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6th stage


「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」
 わぁ、高圧的だねセシリアさん。
 休み時間早々、セシリアは一夏の席に直行して、いつものポーズでそう言った。
 暇なのかお前。暇なんだろうなきっと。
「まぁ? 一応勝負は見えていますけど? さすがにフェアではありませんものね」
「? なんで?」
「一夏……」
「あら? ご存じないのね。いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げましょう。このわたくし、セシリア・オルコットはイギリス国家代表候補生、シェリーさんとこの方はBFFとレイレナードの企業代表候補生……つまり、この三人は現時点で専用機を持っていますの」
「へー」
「……馬鹿にしてますの?」
「……馬鹿にしてんスか?」
 いかん、見事にハモってしまった。
 今のは明らかに馬鹿にしてたからな。仕方ない仕方ない。
「いや、すげーなと思っただけだけど。どうすげーのかはわからないが」
「それを一般的に馬鹿にしていると言うのでしょう!?」
 ババン! 両手で机を叩くセシリア。良いぞもっと言ってやれ。
「……こほん。さっき授業でも言っていたでしょう。世界でISは639機。つまり、その中でも専用機を持つものは全人類六十億超の中でもエリート中のエリートだけなのですわ」
「そ、そうなのか……」
「そうですわ」
「人類って今六十億超えてたのか……」
「そこは重要ではないでしょう!?」
「そこは重要じゃないッスよ!?」
 バババン! いかん、今度は動作までハモってしまった。
「あなた! 本当に馬鹿にしていますの!?」
「いやそんなことはない」
「だったらなぜ棒読みなのかしら……?」
 セシリア、今だけ俺はお前の味方だ。
「なんでだろうな、箒」
 ギンッ! と効果音でも付きそうな視線を返していた。この間僅かに0.8秒。『私に振るな』と直球のアイコンタクトだった。
「そういえばあなた、篠ノ之博士の妹なんですってね」
 矛先を変えたセシリアに、篠ノ之は鋭い視線を返す。
「妹というだけだ」
 うわぁ、怖い……。近頃の傭兵でもあんな目が出来る奴は数少ないぞ。セシリアが完全に怯えている。
「ま、まぁ。どちらにしてもこのクラスにふさわしいのはわたくし達、代表候補生であることをお忘れなく」
 ぱさっと髪を手で払って回れ右、そつのない動作を連続させて立ち去っていった。モデルでもやってたんだろうか。
「台風みたいッスねぇ、いつもながら」
「ま、何はともあれ――箒」
「…………」
「篠ノ之さん、飯食いに行こうぜ」
 うわ、見事に無視。複雑だねぇサムライガール。
「他に誰か一緒に行かないか?」
 と、一夏は教室に残った生徒達に振る。
「はいはいはいっ!」
「行くよー。ちょっと待ってー」
「お弁当作ってきてるけど行きます!」
 これが入れ食いってやつか。ところが当の篠ノ之は、
「……私は、いい」
「まぁそう言うな。立て立て。行くぞ」
「お、おいっ。私は行かないと――う、腕を組むなっ!」
 強引だな一夏。まぁしかしそれでも篠ノ之を立ち上がらせたのは一歩前進か。
「なんだよ、歩きたくないのか? おんぶしてやろうか?」
「なっ……!」
 ボッと顔を赤くする篠ノ之。素でやってるのかこの男?
「は、離せっ!」
「学食についたらな」
「い、今離せ! ええいっ――」
 篠ノ之の腕に絡ませた一夏の腕が、肘を中心に曲げられる。そして次の瞬間には一夏の天地が逆転、床の上に投げ飛ばされていた。
「…………」
 俺も含め、周りの全員がぽかんとしていた。
「腕あげたなぁ」
 意外と余裕だなこいつ。
「ふ、ふん。お前が弱くなったのではないか? こんなものは剣術のおまけだ」
 今の見事な技がオマケとは。日本の剣術はかなりハイレベルだな。
「え、えーと……」
「私達やっぱり……」
「え、遠慮しておくね……」
 集まってきた女子が蜘蛛の子を散らすように退散していった。
「…………」
 一夏は立ち上がり、制服についたほこりを払う。篠ノ之は「私は悪くない」と言いたげに腕を組んでそっぽを向いていた。
「箒」
「な、名前で呼ぶなと」
「飯食いに行くぞ」
 がし、と一夏が篠ノ之の手を強引に掴んだ。
「お、おいっ。いい加減に――」
「黙ってついてこい」
「む……」
 おぉ、何故か篠ノ之がされるがままに。
 ……いかん。自分も食堂に行くんだった。急がねば。




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