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『茜空の軌跡』
第四十八話 襲いかかる悪夢 ~解き放たれた漆黒の牙~
<グランセル城 地下倉庫>

城内に居た戦略自衛隊を制圧したエステルとアスカ達は、アリシア女王によってグランセル城の地下へと導かれた。
そしてアリシア女王は王家の紋章が刻まれた大扉の前に立つ。

「やはり最近になって出入りした形跡がありますね」
「リシャールさん達はこの部屋に入ったんですか?」
「ええ、デュナンが持っていた予備の鍵を使ったのでしょう」

アリシア女王はエステルの言葉にうなずくと、鍵を取り出して大扉を開いた。
部屋に入ると、豪華な装飾が施された壁がエステル達の目を引いたが、物一つ置かれていなかった。

「この部屋は……?」
「宝物庫です」

シンジの言葉にアリシア女王が答えると、エステル達は空っぽの部屋を見回して不思議そうに首をかしげた。

「何も無いのに、どうして鍵が掛かっていたの?」
「この部屋は、災いを封じ込めるために作られたのです」

アスカの質問に答えたアリシア女王は、この部屋の由来について話し始めた。
はるかな昔、リベール王国の初代国王は“大いなる力”をこの部屋から通じるグランセル城の地下深くの遺跡に封印したのだと言う。
そして人がその身に過ぎた力を持てば、災いをもたらすだろうと歴代の王達に伝えるように命じた。
さらに遺跡で探知された大きな導力反応を合わせれば、輝く環があると推測できるとアリシア女王は告げた。

「では、この部屋にその遺跡の入口があると言う事ですか?」

ヨシュアが問い掛けるとアリシア女王はうなずき、王家に伝わる呪文をつぶやいた。
するとそれまで壁だった場所に、地下へ下る階段が姿を現した。

「この先に、リシャール大佐達が居るってわけね」

シェラザードはそう言って、ぽっかりと口を開いた地下への入口をにらみつけた。

「本来ならば、私が陣頭に立って指揮を執らなければいけない状況なのですが……」
「お祖母様の代わりは私が務めます」

申し訳なさそうな顔で話すアリシア女王に、クローゼは胸を張って声を掛けた。
アリシア女王に見送られ、エステル達は地下遺跡へ続く階段を降り始めた。
長い螺旋階段を駆け下りると、地下とは思えない開けた空間がエステル達の目の前に広がった。
そして遺跡の奥へ進むために大穴に架けられた橋やそれを支える柱、床も豪華な装飾がされている。

「おそらくこれはリベール王国が誕生する前から存在していた、古代ゼムリア文明の遺跡だと思います」
「なるほど、もしかして古代王朝の陵墓かもしれないね」
「墓守のようなやつらも居る事だから、その推測は当たっているかもしれんな」

クローゼとオリビエの意見に、ジンも同意してうなずいた。
ジンの指摘通り、行く手には遺跡を守るように機械仕掛けの魔獣がうごめいている。

「おいティータ、大丈夫か?」
「こ、このくらい平気です……」

アガットが息を切らしているティータを気遣って声を掛けた。
そんなアガットとティータの様子を見たシェラザードは、チームを探索班と防衛班に分けて行動しないかと提案する。
まず探索班が先行し、遺跡の中で比較的安全と思われる場所を探し、待っていた防衛班に知らせる。
追いついた防衛班が拠点を確保したら、待っていた探索班が遺跡の探索を再開する。
待っている間に、その班のメンバーは体力の回復を図る事が出来るので、無難な作戦だと全員が賛成した。
先行する探索班は、エステル、ヨシュア、アスカ、シンジ、クローゼ、ユリアの計6人。
防衛班はアガット、ティータ、オリビエ、シェラザード、ジンと同行した親衛隊員達3人の計8人に別れた。



<グランセル城地下 封印区画>

エステルとアスカ達の探索班は、守護者達を蹴散らしながら遺跡の奥へと進んで行った。
リシャール大佐達が先に突破したとは言え、残った守護者達は侵入を阻止しようとエステル達に牙を向けて来る。
しかも相手は機械仕掛けの魔獣、痛めつけて傷を負わせても攻撃の手を緩める事は無かった。
だがエステルとヨシュア、アスカとシンジ、クローゼとユリアは阿吽(あうん)の呼吸で敵を撃退する。

