19日付で大阪市長に就任する大阪維新の会代表の橋下徹・新市長が、年功序列や民間との格差見直しや現業職員の民間との格差是正など、市職員の給与制度の大幅改革に乗り出す構えを見せている。
約2400億円にのぼる大阪市の人件費(2010年度普通会計決算見込み)削減を目指し、府知事時代に取り組んだ改革を市でも踏襲する方針で、労使交渉が紛糾する可能性もある。
橋下氏は先月29日、報道陣に「給与体系はすぐに改革に着手する。府庁で1年間かけて議論した元ネタがある」と明言した。
維新が市長選公約で掲げた給与制度改革は、〈1〉局長など幹部職員に「定額制」を導入〈2〉階級が下なのに、上の職員より高給を得ている状態の改善〈3〉現業職員の給与を民間の同職種程度に――の3本柱。うち〈1〉、〈2〉は橋下氏が府知事時代に取り組んだ内容で、年功序列ではなく、職責に応じた給与とするのが目的だ。
さて、選挙戦の勝利に勢いづく橋下の「改革」として、さっそく給与削減計画が浮かび上がってきました。「民間との格差」と言うからには、人事院による条件を揃えた給与比較ではなく、定番の「非現業の正規職員の平均給与」と「パートタイムまで含めた全民間労働者の平均給与」をベースとした格差是正策がとられるのでしょうか。地域、年齢、勤務年数、学歴、事業規模、雇用形態などの諸条件を揃えた上で官民に格差があるのなら是正策が検討されることにも一定の合理性はありますが、「非現業の正規職員の平均給与」が「パートタイムまで含めた全民間労働者の平均給与」よりも高いからと拳を振り上げられても、それは自らの愚かさを喧伝する以外の何者でもありません。
とりあえず「階級が下なのに、上の職員より高給を得ている状態の改善」だそうで、「階級が上なのに、下の職員より薄給となっている状態の改善」ではないところがポイントです。あくまで給与を下げるための改革であって、是正と呼ぶべきものではないことが一目瞭然です。橋下(および支持層)的には階級の上下というのは大事なことなのかも知れませんが、そもそも職責(階級)に応じた給与という発想が日本の論功行賞的な人事にもつながっている気がします。年功序列批判は改革者を気取る上では定番中の定番ですけれど、それを変えると称して行き着く先が(経済成長が続いた時代における大企業の男性正社員限定の慣習でしかない)年功序列型賃金なんかよりも広範に見られる日本の伝統的な在り方であるとしたら、まぁ茶番もいいところです。
つまり、人によって能力を発揮できるポジションは違って、現場の第一線で活躍するエースもいれば、管理職として部下を動かすのに適した人もいるわけです。ところが「職責に応じた給与」ですと、現場の個人プレーで大活躍しても、そのままでは昇給させられません。給与をアップさせてやるには職位も上げてやらねばならない、その結果として現場のエースが管理職に昇格させられたりもするのですが、しかるに管理職としての手腕ははなはだ微妙で無能な上司として部下の怨嗟の対象になったり等々、割とよく見られる光景ではないでしょうか。スポーツ界で往年の名選手が指導者としての適性を問われぬまま優先的に監督やコーチに抜擢されるのと同じですね。現場のエースは現場のエースとして昇給させ、管理職には管理職としての適性がある人を起用するというのもアリではないかと思うのですが、「職責に応じた給与」であるためには、どうしても現場のエースを管理職として起用する羽目になります。こういう不毛な人事慣習を断ち切ってこそ改革と言えるはずですけれど、往々にして改革を気取る人々ほど反対の方向を向いているようです。
「現業職員の給与を民間の同職種程度に」というのもまた、日本(に限らないのかも知れませんが)の伝統的な慣習を引きずった実に保守的な発想と言えます。たしかに民間の場合、ホワイトカラーに比して現業に相当する業務に従事する人々の給与は大幅に抑えられている傾向がある一方、公務員の世界では現業と非現業の間の差は相対的に小さいわけです(とはいえ、公務員の給与平均を求める際に分母から除外されることが多いことからもわかるように、やはり現業の方が薄給のようですが)。これを民間基準に合わせて「現業は給料が安くていい」という方向に改めるのなら、公務員の世界においては変化であったとしても、逆に民間の世界では「現状容認」でしかありません。自治体が現在の民間における給与体系(現場で働く人は薄給)を範とすることが本当に改革と呼べるのか、大いに首をかしげるところです。
