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第5話の翌日の話です。
早くもサブタイトルに詰まってきた……
第6話 旧交
朝。
己は一夏と箒と合流し、食堂で朝食を取っていた。

一夏は世界で唯一ISを動かせる男ということで、保護、監視その他諸々の事情から急遽寮に入ることが決定した。
したのだが、本当に急なことだったので部屋が準備出来ておらず、なんと箒と同部屋になったという。

―――それでいいのか、IS学園。

「これうまいな」

和食セットを食べながら言う一夏の頭には、見てわかるくらいに巨大なタンコブがある。

一夏のことだ、何があったか大体の想像が付く。箒もかなり不機嫌だし。

「お、織斑くん、隣いいかなっ?」
「へ?」

突然、三人の女子が声を掛けてきた。

「ああ、別にいいけど」

箒が更に不機嫌な顔になった。一夏は気付かないが。

「織斑くんって、篠ノ之さんと井上さんと仲がいいの?」
「篠ノ之さんと同じ部屋だって聞いたけど……」
「井上さんとは、昨日も一緒にご飯食べてたよね」
「ああ、まあ、二人とも幼なじみだし」

一夏が言った瞬間、周囲から驚きの声が聞こえた。
……かなり遠くからも聞こえたぞ。どれだけ聞き耳を立ててるんだ。

「え、それじゃあ―――」
「いつまで食べている!食事は迅速に効率よく取れ!遅刻したらグラウンド十周させるぞ!」

IS学園のグラウンドは一周五キロ。十周で五十キロ。
朝からそれはなかなかきついものがあるので、それは勘弁願いたい。
己は残っていた朝食(日替わり定食)を食べ、教室に向かった。



――――――――――



「というわけで、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます。また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどがあげられ―――」
「先生、それって大丈夫なんですか?なんか、体の中をいじられてるみたいでちょっと怖いんですけども……」

AMSによってネクストと繋がるために、体を一部機械化していたリンクスからすれば大したことではないのだが、普通の生活をしていた少女からすればやはり恐ろしいだろう。

「そんなに難しく考えることはありませんよ。そうですね、例えばみなさんはブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれ、それで人体に悪影響が出ると言うことはないわけです。もちろん、自分にあったサイズのものを選ばないと、形崩れしてしまいますが―――」

そこで山田先生と一夏の目があった。
途端に赤くなる山田先生。

「え、えっと、いや、その、織斑君はしていませんよね。わ、わからないですね、この例え。
あは、あははは……」

ちなみに己もわからん。サラシ派だからな。
片腕だけで巻くのは初めは大変だったが、慣れてしまえばどうということはない。

クラスに唯一の男子生徒を意識してか、女子たちが微妙な雰囲気を出し始める。

「んんっ!山田先生、授業の続きを」
「は、はいっ」

このままでは授業が進まないと察してか、千冬さんが咳払いで授業を促す。

「そ、それともう一つ大事なことは、ISにも意識に似たようなものがあり、お互いの対話―――つ、つまり一緒に過ごした時間で分かり合うというか、ええと、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします」

―――ほう

「それによって相互的に理解し、より性能を引き出せることになるわけです。ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください」

―――それは、ネクストにはなかった特性だ。
リンクスはネクストと繋がり、自分の体のように操る。
ネクストからもリンクスに情報が送られてくるが、それは機体ダメージや外部の状況などであり、ネクスト自体に意志などない。

―――ネクストは絶大な破壊をもたらす兵器であり、同時に、どこまで行っても兵器でしかないのだ。


キーンコーンカーンコーン


授業終了の鐘。
先ほどのISの意識云々のくだりから恋人の話に発展し始めたクラスメイトたちは、そのままの勢いで一夏に詰め寄った。

「ねえねえ、織斑くんさあ!」
「はいはーい、質問しつもーん!」
「今日のお昼ヒマ?放課後ヒマ?夜ヒマ?」

―――最後のはまずくないか?

押し寄せる女子たちは、一夏だけでなく千冬さんについても質問しだした。
それに答えようとした一夏の頭に、出席簿が振り下ろされる。

パァンッ!