「凄い、クローゼってばユリアさんと息がピッタリじゃない」

跳躍した2人のフルーレが左右から同じタイミングで魔獣を貫き、(コア)に致命傷を与えて行くのを見て、アスカは感心した表情で声を掛けた。

「相手が人間でなければ、私もためらわずに踏み込む事が出来るのですけど……」

褒められたクローゼは複雑な表情で苦笑した。

「君達の方も、お互いの動きが合っているみたいじゃないか」
「さりげないクセとか、何となく分かるのよね」

ユリアに声を掛けられたエステルは、少し照れ臭そうに答えた。

「家族として同じ屋根の下で暮らしている間に自然と身に付いて来たのかもしれないね」
「そうよね、ご飯を食べるのも寝たり起きたりするのも一緒なんだから」

シンジの言葉にアスカもうなずいた。
するとクローゼは顔を赤くして驚きの声を上げる。

「えっ、一緒に寝ていらっしゃるんですか?」
「違うよ、同じベッドで寝ているのはアスカとエステルだよ」
「バカ、何を恥ずかしい事をばらしちゃってるのよ!」

シンジがあわてて言い訳をすると、アスカは顔を真っ赤にして怒鳴った。
しかしクローゼは首を横に振ってアスカに優しい口調で声を掛ける。

「別に恥ずかしい事ではありませんよ、私もお母様とお父様が事故で亡くなってしまった頃は心細くてユリアさんに添い寝をしてもらいました」
「そっか、アタシはクローゼ相手に恥ずかしがる必要はないのね」
「はい」

見つめ合うアスカとクローゼの心の距離は、さらに近くなったようにシンジとヨシュアには思えた。

「ところで、この場所は拠点にするのに良い場所だと思うが、君達はどう考える?」
「はい、僕もユリアさんの意見に賛成です」

周囲を見回したヨシュアがそう答えると、エステル達も異論を挟まなかった。

「それでは、防衛班の皆さんにお知らせしますね」

クローゼが合図を送ると、シロハヤブサのジークは遺跡の入口の方で待機しているアガット達の所へ向かって飛び立った。
そしてアガット達を待っている間、エステル達はクローゼの作ったお菓子を摘まみながら休憩を取る。

「本当、クローゼの作るお菓子は美味しいわね」

エステルはクローゼの焼いたクッキーを頬張ると満面の笑みを浮かべた。

「お祖母様直伝のレシピなんですよ」
「へえ、アタシもこんなお菓子が作れるようになりたいわね」
「では今度お教えしますわ」
「やった!」

クローゼがそう言うと、アスカはガッツポーズをして喜んだ。

「あたしにも解るように教えて欲しいなあ」
「エステルは食べる方専門でしょ」

エステルのつぶやきに、アスカはあきれ顔でツッコミを入れた。
するとエステルは顔を膨れさせて言い返す。

「ひどい、あたしだって頑張るわよ」
「エステルってば、いつもカンで料理を作るじゃない」
「アスカが神経質すぎるのよ」

エステルとアスカが言い合いをするのを見て、クローゼが仲裁に入る。

「ええと、レシピの分量通りに作るのも大切ですけど、アレンジを加えれば美味しくなる場合もありますよ」
「と言う事は、あたし達が力を合わせるのが一番なのよ!」
「まったく、物は言いようね」
「だけど、それでも僕とシンジが作った方がおいしいんじゃないかな」
「あんですって!?」

珍しくヨシュアがツッコミを入れると、エステル達に笑いが起こった。
そんな時にアガット達の防衛班が到着したが、シェラザードとアガットは少しあきれた表情でエステル達に声を掛ける。

「笑い声が聞こえるから、どうしたのかと思ってみたら」
「お前らは緊張感の無いやつらだな」
「古代遺跡でお茶会とは、面白い趣向だね」

オリビエは笑顔でそうつぶやいた。

「お姉ちゃん達、良いなあ……」
「ほら、ティータにもクッキーを分けてあげるから」

羨ましそうな顔をしたティータにアスカがクッキーを渡すと、ティータは目を輝かせた。

「その様子では、すっかり休憩は取れたようだな」
「はい」

ジンの言葉に、シンジはしっかりとうなずいた。

「では、そろそろ我々は出発いたしましょう」
「そうですね」

ユリアが提案すると、クローゼはうなずいて腰を上げた。

「クローゼのクッキーのおかげで、元気百倍よ!」
「エステル、油断してはダメよ」
「分かってるって!」

エステルはシェラザードにそう答えると、手を振ってクローゼ達と共に遺跡の奥への進撃を開始した。
遺跡は広く侵入者を惑わすための迷路が張り巡らされていたが、エステル達は倒されて動かなくなった魔獣を目印にして進んで行った。
それがリシャール大佐達が進んだルートだと言う事を示しているからだ。

