環太平洋戦略的経済連携協定
デマに注意
TPPに関するデマが出回っているので注意した方が良い。
TPPに関するデマが日増しに強くなると思っていたら違っていた。 単にTPPに関する世間の関心が下がったために、相対的にTPPに粘着し続けるデマ派の割合が増えているだけだった。
自由貿易のメリット
厚生経済学(こうせいけいざいがく)、あるいは福祉経済学(英: Welfare economics)、とは、経済全体における分配の効率性と、その結果としての所得分配(所得分布)を分析する経済学の基礎的分野であり、分析手法としてはミクロ経済学の手法を用いる。
厚生経済は、経済効率と所得分配との2つの側面から考察することができる。 経済効率としては、主として社会全体の「パイの大きさ」を扱う。 所得分配では、「パイの分け方」を扱う。 ここでいう「パイ」とは、社会に存在する富(Welfare)全てとしてよい。 経済効率とは、分けられるべきパイ全体をできるだけ大きくするにはどうすればよいかと考えることであり、所得分配では与えられたパイをできるだけ公平に分けることが求められる。
関税撤廃等の自由貿易は、「パイの大きさ」を増やす(プラス・サム(和))手段である。 経済の障壁を取り除けば、経済活動にとって有利になり、それによって「パイの大きさ」が増えることには疑う余地はない。 ただし、自由貿易によって「パイの大きさ」が増えることが確実であっても、「パイの分け方」の公平さや保証されない。 プラス・サムをwin-winと表現する人がいるが、これは正しくない。 プラス・サムでは、ゼロ・サムと比べてwin-winになる可能性が高くはなるが、必ずwin-winになることが保証されるわけではない。 lose-loseの可能性はないが、win-loseの可能性はある。 そのため、「パイの大きさ」が増えたにもかかわらず、個人の取り分が減る人が出て来る可能性は否定できない。
以上を踏まえると、自由貿易に反対するのは次のような人だろう。
- 社会全体の「パイの大きさ」が増えても自分の分け前が減ることが確実な理由がある
- 社会全体の「パイの大きさ」が増えることが理解できない
- 自分の分け前が減らないのに減ると誤解している
- 自分の分け前が減らなくても、分け前の減る人が居ることが許せない
1番目の理由で反対するのは止むを得ない。 自己の権利を守るため反対意見を述べるのは当然の権利である。 ただし、反対する手段としてデマに頼ることは感心しない。 2番目と3番目については、自由貿易についてちゃんと勉強しろと言う他ない。 4番目については、そんなことを言い出したら何も出来ないと言っておこう。 どのような政治的選択を取ろうとも、全ての人にとって分け前の減る可能性をゼロにすることは不可能である。 不可能を求めて社会全体の「パイの大きさ」が増える選択を捨てるのはナンセンスである。 社会全体の「パイの大きさ」が増えるということは、全ての人にとってチャンスが増えるということである。 一時的に損をする人がいたとしても、将来も含めた長い目で見れば、その損をした人にとってもチャンスが増える。 プラス・サムは、確率的期待値で見れば、全ての人にとって得をもたらすのである。
これまでも多くの政治体制が試みられてきたし、またこれからも過ちと悲哀にみちたこの世界中で試みられていくだろう。 民主主義が完全で賢明であると見せかけることは誰にも出来ない。 実際のところ、民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。 これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが。
このチャーチルの言葉をパクると自由貿易は次のように表現できる。 「これまでも多くの貿易体制が試みられてきたし、またこれからも過ちと悲哀にみちたこの世界中で試みられていくだろう。 自由貿易が完全で賢明であると見せかけることは誰にも出来ない。 実際のところ、自由貿易は最悪の貿易形態と言うことが出来る。 これまでに試みられてきた自由貿易以外のあらゆる貿易形態を除けば、だが。」
囚人のジレンマ
ゲーム理論のモデルとして囚人のジレンマがあるが、これは、例えがあまりよろしくない。 囚人のジレンマで選択できる行動は、社会全体の「パイの大きさ」を増やす相利的行動と自己の分け前だけに着目した利己的行動である。 そして、相利的行動が協調であり、利己的行動が裏切りである。 しかし、囚人2人の間の協調は、もっと大きな社会全体で見れば、社会に対する裏切りになっているのだ。 そのため、囚人のジレンマにおける協調行動が、あたかも、示し合わせて悪事を働く例えに見えてしまう。 だから、囚人を使ったモデルに拘らずに、もっと一般的な協調と裏切りに置き換えて考えた方が良い。
囚人のジレンマでは、双方が協調すると社会全体の「パイの大きさ」が最も大きくなり、双方が裏切ると「パイの大きさ」が最も小さくなる。 その場合、長い目でみて双方にとって最も得になる場合は、パレート最適=「パイの大きさ」が最も大きくなる場合である。 しかし、実際には、選択結果がパレート最適にならないことが多い。 その原因は、多くの人が、目先の自己の利益に囚われてしまうからである。 その結果として、双方が損をするということになりやすい。
囚人のジレンマに限らず、世の中の多くの物事は、双方が協調すると社会全体の「パイの大きさ」が最も大きくなり、双方が裏切ると「パイの大きさ」が最も小さくなる。 たとえば、双方が協調して関税を撤廃すれば社会全体の「パイの大きさ」は増え、双方が裏切って関税を引き上げれば社会全体の「パイの大きさ」は減る。 関税は、輸入する国に決定権がある。 そして、自国の利益だけに着目するなら、関税を掛けて自国産業を保護した方が良い。 しかし、双方が関税を引き上げれば、双方の輸出入は停滞する。 そのため、双方の経済が停滞し、社会全体の「パイの大きさ」は減る。 それが分かっていながら、それぞれが自主的に関税を撤廃することは難しい。 理想論が分かっていて出来ないから、自由貿易協定を結んで、双方約束の下で関税を撤廃するのである。
