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節電の夏が近づいてきた。
関西電力大飯原発3、4号機の再稼働が決まったが、フル稼働は順調にいっても7月末になる。途中で不具合が生じないとも限らない。枝野経産相が、当面、節電目標を変えない方針を示したのは、そのためだ。
昨夏の電力消費は10年夏のピーク時に比べ、東京電力管内で18%、関電管内で10%減った。
企業努力によるところが大きく、家庭ではそれぞれ6%減にとどまった。家庭での節電の余地はまだあるということだ。
今夏の節電目標は最大の関電では10年比で15%、その他の6電力で5〜10%。政府は大飯が動けば目標を下げる方針だが、余裕があるわけではない。
原発いらずの日本に変えていく。その一歩を踏み出すためにも、家庭では手を緩めずに工夫してみたい。
「家の作りようは夏をむねとすべし」。兼好法師が「徒然草」でそう書いた。家は風通しよくつくるのが、高温多湿の風土で暮らす知恵だった。
だが戦後の経済成長でエアコンが普及し、住まいの密閉性も高まった。それが夏の電力消費を増やすことにもなった。
■町家の暮らしに学ぶ
ところが、よく見ると、引き継がれた夏の知恵がいくつも息づいている。
京都の町家に住む山中恵美子さんは夏至のころ、「衣替え」をする。畳にはひんやりした籐(とう)の網代(あじろ)を敷く。窓にはすだれを下げ、ふすまを風通しのよい葭(よし)障子にかえる。
築90年、伝統木造構法の家にエアコンはない。窓際に風鈴をつるし、部屋の照明は落とす。身につけるのは涼しげな絽(ろ)の着物だ。「五感を働かせて、涼を感じ取ろうとしたのも先人の知恵」と山中さんは話す。
みんなが町家の暮らしをそっくりまねできない。でも、風鈴やすだれなどで夏と親しみ、季節にあった衣服で過ごす原風景がそこにある。コンビニやスーパーには、ござや扇子など昔ながらの品が並ぶ。涼む知恵をできるだけ生かす夏にしたい。
もちろん、先端技術を生かすのもおすすめだ。財布に余裕があれば、日差しの熱をさえぎるフィルムを窓に張ってみる。省エネ型の家電に買い替える手もある。
無理な節電をして、熱中症になっては元も子もない。先人の知恵と先端技術を選びあわせて夏を過ごすのも、一興だろう。
マンションで節電がどれだけ進むのか。密閉性が高いだけに容易ではない。東京で暮らす作家の森まゆみさんは「昨夏の体験を伝えたい」と言う。
朝顔やゴーヤを育て、緑のカーテンで日差しをさえぎる。ベランダに打ち水をすれば吹き抜ける風が涼しい。水風呂にでも入れば、なおさらだ。
■「見える化」で節約
東電は一度に流せる電気の量(アンペア数)に応じて基本料金を設定している。
森さんは昨夏、契約アンペア数を60から40に下げた。使える上限を超えるとブレーカーが落ちる。エアコンをほとんど使わず、家電のスイッチもこまめに切った。すると、電気料金は10年夏の3分の1になった。
ただ、そうしたアンペアダウンができる料金体系を、関電など4電力はとっていない。そこに住む人たちには、家電ごとの消費電力がチェックできる簡易測定器が役にたつ。
家電のプラグとコンセントの間につなぐと、1時間当たりの消費電力量や電気料金が表示される仕組みだ。
すでに札幌市で効果をあげている。昨夏、市が500世帯に測定器を貸し出したところ、消費電力量は平均13.1%減になった。厳冬期では平均11.6%減だった。電気料金の「見える化」で、節電が家計の節約にもなるとの意識が広まり、削減率の向上につながった。
■夜の節電で揚水発電
昼間のピーク時の対策だけでなく、家庭での節電にはもうひとつの意味がある。
家庭の消費電力を時刻ごとにみると、夕刻から夜中にかけて大きな山ができる。この間に、家庭で節電すればその分を揚水発電にまわすことができる。
兵庫県姫路市の中原ゆきさんは、学校から戻った子どもたちと節電に取り組んでいる。
部屋を点検し、無駄遣いのないように消灯したりするのが子どもたちの役目だ。テレビは画面の明るさを落とし、みていない時は主電源まで切る。昨夏は「東北に電気を送るんだ」と、力を合わせた。
中原さんが節電をはじめたのは、阪神大震災がきっかけだ。
「原発も火力発電も外国に資源を頼っていて、外交がうまくいかないと立ちゆかなくなってしまう」。震災で大規模な停電を経験し、電気とのつき合い方を変えた。
節電に切り札があるわけではない。強いられてする感覚でなく、夏に親しみ、楽しみながら身の回りの無駄を省きたい。