1
「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」
各種装備の特性か……。ISと本来の兵器との違いは大きい。
オレにはまだよくわからんが、ISという兵器を運用するに当たり、『想像力』と『物体を構成するイメージする力』というのは重要らしい。
そういった事はまあ、追々学んでいくといて、IS関連のチュートリアルをしてくれるのは、ド素人のオレに取って有り難い話だと思う。
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
「織斑先生、質問いいっスか?」
「何だ浮舟」
「クラス対抗戦の代表者って何スか?」
「文字通りクラスの代表者だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、つまりはクラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点では大した意味はないかもしれないが、一度決まると1年間変更はないから、そのつもりで」
なるほど。面倒そうな役割というのはよくわかった。
そういう事はやりたい奴に任しておけばいいと思う。オルコット当たりを推薦しておけばさっきの火消し程度にはなるかもしれない。
とか考えていると女子連中がとんでもない事をしてくれた。
「はいっ。織斑くんを推薦します!」
「じゃあ、私は浮舟旭くんを推薦します!」
「では、候補者は織斑一夏、浮舟旭。他にはいないか? 自薦他薦問わないぞ」
冗談! そんな事になったら面倒事が雪だるま式に増えていくのは目に見えている!
「はい! セシリア・オルコットを推薦します!」
とりあえず、オルコットが噛みついてこないうちに推薦しておく。
「候補者は『織斑一夏』『浮舟旭』『セシリア・オルコット』。他にいないか?」
誰も手を上げない。あとはオレと一夏が辞退すれば万事解決。四方丸く収まるわけだ。
「よし、この3人で投票を――」
「先生! オレ辞退――」
「納得いきませんわ!」
オレの言葉を遮り、オルコットがバンッ! と机を叩き、立ちあがった。物凄い剣幕だ。
「そのような選出は認められません! 大体男がクラス代表候補に挙がるというだけでも言い恥さらしですわ!」
ヒデエ言われようだな。っていうか、オレ辞退しようとしたよな? 人の話は最後まで聞こうや、オルコット嬢ちゃん……。
「実力から言えばこのわたくし、セシリア・オルコットがクラス代表になるのが必然。それを物珍しいからという理由で絵にかいたような不真面目な男と無知蒙昧で恥知らずな男という猿コンビを候補にされては困ります!」
ここまでボロカスに言われると、もう笑うしかないな。あっはっは! っていうか『無知蒙昧』なんて難しい言葉を良く知ってたな。
「いいですか!? クラス代表とは実力トップがなるべき! そしてそれはわたくしですわ! 大体、文化としても後進的なこんな国で暮らさなくてはいけない事自体、わたくしにとって耐え難い屈辱だというのに――!」
周りの反応なんか気にも留めず、セシリア・オルコットはますますヒートアップしていく。
ふう、仕方のない奴だ。気が済むまでしゃべらせた後、オルコットを代表にするって流れに持っていこう。クラスの連中もオルコットのこの熱弁を受けたあとなら、その流れに便乗してくれるはず。
どうすればこの場を穏便に収める事が出来るかという方向で思考を巡らせる。
この場を平和に収める為なら子供のダダこねに腹を立てる事はない。第一、オレは日本人ではないのだ。日本を馬鹿にされて腹を立てる道理もない。
それが年長者としてオレがとるべき態度であり、この場で最もベターな選択だと確信を持っている。
この時、オレは完全に失念していた。この対応は大人であり、日本人でないオレだからこそ出来る事であり、『織斑一夏』は正真正銘の日本人で、まだ15歳という『子供』だという事を……。
「……イギリスだって、大したお国自慢は無いだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ?」
「なっ……!?」
セシリア・オルコットの数々の暴言に今まで押し黙っていた一夏がキレた。一夏の反撃が逆鱗に触れたのかオルコットは顔を真っ赤にして怒りを溜めている。
「あっ! あっ! あなた、わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「オ、オルコット! すまん、落ち着いてくれ! 一夏も悪気はないんだ! 売り言葉に買い言葉という奴で――!」
「何で誤るんだ旭!? 豚の餌にも劣るようなモノ食ってる奴に日本をここまで馬鹿にされて黙ってるのかよ!?」
「よーし! それじゃあ今からオレがイギリスの良い所を順にあげてやろう! イギリスでは水難事故による死亡率は日本の1/5でな、その理由は着衣水泳のよる教育を――」
「決闘ですわ!!」
「おう。いいぜ! 四の五の言うよりわかりやすい!」
オレの必死の消火作業も空しく、ヒートアップするガキ2人……。
「言っておきますけど、態と負けたりしたらわたくしの小間使い――いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負に手を抜くほど腐っちゃいない」
「そう? 何にしてもちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すいい機会ですわ」
「ハンデはどのぐらいつける?」
「あら。早速、お願いかしら?」
「いや、オレがハンデをどれくらいつけたらいいかなーと」
クラスが爆笑の渦に包まれた。
なんてこった。鼠が虎に喧嘩を売っている。
「織斑くん、それ本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのって大昔の話だよ?」
「織斑くんは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言いすぎよ」
一夏のバカヤローの表情がどんどん硬くなる。完全に自分がIS初心者だって事を忘れいていたな……。
「……じゃあハンデはいい」
「ええ。そうでしょうそうでしょう。むしろわたくしがハンデをつけなくていいのか迷うくらいですわ。ふふっ。男が女より強いなんて、日本の男性はジョークセンスがあるのね」
凄い皮肉だな。一夏の命に関わる事じゃないし、オレにとっては対岸の火事だ。もう勝手にしてくれ。
「さて、話は纏まったな。それでは勝負は1週間後の月曜日。放課後第三アリーナで行う。織斑、浮舟、オルコットはそれぞれ準備しておくように。それでは授業を始める」
「はいはい、がんばれー、いちかー…………って、えええええええええええ!? ちょ、はあああああああああああああああああああああっ!?」
スパァンッ!