たとえば、双方が核ミサイルを発射しなければ社会全体の「パイの大きさ」は最大である。 片方だけが核ミサイルを発射すれば社会全体の「パイの大きさ」は半分になる。 双方が核ミサイルを発射すれば社会全体の「パイの大きさ」はゼロになる。 防衛や報復を放棄すれば一方的に攻撃されかねない、そうならないようにするには先手を打たなければならない、と悪魔の声に耳を傾けると世界が滅びてしまう。 かといって、悪魔の声に唆される危険性をゼロにしようとしても、それぞれが自主的に核兵器を撤廃することは難しい。 核ミサイルという極端な例を出したが、これは、一般的な戦争行為でも同じである。 理想論を言うのは容易いが、実行に移すのは難しい。
交通渋滞もそうである。 各自が多少の遠回りをしてでも渋滞発生を避ける運転をすれば、道路全体の輸送余力が増すので社会全体の「パイの大きさ」は最大となる。 しかし、渋滞を引き起こしてでも近道することを選べば、道路全体の輸送余力が減り「パイの大きさ」は最小となる。 結果として、全員が遠回りをすれば道が空いて早く目的地に着き、全員が近道をすれば各地で大渋滞が発生して余計に時間が掛かるということが起こりうる。 理論的に正しいと分かっていても、遠回りをする選択はなかなかできない。
双方にとって最も得になる選択があっても、それぞれが自主的にその選択を選ぶのは難しい。 だから、お互いに話し合って、双方がその選択をする約束を取り付けるのである。
格差
格差を問題にする人がいるが、これは、全くの見当違いだろう。 例えば、次の2つを比べて、どちらが良いか。
- 全員が一律年収500万円
- 最も貧乏な人の年収が1000万円で最も金持ちな人の年収が1億円
前者の方が格差は小さいが、底辺層の生活レベルは後者の方が良い。 これを見れば分かるように、問うべきことは格差の大小ではなく、底辺層の生活レベルの底上げである。
確かに、ゼロ・サム(和)を前提にするなら、格差の拡大は、そのまま底辺層の生活レベルの低下に繋がる。 しかし、プラス・サムでは、格差の拡大は、必ずしも、底辺層の生活レベルの低下には繋がらない。 経済発展で税収が増えるなら、増えた税収で社会保障を強化すれば底辺層の生活レベルの底上げは可能である。 経済発展のためには、自由な経済を認める必要があり、格差の発生は避けられない。 格差を認めることにより経済が発展し、結果として底辺層の生活レベルの底上げができるならば、格差を敵視するのはナンセンスだろう。
一方で、世の中には絶対に許容できない格差もある。 それは、不公平な特権による差別的格差である。 そうした差別的格差は、一部の人達の利己的選択を認める行為であり、社会全体の「パイの大きさ」を減らしてしまう。 そのようなマイナス・サムになる格差は百害あって一利無しである。
自由貿易に反対する理由
真っ当な自由貿易反対論を構築するのは非情に難しい。 それは、ここまでに説明したとおり、一部に損をする人がいるかも知れないことを理由に、社会全体の「パイの大きさ」を増やす選択を否定する口実が成立し難いからである。 損をする人を特別に保護すべき何らかの正当な理由でもない限り。
例えば、途上国にとっては、自由貿易は自国産業にとって有害となりかねない。
経済的に遅れている途上国は、自由競争で増々先進国から取り残されることになりかねない。
しかも、途上国の多くは欧米諸国の植民地政策の犠牲になって発展が遅れたのだから、先進国側も途上国の都合を無視し難い。
途上国の問題は、経済的な問題だけに留まらず、生命・健康にも影響を与える。
WTO/TRIPS理事会では
アフリカ諸国においてHIV/AIDS、結核、マラリアといった感染症の被害が深刻な状況にありなかなか改善されないのは、医薬品が高くて入手できないためであり、医薬品が高価なのは特許が原因である
医薬品アクセス問題について - 特許庁技術懇話会
とアフリカからの意見が発端となって揉めに揉めた末に、「強制実施権」
一定の条件下において特許権者の許諾を得なくても特許発明(例えば医薬品)を使用する権利を第三者に認めることができる
用語解説 - 外務省
という特許の特例が設けられた。
つまり、HIV/AIDS、結核、マラリア等の治療薬について、途上国は、強制実施権を行使して勝手にコピー薬を作っても良いのである。
こうした途上国向けの特例は、自由貿易に反対する理由として立派に通用するだろう。
しかし、先進国である日本はこうした特例を必要としておらず、自国のために特例が必要ということにはならない。
途上国に対する人道的見地を優先するとしても、自由貿易の交渉には積極的に参加して途上国の保護を訴えるべきとなる。
例えば、農業を理由に自由貿易反対を唱えようとする。 その場合、食料自給率の向上の必要性を訴えるところまではできる。 食料自給率の向上が必要であるならば、農産業の発展となる政策を取る必要がある。 そうすると、現行の農業保護策は180度転換すべきという結論にしかならない。 何故なら、現行の農業保護策は、既存農家を保護しているものの、農産業の発展を阻害しているからである。 適切な農産業振興策をとれば、農産物の異常な高関税は不要となるから、欧米と対等に勝負できるようになる。 であれば、欧米が撤廃できる関税ならば、日本が撤廃できない理由はない。
