する。
県工業会長の河合進一・河合石灰工業社長も「安全性が確認できたならば再稼働すべきだ。原発の電力がなくなれば、工場が大変なことになる。国内でものを作れなくなれば、従業員を守れなくなる」と訴えた。
県工業会前会長の牛込進・TYK会長も「電力は血液のようなもの。電力がなくなったら日本の産業はまいってしまう」と再稼働の必要性を強調した。
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