第五話「白銀の狐」
「――織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」
「へ?」
二時間目の休憩時間が終わってすぐのこと。職員室から戻ってきた織斑先生は一夏の取り巻きを追い払った後でそう言った。
「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」
「???」
「せ、専用機!? 一年の、しかもこの時期に!?」
「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」
「ああ~。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ」
きょとんとしている一夏の周りで生徒たちがざわめく。あまりに急な話で誰もが戸惑いを隠せないようだった。唯一事態が飲み込めていない弟を見るに堪えかねたという感じで、織斑先生がため息混じりに呟いた。
「教科書六ページ。音読しろ」
「え、えーと……。
『現在、幅広く国家、企業に技術提供が行われているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されておらず、基礎理論に関しても一部のデータが残されているだけとなっています。現在世界中にあるIS467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作製したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だ博士以外は同水準のコアを作れない状況にあります。しかし博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業・組織・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取引することはアラスカ条約第七項に抵触し、全ての状況下で禁止されています』……」
「つまりそういうことだ。本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解できたか?」
「な、なんとなく……」
簡単に整理するとこんな感じになる。
1.現在、ISは世界に467機しか存在しない。
2.ISのコアは篠ノ之博士以外作れない。そして博士はコアをもう作っていない。
3.一夏は非常に稀なケースなので、研究対象として特別待遇。
ちなみにその篠ノ之博士というのが――。
「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」
クラスメイトのひとりがおずおずと質問する。日本にどれほどいるかわからないが、『篠ノ之』という名字は珍しい部類だろうから、黙っていてもいずれわかってしまう。
篠ノ之束博士。ISをたったひとりで作成し、完成させてしまった稀代の天才。そして白騎士事件を引き起こし、その後の世界を完全に決定づけてしまった人類史上最悪の天災である。
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」
織斑先生ははっきりとそう答える。
ちなみに、現在篠ノ之博士は超国家法に基づいて全世界から指名手配されている。犯罪者というわけでもない――大陸間弾道兵器をハッキングした上、一国を標的に全基一斉発射したことを犯罪と呼ばないのであればの話だ――のだが、IS技術のすべてを掌握している人間が未だ行方知れずという状況は各国政府、機関関係者とも見過ごせるものではないのだろう。
しかし、そう考えると篠ノ之さんがこの学園にいる理由もなんとなくわかる。IS学園はあらゆる法規則の適用外、特定の国や組織の干渉を避けて身柄を保護しておくにはもってこいの場所なのだ。少なくとも在学している三年間は、日本政府も余計な心配をしなくて済む。
「ええええ――っ! す、すごい! このクラス有名人の身内が三人もいる!」
「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!? やっぱり天才なの!?」
「篠ノ之さんも天才だったりする!?今度ISの操縦教えてよっ」
既に授業が始まっているというのに、篠ノ之さんの元にわらわらと女子が集まる。有名人の宿命というやつだろうか。
「あの人は関係ない!」