国の政策に振り回された農家を保護することは一定程度必要だろう。 例えば、八郎潟の干拓事業の入植者から見れば、国の都合で食糧増産のために入植させておきながら、入植した途端に減反政策では、ふざけるなと言いたくもなろう。 そうした国の政策で損をした人に対しては、国が保護する理由がある。 しかし、それでも、永久・無限に保護する必要はあるまい。 国の政策に振り回されずに完全に自己選択で人生を選んでいても、100%順風満帆ということはあり得ないのだから。 減反政策が始まったのは1970年からである。 国の政策に不備があったとは言え、何年、既存の農家の保護を続けなければならないのか。 国民の税金で財源を賄っているのだから、公平を期すためには、保護政策は有限であるべきではないのか。 よって、既存農家の保護は、農業保護策を転換しない理由にはならない。 農業保護策を転換しない理由がないなら、自由貿易に反対する理由も成り立たない。
栗原 「農家からコメを取り上げるのか!?」という批判が出ますね。
若田部 市場経済である以上、品質や生産性を上げる努力をするのは当然じゃない? それができない企業が淘汰されるというのは、他のあらゆる業種で起こっていることだ。
TPPを選ぶ理由
今、何故、国際的にFTAだのEPAだのが盛んなのか。 それは、WTOでの交渉がまとまらないからである。 様々な国が、様々な我が侭を言う中では、お互いに大幅譲歩しなければ交渉はまとまらない。 世界規模でまとまらなくても、小規模にすれば妥協点も小さくなって交渉がまとまる余地が出てくる。 そこで、FTAだのEPAだのという動きが加速されてきた。 では、TPPなどの包括的経済連携(広域経済連携)が盛んなのは何故か。
各国に次のような思惑があるのではないか。
- まず、譲歩の少ない小規模包括的経済連携から初める。
- じわじわと回りの国を取り込みつつ協定の輪を広げる。
- 最終的には自国に有利な世界協定に発展させる。
FTAAPにもそういう思惑があるのだろう。 だとすると、TPPからFTAAPへ向かうルートが得なのか。 ASEAN+6からFTAAPへ向かうルートが得なのか。 それとも、全く別の包括的経済連携からFTAAPへ向かうルートが得なのか。 いずれが自国に最も有利な最終形態に持ち込みやすいか、という観点で賛否を論じるのが一番賢いのではないか。
TPPよりASEAN+6の方が良いと主張する反対派は居るが、そのいずれもFTAAPまでは睨んでいない。 先のことを全く見据えず、総合的かつ具体的に長所短所の比較もせずに、デマに基づいて短期的に利益を論じているだけに過ぎない。
おそらく、各国にとって最も手強い交渉相手として認識されている国は中国だろう。 共産主義国である中国は自由貿易的な思想とは最も遠い。 中国の特異な要求を如何にして突っぱねるかが鍵になっているのではないか。
栗原 P4を結んでいた、ニュージーランド、チリ、シンガポール、ブルネイって、こう言っては何ですが小国ですよね、GDP的にも。そこへ絡んでいったアメリカの狙いは何なんですか。
若田部 P4のGDP規模は小さいけど、貿易額は結構大きいよ。 アメリカの狙いは、おそらく中国を視野に入れた今後のルール作りで主導権を握ることだろうね。 2000年代以降、アジア諸国が急成長してきたわけだけど、なかでも中国は成長率が高くて、いまや世界第2位の経済大国になっている。 昨2010年、日本は中国にGDPで抜かれた。 中国はその巨大になった経済力をバックに横暴な振る舞いをするようになってきている。 世界シェア90%以上のレアアース(希土類元素)の輸出を制限したり禁止したり、いま中国は躍起になって電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)のエンジンの開発実用化に取り組んでいるんだけど、国外メーカーが中国でEVやHVの生産をする場合は、中国側の出資が51%以上でなければいけないと制約をかけたり。
さらに中国は、2010年にASEAN諸国とFTAを結んだんだけど、これを発展させて自国中心の仕組みを作ろうと目論んでいる。 中国の強圧的な外交力がこれ以上増すとやっかいなことになると考えるアメリカは、TPPという協定に乗ることで中国を牽制しようとしたんだね。
と言っても、各国の目的は経済連携協定から中国を排除することではない。 中国が「自国中心の仕組み」を作ることを妨害しつつ、国際ルールに沿って中国を経済連携協定に引き入れることが重要である。
若田部 いや、そういう側面がまったくないとは言わない。ルール作りというのは主導権とか、そういう表現がでてくるからね。 それに現実にはそういう考えでTPPを推進している政策当局者もいると思うよ。 けれど、中国を牽制することだけがTPPの目的というわけじゃないからね。 TPP参加国が多くなって、アジア太平洋域をカバーする範囲が広くなれば、中国もそうそう横暴なことは出来なくなってくるし、いずれはTPPに参加したほうがトクだと判断せざるを得ないポイントが出てくる。 何とかして中国も参加させること、そっちのほうが本当の狙いだよね。
各国の思惑は次のようなものだと予想する。
- 中国が入ってくる前に中国ルールに左右されない自由貿易協定を始める。
- 中国だけが自由貿易協定から外れれば、中国の国際競争力が低下する。
- 中国は国際競争力を取り戻すために、自由貿易協定に入りたがる。
- その段階では既に中国包囲網ができあがっていて、中国の要求は殆ど受け入れない。
早期段階で中国が入るASEAN+3やASEAN+6では、その狙いが外れてしまう。
急ぐ必要性
自称TPP「慎重」派は「TPPに慌てて参加する必要はない」と主張する。 しかし、経済産業省の資料でTPP参加を急ぐ必要性が説明されていた。
電機は日韓逆転の先駆け
- 日韓の電機産業の競争は激化、「シェア逆転」→「背中が遠のく」品目も
自動車も韓国が追い上げ態勢
- 自動車産業でも、韓国勢はドル箱市場で着実にシェアを増大
- 特にリーマン・ショック以降、消費者の低価格志向が強まり、韓国製品が躍進
EPAの遅れは急速に深刻化
2010年6月中台FTA締結で、韓国の動きに拍車