「休み時間は終わりだ。散れ」

ドスの効いた声に、自分の席に逃げ帰るクラスメイトたち。

「ところで織斑、お前のISだが、準備まで時間がかかる」
「へ?」
「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」
「???」
「せ、専用機!?一年の、しかもこの時期に!?」
「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」
「ああ~。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ」

自分が専用機を与えられる。
その意味に気付いた一夏の気配が変わる。
刃のように、鋭く。

「わかっているようだな。ISの中心であるコアは、製作者本人以外には作れない。そして今は、その製作者もコアを作っていない。コアの数が限られているため、本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。
井上と違い、実力を認められたわけではない。自惚れるなよ」
「……はい、わかってます」

一夏は、大切なものを守るために、強大な「力」を欲している。
その「力」が、手に入る。
だが一夏の声にあるのは、喜びではない。

―――決意だ。
与えられた「力」に頼るのではなく、それを振るうに値する強者になると、そう新たな誓いを立てた声だ。

今の一夏がどんな顔をしているのか、己の席からは見えないが、一夏の横に座る女子の顔が赤いので大体想像が付く。

「あの、先生。ISのコアって、篠ノ之博士が作ったんですよね?もしかして、篠ノ之さんって篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」
「そうだ、篠ノ之はあいつの妹だ」

ちらりと箒を見ると、見るからに不機嫌そうな顔。

「ええええーっ!す、すごい!このクラス有名人の身内がふたりもいる!」
「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!?やっぱり天才なの!?」
「篠ノ之さんも天才だったりする!?今度ISの操縦教えてよっ」

そんな箒の様子に気付かないのか、クラスメイトたちが興奮した様子で箒に殺到する。
箒の我慢は、早くも限界を迎えた。

「あの人は関係ない!」

突然の大声。
それがまるで悲鳴のように聞こえたのは、己だけだろうか。

「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」

そう言って、箒は窓の外に顔を向ける。
流石にそれ以上箒に詰め寄る者はおらず、皆自分の席に戻った。

「さて、授業をはじめるぞ。山田先生、号令」
「は、はいっ!」

そうして授業が開始されるが、一夏はいまいち身が入っていない様子だ。
箒のことが気になっているのか。

(……ふむ……)

また、話を聞いてみるか。



――――――――――



「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

昼休みになるや、セシリアが一夏に話し掛けてきた。

「訓練機だろうが専用機だろうが、使いこなせなきゃ意味ないだろ」
「あら、よくわかってますわね。そう、ISで大事なのはISとのシンクロ。イギリスの代表候補生であるわたくしは、わたくしの専用機と完璧にシンクロしています。IS初心者のあなたには、万に一つも勝ち目はありませんのよ?」
「関係ねぇよ。俺は強くならなきゃならないんだ。勝っても負けても経験は積める。強くなれる」

セシリアを睨み付ける一夏。

「悪いが、糧になってもらうぜ―――セシリア・オルコット」
「く……!あ、あなた―――」
「おーい、箒ぃ。飯行こうぜ」

がらりと態度を入れ替えた一夏。呼ばれた箒は無視を決め込んでいるが、セシリアは先ほどの授業でのことを思い出したのか、今度は箒に話し掛けた。

「そういえばあなた、篠ノ之博士の妹なんですってね」

その話題を振るとは、こいつには学習能力がないのか?

「妹というだけだ」

案の定、箒はセシリアを射殺さんばかりに睨み付ける。
その眼力に気圧されたのか、セシリアは小さく呻いて一歩退いた。

「ま、まあ。どちらにしてもこのクラスで代表にふさわしいのはわたくし、セシリア・オルコットであるということをお忘れなく」

ぱさっと髪を払い、立ち去っていくセシリア。
一夏はその姿をなにやら呆れたような顔で見送ってから、再び箒に声を掛ける。

「箒」
「………」
「篠ノ之さん、飯食いにいこうぜ」

箒は頑なに沈黙を続ける。
そんな箒を心配してか、一夏は周りを見回して、

「他に誰か一緒に行かない?」
「はいはいはいっ!」
「行くよ~。ちょっと待って~」
「お弁当作ってきてるけど行きます!」

己も立ち上がり、二人の下へ行った。

「……私は、いい」
「まあそう言うな。ほら、立て立て。行くぞ」
「お、おいっ。私は行かないと―――う、腕を組むなっ!」
「なんだよ歩きたくないのか?おんぶしてやろうか?」
「なっ……!」