「メパッ!?」
「静かにしろ馬鹿者」
「ちょっ、織斑先生! 何でオレまで勝負する事になってるんスか!?」
「クラス代表を決める為の試合だ。候補者が試合をするのは当然のことだろう」
「辞退! 辞退しまっす!」
「却下だ。他薦された者に拒否権などない。選ばれた者は覚悟を決めろ」
「何でこんな事にいいいいいいいいいいいいいいっ!?!?!?!?」
オレの無常な叫びはスパァン! という音によって遮断された。
2
「セシリア・オルコット。イギリス代表候補生。機体名『蒼い雫』
第3世代ISで1対多数での射撃戦を想定した設計なされている。機体第3世代兵器「BT兵器」のデータをサンプリングするために開発された実験・試作機の為、ライフルの実弾装備がない。現在判明している武装は特殊レーザーライフル『スターライトMKⅢ』ビット型武器『ブルー・ティアーズ』近接戦闘用ショートブレード『インターセプター』か……」
オレは現在、ホテルの一室でイギリス代表候補生『セシリア・オルコット』のデータ収集を行っている。余談だが、IS学園は全寮制なのだが、オレの入学は急遽決まった所為で寮の空き部屋がまだない。その為オレはホテルから通学する事になっている。
「狙撃を目的とした機体設計って点ではオレのISと少し似てるな」
オレのIS『暴風』は多数対多数のチーム戦を想定した機体であり、ミドル・アウトレンジでの戦闘を本領としている。後方支援機の為、格闘性能は並より少し上程度らしいのだが、束さんいわく『あっくんの搭乗を前提としてある機能をぶちこんで、チューンナップしてあるから、近接戦闘でも充分対応できるんだよっ★』とのことらしい。
まあ、オレはISについては門外漢だ。性能の事は束さんに任せるしかないだろう。
「って言ってもド素人のオレが勝てる相手でもないんだよな……。さて、どうしたものか」
オレの目の前にある選択肢は2つ。
1. 諦めてボコボコにされる。
2. 足掻きまくってボコボコにされる。
どちらを選んでもボコボコになる訳で……。
「ふう~~~~~。仕方ない。やれる限りはやるとしますか。倒れるときは前のめりに、だな」
(ボコボコにされる)覚悟を決めて冷蔵庫の中からビールを取り出し、プルタブを開ける。
プシッ! という音がして、アルコールの匂いが立ち込めてきた。
「しっかし、まさかあの時の子がこんな所にいるなんて……」
世間は狭い。そして下調べを怠った自分の迂闊さに呆れてしまう。オレはセシリア・オルコットと過去に一度会った事がある。
たしか『身代金目当てに誘拐されたセシリア・オルコットを救出してほしい』って依頼が先生の所に来て、オレが中の制圧、先生が外からの狙撃を担当したんだっけ……。
ははっ、懐かしい……。
ビールを一口飲み、ベランダに移動する。
オレの願いの為にやる事は山積みだ。
これからやろうとしている事はきっと多くの人を傷つけるだろう。
オレを友達だと言ってくれた一夏を、オレを信頼していると言ってくれた束さんを、オレを心配だと言ってくれた『イアン』を……。
けど、それでも――オレはやらなければならない。
他でもないオレ自身の為に……。
誰かの為なんて言葉使ってたまるか。
『誰かの為』という事は裏を返せば、『誰かの所為』という事になる。
オレがこれからやる事を『先生の所為』にしてたまるか。
「…………もう少し。もう少しです、先生……。あなたは望まないかもしれませんが、オレは命に替えても―――――――」
誰に向けたでもない旭の誓いの言葉は夜風の音に掻き消された。
3
IS学園に入学してから2日目、二時限目が始まった時点で織斑一夏は既にグロッキーだった。寮の部屋割が決まったのは良いが、同居人は昨日再会した幼馴染『篠ノ之箒』だった。