「ふう、かなり奥深くまでやって来てしまったみたいね」

部屋の魔獣達を倒し終えたアスカは少し疲れた顔で息を吐き出した。
そんなアスカの姿を見てシンジがアスカの肩に手を置いた。

「アスカ、疲れているみたいだけど大丈夫?」
「アタシはまだ平気よ、シンジの方こそへばったんじゃない?」
「もう、意地を張らなくてもいいじゃないか」

ライバル意識を燃やすアスカを、シンジは困った顔でなだめた。
その空気を読みとったクローゼはこの場所を拠点にするように提案する。
エステル達も賛成し、この部屋で腰を下ろして休憩を取ろうとしたが、ヨシュアが厳しい顔で注意を促す。

「静かに、この先から何か物音が聞こえる」
「遺跡に居る魔獣達が動いている音じゃないの?」
「いや、大きな爆発音みたいだ」

ヨシュアに言われた通り耳を澄ますと、エステル達にも遠くで爆発が起こり、遺跡の建物もわずかに振動しているのが感じ取れた。
奥の方で巨大な何かが暴れているようだとエステル達は推測する。

「何が起きているのかアタシ達で確かめる必要がありそうね」
「でも僕達だけで大丈夫かな」

アスカの提案を聞いて、シンジは不安そうな顔でつぶやいた。

「だけど無視するわけにもいかないよ」
「そうですね、行きましょう」

ヨシュアの意見にクローゼは賛成し、エステル達は休憩を挟まずに遺跡の奥へと進んだ。
時々起る大きな爆発音は次第に距離が近くなって来ている。
広場の様な場所に着いたエステル達の耳に、人の叫ぶような声や剣戟の音が届く。

「この先で誰かが戦っているみたいね」

アスカの言葉に、エステル達は真剣な顔で顔を見合わせてうなづいた。
広場の先にある薄暗く幅の狭い廊下を抜けたエステル達の目に飛び込んで来たのは、大きな広間で巨大な機械魔獣と独りで戦うリシャール大佐の姿だった。
付き従って来た戦略自衛隊の隊員達は倒れてしまっているようだった。
このままではリシャールもやられてしまうのも時間の問題のように思われた。

「大変、早くリシャールさんを助けに行かないと!」
「待ちなさい、このままアタシ達だけであの怪物と戦う気なの?」

飛び出そうとしたエステルを、アスカはそう言って引き止めた。
防衛班が到着しない内に、遺跡の探索で疲れている自分達だけで戦うのは無謀だとアスカは主張したが、エステルはアスカの腕を振り払って訴えかける。

「リシャールさんを見殺しにする事なんて出来ないわ!」
「だけど自業自得じゃない、アタシ達まで危険を冒す必要はないわよ!」

少し怒った表情で言い返したアスカに、シンジが声を掛ける。

「アスカ、それは間違ってるよ」
「何ですって!?」
「だって僕達は、“遊撃士(ゆうげきし)”だよ」

シンジが遊撃士と言う部分を強調して話すと、アスカはハッと何かに気が付いた表情になった。

「遊撃士だけではありません、私にとっても彼は守るべき国民です」

クローゼまでもが迷いの無い瞳で宣言すると、アスカは参った顔になってため息を吐き出す。

「ごめん、アタシが間違っていた。もうちょっとで遊撃士として大切な物を失う所だったわ、ありがとう」

アスカが自分の間違いを認めて感謝の言葉を述べると、エステル達に笑顔が広がった。
そしてクローゼが、シロハヤブサのジークに防衛班であるアガット達への連絡を頼んで送り出した後、エステル達は大広間に躍り出た。



<グランセル城地下 封印区画 封印の間>

エステル達より先に古代遺跡へと足を踏み入れたリシャール大佐達は、守護者である魔獣を押し退け最深部の封印の間までたどり着いた。
そしてロランス少尉から受け取った黒いオーブメントを部屋の奥にある台座にセットすれば、『輝く環』が手に入るはずだった。
しかし、予想に反してリシャール大佐達の目の前に現れたのは巨人の様な機械仕掛けの魔獣だった。

「これは一体どう言う事だ、『輝く環』はどこに!?」

うろたえるリシャール大佐の前で、巨人型機械魔獣は顔に付いている4つの目を光らせ動き出した!

