音楽の残響が消えないうちに、観客席がわっと膨れ上がったように見えた。8千人の観客が、いっせいに立ち上がったのである。
よし、勝った。
リンクの中央で、満場のスタンディングオベーションを受けている高橋大輔の姿を見ながら、そう確信した。
4月19日から4日間、代々木競技場第一体育館で行われた第二回フィギュアスケート世界国別対抗戦。チームキャプテンの高橋大輔が率いるチームジャパンが、みごと初優勝を飾った。選抜された6カ国の代表が競った中、鈴木明子、高橋大輔はともに現世界チャンピオンを退けて1位となった。
絶好調のチャンに16ポイント差をつけた高橋の快挙。
中でも高橋はSP、フリーともにノーミスの演技を見せ、過去2年間ほぼ不敗を誇っていたカナダのパトリック・チャンをついにやぶった。わずか2カ月前の四大陸選手権では、30点近い点差をつけられた相手である。
「ほとんど希望のないところから近づけていって、勝ったのは自信につながります」
高橋がそう感想をもらしたように、絶好調のチャンは驚くほどの高得点を出し、一時はもう誰もチャンに勝つことができないのではという印象すら与えてきた。
だが今回、高橋はそのチャンに最終的に16ポイントほどの点差を付けた。彼がチャンをくだしたのは、2010年トリノ世界選手権以来、2年ぶりになる。
「演技のできのわりには、得点が出過ぎ」と謙遜する。
SPで高橋は4回転トウループ、3アクセル、3ルッツ+3トウループをきれいに成功させて94.00というISU史上の最高点を叩き出した。
「思ったよりも点が出て、びっくりしました。演技のできのわりには、出過ぎ。日本開催だから、おまけかもしれませんけれど」
そう照れながら口にしたのは、いかにも謙虚な高橋らしい。同時に、アスリートとして彼が掲げている理想の高さを物語っている。
だが高橋は、4回転を跳ばなくても絶好調のときには90点を出してきた選手である。彼の高い表現能力に4回転が加わったことで、94.00という評価が出たのは当然のこと。「出過ぎ」などと言わずに、もっと堂々と受け止めていいと思う。
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