たとえば福島第一原発事故でも浮き彫りになったことですが、現地で作業に従事する人々の給与は言うまでもなく、施設所有者である電力会社の管理部門で働く人の給与より格段に少なかったわけです(これは原発や東京電力に限らず、どこの業界でも普遍的に見られること、民間では当たり前のことです)。もし敷かれていたのが公務員的な、「官」の常識に沿った給与体系であったならば現場作業員と本社管理部門の人間都で給与にそう極端な差はなかったことでしょう。しかし、あくまで民間企業である電力会社の場合は当然のように、現場で作業する人の給与は低く抑えられがちです。果たして是正されるべきはどちらなのか、どちらの給与体系に合わせるのが公正なのか、私には考えるまでもないように思われます。
現業の人間の給与が低いのは当たり前、スーツを着てオフィスで働く人間の方が偉いのだ、現業がホワイトカラーと同等の給料を受け取るのはおかしい、そう確信しているのなら橋下を応援しておけばいいでしょう。もっとも、橋下を待つまでもなく「改革」の波は既に押し寄せているところもあります。というのも民間企業で現場作業員の給与が低いのは、それが業務委託先の別会社の人間でしかないからという側面もあって、ゆえに本社(≒発注元)と同等の賃金体系でなくとも問題はないことになっているわけです。そして公務員の世界でもまた、業務の外注化は盛んに進められています。言うまでもなく外注された業務に現場で従事する人の給与は発注元の人間より低く、民間では当たり前に見られることが「官」の世界でも当たり前に行われているのです。こうした現状を橋下は追認すると語っているのであって、別に現状を変えようとしているわけではないことは、ご理解いただきたいものです。
ところで、この記事には笑ってしまいました。
http://www.sanspo.com/fight/photos/111207/fgb1112072123005-p2.htm
私はテレビを見なかったのですが、よかった、見なくて(笑)。それにしても知事と政令指定都市の首長がねえ、馬鹿もここに極まった里ですね。
ところで中田宏が大阪市の副市長になるかもとか・・・。大阪市民は大きなツケを払うことになるんじゃないかな。
その民間企業が労働者に違法に働かせてはいないか、ローコストであれば本当にそれで良しなのかチェックする必要はあるでしょうね。
市民プール事故などがそうですが、民間に業務を丸投げしたせいで安全性を損なわれたなんてことはこれから先幾らでも起こりうるのではないでしょうか。
遠からずツケは払わされるものですからね。まぁ、困窮すれば困窮するほど「橋下の改革を邪魔している奴が悪い」とばかりに橋下への支持が強まる可能性もあります。橋下体制は維持され、府民/市民の生活が先に破綻するなんてことも……
>Bill McCrearyさん
なんと言いますか、客を呼べるゲストなんでしょうかねぇ。ともあれ中田宏まで大阪にやってくるとなれば大阪は悲惨なことになること必至ですが、有権者はそうなった原因をどこに求めるのでしょうか。あまり、同じ間違いを繰り返して欲しくないものです。
>amanojaku20さん
民間委託でコスト削減、ってのは要するに、そこで働く人の給料を抑えているからですからね。プロ(常勤職員)を使うか、薄給のアルバイトを使うのか、仰るようにプール事故のように下手な民間委託が安全管理を損ねるケースもあるわけですが、しかるに有権者は事故が起こるまでは何も考えないものなのかも知れません。
今の政治の仕組みに参加できる人の誰が上に立とうと末端が今後さらに割を食う世の中になっていくのは自明なので。日本では真の弱者がパーティを組み、悪魔に立ち向かうことはほぼ無理ゲー状態ですから、とにかく時空でも何でも切り裂いて四次元にでも五次元にでもいざなって頂きたいものです。
誰が上に立とうと同じと思いながらも「創造」に思いを馳せる、楽観的なんだか悲観的なんだかよくわかりませんね。ご自身では生暖かく見守るつもりでも、「デストロイ」の結果が元現場作業員さんにも降りかかってくることは、とりあえず私が保証します。そもそも。わざわざ破壊などせずとも前に進むことはできますし、「破綻するぞ」と脅しをかけられているのと実際に破綻しているのとは違うのですが。
ああ、きっとこの人は自分の勤務する会社で意に反して成果主義を導入されて、その怒りを会社に向けることができずに公務員に八つ当たりしているのかもしれないな、そして公務員というものが、何の努力もせずに年功賃金を受け取ることのできる特権階級に見えたのかもしれないな、と思ったものです。
もしそうでないにしても、その人は成果主義というものが体のいい賃金カットの手段であるという事はわかっていたに違いありません。
ところで管理人さんによると、年功賃金とは「経済成長が続いた時代における大企業の男性正社員限定の慣習でしかない」とのこと。
実はここで、わからなくなってしまったのです。
公務員の給与は、基本的に現時点での民間の平均給与から決定されているはずです。
