ふるさと:原発事故15カ月(1) 森の暮らし奪われ
2012年06月18日
秋。ドングリ、クリやトチなどが実る森に袋を手に入った。森の豊かさに、ドングリを常食にして平和に暮らしたという縄文の人々を思った。コナラ、クヌギ、カシなどのドングリは、殻をむいてまきストーブの上で30回ほど煮こぼすと、アクが抜けた。ホクホクして甘みがあった。ドングリみそやドングリパンを作った。ドングリカレーは自然志向の母親たちの居場所になっていた「燦」の冬の人気メニューだった。
葉を落とした落葉樹が夕日に黒く浮かび上がる冬。月夜に雪明かりの森を犬と走ると言いようのない解放感があった。まきストーブの火は家を暖め、人の心も和ませた。
春。最初に薄紫のスミレ、続いて青いイヌフグリが咲く。タラノメ、ウルイ……。山菜のほろ苦さが、体をしゃきっとさせた。
「それぞれが一枚の絵のように美しいふるさとの暮らしに、幸せを感じていた」
しかし、昨年3月、東日本大震災の津波に襲われた福島第1原発は水素爆発を起こし、放射性物質がこの山にも降り注いだ。木の実や山菜を食べることも、まきを燃やすこともできなくなり、武藤さんの生きる糧だった喫茶「燦」も閉じた。