「お、おのれっ!」

リシャール大佐は戦略自衛隊員と共に巨人型機械魔獣を迎撃するが、巨人型機械魔獣の左腕を狙ったリシャール大佐の攻撃は弾き飛ばされてしまった。
攻撃が効かない事に驚くリシャール大佐達に、巨人型機械魔獣の背中から放たれたミサイルと、左腕からほとばしる電撃攻撃が直撃した。
何とか耐えたリシャール大佐は跳躍して再び巨人型機械魔獣へと斬りかかるが、リシャール大佐の剣は巨人型機械魔獣の左腕に阻まれてしまう。
巨人型機械魔獣の右腕からも高熱のレーザーが放たれ、リシャール大佐達の体力を奪った。
付き従っていた戦略自衛隊員達は次々と倒れて行き、ついに立っているのはリシャール大佐だけとなってしまった。
疲れて動きの鈍ったリシャール大佐に向かって、巨人型機械魔獣が両腕を回転させて突進してくる!
あの腕に跳ね飛ばされれば、リシャール大佐は壁に叩きつけられて致命傷を負ってしまうだろう。

「くっ、私もこれまでか!」

覚悟を決めて目を閉じたリシャール大佐だったが、巨人型機械魔獣の腕はリシャール大佐にぶつかると、弾かれたように止まった。

「これは……アースウォールの導力魔法(オーバルアーツ)か!?」
「リシャールさん!」
「き、君達は!?」

駆け付けたエステル達の姿を見て、リシャール大佐は驚きの声を上げた。

「話は後だ、まずはこいつを倒す」
「了解した」

ユリアの言葉にリシャール大佐はうなずいた。
クローゼが導力魔法で傷ついたリシャール大佐の体を回復させたが、リシャール大佐が巨人型機械魔獣に攻撃が通用しない事を告げると、エステル達も困惑した。
巨人型機械魔獣はエステル達をなぎ払おうと、再び腕の回転を始める。
アスカが巨人型機械魔獣の動きを鈍らせようと竜巻を発生させるエアリアルの導力魔法を唱えると、巨人型機械魔獣は苦しむ様子を見せた。

「導力魔法なら効くみたいよ!」

アスカの発言を聞いたクローゼとシンジはアスカと共に導力魔法の詠唱を開始したが、導力魔法は詠唱体勢に入ると動けなくなる欠点がある。
正面に立ったクローゼ達の動きが止まると巨人型機械魔獣は腹の部分から大砲が顔を出し、チャージを始めた。
危険を察知したヨシュアがクローゼ達にアースウォールの導力魔法を掛ける。
その直後に大砲からレーザーが発射されクローゼ達を直撃するが、アースウォールの障壁により無傷だった。

「危なかった……」
「助かったわ」

シンジとアスカは冷汗を流しながらもホッとした表情で息を吐き出した。

「動きを止めると腹部の主砲によって狙い撃ちにされてしまうようですね」
「各自散開し、敵主砲のレーザーの射線上に立ち止まらないようにしろ!」

クローゼの意見にうなずいたユリアはその様に指示を下した。
エステル、ヨシュア、ユリア、リシャールが巨人型機械魔獣の注意を引きつけ、クローゼ、アスカ、シンジはタイミングを図って導力魔法を詠唱する。
クローゼ達の導力魔法は着実に巨人型機械魔獣にダメージを与えて行き、両腕から煙を上げた機械魔獣は動きを止めた。

「アタシ達が力を合わせれば、ざっとこんなもんね!」
「いや、まだだ!」

棒立ちになった巨人型機械魔獣の前でアスカが勝ち誇った顔で言い放つと、ヨシュアが鋭い口調で注意を喚起した。
巨人型機械魔獣は4つの目を光らせ合成音声で「索敵モードから殲滅モードに移行」と宣言すると、ボディを変形させ壊れた両腕を捨て、新しい両腕を出現させたのだ!

