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B-CASカード改造やそれによる有料放送の視聴は犯罪か? - 多田 光宏

アゴラ

2012年05月25日 11:58

石井孝明さんの記事「B-CAS不正使用で放送業界大混乱へ、責任はどこに?-運用者が「間抜け」だったら…」に何回も「犯罪」という言葉が出てきたのですが、B-CAS改造やそれによる有料放送の視聴は犯罪なのでしょうか?

犯罪行為とは一般的に刑事罰の対象となる行為のことです。例えば海賊版の音楽や動画のダウンロードは現時点で違法ということになっていますが、刑事罰はありませんので犯罪とは言えないでしょう。(今国会で刑事罰化されそうになっていますが。)

そこで「B-CASカードを改造する行為」と「改造B-CASカードで有料放送を視聴する行為」が刑事罰の対象になるのかという事と「民事での損害賠償請求」について考えてみました。 1.B-CASカードを改造する行為が刑事罰の対象か

B-CAS社は「B-CASカード使用許諾契約約款」にB-CASカードの所有権は当社にある、だからB-CASカードの改造などは禁止する、改造して損害が出たら損害賠償請求すると主張しています。この主張が正しく、B-CASカードがテレビやレコーダー購入後もB-CAS社の所有であるなら、B-CAS改造は器物損壊に当たるかもしれません。

テレビやレコーダーを買うとB-CASカードがシュリンクラップされていて裏面にこの約款が書いてあり、「このパッケージを開封するとユーザーが約款に同意して B-CAS社との間に契約が成立したとみなす」と書いてあります。いわゆるシュリンクラップ契約と言われるものです。

シュリンクラップ契約という手法自体の有効性についての日本での判例はないのですが、このような契約が果たして有効なのか非常に疑問です。おそらくほとんどの人がB-CASカードの所有権をB-CAS社が主張していることを知らないのではないのでしょうか。家電量販店でテレビやレコーダーを販売する時も全く説明はありません。

私は法律に詳しくありませんが、このような実態から考えて、実際にもし刑事か民事の裁判になった時、被告側が「B-CASカードの所有権はユーザーにある」と主張すれば認められる可能性が高いと思います。B-CASカードの所有権がユーザーにあれば、改造しようがどうしようがユーザーの自由であり、B-CAS社がどうこう言う筋合いのものではありません。刑事罰を科すことできないし、民事での損害賠償請求が認められることもないと思います。

2.改造B-CASカードで有料放送を視聴する行為が刑事罰の対象か

改造B-CASカードで有料放送を視聴する行為を刑事罰に問うこともできないと思います。

一応放送法第157条に「何人も、有料放送事業者とその有料放送の役務の提供を受ける契約をしなければ、国内において当該有料放送を受信することのできる受信設備により当該有料放送を受信してはならない。」とありますが罰則はありません。

改造したカードをオークション等で販売する行為が不正競争防止法違反に当たり、刑事罰に問えるかもしれません。

3.民事での損害賠償請求

刑事罰を科すことができないなら、有料放送事業者による民事で損害賠償請求はどうでしょうか。

上述のようにB-CAS改造で損害賠償請求しても認められないと思われるので、放送法第157条を根拠にした有料放送事業者と契約せずに有料放送を視聴する行為に対する損害賠償請求が考えられます。

その場合でもまずは改造B-CASカードを使って視聴している人を特定しなければなりませんが、放送は一方的に電波を送信しているだけなので視聴者がどのような状態かを把握することは不可能であり、大変難しいでしょう。

さらに改造B-CASカードを使って視聴している人の家を特定できたとしても、裁判のため少なくとも証拠として家宅捜索して改造したB-CASカードを押収しないといけませんが、民事で家宅捜索など当然できません。

またすでに述べたように、B-CASカードの所有権がユーザーにあると認められれば、B-CASカードを改造する行為自体は合法なので、改造したB-CASカードを押収しただけでは足らず、有料放送を視聴したことを別の手段で証明しなければなりません。なぜなら被告側が「B-CASカードを改造したのは地デジ難視対策衛星放送が見たかったからで、その他の有料放送には関心がなく全く見ていない。」と主張するかもしれません。これもまた難しいと思います。

なので改造B-CASカードを使っての視聴を民事で訴えることも非常に難しいでしょう。その裁判で勝ったとしてもせいぜい視聴料分くらいしか支払われないでしょう。

それよりもB-CAS社、WOWOW、スカパーはこのような欠陥製品を製造したメーカーに対して損害賠償請求するほうが現実的ではないでしょうか。


平成の龍馬(多田光宏)
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