しかもその幼馴染と部屋で一悶着(彼女の風呂上がりでタオル一枚の所に遭遇してしまったり、室内に引っ掛かっていたブラジャーを見てしまったり)あって殺されかけた事が何回か。そして、トドメとばかりに一時間目のISの授業。昨日少し予習したおかげである程度の専門用語は理解できるようになったが、根本的な論理の部分が理解できない。
(うーん……)
教科書とにらみ合いを続けながら、教壇でISの基礎知識をレクチャーしている山田真耶の言葉に耳を傾けるが、無情にも1ミリも理解できないまま時間だけが過ぎて行った。
「というわけでISは宇宙での作業を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアで包んでいます。また、生体機能を補助する役割があり、ISは常の操縦者の肉体を安定した状態に保ちます。これは心拍数、脈拍、呼吸数、発汗量、脳内エンドルフィンなどがあげられ――」
「先生、それ大丈夫なんですか? なんか体中いじられてるみたいでちょっと怖いんですけど……」
「そんなに難しい事ではありませんよ。例えば皆さんブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれ、それで人体に悪影響を及ぼす訳ではない訳です。勿論、自分に合ったサイズのものを選ばなくては型崩れを起こしてしまいますが――」
そこまで言って一夏と真耶の目があい、真耶は慌てた。
「えっと、いや、その、お、織斑くんはしてませんよね。わからないですよね。この例え。あは、あははははは」
「は、はあ」
一夏は居心地悪そうに頬を掻いた。
「わかりました。それではこの不肖、浮舟旭が一夏バカヤローにもわかりやすく解説しましょう」
「「え?」」
「一夏、オレ達で言うパンツの様なものだ。小さい物を無理に履こうとすると、オレ達の大事な黄金の玉二つが潰れて――スコーンッ!――ヒデブッ!」
旭の下品な例え話に千冬が出席簿を手裏剣の要領で投擲し、彼の延髄に衝撃が走り倒れた。
「んんっ! 山田先生、授業の続きを」
「あっ。は、はい!」
大きなタンコブを作り、床に横になっている旭に心の中で合掌し、一夏は教科書に意識を移した。
「そ、それともう一つ大事な事はISには意識にも似たものがあり、お互いの対話――つ、つまり一緒に過ごした時間でわかりあうといいますか、ええと、操縦時間に比例してIS側も操縦者の事を理解しようとします」
その説明に旭は興味を引かれたようで、「へえ、面白いな」と、小さく呟いた。
そこまで言った所でチャイムが鳴り、2限目の授業が終了した。
「あっ。えっと、次の時間は空中におけるISの基本制動をやりますからね」
そう言って真耶は次の授業の準備をする為にそそくさと教室を後にした。
「ねえねえ、織斑くんってさあ」
「はいはーい、質問しつもーん」
「今日のお昼ヒマ? 放課後ヒマ? 夜ヒマ?」
クラスの女子たちが休み時間と同時に一夏のもとに肉食獣よろしく群がっていく。
彼女たちの瞳には『遅れる訳にはいかない』と書いてある。
「はいは~い、並んで並んで~! 最後尾はここな」
因みに旭の所は閑古鳥が鳴いているので、仕方なく彼は『整理券(有料)』を並んでいる女子に配布している。どうやらぼろ儲けのようだ。一夏が『人で商売を商売をするな!』と、叫んだが当然無視した。
囲まれていた一夏は箒にSOSの視線を送るが彼女は態とらしく視線を逸らし、グラウンドの方をジッと見つめている。
(参ったな。箒にISの事を教えてもらいたかったんだが、こりゃ夜に聞くしかないな)
「千冬お姉さまって家ではどんな感じなの!?」
「え? 意外とだらしがな――」
スパァン!