突然の大声。一夏もクラスメイトたちも、そして私も驚いた表情のまま彼女を見つめる。みんな何が起こったのかわからない様子だった。
「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」
そう言って、彼女は窓の外に顔を向けてしまう。よほど話しづらいことでもあったのだろうか。女子たちは盛り上がったところに冷水を浴びせられたような気分のまま、それぞれ困惑や不快を顔にして席に戻っていく。
考えてみれば、あの天才を嫌うことなどいくらでもあるではないか。白騎士事件で世間は大騒ぎ、身柄保護のためあれやこれやと制限され、挙句の果てに元凶である実姉は行方をくらました……。そんな境遇を経験したら、名前が出ただけで嫌な顔を浮かべるようになってもおかしくはない。
織斑先生は、ほとぼりの冷めた生徒たちと山田先生に向かって声を上げる。
「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令」
「は、はいっ!」
少し気にかけるような顔で見ていた山田先生も、彼女の声を聞くなり気持ちを切り替える。そこはやはりプロの教師ということか。
(何にせよ、私が考えて解決する話でもない……)
授業に集中しよう。私は、先生の指示に従って教科書を開いた。
◇
「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」
私はそのまさかだと思っていたんだがな。
休み時間、一夏の席にやってきたセシリアは、また腰に手を当てながらそう言った。そのポーズはお気に入りなのだろうか。
「まあ? 一応勝負は見えていますけど? さすがにフェアではありませんものね」
「? なんで?」
「あら、ご存じないのね。いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げましょう。このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」
「へー」
「……馬鹿にしていますの?」
「いや、すげーなと思っただけだけど。どうすげーのかはわからないが」
「正直に言っているつもりだろうが、それでは馬鹿にしているようにしか聞こえないぞ、一夏。もう少し考えて物を言え」
「いや、だって……」
だっても何も、あまりにも気の抜けた言い方だからそういうニュアンスに聞こえるんだ。――こら、嫌そうな顔をするな。
「……こほん。さっき授業でも言っていたでしょう。世界でISは467機。つまり、その中でも専用機を持つものは全人類六十億超の中でもエリート中のエリートなのですわ」
お前はお前でエリートを強調し過ぎだ。それなら候補生で専用機を持っている私だってエリート中のエリートだぞ。って、おい。無視するな。
「そ、そうなのか……」
「そうですわ」
「人類って今六十億超えてたのか……」
「そこは重要ではないでしょう!?」
ババン!机を叩いた勢いでノートと教科書が床に落ちる。
「あなた! 本当に馬鹿にしていますの!?」
「冗談もいい加減にしておけよ。横で聞いていても腹が立ってくる」
「いやそんなことはない。俺はいたって真面目だぞ」
「だったらなぜ棒読みなのかしら……」
「なんでだろうな、箒?」
何を思ったか、一夏が質問を振ったのは篠ノ之さん。さっきのことでふてくされていたところに不意打ちとあって、いつも以上に不機嫌な顔をこちらに向けてきた。『私に振るな』とその鋭い目が無言で訴えている。
「そういえばあなた、篠ノ之博士の妹なんですってね」
セシリアがそう尋ねる。――って、なんでお前まで矛先を転じているんだ。
「妹というだけだ」
キッ!と睨み返したまま篠ノ之さんが答えた。あまりに凄味のある視線だったせいで、セシリアが「う……」という感じで怯んでいる。
「ま、まあ。どちらにしてもこのクラスで代表にふさわしいのはわたくし、セシリア・オルコットであるということをお忘れなく」
ばさっと長髪を手で払い、華麗な足取りでその場を後にするセシリア。いちいちポーズが様になっているところが余計にむかつく。
「――では、私も昼食に行くとしよう。一夏はどうするんだ?」
「うーん……そうだな。箒」
「……」
「篠ノ之さん、飯食いに行こうぜ」
一夏は窓際でそっぽを向いている篠ノ之さんに声をかけた。先ほどの一件で妙に浮いているというか、みんなが反応を気にして関わりを避けているような気がする。そんな幼なじみを放っておくわけにはいかないといったところか。