- 韓EUFTA:2010年10月署名、2011年7月1日発効予定
- 韓米FTA:2007年6月署名、2011年7月1日発効を目指し、本年11月米大統領訪韓時に修正合意の機運
- 韓中FTA:2010年5月官民研究終了、今秋事前協議開始 来年前半にも本格交渉開始か
→米韓FTA交渉が10ヶ月程度で妥結したことを踏まえれば、1年以内に韓国と米・EU・中のFTAがほぼ揃う可能性
経済産業省は、日本が韓国に対してEPA/FTAで出遅れたことが、日韓の製造業の競争に多大な悪影響を与えると考えているのだ。 これ以上出遅れが続けば日本経済は回復不可能なダメージを受けると経済産業省は見ている。
日本17.6%、韓国36.2%、中国22.0%、米国37.5%、EU30%。 そう、いわゆる「FTA比率」、すなわち、各国の貿易総額に占めるFTA(自由貿易協定)相手国との貿易額の比率だ。
その韓国は、この7月にはEUとのFTAを発効させ、先日は、米国との間でもFTAを批准させた。
資源に乏しい日本は、人材と技術を駆使し、付加価値の高い「モノ」や「サービス」を作り出し稼いでいく、すなわち、国を開いて生きていくしかないのだ。 この「国際大競争の荒波」を知る人たちにとっては、今、日本で「TPPへの交渉に参加すべきか否か」といったことを議論していること自体が信じられない思いだろう。 日本が置かれている現状について、まるで危機意識がないと言われても仕方がない。
また、トヨタは、米韓FTAの発効で関税がゼロになることを見越して、米インディアナ州で生産する車を韓国へ輸出することを検討中だ。 炭素繊維の世界トップメーカーの東レも韓国亀尾に工場を建設中だ。 こうした例は枚挙に暇がない。
薄型テレビで日本メーカーは韓国メーカーの後塵を拝してきた。 日本でこそ量販店には、シャープ、ソニー、パナソニックといった日本製のTVが並ぶが、一歩、日本の外に出れば、サムスン、LGといった韓国製のTVが席巻している。 昨年の欧州シェア―では、サムスンが19%で一位、LGが13%で二位、やっとソニーが10%で三位だ。
それが、韓国・EUのFTA発効(今年7月)で、薄型TVの14%の関税が韓国メーカーにはなくなる。 車も現代・起亜の台頭が著しいが、その韓国車には10%の関税がなくなる。 ちなみに、米国と韓国との関係では、カラーTVは5%、乗用車は2.5%(トラックは25%)の関税がなくなる。
各種統計によれば、日本の製造業の海外進出は加速度的に増えている。
「海外現地法人の動向」(2011年4-6月期/経済産業省)によれば、海外への設備投資額は68.7億ドルで、前年同期比で38.7%増、5期連続のプラスだ。 「設備投資計画調査」(2011年度/資本金10億円以上の大企業を対象)では、製造業の海外設備投資は、対前年度比54.7%増、海外/国内設備投資比率は51.4%、自動車では127.9%という。 日本における「産業の空洞化」は着実に進んでいるのだ。
その危機意識がTPP反対派にはまったく欠如している。 「関税は撤廃しても大した率ではない」とか、「急激な円高の方が影響が大きい」とか呑気なことを言っている。 今、日本企業が、特に製造業が置かれている状況は、法人税も下げ、円高も是正し、電気料金も下げ、貿易・投資の自由化も進める、すべてを「合わせ技一本」でやっていっても生き残れるか否かの瀬戸際に立っているのだ。
「米国の車の関税がたった2.5%で撤廃してもメリットがない」などと曰う輩は、この国際競争の荒波で「鉛筆一本」惜しんで使う企業のコスト感覚すら知らない。 「たった2.5%」でも車一台について4~5万円の違いが出てくる。 今でも150万台以上の車を米国に輸出している日本車メーカーにとっては死活的だ。 ちなみに、世界全体で日本車メーカーは車の関税を年1400億円払っており、これは全社の経常利益の1割に当たる。
そして、ASEAN+3もASEAN+6も具体的な話にはなっておらず、早期に締結を目指すならば二国間協定を除けばTPPしか選択肢がない。
若田部 APEC参加諸国の目的は、太平洋とアジア全域をカバーするFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)を実現することなんだよね。 TPPのほかに、すでに触れた中国が進めるASEAN+3(日中韓)と、日本が進めようとしているASEAN+6(日中韓、豪州、インド、ニュージーランド)という枠組みがあるんだけど、TPP以外は各国間協議に入ったところで、交渉の段階にはまだ至っていない。 だから交渉に入りようがない(笑)。
一方で、自称TPP「慎重」派は、次のように主張する。
- 具体的な内容は交渉に参加するまで分からない。
- 交渉参加国の承認がないと参加できず、日本が参加を認められた時は既に交渉が終わっている。
- 正式に参加表明すれば途中離脱は認められない。
3番目については、正当な理由があれば何時でも離脱できるとする反論がある。 これに対して、自称TPP「慎重」派は、内容が気に入らないだけでは正当な理由として認められないから離脱は事実上不可能だと言う。 しかし、自称TPP「慎重」派の主張が正しいなら、離脱するだけの正当な理由が成立しており、途中離脱ができないとする主張は成立しない。
- 内容を知らされないままで参加するかどうかの決断を迫られ
- 参加すると日本にとって極めて不利な内容であることが分かったが
- その内容について一切の交渉が認められずに黙って受け入れなければならない
と言うならば、これほど理不尽なことはない。 そのような理不尽な扱いを受けてもなお、離脱するだけの正当な理由にならないと言うなら、それは、あまりにも常識に反している。 みんなの党の江田憲司議員は、交渉には十部間に合うし、途中離脱も可能だと指摘する。
今から参加しても遅すぎる、参加した時にはルールは既に作られているのでは?
