3アクセルを転倒したチャンの得点こそ出過ぎだが……。
一方SPで2位スタートとなったチャンはこうコメントした。
「4回転は今季最高のできでした。今シーズン最高のスコアが出て嬉しい。アクセルはちょっと失敗したけど、まあそういうこともあります」
3アクセルを転倒したのに89.81を得たチャンこそ出過ぎだったのではないかと思うが、本人はけろりとしてポジティブな姿勢である。もともとそういう性格なのか、あるいはポリシーとして否定的なことは言わないと決めているのかはわからない。
高橋も自分の「出過ぎ」という言葉が翌日スポーツニュースのヘッドラインになって報道されたのを目にし、思うところがあったのだろう。翌日のフリー後のコメントのニュアンスは、だいぶ変わっていた。
「自分を信じることができるようになりました」
「今シーズン、自分の滑りに自信がなかったところからはじめた。4回転も決して調子が良かったわけではない。でもこの緊張感の中で自分なりの演技をできて、自分を信じることができるようになりました」
フリーの演技後、高橋大輔は、晴れ晴れとした表情でそう語った。
いい感じに力の抜けた、すばらしい演技だった。同じテンポが最後まで続くブルースは、選手を助けてくれる曲の盛り上がりもなく、決して滑りやすい音楽ではない。だが高橋はジャンプ、スピン、ステップとすべて完璧にこなしながら大人の男の色気を最後まで表現しきった。
フリー182.72、総合276.72。2008年の四大陸以来、怪我をしてから初めての自己記録更新である。しかも5コンポーネンツでは9点台が揃い、トランジションで同点以外、すべてにおいてチャンを上回った。
「自分の演技をきちんとやれば、ジャッジは点を出してくれるとわかった。自分のスケートに対する自信を取り戻すことができたシーズンになりました」
いつもの強さを発揮できなかったチャンだが、素直に勝者を讃えた。
一方、チャンはさすがに少し青ざめて沈んだ表情で記者たちの前に現れた。
2度目の4回転で転倒し、珍しく回転不足に。SPで失敗した3アクセルは回避してついに挑まずに演技を終えた。これまでにも細かいミスはあったチャンだが、今回は全体を通して彼らしい強さが感じられなかった。ニース世界選手権後、突然コーチとの師弟関係の解消が発表され、現在宙ぶらりんな状態であることも影響があったのかもしれない。
連勝を続けてきたチャンにとって、1位以外の結果というのは違和感があるのでは、と聞いてみるとチャンはこう答えた。
「正直に言うと、ちょっと違和感はある。でも連勝記録を伸ばすことを目的に滑っているわけではありません。試合だから、勝つこともあれば負けることもあります」
いつもより元気がなく、目の光が弱かった。それでも今シーズンずっと同じ表彰台に乗り続けてきたライバルを讃える余裕を見せた。
「ダイスケはずっと今シーズン、口にしていた目標(SP、フリーで4回転を成功させること)をきちんと達成して見せた。自国開催プレッシャーの中で、あれほどの演技ができたのは観客のためにもすばらしいことだったと思う」
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