「他に誰か一緒に行かない?」
「はいはいはいっ!」
「行くよー。ちょっと待ってー」
「お弁当作ってきてるけど行きます!」
相変わらずの人気で良かったな。こういう時には大いに役立つというわけだ。
「……私は、いい」
「まあそう言うな。ほら、立て立て。行くぞ」
「お、おいっ。私は行かないと――う、腕を組むなっ!」
渋々立ち上がったところで片腕を一夏に掴まれ、篠ノ之さんはぽっと顔を赤らめる。周りが羨ましそうに見つめる中、私たちは食堂に向かって移動し始めた。
学食に到着すると、すでにほとんどのテーブルが他の組の生徒で埋まっていた。なんとかして空いている場所を見つけるしかなさそうだな。
「箒、何でもいいよな。何でも食うよなお前」
「ひ、人を犬猫のように言うな。私にも好みがある」
「ふーん。あ、日替わり二枚買ったからこれでいいよな。鯖の塩焼き定食だってよ」
「話を聞いているのか、お前は!」
なんとも仲の良い会話で安心だ。私も一緒についてきた女子たちと一緒に食券を買ってふたりの後ろに並ぶ。
「俺がさっきまでどんだけ温和に接してやってると思ってんだ馬鹿。お前、友達できなかったらどうすんだよ。高校生活暗いとつまんないだろ」
「わ、私は別に……頼んだ覚えはない!」
「俺も頼まれた覚えがねえよ。あ、おばちゃん、日替わり二つで。食券ここでいいんですよね?」
彼はそう言ってプラスチックの食券をカウンターに置く。その間、左手はずっと篠ノ之さんを掴んだままだ。
「いいか?頼まれたからって俺はこんなこと、普通はしないぞ? 箒だからしてるんだぞ」
「な、なんだそれは……」
「なんだもなにもあるか。おばさんたちには世話になったし、幼なじみで同門なんだ。これくらいのお節介はやらせろ」
「…………」
言われた彼女はむすっとした顔をして視線を逸らす。照れているのだろうか。
「そ、その……ありが――」
「はい、日替わり二つお待ち」
「ありがとう、おばちゃん。おお、うまそうだ」
「うまそうじゃないよ、うまいんだよ」
声をかけるべきタイミングを学食の職員との会話に奪われ、ますますむすっとした表情になる。ああ、一夏が好きなのか、この子は。
「箒、テーブルどっか空いてないか?」
「…………」
「箒?」
「向こうが空いている」
一夏の手を振り払って、自分の分の定食を手にすたすたと歩き出す篠ノ之さん。一夏は首を傾げながらもその後を追いかけて行ってしまった。
「あれ、織斑くんは?」
「あっちの方に行ってしまった。空きのテーブルがあったらしい」
洋食セットをトレーに乗せたクラスメイトに訊かれ、私はふたりの歩き去った方向を指差した。
「あっちだって。ついてきて」
「待って待ってー」
(……ふたりにしておいた方が良かったか? いや、それでは一夏の気持ちを無駄にしてしまうし……)
まあいいか。私はようやく来たカレーライスを持って彼女たちの後に続いた。
「――今日の放課後」
「ん?」
「剣道場に来い。一度、腕がなまってないか見てやる」
「いや、俺はISのことを――」
「見てやる」
「……わかったよ」
注文を待っている間にふたりでいろいろと話していたようだ。黙って座って驚かしてもいけないので、一応こちらから声をかけよう。
「一夏、席を空けろ」
「お、おう」
私に促されて一夏が奥の方に詰めていく。とりあえず今の人数なら全員問題なく座れそうだ。本当に運良くテーブルが空いていて助かった。
「さっき何を話していたんだ? 剣道場とか見てやるとか言っていたが」
「ん? ああ、放課後剣道の相手をしてくれるんだと」
「ふうん……」
日本伝統の武術である剣道がどういうものかも見てみたかったが、菜々緒との約束があるので観戦は無理だろう。
「それで、一夏はどのくらい強いんだ?」
「どうだろうなあ。しばらくやってないからなんとも――」
「ご馳走様でした!」
彼の言葉を遮るように手を合わせた後、篠ノ之さんは席を立った。自分以外の女子と話しているのが気に食わなかったのか、放課後のことをべらべら喋られて怒っているのかはわからないが、相当苛立っているようだった。――おそらく私のせいだな、否定はしない。
「なあ、どうにかして怒りを鎮める方法はないか?」
そんなもの私に訊くな。自分の心に訊け。
「そう言われたって、わかんないもんはわかんないんだよ」
「それなら仕方がないな。――一夏、一週間でどうにかなりそうか?」
