これはやられた。
パトリック・チャンのフリー「アランフェス協奏曲」は、圧巻だった。4+3のトウループコンビネーション、4トウループ、3アクセルと次々成功させていく彼を見て、今年の四大陸選手権は彼のものになる、ということが点数を見るまでもなくわかった。
だが前日のSPは、微妙だった。
チャンと高橋大輔は、ほぼ同じようなミスをした。チャンは出だしの4回転で両手をつき、高橋は臀部もついて転倒。2人とも残りはノーミスで滑っている。
一見それほど大きな違いはないように見えた演技でも、5.36ポイントもの点差がついてしまった。チャンの4回転は回転が承認され、高橋は回転不足だった。これは降りてくるエッジの角度で決定されるので、やむを得ないことだと言える。
転倒か、転倒ではないのか? ふたりのミスの評価が異なる理由。
理解できなかったのは、チャンの両手お手つきが、転倒としてマイナス1がついていなかったことだった。ISUルールの転倒の定義は、「ブレード以外のもので体重を支えた場合」となっている。両手をついたチャンはブレードが氷についたままだったが、手で支えていなければ転倒していた。だがこれは転倒とは考えないのか。SP後のプレスルームで、複数の記者たちとカメラマンのPC画面を囲み、チャンの4回転の着氷瞬間をフレームごとに確認しながら、そんな会話を交わしていた。
ちなみに、この「転倒」かどうかを決定するのはジャッジではなく、3人のテクニカルパネルである。今回のテクニカルスペシャリストはカナダ人のジェイソン・ピース、アシスタントスペシャリストは日本の天野真。そして2人の間で意見が割れた場合に決定するのは、テクニカルコントローラーの役割で今回はスイス人の女性だった。
「転倒ではない」という最終決定は、彼女が下したことは間違いない。試合終了後、是非その理由を質問してみなくてはならない。たとえ1ポイントでも、それが最終的に勝敗を分けることになるかもしれないではないか。
神がかりだったチャンのフリー。
だがそんなもやもやした気持ちは、チャンの圧巻のフリーを見せられ、ふっとんでしまった。この領域に達した演技をするときのチャンは神がかっていて、誰にも触ることはできない。4回転を2回、3回転ジャンプを7回、最後のルッツでわずかにバランスを崩した以外はノーミスだった。
ジャンプのすごさもさることながら、ミスがないとスケーティングの質が光る。高いところから低いところへと水が流れていくような、スムーズでスピードのある滑りなのだ。会場の上のほうで見ていると、リンクの使い方が他の選手とは違うことがよくわかった。
「地元のリンクで有利だと思うかもしれないけれど、実を言うとこんなに緊張したのは久しぶり、というほど緊張していた。でもジャンプを一つ一つ、着実に落ち着いて降りていこうと思った」
チャンは演技後、会見でそうコメントした。
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