「50万個以上になると思います。英国など世界28カ国での発売まで2週間しかありません」
「費用がどれだけかかっても構わないから、全て廃棄して作り直してください。当初描いたデザインコンセプトが完璧に具現できなければ意味がありません。すぐにやってください」
サムスングループの崔志成(チェ・ジソン)未来戦略室長(副会長)=写真=による厳しい経営指示が話題になっている。同社によると、崔副会長は現職に異動する前の5月17日、サムスン電子代表の立場で、新型スマートフォン「ギャラクシーS3」の初期生産分50万台のバックカバーを全て廃棄し、作り直すよう指示した。ギャラクシーS3の最初の発売(5月29日)まであとわずか半月という時点だった。
サムスン電子は1995年に市販中の携帯電話端末15万台の品質不良を理由に、回収措置を取り、焼却処分にしたことはあるが、今回のように販売前の製品の部品を全量処分するのは初めてだ。
バックカバーの再生産にかかる費用は40億-50億ウォン(約2億7000万-3億4000万円)。崔副会長の指摘に従い、10日余りで改善措置を講じ、28カ国に出荷するのは物理的に不可能と思われた。
指示があった日の午後から、水原(京畿道)、亀尾(慶尚北道)にあるサムスン電子の携帯電話事業部は緊急事態となった。崔副会長が指摘したのは、ギャラクシーS3のバックカバーに刻まれた銀色の「ヘアライン」と呼ばれるデザイン。数百人のデザイン・生産担当者が改善作業に着手した。銀色に輝くラインを細かく縦に刻むことで、光を当てると輝き、まるで金属素材を用いたかのような高級感が出る仕組みで、ギャラクシーS3に初めて採用されたデザインだ。
崔副会長の指摘は、ヘアラインの光沢感が当初の構想に比べ十分ではないというものだった。崔副会長は「ハードウエアやソフトウエアの競争力は優れているが、デザインも百パーセント完璧でなければならない」として、作り直しを命じた。
その日から携帯電話事業部の社員たちは毎日2-3種類のデザインを考案し、試作品を作った。20日午前になっても崔副会長の裁可は下りなかった。スマートフォンの外観を担当する専務が20日午後、米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)と特許訴訟の交渉に臨むため、米国に向かおうとする崔副会長をつかまえようと、金浦空港に急行した。30分以上新デザインをチェックした崔副会長は、ようやくOKサインを出した。午後5時に飛行機が出発する20分前のことだった。崔副会長の飛行機が離陸した後、亀尾工場では1週間にわたり、24時間態勢でバックカバーの生産を行い、なんとか主要国での発売に合わせることができた。
崔副会長は普段から徹底した業務管理、時間管理で知られている。5月20-21日にアップルのクックCEOと16時間にわたる交渉を行った後も帰国せず、サムスン電子の米国法人に寄り、現地のテレビ、携帯電話の生産状況をチェックした。サムスン電子のテレビ・携帯電話事業部長を務めていた当時には、1週間に8カ国を回る出張も数回こなした。サムスン周辺は、崔副部長の厳しい経営が今後、同社をどう変えるかに注目している。