“消費増税して解散なし”悪夢シナリオに現実味

2012.06.06


野田首相との会談を終えた民主党の小沢一郎元代表=6月3日、東京・永田町の民主党本部【拡大】

 案の定、野田・小沢会談は平行線となり、民主党が自民党に接近する流れが強まってきた。自民党は「小沢切り」と「問責2閣僚の更迭」を条件としているが、野田政権はそれに応え始めている。この意味で野田・小沢会談の平行線は予定通りで、小沢切りにつながるものだ。

 そして、問責2閣僚の更迭についても、内閣改造の形でクビをすげ替えた。改造は野田佳彦首相の求心力を増す結果にもつながる。閣僚更迭というカードを温存してきた戦略が功を奏した感じだ。

 自民党にとっても、「解散」という相手がのめない要求をするより、のみやすいもののほうが、成果を出しやすいという思惑もある。

 本コラムでは何回もしてきたことだが、「社会保障と税の一体改革」とは名ばかりで、その実体は社会保障を薄皮とし中身は消費税増税たっぷりのまんじゅうのようなものだ。

 薄皮を取り除けば消費税増税だけなので、賛成の野田民主と谷垣自民、反対の小沢氏という構図となり、小沢切りをして、野田民主と谷垣自民が手を組むしかなくなる。

 問題は解散であった。谷垣自民としては、ただ消費税増税だけだと、増税大連立・野合といわれる。そこで解散総選挙を言わざるを得なかった。解散権は首相の専権事項だ。民主党でどのような議論があっても、野田首相一人を説得すれば行使できる。

 ところが、一票の格差で今は違憲状態にある。さすがにこのまま解散総選挙を行うのはリスクがある。解散総選挙のためには少なくとも選挙制度改正を行う必要がある。

 そこで、解散総選挙を嫌う民主党はノラリクラリとしていた。ここで自民党がぶち壊すといえば違う展開になっただろうが、自民党内でも解散を回避し、あわよくば民主・自民の大連立で閣僚ポストでも欲しいという人が多い。その結果、解散は遠のく一方だが、消費税増税法案は着々と時計が進み、6月上旬の公聴会以降いつ採決されても不思議でない状態だ。

 「消費税増税で解散なし」というのは、国民にとっては悪夢のような話だが、財務省にとっては好ましいシナリオだ。財務省は、今の野田・谷垣のゴールデンコンビの時が増税の絶好期と考えている。そのために増税に必死だ。一方、解散総選挙をすると、ひょっとして増税に反対する第三極が台頭し、増税廃止法案を出して増税をひっくり返すのではと恐れているふしがある。

 いま総選挙が行われれば、4割の増税賛成票を民主・自民が奪い合って、残り6割の増税反対票を第三極が取るかもしれないからだ。ということは、民主と自民も、第三極の勢いが落ちるまで総選挙を先送りしたくなっても不思議ではない。

 増税は民主党のマニフェスト違反にもかかわらず、解散なしでは国民は文句を言えない。増税のために民主党へ政権交代したわけでないのに、こんな約束違反を許したら、次の選挙になってもマニフェストなぞ見向きもされなくなって、政治不信になるだろう。それほど今回の増税は罪作りだと思う。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

 

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