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日本の主要3党、消費増税で合意-債務危機から隔離へ一歩

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 【東京】日本の民主、自民、公明の主要政党3党の幹部は15日、世界最大の政府債務縮小を目指して消費税を現在の5%から2段階で10%にまで引き上げることで合意した。日本は欧州型の債務危機から自らを隔離する方向に動き出した。

 消費増税関連法案(同増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法案の修正案)は、議会で承認されれば、野田佳彦首相にとって大きな功績になる。それは、長い間まひ状態になっていた日本の政治システムがようやく日本の深い構造問題の是正策を見い出し始めるかもしれないとの希望を抱かせることにもなる。

左上:日本の公的債務残高、青=建設国債、水色=特例国債、赤=復興応援国債、右上:赤=一般会計予算、緑=税収、水色=新規財源国債発行額、左下:赤=国債費、水色=地方交付税交付金、ピンク=社会保障関係費、青=公共事業、薄茶=教育など、右下:債務の対GDP比の国際比較

 野田首相は同法案について21日の衆院採決を求めている。しかし同法案は政界の各方面で反対にも直面している。衆院可決の公算は大きいとみられているが、保証はない。可決に失敗すれば、市場の動揺と日本国債の一段の格下げを招き、日本は政治的な混乱で債務削減措置が阻止された他の多くの国の仲間入りすることになりかねない。

 たとえ消費増税が法律として成立したとしても、それは日本の財政再建のほんの一歩にすぎない。国際的な政策立案者やエコノミストたちは、日本は財政管理のため、さらに大規模な取り組みが必要と主張している。世界の先進国の中でも高齢化が最も急速に進んでいる日本では、財政再建はとりわけ急務だ。

 日本経済に関する年次審査を終了した国際通貨基金(IMF)のチームは最近出した声明で、消費増税法案は「財政改革に対するコミットメントを示し、投資家の信頼を維持するのに不可欠だ」と述べている。しかし同時に「債務を持続可能な水準に削減するには、追加的な措置が必要だ」と指摘した。

 一方、消費増税関連法案に批判的な人々は、消費税が増税されれば、低成長とデフレを悪化させるだけだと主張している。欧州や米国で広まっている「財政規律」対「景気刺激」の論議と同様だ。

 民主党内部で消費増税に反対している同党の小沢一郎元代表は今月、テレビインタビューで「状況は極めて厳しい」と述べ、「経済の原則に基づけば、経済が不振な時に増税するのは賛成できない」と語っている。

 日本で消費税が前回引き上げられたのは1997年で、資産バブル崩壊からの景気回復を台無しにし、「失われた10年」をさらに長引かせた原因と非難されている。

 与党民主党と野党2党の幹部が15日夜、合意した内容では、消費税を現在の5%から2段階に分けて2015年までに10%に引き上げる。政府は、10%が課税されるようになれば、年間13兆5000億円(現在のレートで1710億ドル)の税収が見込まれると試算している。これは、日本の国内総生産(GDP)の2.8%に相当する。

 経済協力開発機構(OECD)によれば、日本の中央政府累積債務はGDPの214%に相当しており、ギリシャの168%、イタリアの109%をも大幅に上回っている。日本は先進国の中で財政規律が欠如しているとして真っ先に批判された国の一つでもあり、ムーディーズ・インベスターズ・サービスによって1998年にはトリプルAから格下げされている。米国が格下げされたのはその13年後だった。

 日本は最近では先月にフィッチ・レーティングスから「AAマイナス」から1段階低い「Aプラス」に格下げされ、エストニアやマルタと同格になった。フィッチはまた、見通しもネガティブ(弱含み)とした。しかも増税法案成立を織り込んだ上で「ネガティブ」にしたものだ。

 しかし、日本国債は投資家による熱狂的な買いによって価格が上昇(利回りは低下)しており、10年物国債利回りは0.85%にまで低下している。これに対し、スペイン国債は同じく10年物利回りで7%以上になっている。

 これは日本の国債の国内保有比率が93%と高いためで、欧州のように外国資本の逃避を懸念する必要がないという事情がある。また欧州諸国とは対照的に、日本の家計や企業といった民間部門は膨大な貯蓄を保有しており、国債吸収の資金源とされている。換言すれば、日本のバランスシートは全体としては健全なままで、政府はもっぱら国民から借り入れているわけだ。

 しかし最も楽天的なエコノミストでも、この状態が持続可能だとは考えていない。高齢世帯が貯蓄を取り崩しているからだ。日本の政府関係者は、2年前には安定していた高債務国に対し、いかに市場の心理が急速に変化したかを強く意識している。

 松下忠洋金融・郵政担当相は先に、「欧州債務危機は対岸の火事ではない。わが国の金融システムに波及しないように注意を払わなければならない」と述べた。

 東京大学の渡辺勉教授は、「どこかで社会保障本体を切らないと収拾がつかない。年金支給年齢を大幅にあげるか、支払い金額をもっと減らさなくてはいけない」と述べる。

 また、政府が増税による増収効果を過大評価する一方、景気を冷やす効果を過小評価していると指摘するエコノミストもいる。

 クレディ・スイス証券のチーフエコノミストの白川浩道氏は、「消費税を上げることによる税収増は、5年から7年で元に戻ってしまう。トレンドとして経済成長が落ちている限り、これは変わらない」と述べた。

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