「どうやら、先ほどまでは小手調べだったようだな」
「何ですって、もうアタシ達に導力魔法を唱えるEPは残ってないって言うのに!」

ユリアがそう言うと、アスカは怒りと驚きが入り混じった悲鳴に近い叫び声を上げた。
この大広間に来る前から遺跡で他の魔獣と戦い続けてきたエステル達の消耗は激しかった。

「このままじゃ、僕達までやられてしまう……」

シンジが暗い顔でポツリとつぶやいた。
すると、リシャール大佐がエステル達を守るように巨人型機械魔獣の正面に立つ。

「君達、ここは私に任せて撤退したまえ!」
「何を言ってるの、リシャールさん独りを残して行けるわけが無いじゃない!」

リシャールの言葉を聞いたエステルは、大声で怒鳴り返した。
しかしリシャール大佐は振り返らずに悲しそうな声でつぶやく。

「あの魔獣の封印を解いてしまった時点で私の命運は尽きていたのだ。それに計画が失敗した以上、無様な生き様をさらすよりも、ここで潔く散るのが本望だ」
「その様な勝手な行為は許しません!」

エステルが言い返そうとする前にクローゼが大きな声で言い放つと、リシャール大佐は驚いて振り返る。

「己の罪から死をもって逃げるなど、不忠の極みです。罪を犯した事を悔いるならば、生きて償う道を選びなさい」

さらに続けてクローゼが凛とした表情で話し続ける姿を、エステル達も驚いて見つめていた。

「お祖母様ならこの様に言うと思いますが、どうでしょう?」

話し終ったクローゼはイタズラがばれた子供のように微笑んだ。

「なるほど、私の考えが浅はかでした」

リシャール大佐が感服した顔でそう言うと、エステル達の表情も明るくなった。
ユリアもクローゼの成長に喜んでいる様子だった。

「きっとアガットさん達が来てくれるはず、頑張りましょう!」

エステルの言葉にヨシュア達はうなずき、アガット達が来るまで大広間で耐えしのぐ作戦となった。
再起動が完了した巨人型機械魔獣は、防戦に徹したエステル達に激しい攻撃を浴びせる。
それでもエステル達は残されたわずかなEPを全て回復と防御に使い、アガット達の到着を信じて待つ。
しばらくしてこの大広間に通じる細い廊下からアガット達が姿を現す!

「大丈夫か、お前ら」
「助けに来たわよ」
「アガットさん!」
「シェラ姉!」

アガット達の姿を見て、エステル達は顔を輝かせた。

「何だこのデカブツは?」

ジンが巨人型機械魔獣の姿を見て驚きの声を上げた。

「コイツには導力魔法しか通じないのよ、気を付けて!」

アスカがジンの質問に答え、続いてリシャール大佐もアガット達に指示を出す。

「導力魔法を使わない者は敵の注意を引きつける事に専念しろ」
「おい、何であいつが一緒に居やがるんだ」

そう言ってアガットは怒った顔でリシャール大佐をにらみつけた。
するとクローゼがかばってアガットに声を掛ける。

「お願いです、今は彼を責めるのを止めてください」
「そうよ、仲間割れしている場合じゃないでしょう?」
「ちっ、仕方ねえな」

クローゼとエステルに言われて、アガットは渋々受け入れた。
アガット達は、先ほどのエステル達と同じように導力魔法を詠唱する者と、物理攻撃を加えて巨人型機械魔獣の気を引く者とに役割分担をした。
エステル達もアガット達に回復アイテムを分けてもらい、戦闘に加わる。
メンバーが増えたとは言え、エステル達が絶対的に有利とはならなかった。
変形した巨人型機械魔獣はミサイルを放ち、導力魔法の詠唱を妨害して来たのだ。
エステルやアガット達はロッドや剣でミサイルを撃ち落とし、導力魔法を詠唱するクローゼやアスカ達を援護した。
さらに巨人型機械魔獣が警報音を発すると、遺跡を動き回っていたのと同じタイプの小型機械魔獣が大広間に姿を現す。

「雑魚がチョロチョロとうるさいわね」

シェラザードは導力魔法エアロストームを詠唱し、小型機械魔獣達をなぎ倒した。
ユリアに守られたクローゼも導力魔法タイタニックロアを詠唱し、巨人型機械魔獣と小型機械魔獣達にダメージを与える。
根気良くダメージを与えているうちに巨人型機械魔獣の大砲が煙を上げて動かなくなった。