「箒が教えてくれることになったから大丈夫だ。あとは気合でなんとかしてみせる」
……まあ、篠ノ之博士の妹だから並以上の知識はあるだろう。一週間でどれだけ習得できるか怪しいところだが、無抵抗のままやられることは多分ない。そう思っておこう。それ以上は私から特に訊くこともなく、他の女子たちを交えての他愛もない会話が食後まで続いた。
◇
放課後、端末経由で指定された場所に向かった。第三アリーナ――来週の月曜日、一夏とセシリアがクラス代表の座を賭けて戦う場所だ。
「待ってたよ、百夏」
土の敷き詰められたグラウンドの上で、ISスーツを着た菜々緒が仁王立ちしている。いつものようにちゃん付けで呼ばないのはそれなりに気合が入っているからだろう。胸に提げているシルバーのペンダントが日差しを浴びて光っている。
「それじゃあ、早速やろうか。せっかく先輩たちに場所を譲ってもらってるんだから、さっさと済ませちゃわないとね」
「随分と自信があるようだな」
「それだけの実力を持っているってことだよ」
尋ねる私に、彼女はそう言って余裕ありげな笑顔を向けた。
「――行くよ」
ペンダントを左手で掴むと同時に、光が彼女を包み込む。一瞬でアーマーと背面の巨大なスラスターを構築し、足先を地面から浮き上がらせた。
(来い、シュヴァルツェア・ハーゲル)
環の嵌った右腕を目の前にかざす。一秒ほどで装甲が形成され、私の全身を包み込む。白銀に対して、漆黒の機体が向かい合うようにして出現した。お互いの距離は十五メートルほどしかない。やろうと思えば、一瞬で懐に飛び込むこともできる。私はプラズマの刃が形成された両手を、菜々緒は一瞬で展開した巨大な片刃の剣をそれぞれ構えると、試合開始の合図を待った。
『それでは練習試合を始める。両者、位置について――始めっ!』
鳴り響くブザーと同時に突進。リーチが長い分あちらの方が振りは遅い。両手で構えたそれを打ち振るうより早く、青白く輝く指先を突き立てる――。
「――なんてね」
菜々緒が笑った。シールドごと貫かんと前方に突き出した右腕は、しかし手応えを感じることなく伸びきって止まる。――迅い!
既に一息で追い付けないほどの距離を取った彼女の手の中で、大太刀だったものが複数のパーツに分かれ、組み合わさって新たな形を再構築していく。彼女はグリップの一部になった柄を掴んだまま、分厚い刃の中から現れた大口径の銃身を私に向かって倒し、そのままトリガーを引いた。
「ッ――――!!」
ドン、ドンドンドンッ! 構えた腕の抑制を振り切って揺さぶるほどに大きな反動を伴いながら、対戦車狙撃砲の弾が連続で発射された。高速かつ重量級の弾丸が全身を包むエネルギーシールドを貫通して、右肩の装甲を弾道の形に削ぎ落としていく。
「ほらほら、避けないとどんどんエネルギーがなくなっちゃうよー!」
「くそっ!」
射線から逸れるように機体をスライドさせる。もし絶対防御を作動させられたら、今以上にシールドエネルギーが持っていかれてしまう。そうなれば確実に不利な状況になる。フェイントを入れながらの高速機動で狙いを定めさせないようにしながら弾丸の浪費を誘う。
「ああもう、ちょこまかと動くなー」
対物ライフルの口径をさらに大型化し、サイズアップに伴って炸薬の量も増やした弾丸を発射する射撃武装。確かに威力と貫通力は高いが、反動の大きさが災いして連射時の集束率は非常に悪くなっている。こちらが止まりさえしなければ当たりはしないだろう。
(左肩に『ラヴィーネ』を展開、続けてワイヤーブレードを射出――!)
小さなミサイルの姿を思い浮かべると、被弾していない側のユニットに台形柱状のコンテナが現れた。並走する菜々緒をレーダーロック、セル1から4までを解放して中のミサイルを打ち出す。白煙を上げながら加速するそれらが彼女の背後に一旦回り込み、小さな弧を描きながら反転した。
「当たれ――ッ!!」
同時に装甲の一部を展開、内部に隠されていたワイヤーブレードを放って退路を塞ぐ。だが――。
「それが、どうしたあっ!!」
「!?」
スピードを落とすどころか更に加速しながら、生き物のようにうねり狂うそれらの間隙を縫って接近してくる。横合いから迂回してくるのならまだしも、そんな異常染みた複雑な機動で突っ込んでくるなんて信じられない。絶えず形状を変化させ続ける大型スラスターがそんな奇怪な動きを可能にしているのか――。
「もらった!」
懐に飛び込んできた彼女がライフルを構えた。このままでは至近距離で撃たれる――!
