フクロウ 題字:書評


パフォーマンス・マネジメント

―問題解決のための行動分析学―

島宗 理 著
米田出版,158p,ISBN:4-946553-07-X,2000 (\1700)
うさんくさいダイエット本や,まるで人生訓のようなビジネス書を読む暇があったら,この本を読もう.(※某所にあった文章に,加筆修正を加えたものです)
07 Mar. 2001

 行動分析学とは,ヒト(に限らないかもしれない)の行動原理を説明する学問,ということになるのだろうか.完全に門外漢なので違っているかもしれない.要するに,ヒトがなぜその行動を行うのか,反対になぜある行動ができないのか,といった行動メカニズムの解明を目的としている,はず(^^;).
 で,パフォーマンス・マネジメントとは,(行動分析学に基づいて)行動を制御(促進や抑制)し,組織をよりよい方向へ運営しようとするする方法論である.

 したがって本書は,行動分析学を実践するための手引書だ.取り上げている“例題”は部下の管理やダイエット,労働現場における安全管理など,ありがちなものが選ばれている.

 多くの人が悩んでいる問題は簡単に解決するはずがないという意味で,難解なものを想像するかもしれないが,そうでもない.本書が取り上げる行動分析学の原理(仮説かな?)は,平易で,さらには,たったの9個(本文では10個になっているが...)しかない.
 例えば最初に登場する「強化の原理」とは次のようなものだ:

 行動することで何か良いことが起ったり,悪いことがなくなったりすると,その行動は繰り返される.

 これだけである.拍子抜けしてしまうくらい簡単だ.これを9個理解して実践するだけで,世の中の問題の多くが解決するなら,やらなきゃ損だろう.

 ただ,簡単なだけに落とし穴もある.行動分析学では行動に対するご褒美と罰の意味合いで,“好子”と“嫌子”という概念を用いる.実はこの好子と嫌子,人によってまちまちなのだ.要するに,ある人にとっては好子(例えば甘いケーキ)に該当するものが,他の人にはそうでなかったり,反対に嫌子であったりする場合がある.
 だからパフォーマンス・マネジメントにおいては,ある人(達)の行動を制御しようとするなら,その人(達)にとっての好子や嫌子をよく調べる必要があり,その辺が実践者の腕の見せ所となる.

 さらに,行動分析学が人文科学であるがゆえか,行動随伴性の分析においては,常に解釈の妥当性が問題となる.実践においては,失敗の原因をどのようにでも挙げることができる.だから,統一した基準で判断できない.このあたり,僕はすごく気持ち悪かった.けど,まぁ,どうしようもないか.

 物語風の文章であるが故に,所々で苛々してしまったが(読ませる小説を書ける人は少ない),内容は平易でかつ実践的である.一般科学書としては,非常によくできていると思う.
 一つ注文をつけるとすれば,取り上げている“原理”と,それを運用する上での“指針”について,巻末にまとめておいて欲しかった.その方が,後から必要に応じて調べる時に便利だと思う.そこで後ろに(多少改変して)抜き出しておく.詳しく知りたい人は本書を読もう.

 うさんくさいダイエット本や,まるで人生訓のような部下管理術関係のビジネス書を読む暇があったら,本書を読みましょう.絶対にこっちの方がいいです.おすすめ.


読了 2000.07
硬度 □□□
読みやすさ ☆☆□
読む価値 ☆☆☆
bk1での情報

目次

はじめに
第1章 部下のマネジメントI <チェックリストの魔法>
第2章 部下のマネジメントII <仕事を楽しく>11
第3章 安全のマネジメント <注意一秒、怪我一生>21
第4章 体重のマネジメント <自分に自信を持つ>31
第5章 恋愛のマネジメント <素直になれなくて>39
第6章 スポーツのマネジメントI <私をプールにつれてって>49
第7章 スポーツのマネジメントII <かなづちから始めよう>59
第8章 道徳のマネジメント <誰も見ていない所でも>69
第9章 病院のマネジメント <院内感染を防ぐ>79
第10章 品質のマネジメント <行動は一瞬、パフォーマンスは永遠に>87
第11章 知識のマネジメント <専門用語を使いこなそう>97
第12章 学校のマネジメント <ルールを守る>105
第13章 組織のマネジメントI <問題の原因はどこに>117
第14章 組織のマネジメントII <やる気にさせる会社とは>129
第15章 人生のマネジメント <これが私の生きる道>139
クイズの解答149
おわりに155
索引157

9つの原理

強化の原理
行動することで何か良いこと(好子)が起ったり,悪いこと(嫌子)がなくなったりすると,その行動は繰り返される.
 
弱化の原理
行動することで嫌子が現われたり,好子がなくなったりすると,その行動は繰り返されなくなる.
 
復帰の原理
行動は弱化されないと,元通りに起りやすくなる.
 
消去の原理
行動は強化されないと,元通りに起りにくくなる.
 
弁別の原理
行動は,強化の先行条件によって引き起こされ,弱化の先行条件によって抑えられるようになる.
 
派生の原理
好子や嫌子が現れると,そのとき,そこにいた人やモノ,状況などが好子化したり嫌子化したりする.
 
部分強化の原理
いつも強化される行動よりも,たまにしか強化されない行動の方が消去されにくい.
 
反発の原理
嫌子が出現したり,急に行動が消去されると,反発したり,相手を攻撃する行動が起りやすくなる.
 
分化の原理
強化される行動は,強化されない行動に比べて増えていく.
弱化される行動は,弱化されない行動に比べて減っていく.

11の指針

  1. 仕事や人間関係がうまくいかないときには,他人や自分を責めるのではなく,問題を解決する方法を考えよう.
  2. やらなくてはならないことが分かってもできるとは限らない.
  3. すべての行動の原理は「〜する」という行動にあてはまる.
    「〜しない」という行動にはあてはまらない.
  4. 問題行動の解決には,現状の行動随伴性の分析(ABC分析[先行条件・行動・結果])から始める.
  5. パフォーマンスに問題があるとき,原因が行動にあると,最初から決めつけないこと.
  6. できて当たり前のことができないなら,教えるしかない.
  7. 行動の結果によって行動を強化したり弱化するためには...
    1. 行動と結果の関係は明確に!
    2. 結果は行動に対して確実に!
    3. 結果の伝達は行動の直後に!
  8. リスクが大きいマネジメント
    1. 成績だけによるマネジメント
    2. 嫌子を乱用するマネジメント
  9. 叱咤激励は,具体的な行動目標を設定したときに有効になる.
    無条件に誉めずに,目標達成を具体的に誉めること.
  10. 組織全体でABCを一貫させよう.
  11. 神様や,先生や,親兄弟の言うことより,まずはデータを道標にしよう.

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