「休み時間は終わりだ。散れ」
鶴の一声。まさにそんな言葉がぴったりだろう。いつの間にか一夏の背後に立っていた千冬の一言で騒がしかった女子たちの歓声はピタリと止み、すごすごと席に戻って行った。
「織斑、おまえのISだが、準備まで時間がかかるぞ」
「え?」
「予備の機体が無い。だから学園で専用の機体を用意するそうだ」
『専用機!? 一年のこの時期に?』
『つまりそれって政府からの支援が出るって事?』
『すごいな~。私も早く専用機が欲しいな~』
「旭、専用機があるってそんなにすごい事なのか?」
「あんたな……」
女子たちが専用機持ちという事で大いに騒いだが、当の一夏はそれがそう言った事を示しているのかわかっていない様子だった。その様子に旭はげんなりしながら額に手をやる。
「教科書6ページ、読んでみな」
「ええっと、何々? 『現在幅広く国家・企業に技術提供を行われているISですが、そのコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機のコアはすべて篠ノ之束博士によって作成された物で、これらは完全にブラックボックスと化しており、未だ博士以外はコアを作れない状況にあります。しかし、博士はコアを一定数以上作る事を拒絶しており、各国家・企業・組織・機関ではそれぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取引する事はアラスカ条約第7項に抵触し、すべての状況下で禁止されています』」
「って事だ。本来は企業とか、政府に所属する人間にしか専用機なんて配布されないけど、あんたのケースは異例中の異例。データを取りやすくするために専用機を用意したって事な。OK?」
「あ、ああ。大体は。って事は旭はどこかの企業に所属してるのか?」
「まーな」
「あ、あの織斑先生。篠ノ之博士って篠ノ之さんと何か関係者なんでしょうか……?」
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」
「ええええーっ! す、すごい! このクラスに有名人の身内が2人もいる!」
「ねえねえ、篠ノ之博士ってどんな人!? やっぱり天才なの!?」
「篠ノ之さんも天才なの!? 今度ISの操縦を教えてよっ」
さっきまで一夏の集まっていた女子が一斉に箒に集まって行った。
矢継ぎ早に質問をされるが、箒は俯いたまま唇を噛み締めている。
「あの人は関係な――!「あーっ!!! 校庭に巨大なタケノコがニョキニョキとおおおォォォォッッ!!!!」
「「「…………」」」
旭は唐突に箒の大声を更に上回る大声で馬鹿な事を口走った。クラスメイトの冷たい目線が旭に一斉に突き刺さる。冷たい目線を一身に受けて旭は苦笑いを浮かべた。
それを見て、千冬はフッと微笑みながら授業の準備を始める。
「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令を」
「あ、はい!」
(気を、使ったんだろうか……?)
一夏は前の席の旭を見て、首を捻った。
4
いやー、さっきの冷たい視線は痛かったなぁ。ちょいと泣きそうになっちまったぜい。
束さんと篠ノ之妹の関係についてはオレも少し聞いている。難しい問題だとは思う。
休み時間に一夏と篠ノ之を誘って机の上でIS学園に来る途中に寄った京都で買った『おたべの夕子』を広げている。うん。やっぱり和菓子には渋い緑茶だな。
「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようと思っていなかったでしょうが」
「よお、オルコット。どうだ? これでも1つ」
「? 何ですのこれは?」
「京菓子生八つ橋『おたべの夕子』だ。渋いお茶と一緒に食うとお茶の渋みと混じって美味だぞ」
「これが生八つ橋。……? 何故『夕子』ですの?」
「そう言えば何でなんだろうな? 箒、知ってるか?」
「…………知らない」
「それはな、これを作った会社の社長の愛人の名前が夕子で――」
「「「ええっ!?!?!?」」」
「冗談だ。水上勉著『五番町夕霧楼』の主人公の『片桐夕子』からとられているんだ」
「「へ~」」
「勉強になりますわ。……ってそうではありません! 何故敵であるわたくしにお茶を振る舞っているのですかあなたは!?」
「セシリア・オルコット。こんな話がある。昔、日本の戦国武将『武田信玄』は今川氏との同盟を破棄し、東海方面への侵略を企てた。それに怒った今川氏は北条氏と結託し、報復として武田領内への『塩留め』――要するに塩の流通を塞き止めたんだな――を行った。武田の領地は今で言うの山梨と長野で、海に面していなかったから塩を取ることが出来ず、領民は苦しんだ。この事態をみて、武田の領民を助けたのが信玄の好敵手だった上杉謙信だ。義を重んじる事で有名な謙信は、越後から信濃へ塩を送り、本来敵である武田信玄とその領民を助けた。 このことから、敵対関係にある相手でも、相手が苦しい立場にあるときには助けてあげることを『敵に塩を送る』というようになった」
「い、良い話ですわ……」
「そうだろう、そうだろう」
「って煙に撒かないで頂けませんか!?」
う~ん……。根本的な所では単純なのかこの子は?