(AIC《慣性停止結界》起動――!)
彼女を視界の正面に捉え、薙ぐように左腕を振るう。その瞬間、動きが止まった。スラスターも、トリガーにかけた指も見えない障壁に絡め取られて微動だにしない。
「あ、あれ――?」
彼女が戸惑いの声を上げる。
ドォン――ッ!
遅れて戻ってきたミサイルが彼女にぶつかり、その体を横方向に大きく弾き飛ばす。その勢いで伸ばしていたワイヤーに体が引っ掛かった。
「まだだ! もう一撃――!」
絡まった彼女を一気に引き寄せながら、私は彼女に向かって手刀を振り下ろした。――が、当たる寸前で再び大太刀に戻った可変武装に受け止められる。
「そう簡単にやられるもんですか」
「やられてくれれば楽だったのだがな」
言い返しながら相手を蹴飛ばす。距離を取りながらワイヤーブレードを回収、再射出可能な状態に移行させた。
(生半可な攻撃ではかわされる。ならば面で圧倒するだけだ――!)
今度は右肩にもミサイルポッドを呼び出して全弾発射モードに切り替える。標的自動捕捉――起動。
「これでどうだ!」
五十発を超えるミサイルが一斉に飛び出し、前方を噴射煙で白く染める。速度も誘導性能も高いマイクロミサイルだ、そう簡単には逃げ切れない。
(だがこれはあくまで囮だ。本命は――)
空になったコンテナを二つとも装備解除し、残るもうひとつの装備を呼び出す。すべてを切り裂く剣、相手を容赦なく焼く青の焔――。
(来い――!)
肘から下の装甲をその上から覆う巨大なアームガード、その先に連なる柱状の刃が順次展開されていく。サイズがサイズだけに一瞬では呼び出せない。だから、こうして時間を稼ぐ必要があった。
(装甲下エネルギーセル順次接続……シールドエネルギー直接供給路構築完了……)
迎撃され、数を減らしていくミサイル。その先にはあの白銀の機体がある。
(放電開始……非殺傷設定に従い五七パーセントで出力限定解除……)
こちらに突撃を仕掛けた彼女に向かって、青い光を帯び始めた大剣をゆっくりと構える。――今だ!
(エネルギー全面開放――)
「はあああぁぁぁぁぁぁ――――っ!!!!」
一閃――刃先から一気に放たれた光が巨大なプラズマの剣を生み出し、菜々緒とまだ残っていたミサイル数基とを巻き込みながら正面を大きく薙ぎ払う。直後、アリーナに雷が落ちたかのような轟音がとどろいた。
(エネルギー開放終了、機能保護のため強制冷却開始――)
側面に穴の開いた肉厚の剣――高圧放電電極が大きく縦に割け、内部に籠っていた熱が外表へと放出される。
『レーヴァティン(災厄の枝)Ⅱ』――『ブリュンヒルデ』の連勝記録を止めるためだけに生み出され、第二回モンド・グロッソ準決勝において彼女によって討ち果たされた、『雪片』の血を受け継ぐ異端の存在。その実態は、自身のシールドエネルギーを攻撃に転化することでシールドごと相手を粉砕する、桁外れの威力を持ったプラズマブレードである。
ドイツ軍が倉庫の奥で眠っていたものに急遽手を加えて用意してくれた私専用の剣だ。この一撃を食らえば、どんな機体であろうと一気にシールドを奪われて戦闘不能に陥る。ただし、一試合につき打てるのはただ一度だけ。攻撃可能範囲が大きいとはいえ、展開の遅さやエネルギー転換効率の悪さ、使用回数の制限といった短所がある分、元になった装備にはあと一歩及んでいない。それでも十分強力過ぎる武装であることは確かだ。
「どうやら私の勝ちだったようだな――」
『いやー、悦に入ってるところ悪いんだけどさー』
個人間秘匿通信越しに割り込んでくる陽気な声。コアの位置情報を頼りに探すと、地上に降りた彼女の姿があった。