これも、国際交渉の相場観、現実を知らない議論だ。 もちろん、交渉スケジュールは守るために全力で努力はするのだが、大体、こんな多国間の交渉でスケジュールが予定どおりいく方が稀なのだ。
WTOのドーハラウンド(決裂中)がその象徴だが、他にも、APECの「ボゴール宣言」(1994年11月)の「先進国の域内貿易・投資の自由化は2010年までに」という首脳合意は守られていないし、EU‐GCC(湾岸協力会議)のFTA交渉に至っては20年以上も継続している。
このTPP交渉自体も、一年前の横浜APECでは、このホノルルで妥結することになっていた。 それがご案内のように、今回は「大枠合意」でお茶を濁され、来年以降に延ばされた。 総じて、無難な領域では合意もみたが、各国間で争いがある領域、センシティブな領域(例外品目等)はすべて持ち越された。 また、オバマ大統領は「来年中の妥結」を表明したが、あくまでも希望的観測にすぎない。
元USTR代表のヤイタ―氏も、読売新聞紙上(11/13)で以下のように述べている。 「TPPの現状は、既参加9カ国の間で合意しやすい分野での大枠合意でしかなく、これからが正念場、本番という位置づけである。 また、一応、米国USTRの公式見解は最終合意は一年後となっているが、実際は来年合意は難しく、最低でも二年はかかるだろう。 多国間交渉ではよくあることだ」。
だから、何も日本は焦る必要はない。 今参加表明しても、実際に参加できるのは来春以降(他の9カ国の承認に時間がかかるため)なので遅すぎるという指摘も当たらない。 これが、良い悪いは別にして、国際交渉の現実なのだ。
結論からいえば、TPPに限らず、およそ二国間交渉であれ、多国間交渉であれ、自国の国益に合わないと判断した場合は、いつでも離脱できる。 ルール上も実際上も、だ。
ルール上は、交渉参加→交渉合意・署名(政府)→批准(国会)という流れの中で、どのステージでも離脱可能だ。 批准後も、国益に照らし不都合が生じた時は修正を求めることもでき、受け入れられなければ「脱退」(通知のみで可能)の道もある。 TPPの前身、提唱国P4の協定でも、この手続きが明記されている。
さらに、日本が締結し、政府が署名した条約や協定で、国会で批准していないものはゴマンとある。 例えば、二百近くあるILO条約(国際労働機関)のうち、日本はその1/4程度しか批准していない。 気候変動枠組条約では、米国が「京都議定書」を離脱したことが記憶に新しい。 豪州も当初、離脱していたが、政権交代後方針を変更し参加した。 この他、90カ国前後が未だ、この議定書に署名していない。
ことほど左様に、国際条約や協定の世界では、それぞれの国が、大国でも小国でも、先進国でも発展途上国でも、その国益に照らし、参加、署名、批准、合意せず、離脱等の判断を行っている。 当然のことだ。したがって「TPP交渉に一旦参加すると離脱できない」は、単なる誤解か、意図したプロパガンダだ。
また、交渉をはじめた時から最後の合意案がわかっている交渉などない。 交渉だから、最後まで妥結に向け、各国と誠心誠意、合意に向け努力するのは当然である。 が、その途中で、どうしても国益に沿わない結末がみえてきた時には、そこでやむをえない「決裂」か、「離脱」か、政治が決断せざるを得ない。 それが国際交渉というものだ。
TPPを静観する理由
政府試算
- 不確定要素が多過ぎて、確実な計算を行なうのは不可能
- 結果が正しいと仮定しても、その結果を評価するためのデータが乏しい
政府機関が試算した経済効果だとか需要予測だとかは当たった試しがない。 それらを鵜呑みにするのは危険である。
計算結果
EPAに関する各種試算
試算1 EPAのマクロ経済効果分析(3ページ)
- 内閣官房を中心に関係省庁と調整したシナリオに基づき、川崎研一氏(内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官)が分析。
- WTOはじめ広く関係機関が活用している一般均衡モデル(GTAPモデル)を使用。
- EPAにより、我が国経済全体にどのような影響が与えられるかを試算。
試算2 コメ等19品目の農水産物に関する関税を撤廃した場合の影響の分析(6ページ)
- コメ、小麦等の19品目の農水産物に関し、全世界を対象に直ちに関税を撤廃し、何らの追加対策も講じない場合の農業への影響について、農林水産省が独自に試算。
- 内外価格差・品質格差の観点から、輸入品と競合する国産品と競合しない国産品に二分。
- 競合する国産品は輸入品に置き換わり、競合しない国産品は安価な輸入品の流通に伴い、価格が低下すると想定。
- 更に、産業連関分析等により、GDP減少額、就業機会の減少数等を試算。
試算3 韓国が米国・中国・EUとFTAを締結した場合の自動車等3業種への影響の分析(7ページ)
- 日本がTPP、EUと中国とのEPAいずれも締結せず、韓国が米国・中国・EUとFTAを締結した場合、「自動車」「電気電子」「機械産業」の3業種について、日本産品が米国・EU・中国で市場シェアを失うことによる関連産業を含めた影響について、経済産業省が独自に試算。
- 米国・EU・中国の経済成長の実績を用いて2020年時点の日本の各国向け輸出額を想定。
- 品目毎に、韓国製品に対する競争力が劣位で関税率が高いものほど影響を受けると考え、どの程度日本が輸出市場を失うかを試算。
※以上1.~3.の試算については、いずれも一定の前提に基づいたものであるので、数字はある程度幅をもって考えられるべき。
日本がTPP、日EU・日中EPAいずれも締結せず、韓国が米国、EU、中国とFTA締結
EPAに関する各種試算 - 内閣府P.8
の前提に置ける試算として、内閣府は実質GDPが0.13%〜0.14%(0.6兆円〜0.7兆円)減と計算しているのに対して、経済産業省は「自動車」「電気電子」「機械産業」の3業種だけで1.53%(10.5兆円)減と計算している。
比べると、内閣府の試算の方が経済産業省よりも控えめである。
両者の違いを見ればわかる通り、代入するパラメータによって試算結果は大きく変わる。
つまり、不確定要素が多過ぎるため、試算結果を鵜呑みにすることはできない。
一方で、農林水産省の試算の前提は凄い。
- 競合する国産品は、輸入品に置き換わる。
- 生産減少額=国産品価格×国産品生産量
- 競合しない国産品は、安価な輸入品の流通に伴って価格が低下する。
- 生産減少額=価格低下分×国産品生産量