「コホン、一応勝負は見えていますけど? さすがにフェアではありませんからね」
「? 何で?」
「以前教えて差し上げた通りこのわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり現時点で専用機を持っていますの!」
「へー」
「馬鹿にしてますの?」
「いや、単純にスゲーなって思っただけだぞ。どうスゲーのかはわからねーが」
「それを一般的に馬鹿にしていると言うでしょう!?」
あ~あ……。ガス抜きしたのに台無しな。ますますヒートアップしてるのな。
「……コホン。さっき授業でも言っていたでしょう。世界でISは467機。つまりその中でも専用機を持つ者は全人類60億超の中でもエリート中のエリートという事になりますわ!」
「そ、そうなのか……」
「そうですわ」
「人類って60億人越えてたのか……」
「そっちかいな!」
「そこは重要ではないでしょう!」
オレとオルコットのダブルツッコミが炸裂する。やるな一夏。オレにツッコミをさせるとは……!
「あなた本当に馬鹿にしていますの!?」
「いや、そんな事はないぞ」
「何故棒読みですの?」
「なんでだろうな、箒」
「あ、そっちに振る?」
オルコットの関心が篠ノ之妹に向く。
「そういえばあなた、篠ノ之博士の妹なんですってね」
「あ、オルコット。その話題は――」
「妹というだけだ」
「うっ……」
ギンッ! と眼つきを鋭くさせ、凄む篠ノ之妹。オルコットは尋常じゃない怒気に当てられ怯んでいる。いけない。この場を和ませる為に何か一発芸を!
「OH! 邪魔ジャマー!」
「「「は?」」」
「これ今マイブームなんだよ。つまらなかったか寒かったかヒイてしまったか痛かったか~」
「「「…………」」」
さ、3人の視線が痛い……。これは何の試練ですかゴット!?
これがホントのOh my god! ……つまんねー……。
「ま、まあ。どちらにしてもクラス代表にふさわしいのはこのわたくしセシリア・オルコットという事をお忘れなく」
よし。オレの超寒い一発ギャグが役に立ったのかどうかはわからんが、毒気を抜く事は出来たようだ。オルコットはまわれ右して向こうの方へ立ち去って行った。
あとは一夏、フォローよろしくな。と目で合図。一夏はオレの意図を汲み取ったようで、頷いて篠ノ之に声をかけた。
「箒」
「…………」
「篠ノ之さん、学食に飯食いに行こうぜ他に誰か一緒に行かない?」
『はいはいはいーっ』
『行くよー。ちょっと待ってー』
『お弁当持ってきてるけど行きます!』
おうおうおう。羨ましいな。腹立つから撃ってしまっていいかな?
「……私は、いい」
「まあ、そう言うな。立て立て行くぞー」
「お、おいっ! 私は行かないと――ええい! 腕を組むな!」
「なんだ? 歩きたくないのか? おんぶでもしてやろうか?」
「なっ……!」
篠ノ之妹は一夏の台詞に顔を真っ赤にした。
あ、ヤバイ。気付いた。気付いてしまった。この子、一夏に惚れてる。
「は、離せ!」
「学食に着いたらな」
「今離せっ! ええいっ――」
一夏が組んでいた腕を掴み、篠ノ之妹が関節を極める。そして一夏の体が宙を舞った。
「おお、見事な投げ技だな」
「腕をあげたなぁ」
「ふ、ふん。お前が弱くなったのではないか? こんなものは剣術のオマケだ」
「オマケで古武術を習得してる女子なんてお前だけだよ、全く」
『え、えーと……』
『や、やっぱり……』
『私たち遠慮しておくね……』
「…………旭はどうする?」
「オレは先約があるんだ。篠ノ之と一緒に行ってこいよ。会うのは久しぶりなんだろ? 『二人きり』でゆっくり話して来い」
二人きりという所を強調して言ってやる。これで他の奴を誘おうものならこいつは朴念仁でトウヘンボクで決定だ。
「? あ、ああ。わかった。箒」
「名前で呼ぶなと――」
「飯食いに行くぞ」
一夏はガシッと篠ノ之の肩を掴み引っ張っていく。やるな一夏。
「お、おいっ。いい加減に――」
「いいから行くぞ」
「黙ってついて来い」
「む……」
一夏に言われるがまま篠ノ之は教室から出ていく。
素直じゃないな。若いうちは――高校生くらいの時はやっぱり好きな人に気持ちを伝えるというのは恥ずかしい物なんだろうか?
あ~あ。みんな羨ましいぞっと。
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