ということは、公務員の給与が年功賃金的という批判?は、実態とは違う単なる思い込み、実は公務員の給与は、全体の平均を取っているために、大企業の男性正社員ほど年功賃金の上昇カーブは急ではない、という事なのでしょうか。
それとも、もともと平均給与を算出するためのサンプルが大企業の男性正社員のみであり、それゆえに世間の平均給与と乖離してしまっている、という事なのでしょうか。
それともそれとも、平均給与を算出した後で、経済成長が続いた時代と同レベルの生活保障をする目的で年功賃金的補正を施しているいるために、世間の平均給与と乖離してしまっている、という事なのでしょうか。
それとも×3、現在の公務員の給与自体が、経済成長時代における年功賃金とはまったく別物になってしまっており、以前に比べてほんの僅かでしかない賃金上昇を、昔を知らない若者がこれこそが年功賃金だと勘違いしてしまっている、という事なのでしょうか。
そして、「経済成長が続いた時代における大企業の男性正社員限定の慣習でしかない」年功賃金というものは、現在の日本には存在しないものなのでしょうか。
ちなみに既に定年退職している私の父は、中小企業勤務ですが相応の年功給がありました(特殊な能力を必要とする業種という訳ではありません)。
そのため私自身は、年功賃金が「経済成長が続いた時代における大企業の男性正社員限定」という実感は薄く、昔は中小といえども正社員といえば年功給が普通だったんだろうな、などと思っていましたが(もちろん女性が正社員になることの困難さは認識した上で)、もしかしたらこれは世間一般に比べて恵まれていたのかもしれません。
「発言は勇ましく」というのが「弁護士」のお仕事なので(笑。主人の仕事関係上、いろいろな分野の弁護士先生を存じていますが、橋下氏は「正義の味方」的弁護士先生だ…と感じておりました)、「手足」になってくれる、フットワークだけは軽い(笑)中田氏にお願いするのでしょう。
しかし、大阪はどうなるのでしょうね。
余りにも有権者の皆さんは、現状の直視がお出来になっていらっしゃらない…という感が否めません。
今までの方がマンネリしていたから、有権者の皆さんは「ここらで変えてみようか」と思われたのでしょうか?
橋下氏であれば、劇的に良い方に変化する、と、好意的に思った方々が多かった結果でしょうか?
「チャレンジャー」大阪の方々(笑)。
先々を静かに観ていきたい、と、思う地方出身都内在住者です。
まぁ「限定」と言い切ってしまうと、そういう印象も与えるのかも知れませんね。この辺は、あたかも年功序列型賃金が当たり前のように施行されているかのごとく語る人々への皮肉もあって断定的に書きましたが、例外の存在は否定しません。大企業の男性正社員でも昔から年功序列の恩恵にあずかれない人はいましたし、相対的には小さくとも好業績の続いた会社では大企業のペースに合わせた昇給も見られたことでしょう。もっともそれは、日本経済全体の成長に合わせただけのことであって、必ずしも年齢に基づくものとは限らないと思いますが。
なお公務員に関しては大学進学率が今より格段に低かった時代からも大卒の多い職場でしたし、事業規模の大きさや求められる専門性からすれば、比較対象を中小企業に限るのは適切ではないでしょう。また誰でも簡単に公務員になれたと言われた時代は「公務員は給料が安くてかわいそう」と言われた時代でもあります。逆に公務員になるのが難しい時代は、同じくらい就職するのが難しい職場を比較対象とするのが適切なのです。それを考えれば人事院の比較ですら公務員に厳しいと言えますね。
>アゼンさん
橋下で良い方向に変化する、というより橋下の「敵」が諸悪の根源なのだという世界観からでしょうか。「正義の味方」である橋下が「敵」をやっつけてくれれば世界は救われるのだと、これこそゲーム感覚と言われるべきではないかと思えるような世界観にとらわれている人が多いのではないかと考えています。
「公務員の給料下げても、あんたの給料は上がらないよ」
と言いたい。
その辺が理解できなかったり、とにかく公務員の給料さえ下がれば良い、他のことは何も考えられない、そういう狂った怒りにとらわれている人が多いのでしょうね。個人としては相手にしないのが一番ですが、こういう人をどうにかしないと選挙には勝てないのですから大変です。
小泉とマスコミが官僚・公務員こそが諸悪の根源であると大衆に煽った結果が彼らですよ。
官僚・公務員が諸悪の根源であると大衆に植え付ければ官僚制をより嫌い、より小さな政府を求める急進的な新自由主義者達が出てくるのは当然です。
官僚・公務員こそが諸悪の根源なのだという考えを改めないとこれから先も国政や地方でも彼らのような新自由主義者が出てくる流れは避けられないでしょうね。