これによれば、農林水産省の試算は次のような前提に基づいている。
- 「競合する国産品」は全滅
- 「競合しない国産品」も価格が低下する
これは、農林水産省自身が行なった「過去に行われた輸入自由化等の影響評価」をも無視したデタラメな前提である。
1 自由化の内容
牛肉については、昭和39年度に外貨割当から数量割当制度に移行して以降、輸入枠が順次拡大された。
平成3年度から、輸入枠(平成2年度39.4万トン、税率25%)を撤廃し、関税化を行い、税率を段階的に引き下げた(平成3年度70%→平成6年度50%)。
また、平成7年度以降、ウルグアイ・ラウンド交渉時の関係国との協議の結果、合意水準以上の関税の自主的引下げを実施した(平成7年度48.1%→平成12年度以降38.5%)。
3 消費面への影響
牛肉の消費量は、輸入の自由化以前においても、国民所得の増加や食生活の多様化を背景に増加していたが、自由化と関税率の削減により、牛肉の輸入量が増加し、価格が安い輸入牛肉が出回ったことにより、さらに増加した(国内生産量の2倍)。 一方、国産割合は自由化後、低下傾向で推移した。
※17年度は、17年12月から18年1月を除いて、米国産牛肉の輸入が停止されていたため、消費全体が落ち込む中で、国産割合は上昇した。
(単位:千t、部分肉ベース)
推定出回量 昭和62年度 平成2年度 平成7年度 平成12年度 平成17年度 全体 625 766 1,068 1,088 806 輸入牛肉 228 377 656 725 450 国産牛肉 397 389 412 363 356 国産の割合 52% 51% 39% 33% 44% 4 価格面への影響
輸入牛肉と品質面で競合する乳用種牛肉や肉専用種の低規格牛肉の卸売価格が低下し、この影響で高規格牛肉についても卸売価格が低下した。 これに連動して、子牛価格についても低下した(なお、12年度は、我が国での牛肉消費量がピークに達する一方で、国内生産量が減少したことから、牛肉価格は概して7年度よりも高い水準となった。)。
また、乳用種初生牛価格も低下したことから、肥育用に仕向けられる子牛を販売する酪農経営においては副産物収入が減るなど影響は及んだ。
※17年度は、17年12月から18年1月を除いて、米国産牛肉の輸入が停止されていたため、牛肉価格は堅調に推移した。
(単位:円/kg〔枝肉価格中央10市場〕、対2年度比)
枝肉卸売価格 平成2年度 平成7年度 平成12年度 平成17年度 A5(和牛) 2,691 2,414(▲10%) 2,397(▲11%) 2,489(▲8%) A3(和牛) 1,851 1,470(▲21%) 1,515(▲18%) 1,982(+7%) B2(乳用種) 1,045 729(▲30%) 947(▲9%) 1,107(+6%) (単位:円/頭、対2年度比)
子牛価格 平成2年度 平成7年度 平成12年度 平成17年度 黒毛和種(子牛) 446,200 328,300(▲26%) 372,900(▲16%) 466,800(+5%) 乳用種(子牛) 222,700 97,300(▲56%) 78,700(▲65%) 112,200(▲50%) 乳用種(初生牛) 89,230 42,700(▲52%) 36,360(▲60%) 34,810(▲61%)
1 自由化の内容
生鮮オレンジについては、昭和39年度に外貨割当から数量割当に移行して以降、輸入枠が順次拡大された。
平成3年度から輸入枠(平成2年度19.2万トン、税率20%(6月1日~11月30日)、40%(12月1日~5月31日))を撤廃し、関税化を行った(税率は変更せず)。 また、平成7年度以降、ウルグアイ・ラウンド交渉時の関係国との協議の結果、税率を段階的に引き下げており、現在は16%~32%となっている。
オレンジ果汁については、平成4年度から輸入枠(濃縮オレンジ果汁:平成3年度4万トン、税率35%または27円/kgの高い方)を撤廃し、関税化を行った(税率は変更せず)。 また、平成7年度以降、生鮮オレンジと同様に税率を段階的に引き下げた。(現在は29.8%又は23円/kgの高い方)
3 消費面への影響
生鮮オレンジについては、自由化(輸入枠の撤廃と関税率の引き下げ)により、輸入量は増加(国産うんしゅうみかん生産量の1割強)したが、近年は横ばいで推移している。 かんきつ(うんしゅうみかん及び晩かん類)生果の消費は、昭和50年以降、食生活の多様化や他の果実の増加に伴い、減少傾向で推移したことから、自由化による影響の程度は明らかではない。
一方、果汁は、輸入量が急増し、消費量が大幅に増加(生果の消費量に匹敵)する中で、国産果汁の消費量は大幅に減少した。
(単位:万t)
かんきつ消費量 平成2年 平成7年 平成12年 平成17年 生果全体 144 137 116 111 生果国産 129 119 102 99 生果輸入生鮮オレンジ 15 18 14 12 果汁全体(生果換算) 62 105 102 117 果汁国産(生果換算) 24 11 9 11 果汁輸入オレンジ果汁(生果換算) 38 94 93 106 4 価格面への影響
かんきつ生果について、輸入自由化の影響を回避し、農家所得への影響を抑えるため、様々な国内対策を推進した。 この結果、国内需要の変化に見合った生産体制への移行が一定程度行われたことにより、自由化による価格面での影響を回避することができたと考えられる(生果価格は豊凶変動、果実の品質等により変動している)。
1 自由化及び輸入解禁の内容
りんごについては、昭和46年度に輸入自由化(関税化)が行われた(昭和46年度の税率20%。以後段階的に引き下げており、現在は17%)。
一方、我が国は植物防疫上の観点から、我が国で未発生の重要病害虫であるコドリンガ、火傷病等の発生国からのりんごの輸入を禁止しているが、輸出国において病害虫の侵入防止措置が確立されれば輸入を解禁することとしている。 平成5年度以降、これまでにニュージーランド産、米国産等が解禁されている。
りんご果汁については、昭和58年度以降、輸入枠を拡大したが、平成2年度から輸入枠(平成元年度0.8万トン)を撤廃し、関税の引上げを行った(35%又は27円/kgの高い方→40%又は27円/kgの高い方)。 また、平成7年度以降、ウルグアイ・ラウンド交渉時の関係国との協議の結果、税率を段階的に引き下げた。(40%又は27円/kgの高い方→34%又は23円/kgの高い方)。