『ダブルノックアウトらしいよ』
「何?」
馬鹿な。冗談だろうと思いながら自機のシールドエネルギーを確認する。――エネルギー残量、ゼロ。
「どういうことだ?」
『んー? まあ、ちょちょいっと武器をぶん投げまして、それがシールドを破って"たまたま"大事なところに突き刺さりました――ってところかな?』
よく見ると、右肩と左脚部ユニットの付け根近くに一本ずつ短刀が刺さっていた。攻撃中でシールドが薄くなっていたとはいえ、そう簡単に突き抜けるとは思えない。
『要するに、『雪片』を真似た武装はドイツだけじゃなく日本も手掛けてるってわけ。単一仕様能力の『零落白夜』も、原理自体は世間に知れ渡っちゃってるからねー』
原則、ISに関する技術は全世界に開示されることになっている。第一回モンド・グロッソで優勝した織斑千冬の『暮桜』もその例外ではなく、機体構造はもちろんのこと、専用の武装である『雪片』の詳細までもが明らかにされた。そして、その仕組みを真似た対シールド兵器が各国で研究され、開発されて第二回モンド・グロッソで一堂に会した。
しかし所詮は贋作、三年前と同じ機体と装備を使う『ブリュンヒルデ』の前に数々の試作兵器が敗れ、シールドエネルギーの消費による稼働時間の低下という致命的な問題を指摘されてからは、より扱いやすく節約の利く第三世代型武装に完全にお株を奪われてしまった。今では『雪片』そのものを作った日本だけが粘り強く研究を続けている状況だ。
(そして、そのひとつがあの機体に積まれていたということか)
内部にエネルギーを充填し、着弾時に開放してシールドを無効化する投擲武器。通常の刀剣の『線』ではなく、貫くという『点』の攻撃に用途を絞ることで消費するエネルギーを抑えたのだろう。当然与えるダメージも小さくなるが、絶対防御を発動させるような部位を狙えば確実にシールドエネルギーを削れるといったところか。
「これは一本取られたな」
『いやいや、"狙って投げるほどの余裕はなかった"からねー。本当にまぐれ当たり。もうちょっと振るのが早かったら私が負けてたね』
「何を言う。適当に投げて当たるようなものでもないだろう」
そう。まっすぐ伸びた銃身から発射されるわけでもなく、空中で軌道修正が働いているわけでもない。単なる投擲で命中させているのだ。射撃訓練で常に部隊最低点をマークしていた私には到底信じられる話ではなかった。
『とりあえず降りてきたら? もう戦えるほどエネルギーも残ってないでしょ?』
「そうだな。――菜々緒、後で感想を聞かせてくれ」
『はいはーい。百夏ちゃんも私の指導お願いねー』
間延びした声で菜々緒が答える。指導か……『強引に正面から攻めるな』とでも言っておけばいいだろうか。私は背面のスラスターを作動させると、アリーナの地面に向かってゆっくりと降下した。
四組さんと真月マジチート……というわけでもなく、実力や性能はそれほど高くなかったりします。百夏が射撃武器を使わなかったので有利に立ち回れたというだけで、セシリアのように射撃寄りの相手だとものすごく相性が悪いんです。可変複合兵装の対戦車ライフルも、相手が回避機動を取っている時は精密狙撃モードでないとまともに当たりません。装甲自体は紙なので、機動力と野生の勘で何とかしている感じだったりします。
さて、次回はいよいよクラス代表決定戦。といっても原作に合わせながら書いていくだけなんですが。ようやく前半のクライマックスということで頑張って書いていきたいと思います。
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