日本は今、内外ともに成長戦略を描くのが困難な状況に囲まれています。また、パイを大きくするにも相応のコストや時間が必要であり、政治や政治家に対する一般的な信頼が大きく失墜している状況では「明日の百より今日の五十」でなければ支持率の獲得は難しくなってしまっています。
残る施策は分配ですが、これは所詮ゼロサムゲームです。言い換えれば、誰かの持分をかっぱらって誰かに与えることになります。そうなれば、分配の不公平を殊更に強調・歪曲・捏造して声高に叫び、特定の層を槍玉に挙げてバッシングを行うのが最良の手段でありましょう。そして、現在はその対象が、公務員であり東電ということなのでしょう(しかし、共産党を含めた政治家が、明らかな高所得層であるマスコミや弁護士を大きな非難の対象としていないのは理解不能なことです)。
翻って、マスコミなどのメディア産業も、連続ドラマなどに対応し得る長期的なシリーズ番組や腰を据えたルポルタージュ番組を作れなく(作らなく?)なっており、一発もののバラエティやワイドショー的な番組で視聴率を稼ぐ状況だと思います。更には、齊藤祐作氏や適菜収氏が指摘するように、出版や文化芸術の世界まで似たような状況に陥りつつあるのですから、事態は重篤と言えましょう。
話は戻りますが、橋下は視聴率獲得という実戦の場で(後はどうなっても構わないが)当面の支持率獲得に特化した能力を発揮・向上させてきたように思います。個人的には、国政がまだ橋下の「生体実験」の対象になっていないことに一応安堵するところですが、今後、大阪での実験結果が明らかになり、ひいては橋下に対して妥当な評価がくだされるまでに国政に感染が及ぶのではないかと懸念されるところです。
要するに小泉の時代からずっと同じことを繰り返している、その変わらぬ繰り返しを「改革」と称しているわけなんですよね。そしてどれほど日本経済が衰退しても尚、同じことの繰り返しを「改革」と呼び続ける。この十数年来の「改革」の誤りを認めることこそ、ようやく変化が始まると思うのですが。
>エースをわらえさん
マスコミは公務員と同様にバッシングの対象として人気のあるところではないでしょうかね。民主党もその辺には積極的ですし、それに共産党まで迎合してしまったらどうなることやら。また弁護士に関しても昨今は司法試験に合格しても弁護士としての収入が得られない人も急増しているわけで、これを一口に高所得層と呼んでしまうのはどうかと思います。
参考、給料を下げるのが民主党
http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/1af109f7f3bf7cd63b258761df2a00be
あれは一口でいうと、新自由主義と社会主義を同時進行しているようなものです。
福祉や文化への予算を次々と削減しているのは周知の事実です。
しかし、例えば一方で私立高校無償化を中所得層にまで拡大するという不必要なばらまきも行っています。
公立高校と私立高校を互いに競争させる目的だそうですが、結果として本年度の大阪府公立高校の4割が定員割れという大失態となりました。
これは公共財の有効活用という点では失格といえましょう。
「維新の会は1削って2増やすから歳出も増えるばかり」という批判をツイッターで見たことがあるのですが、まさにそのとおり。
結局、元々少額ではあったが必要性の高いものを削ってはそれ以上の不必要なばらまきをやっているわけです。
おかげで彼の任期中に、府の累積赤字は一兆円も増えました。
公務員の給料も口でいうほど削減できておらず、平松大阪市政に実績において負けています。
有期雇用の非常勤職員を大量雇い止めするという暴挙に出たことで話題になりましたが、正職員の給料にはあまり手がつけられず、最終年には給与削減幅の縮小というおまけまでつきました。
こんな言動不一致でやりくり下手な人を、改革の旗手としてはやしたてているマスコミはどうかしています。
まあ大阪を一人負けさせて潰したいというのであればわかりますが。
(これから始まる橋下大阪市政においては、生首を切るのではなく、たぶん現業部門の丸ごと民営化という方法で公務員削減目標を達成しようとするんじゃないかと思います。はてさてどうなることやら)
本文でも触れたように平松陣営は政策を語ってこなかった云々との批判がある一方で、有権者もまた政策の中身、それぞれがどういう政治をやってきたかなんてことには関心がないんですよね。政治を語りたがるブロガーですら、平松もまた公務員の人件費カットや社会保障抑制に熱心な政治家であることを気にかけていないように見えますし。そしてメディアもまた、細かいことには突っ込まない。ただただイメージ戦略だけが重要なようです。