平成6年度の米国産生鮮りんご果実の一部輸入解禁により、国産りんごと米国産りんごの競合が想定された。
3 消費面への影響
これまで解禁されたニュージーランド、米国、オーストラリア等の外国産りんごは、糖度、大きさ、歯ざわり等品質面で消費者のニーズを満たすことができなかったことから、高品質化が図られた国内産と差別化され、ほとんど輸入されなかった。しかしながら、食生活の多様化や他の果実の増加に伴い、国産りんごの消費量は減少傾向にある。
りんご果汁については、自由化と関税率の引下げにより、輸入量が急増し、消費量が大幅に増加(生果の消費量に匹敵)する中で、国産果汁の消費量は大幅に減少した。
(単位:万t) 注)消費量は国内生産量及び輸入量から輸出量を差し引いて算出。国産と輸入はその内訳。 昭和63年度~平成6年度 平成6年度補正~平成12年度 関連対策費 93 258
(単位:万t)
りんご生果消費量 平成4年 平成9年 平成14年 平成17年 全体 82 81 77 70 国産 82 81 77 70 輸入 0.01 0.02 0.01 0.01 (単位:万t)
りんご果汁消費量(生果換算) 平成元年 平成6年 平成11年 平成17年 全体 30 68 68 89 国産 21 16 14 10 輸入 9 52 54 79 4 価格面への影響
りんごについては、価格は豊凶変動、果実の品質等により変動しているが、生果の輸入は増加しなかったことから、自由化及び輸入解禁の影響は顕著ではない。
1 自由化及び輸入解禁の内容 おうとうについては、昭和35年度に輸入自由化(関税化)が行われた(昭和35年度税率20%。以後段階的に引き下げており、現在は8.5%)。
一方、我が国は植物防疫上の観点から、我が国で未発生の重要病害虫であるコドリンガ等の発生国からのおうとうの輸入を禁止しているが、輸出国において病害虫の侵入防止措置が確立されれば輸入を解禁することとしている。 昭和52年度以降、これまでに米国産、ニュージーランド産等が解禁されている。
また、米国産については、昭和52年度からの輸入解禁に伴う日米合意により、輸入時期の制限を設けて輸入が開始されたが、昭和61年には翌年度から輸入開始日を繰り上げる見直しが行われ、平成4年度には輸入期間制限が撤廃された。
3 消費面への影響
おうとうについては、輸入解禁により、米国からの輸入量が徐々に増加(国内生産量の2/3)したが、高品質生果への転換が進んでいた国産おうとうとの棲み分けが行われ、国産、外国産が競合することなく、ともに消費量を伸ばした。
4 価格面の影響
国産おうとうについては、外国産おうとうとの棲み分けが行われ、自由化及び輸入解禁の影響が回避されたとみられる(生果価格は市場動向により変動している。)。
(単位:円/kg)
卸売価格 昭和52年 平成4年 平成9年 平成17年 国産 1,211 2,403 1,739 1,671 輸入 - 1,131 978 1,019
簡単にまとめると次のとおり。
- 国産牛肉は外国産牛肉と競合する
- 国産牛肉の消費量は1割も低下していない
- 国産牛肉の卸売価格は1〜2割程度しか低下していない
- 黒毛和牛の子牛価格は1〜2割程度しか低下していない
- 乳牛の子牛価格は半額以下になった
- 国産みかん生果の消費量は2割強減っているが、輸入オレンジ生果の輸入量も2割減っている(自由化の影響ではない)
- 国産みかん果汁の消費量は半分以下になったが、生果も含めた全体では3割程度しか低下していない
- 国産みかんの価格面での影響は回避できた
- 国産りんごと米国産りんごの競合が想定された
- 国産りんご生果の消費量は1割5分減っているが、輸入りんご生果が市場に占める割合は1%もない(自由化の影響ではない)
- 国産りんご果汁の消費量は半分以下になったが、生果も含めた全体では2割弱程度しか低下していない
- 国産りんごの価格面の影響は顕著では ない
- おうとう(さくらんぼ)は高品質生果への転換で棲み分けが成功したため、消費量も価格も上昇している
もっと簡単にまとめると次のとおり。
- 「競合する国産品」は消費量・価格とも一定程度下がる場合があるが農水省試算のような全滅にはなっていない
- さくらんぼは「競合する国産品」だったが日本お得意の付加価値商法により「競合しない国産品」に転換できた
- 「競合しない国産品」は消費量・価格ともに下がってはいない(さくらんぼでは消費量・価格ともに上がっている)
これは、農林水産省の試算の前提とは一致しない。
関税率「568.4 - 777.7%」の米や関税率「247.8 - 251.8%」の小麦はともかく、関税率「38.5%」の牛肉において
肉質3等級以下の国産牛肉(生産量の約75%。乳用種のほぼ全量と肉専用種(和牛肉)の約半分に相当)が外国産牛肉に置き換わり
農林水産省試算(補足資料)
は自省内の評価すら無視した非現実的な想定である。
「競合しない国産品は、安価な輸入品の流通に伴って価格が低下する」は、さくらんぼが付加価値商法により競合を避けた事例に反している。
以上のとおり、経済産業省の試算も鵜呑みには出来ないが、農林水産省の試算はもっと信用できない。
結果の評価
いろいろと検索してみたが、試算結果としては実質GDPしか見当たらなかった。 素の名目GDPよりも物価を補正した実質GDPの方が豊かさの実感に近いので、経済効果を実質GDPで評価するのは正しい。
日本のGDPの推移 - 世界経済のネタ帳 図録▽失業率の推移(日本と主要国) - 社会実情データ図録
バブル景気(1980年代終盤〜1990年代初期)では実質GDPも名目GDPも上昇した。 一方で、いざなみ景気(2002年2月〜2009年3月)では実質GDPは上昇したが名目GDPはほぼ横ばいである。 実質GDPで見た景気動向は、失業率や内閣府の発表とも矛盾はしていない。
しかし、実質GDPは国内産品の物価しか補正されない。 TPPによる豊かさの変化を見るならば、関税削減や為替変動による外国製品の価格変動も考慮しなければならない。 外国製品が国内産品よりも大きく価格を下げるならば、実質GDPよりも豊かさの実感は上回る。 逆ならば、実質GDPが上がっているのに貧しくなった実感が発生することもある。
また、実質GDPが良くなれば必ず失業率が改善するとは限らない。 たとえば、バブル景気の後半では、実質GDP・名目GDPとも上昇しながら、失業率も緩やかに増え続けている。 試算結果を評価するにあたっても、実質GDP以外の様々な値を見なければ何とも言えない。