一気に赤くなる箒。素直になればいいものを。

「は、離せっ!」
「学食についたらな」
「い、今離せ!ええいっ―――」

箒が一夏の腕をとり、投げようと動くが、

「おっと」

一夏はするりと抜け出して箒と向き合う形になった。

「いきなり何すんだよ」
「お、お前が強引に連れ出そうとするからだっ!」

一夏は溜め息をひとつつくと、今度は逃げられないように箒の手を強く掴んだ。

「ほら、行くぞ」
「お、おいっ。いい加減に―――」
「黙ってついてこい」
「む……」
「よーし、じゃあしゅっぱーつ!」
「お待たせ~、準備おっけ~」
「ああ、織斑くんとご飯……!」
「………」

さて、学食に行くか。



――――――――――



六人でぞろぞろと学食に来たはいいが、かなり混雑している。
奇跡的に空いていた四人掛けのテーブルをふたつくっつけて、席に着いた。

「「「いただきます」」」
「いただきま~す」
「……いただきます」
「……いただきます……」

食事を始めてすぐに、己たちについて来た少女の一人―――己のルームメイトである本音が話し掛けてきた。

「む~、やっといのっちとご飯食べれるよ~。朝いのっちすぐいなくなっちゃうんだもん~」
「………」

今朝も鍛錬をしていたのだが、シャワーを浴び終わっても本音は寝ていた。
一応揺り起こしてから出てきたのだが、本音は不満だったらしい。

「いのっちって、おりむーと仲いいんだね~。学校が同じだったの~?」
「……幼なじみ……」
「おお~、やっぱいのっちはすごいね~」

なにがだ。
それと状況から判断したがおりむーとは一夏のことでいいのか。
そしてその袖でどうして箸が持てる。

ちらりと一夏を見ると、箒にISの操縦を教えてくれと頼んでいた。
今朝は己に頼みに来たのだが、箒に頼めと追い返した。
幼なじみの恋は応援してやらねば。

「じゃあさ~、小さいころのおりむーって、どんな感じだったの~?」
「……変わらない……」

鯖の塩焼きを口に運びつつ答える。
本音の友人と思われる二人も一夏の昔に興味があるようだが、己と話すのは気が引けるのか、質問は本音任せだ。
と、そこで、

「ねえ。君って噂のコでしょ?」

突如現れた三年生が一夏に話し掛けて来た。優しげな笑顔を浮かべて一夏にISの教示を買って出ているようだが、下心が透けて見える。
だがそういったことに疎い一夏は気付かず、その申し出を受けようとしていた。

仕方ない、追い払うか、と考えて、視線に力を込めようとしたら―――

「結構です。私が教えることになっていますので」(……ほう……)

箒が名乗りを上げた。
本音と二人の少女も、突如始まった修羅場(?)に興味津々である。

「あなたも一年でしょ?私の方がうまく教えられると思うなぁ」
「……私は、篠ノ之束の妹ですから」

自分からそれを言うとは、成長したな、箒。

「そ、そう。それなら仕方ないわね……」

すごすごと引き下がって行く三年生と、それを残念そうに見送る一夏。お前は本当に馬鹿だな。

「なんだ?」
「なんだって……いや、教えてくれるのか?」
「そう言っている」

……あとは、その態度が直ればな。

「今日の放課後」
「ん?」
「剣道場に来い。お前の腕を直接見てやる」
「いや、俺はISのことを―――」
「見てやる」
「……わかったよ」

これで己の放課後の予定も決まったな。
箒の腕が六年前からどれだけ上達しているか興味もある。

だが今は、午後の授業に備えて昼食をとることに専念するとしよう。

「なんか面白そうなことになったね~いのっち~」
「………」

そして彼女たちの予定も決まったようである。



――――――――――



「ハァァッ!」
「ゼェイッ!」

裂帛の気合い。
竹刀がぶつかり合う音。

二人の剣舞が始まってから十分。
試合は白熱していた。
初めは興味本位で集まって来た観客たちも、今では試合に見入っている。

「二人とも、すごい……」「さすが全国大会優勝者なだけあるわね……」

剣道部員は二人を知っているようだ。
箒は有望な新入部員候補としてチェックしていたのだろうが、男子である一夏のことも知っているのは、一夏が中学二年生の時と合わせ、二連覇の偉業を果たしているからだろう。

