PHS版スマホまで発売するウィルコム躍進の秘密
ダイヤモンド・オンライン 6月18日(月)7時0分配信
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ウィルコムの寺尾洋幸マーケティング本部長は「毎日同じ数字を見ているとわずかな変化も見逃さなくなる」と話す。ソフトバンク流のスピード経営が板についてきたようだ。 |
経営再建中のウィルコムが快進撃を続けている。スマートフォン全盛時代に、あえて逆張りの戦略を採って成功しているのだ。
ウィルコムは2010年2月に会社更生法の適用を申請、12月にソフトバンクが全株式を取得して再建を進めてきた。
2011年1月から17ヵ月連続で新規契約者数が解約者数を上回る状況で、現在の契約件数は480万件。3月には過去最高記録を突破し、いまも記録を更新し続けている。
この調子でいけば、更正法適用時に金融機関などに対して負っていた410億円の債務も、計画通り6年間で弁済できる見込み。大規模なリストラを実施したわけでもないのに、ここまで回復を果たせたのは、スポンサーであるソフトバンクの経営手法が影響している。
象徴的なのが2010年の大みそか。紅白歌合戦が佳境を迎えるなかで、ウィルコム執行役員の寺尾洋幸マーケティング本部長のもとに届いた1本のメールだった。
「なぜ契約者が伸びないのか」
送り主はソフトバンクの孫正義社長。スポンサー会社の社長からの直々のメールに寺尾本部長が面を食らったのも当然だ。しびれを切らした孫社長の一言に正月気分は吹っ飛び、休み返上で対策を練った。
ソフトバンクの真骨頂ともいえるスピード経営が移植され、幹部の意識も変わり、数字にも表れるようになった。
それまでは週に1回、契約者数などのデータをもとに営業戦略を話し合い、翌週から施策を実施していた。つまり手を打つまでに2週間のタイムラグがあった。
それをほぼリアルタイムのデータを幹部が共有。わずかな変化でも瞬時に捉え、迅速に対応できるよう仕組みを整えたのだ。
同時に、自分たちで「何事もやってみる」という社内風土に変わっていったことも大きい。その一つが、契約者を伸ばすきっかけになった「だれとでも定額」という格安料金サービスだ。
これは基本料980円でPHS同士が通話無料になり、国内通話も10分以内なら月500回まで無料となるもの。スマートフォンの通話料を抑えたい若者のニーズとマッチし、PHSとの「2台持ち」需要を生むほどである。
機能を「通話」に絞ることでデータ通信量を抑えることができ、ネットワークの利用効率は向上。新たな利用者をどんどんと取り込み、収益の改善にも繋がった。
このサービス、開始時期はソフトバンク傘下になった頃とほぼ同時期だったものの、それより前にウィルコム自身が考え出して温めてきた案であった。他社はどこもやっていないサービスだっただけに一種の賭けだったが、結果は大当たりだった。
チャレンジは続く。家庭にある据え置き型の電話の形をしたPHSの「イエデンワ」に、バッグにぶらさげられるフリスクサイズの「ストラップフォン」、災害時向けに乾電池で動く「防災だフォン」などと小さく、しかも省電力というPHSの特徴を生かした商品も次々に発売。ユニークさが話題を呼んだことでブランド向上に繋がった。これらも以前から案としてあったのだ。
とはいえ、こうした挑戦もソフトバンクという後ろ盾ができたからこそ。「財務担当者がみたら試すことができなかったアイデアも、今では前向きにやってみようという文化が育ってきた」(寺尾本部長)という。
また基地局を共同利用することで設備投資を減らすことにも成功。端末も大量発注で安く調達できるようになり財務状況は改善、11年度には黒字化を果たすまでに至っている。
さて6月21日は両社にとって一つの重要な日となりそうだ。PHSなのにスマートフォンである新端末「DIGNO DUAL」が発売になるからだ。
これは、PHSでありながらも、ソフトバンクの3G回線に切り替えてスマホとして使うことができる。「だれとでも定額」も利用でき、PHSの弱点であったカバーエリアやデータ通信速度の改善を目指したものだ。いわば、ソフトバンクとウィルコムの融合を示す新製品であるともいえる。
順調に回復軌道に乗るウィルコム。14年度内には、090や080で始まる携帯電話の番号をそのままに、070で始まるPHSに乗り換えることができる制度も始まる予定で、これも追い風となりそう。勢いはまだまだ続きそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)
週刊ダイヤモンド編集部
最終更新:6月18日(月)10時5分
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