「ダイスケに嫉妬を感じていたこともあった」(モロゾフ)
だがそのエージェントのI氏のもとに、モロゾフから和解の打診の電話がかかってきたのは昨シーズンの終わりのこと。I氏も驚いたが、高橋にとっても、まったく想定外のことだったという。
「それまで大会でニコライに会えば挨拶はしていました。でも(解消以降)話をしたことは一度もなかったので、本当にびっくりしました」
日本人の感覚で言えば、あれほど派手な別れ方をしておいて、自らまたオファーをしてくるなど、いったいどのような神経をしているのか理解に苦しむところだ。だがこうと思ったら、一般常識などにこだわらず行動を起こしてくるところが、モロゾフという人物の長所であり、短所でもある。
「確かにダイスケに怒りを感じていた時期もあった。彼の成功に、嫉妬を感じていた時期もありました」
会見場で日本人報道陣を前にそう語るモロゾフは、別れた当時「自分なしではダイスケはどこにも行けない」と豪語していた。だがその後、高橋はバンクーバー五輪で銅メダルを獲得し、2010年には世界タイトルを手にしている。
「でも2年ほど前からは、純粋に彼の演技を楽しみながら見るようになった。彼はもともと素晴らしいスケーターだったけれど、今では人々の記憶に残るスケーターにと進化している。私も成長していかないと、彼に太刀打ちできません」
これほど素直で謙虚な言葉をモロゾフから聞いたのは、久しぶりのことである。それほどまでに、彼は高橋を取り戻したかったのだ。
このタイミングで売り込んできたモロゾフの真意は?
もちろんコーチとして、スケーター高橋大輔に心の底から惚れ込んでいたこともあっただろう。だがシビアな見方をすれば、モロゾフが今このタイミングで高橋に売り込んできたのには、個人の思惑もあったことは間違いない。
フィギュアスケートの世界では、「時の人」は次々と移り変わっていく。勝ちたい選手はモロゾフに行け、と言われたのはもう一昔前の話となった。
バンクーバー五輪では、彼の生徒は一人もメダルを取れなかった。そして現在彼が抱えている選手の中に、ソチ五輪金メダリスト候補は一人もいない。織田は2年でモロゾフの元を離れ、長年彼に師事していた安藤美姫もこれからの競技活動についてはまだ白紙の状態だという。
モロゾフが再び五輪金メダリストコーチに返り咲くために、高橋がどうしても欲しかったのだろう。
「彼があなたを必要としていると思ったのですか? それともあなたの方が彼を必要としていたのでしょうか?」
会見でそう問うと、モロゾフは一瞬だけ顔をこわばらせたが、すぐに破顔してこう答えた。
「彼も、ぼくを必要としている、と思いたいです」
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