2010年05月23日号: ◎家族引き裂く戦争を知る−−国と家族の歴史から駐日オランダ大使語る=1005230101 | |||
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第二次世界大戦終結から65年。戦争の記憶は薄れる一方だが、歴史観やアジアへの侵略などの問題はいまだに国家間のしこりを残している。4月29日、「戦争が終わる時、その歴史が始まる|過去をいかに記録し、想起するか|」(日本キリスト教会日本軍「慰安婦」問題と取り組む会主催)と題して東京・新宿区の日キ教会・柏木教会で講演会があった。講師は駐日オランダ大使のフィリップ・ドゥ・ヘーア氏。 ヘーア氏は中国の歴史研究家で、中国留学経験もあるが、初めて日本へ来たのは08年に駐日大使となったとき。曾祖父は日本で暮らし、祖父は日本で誕生。幼少期を日本で過ごし、オランダに帰国した。そんな背景もあり、日本へはかねてから関心を寄せていたという。 ヘーア氏は戦争の狭間で家族の絆を壊された体験を持つ。祖父はオランダ諜報部に勤めていたが、当時の日本の動向を知るために家族で来日。やがて世界大戦が開戦。祖父とその末息子(ヘーア氏のおじ)が日本陸軍の捕虜になった。末息子は炭坑で強制労働させられ、日独仏英語を自在に話せて露語なども勉強していた祖父は、憲兵隊の通訳者とならざるを得なかった。これらのことで祖母は最後まで祖父を許せなかったという。 だが、へーア氏は祖父から日本語を教わり、さまざまな物語を聞いて育ち、尊敬する祖父でもあった。そんな祖父の戦時中の体験を詳しく知ったのは、オランダ大使館にある『1946〜49年に至るオランダ領東インド諸島の日本軍有罪について』(判事による記録文書)を通してだった。「憲兵隊や陸軍の拷問も目の前で見ていながら何も行動を起こせなかった祖父の事実は衝撃的だった」という。「何より祖父に関する記述はショックだった。また、そこで従軍慰安婦についても知った。国家、軍機構が仕組んだ暴行だと思った。“慰安婦”という言葉はその事実を隠している。強制的に売春をさせられたも同然」と語った。 また、歴史認識について2つの重要な点があるという。1つは「過去に起きたことについて見解を持つ」ことだ。「過去に目を向けず、沈黙を貫くことは裏切り行為であり、彼らの運命を思い起こすことが大切」。2つ目は「十字架を背負い、平和を求めていくことがクリスチャン個人の務め」と語り、集団では「父、祖父世代の罪が東京裁判や講和条約などで国家レベルで解決されたとしても、教育などで過去と真剣に向き合うことは道徳責任」だと語った。道徳責任とは、「過去について日本の政府首脳が不適切な発言をしたときにそれを問うことであり、『平和と輪の中で生きる』ことを求めること」だという。 ヨーロッパでは歴史の反省からEUができた背景がある。融和するのに長い時間がかかったが、互いに和解への気持ちがあり、歩み寄った。「一国の視点だけでなく多角的に歴史を学び、幅広く赦しの心を持ち合うことが必要」だと話し、「歴史の記憶は誰かが忘れてもほかの人は覚えている。歴史はそこにある」。 質疑応答では、オランダの歴史認識について「ユダヤ人のホロコーストでドイツに協力した側面がある。そのことをオランダ人は今でも恥じている。平和基金などに積極的に寄付するのもその思いがあるから。また、インドネシアの植民地を正当化する考えもあるが、負の歴史を『認める』だけでも楽になれる」と述べた。 |
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