「やった、これであのレーザーは撃てないわ!」
「もうひと押しよ、油断しないで」

エステルが喜びの声を上げると、シェラザードもそう言って励ました。
主砲が使用不可になった巨人型機械魔獣だが、腕を振り回すなどして抵抗を続ける。
しかし巨人型機械魔獣の動きは鈍くなっていた。
巨人型機械魔獣の攻撃が弱まったと判断したエステル達は、巨人型機械魔獣の警報により呼び集められた小型機械魔獣達を倒す方に集中し始めた。
そして巨人型機械魔獣は最後の抵抗に出た。
機体の背面や足に装備され残っていた全てのホーミングミサイルを一斉発射したのだ。
空中に舞い上がった多数のミサイルの標的になったのはエステルだったが、エステルは小型機械魔獣達と戦っていて、頭上や背後から迫るミサイルに気が付いていない。

「エステル!」

ヨシュアはエステルに向かってアースウォールの導力魔法を詠唱しようとしたが、EPが足りない事に気が付いてショックを受けた。
このままでは、エステルが多数のミサイルの直撃を受けてしまう。
そんな事はさせない――その気持ちがヨシュアを突き動かした。
ヨシュアはエステルの側に駆け寄ると、目にも止まらぬ速さで飛来するミサイルを切り裂いた。
その人間離れしたヨシュアの動きを、エステル達は驚いて見つめた。
すべてのミサイルを斬り終えて着地したヨシュアは鋭い眼光と氷のように冷たいオーラを放ち、怖いもの知らずのアガットでさえ気押された。

「助かったわヨシュア、ありがとう」

エステルが声を掛けるとヨシュアの冷たい雰囲気は瞬時に消え、ヨシュアはエステルに向かって穏やかに微笑んだ。
アスカとシンジも安心して胸をなで下ろす。
一斉にミサイルを撃ち出した巨人型機械魔獣は全身から煙を上げ、腕をだらんと垂らして動きを止めた。

「今度こそ倒せたかしら?」
「導力反応は完全に消えています」

エステルの質問に、ティータはそう答えた。
気が付けば、小型機械魔獣達の方も動いている者は存在しなかった。
遺跡の最深部の大広間での戦いは、エステル達の勝利に終わったのだ。
しかしエステル達にはその勝利に酔いしれている暇は無い。

「リシャール大佐、『輝く環』はどこにあるのですか?」
「それが、私にも全く分からないのです」
「どう言う事だ?」

クローゼに尋ねられたリシャール大佐がそう答えると、ユリアは厳しい表情で尋ねた。
するとリシャール大佐はロランス少尉から黒いオーブメントを渡され、それをこの大広間にある台座に置けば『輝く環』が手に入ると聞かされたのだと答える。
しかし実際に現れたのはあの巨人型機械魔獣だったと話す。

「愚かにも力に目がくらんだ私は、疑いもせず騙されてしまったのです。そして多くの人間を巻き込んでしまった……」

そう言って倒れた戦略自衛隊員達を見回すリシャール大佐は本当に心から自らの行為を悔いているようだった。
その姿を見たアガットもそれ以上リシャール大佐を責める事はしなかった。

「やっぱり『輝く環』なんて、無かったって事?」
「だけど、ロランス少尉達が意味も無くリシャール大佐達に遺跡に行かせるわけはないわ」

エステルの言葉に、シェラザードは考え込んだ顔でそう反論した。

「こんな物騒な魔獣も居るんだから、口封じのためかも知れないわよ」
「もちろんそれもあるでしょうけど、わざわざこんな手の込んだ方法を取る必要が無いもの」

アスカの意見に半分同調しながらも、シェラザードは納得が行かない様子だった。

「この場所で起こった事や『輝く環』についての考察は後ほどする事に致しましょう、それよりも我らは城に戻って早く事態を収束させなければなりません」
「そうですね、お祖母様も私達が帰るのを信じて頑張っているはずです」

ユリアの言葉に、クローゼはしっかりとうなずいた。
エステル達はユリアの提案に賛成し、まだ息のあった戦略自衛隊員達を助けて地上へと向かう。
リシャール大佐の身柄は押さえたが、レイストン要塞にあるエヴァンゲリオンを何とかしなければ帝国・共和国との戦争の危機は回避できない。
そしてこの時、エステルとアスカはこの後自分達に襲いかかる悪夢に、まるで気が付いていなかったのだった……。
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