TPPを選ばない理由
漁業補助金についてはTPPでは四面楚歌である。
漁業補助金をめぐっては従来から世界貿易機関(WTO)で、米国などが乱獲を招いて漁業資源を衰退させるとして原則禁止を訴え、日本や欧州連合(EU)が反論するなど、論争が続いている。
日本は、補助金の中に漁獲制限への協力金もあるとして「過剰漁獲につながる補助金に限った禁止」を提唱している。 だが、TPP参加9カ国では米国のほか、オーストラリアやニュージーランド、チリ、ペルーの5カ国が原則禁止を支持。 日本に同調する国は見当たらず、交渉への不安が募る。
ニュージーランド、チリ、米国等は、漁業補助金一般が、漁業資源の減少につながるとして、漁業補助金を原則禁止とした上で、例外として認められた補助金のみを許容する方式をとるべきと主張しています。
これに対し我が国、韓国、台湾及びEU等は、漁業補助金を原則禁止とする方式は、資源管理に貢献する補助金を禁止する恐れがあるだけでなく、漁業補助金の規律の明確化・改善を求めるドーハ宣言を超えるものであると反対しており、真に資源に悪影響を与える漁業補助金のみを禁止する方式を主張しています。
漁業補助金に関しては、味方である韓国、台湾、EUがいないTPPは圧倒的に不利である。 漁業補助金が重要な問題になるのであれば、TPPからFTAAPへ向かうルートは非情に厳しい。
デマ
かなり悪質なデマなので、その嘘を暴いてみる。
TPPについては、むちゃくちゃな話がメディアでそのまま流れています。 先日(10月27日)、私が生出演したフジテレビの『とくダネ!』なんてヒドいもんでしたよ。
進行役のアナウンサーが、スタジオのモニターで内閣府が試算したTPP参加の経済効果を示したんですが、そこに映し出されたのは「GDP2.7兆円増加」という数字だけ。 それを見たコメンテーターが「日本の年間GDPは約530兆円ですから、0・54%くらいの効果です」と解説しちゃったんです。
オマエら、ちょっと待て、と。 2.7兆円という数字は10年間の累積だろ! 単年度で見ればTPPの経済効果なんてたったの2700億円。 私は生放送で、なんで正確な数字を出さないんだ!とブチ切れましたよ。
ところが、その前に放送された『新報道2001』でもフジテレビは同じ“誤報”を飛ばしました。 しかも、こちらは番組スタッフが収録前の段階で10年間の累積である事実を把握していたから、私には故意に隠したとしか思えないんです。 視聴者を“TPP賛成”へと誘導したい大手マスコミの狙いが透けて見えますよ。
中野剛志准教授は「10年間の累積」としている。
内閣府は25日、環太平洋経済連携協定(TPP)に日本が参加した場合には、実質国内総生産(GDP)が0.54%(金額ベースで2.7兆円)押し上げられるとの試算を公表した。 TPP参加をめぐる経済効果は、経済産業省や農林水産省などが提示しているが、数値の開きが大きく、信頼性が疑問視されていた。 政府は統一見解として内閣府試算を提示し、TPP交渉参加に向けて調整を進めたい考えだ。
日本経済新聞の記事によると、「0.54%(金額ベースで2.7兆円)」と明記されているから、「10年間の累積」ではなく、成長前後の単年度の実質GDP値の比較である。 違いを絵にしてみると良く分かる。
この値は、内閣府の試算に過ぎず、実態と一致しているかどうかはかなり怪しい。 その点を指摘するなら分かる。 しかし、「10年間の累積」は完全な嘘である。 金子洋一議員が中野剛志氏、またミスリードと言うのも当然である。
ちなみに、TPPに参加しない場合は、
我が国の実質GDPは、0.13~0.14%(≒0.6~0.7兆円)のマイナス
EPAに関する各種試算 - 内閣府P.8
と試算されているので、内閣府試算上の参加メリットは実質GDP3.3〜3.4兆円分である。
TPP雑感
最初はTPPには関心がなかった。 TPPに関心を持ったのは、TPPにより混合診療が解禁されると聞いたからである。 いろいろ調べてみたが、TPPで内国民待遇に反しない国民皆保険制度の開放を求めるのは筋違いであることが分かった。
しかし、これで一安心とはならなかった。
K産党の
米韓の自由貿易協定(FTA)では米国に有利な形で医療保険制度を弱体化させる条項が盛り込まれた
医療自由化 命脅かす/高橋議員追及
が引っ掛かったからである。
「米国に有利な形で医療保険制度を弱体化させる条項」とは何か?
それを調べようにも、あまりにも内容が曖昧すぎて調べようがない。
片っ端から検索をかけて、ようやく、ISD条項のことだと分かった。
そして、ISD条項についても徹底的に調べてみた。
その結果、ISD条項について言われる懸念のほぼ全てがデマであること、ISD条項では「米国に有利な形で医療保険制度を弱体化させる」ことができないことが分かった。
もっと調べてみると、実は、米国が混合診療の解禁を求めているという話からしてデマだった(米国の陰謀?TPPお化け参照)。
デマで良かった、一件落着………で済ませても良いものだろうか。 何者かは知らないが、TPPに反対する目的で、善意の難病患者達を悪用したのである。 いや、それだけではない。 下手をすれば、混合診療の解禁を望まない人達に、混合診療解禁の手伝いをさせることになりかねない。 利用するだけ利用されて最後に待っているのは最悪の結果ではシャレにならない。 そんなことにならないようにするためには一連のデマを潰す必要がある。 ということで、デマを徹底的に叩くことにした。 別に、TPPに関しては参加してもしなくてもどちらでも構わない。 ただ、難病患者達にとって最悪の結果を招きかねないデマが許せないだけである。 デマを流布する者は難病患者の関係者を利用しようとしたのだろうが、その難病患者の関係者からのしっぺ返しを食らうが良い。
デマを流布する者達を動機で分類すると、大凡、次のようなところだろう。
- 農業関連事業等の利権を守りたい人
- 中国に媚を売りたい人
- デマに騙されて本気で信じている人
例えば、中野剛志准教授は農業関連利権と関係あるとは思えない。 また、彼には故意に詭弁を駆使している疑惑があり、流布されているデマの多くの出所も彼らしいので、騙された側の人とは考え難い。 とすると、彼は、中国に媚を売りたいからTPPを妨害しようとしてデマを流しているのだろうか。
- このページの参照元