二十分が経過し、流石に二人とも疲れてきた。
当然だ、いくら体力があろうと、人間が全力で動き続けられる時間は長くない。

決着は一瞬。

「小手ェェェェッ!」

箒が鋭く小手を放つ。
一夏はそれを、腕を竹刀ごと振り上げてかわした。

―――上段、面打ちの構え。

「……ッ!」

箒の対応は速かった。
空振りした竹刀の切っ先をくるりと回し、頭の上にかざす。

素晴らしい反応だが、しかしそれこそが一夏の狙いだった。

膝をたたみ、腰を低く落とす。
振り上げた竹刀を、振り下ろすように横に薙いだ。

「胴オオォォォッ!」

―――パァンッ!
勝負有り。

「……見事……」
「きゃあああーっ!織斑くんカッコいい!」
「篠ノ之さんもすごいねー!」
「おお~、おりむー強~い」

観客たちが爆発し、口々に両者を称える。
剣道もいいものだな。人殺しの業である己の剣では、こうは人の心を掴めまい。

「ッくは!ゼェッ、ゼェッ、……ふう、強いな、箒」
「はあ、はあ、一夏こそ、はあ、更に腕を上げたようだな。……私の、負けだ」

二人の顔は晴れやかだ。
言葉にできずとも剣で語る、そんな在り方が、不器用な幼なじみたちには似合っていた。

「全国大会のあとも、稽古は続けていたようだな」
「まあ、剣道部は引退しちまったけどな。シンと一緒に、よくやってたぜ」

―――そこで己の名を出すヤツがあるかっ!!

「何ィッ!?」

クワッ!と箒が己を見る。その目は裏切り者を見る目だった。

「真改、お前もか……!」

待て、落ち着け箒。お前が考えているようなことは何もなかった。あるはずがないだろう。

「ふ、ふふふ、そうかそうか、よし真改お前の腕も見てやろう」
しかし箒に己の思いは届かない。
一夏が持っていた竹刀を引ったくり、己に向けて突き出した。

「さあ、剣を取れ真改っ!」
「……はあ……」

思わず溜め息が漏れるのも仕方ない。
こうなった箒は人の話を聞かないのだ。
無闇に煽る観客たちもいるしな。

「じゃあ防具は―――っと、そうだな、私が着けてやるから、更衣室の―――」
「……無用……」

防具を着ければ動きが鈍る。片腕しかなく、非力な己にはその足枷は重すぎる。
どうせ竹刀だ、当たったところで死にはしない、そういう判断による言葉だったのだが―――

「ほう……私如きが相手では、防具など必要ないと?」

しくじった。
箒は更に怒気を強め、そろそろ気炎が目に見える領域である。
これ以上は余計なことを言わず、さっさと済ませるとしよう。

「いのっち~、がんば~」

気の抜ける声援をよこす本音に軽く手を振って応え、箒の前に立つ。

そして、試合開始の掛け声が響いた。



――――――――――



結果から言うと、怒りに任せて荒い攻撃を繰り出してくる箒に勝ち、そのまま一夏を叩きのめした(八つ当たり)。
一夏と激闘を演じた箒は剣道部員から称賛され、クラスにも少しは馴染めたようである。
問題はそのあとで、翌日から己のファンを名乗る者が現れ出したのだ。
別に何をするというわけではないのだが、やたらと熱い視線を己に浴びせてくる。
何故だ、この役割は、一夏のものではなかったのか。

「……不可解……」

真改が左腕を失ってから、一夏は強くなると決意しました。
自分がISを使えることがわかり、願ってもなかった「力」を手に入れた一夏が、これからどう成長していくのか……。
そして私の文章力がそれに追い付けるのかwww
次回、いよいよ真改vsセシリアです。


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